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自由の戦士にダシが足りない

イナズマンF』感想・第12話

◆第12話「幻影都市 デスパー・シティ」◆ (監督:塚田正煕 脚本:上原正三
 デスパー軍団によって囚われの身となった5万人の人間が実験材料として生活する、恐るべき実験都市デスパー・シティなる、大がかりな舞台装置が登場。
 デスパー軍団の支配体制を覆し、5万の市民を救うべく、率先的に改造されてまでデスパー軍団で幹部の地位を得た女・ユリの手引きでデスパー・シティへと潜入する五郎と荒井だが、戦闘員との小競り合いで中枢回路を損傷した荒井は、緊急駆動処置を施すも、余命24時間となってしまう。
 以前に五郎が見た写真は、荒井の妻子を写したものと判明し、どうやらデスパーにさらわれたらしい妻子の手がかりを求める荒井は、残り24時間の命を燃やす……!
 「なんにも怖い事はないんだよ。ふふふふふふ……」
 デスパーシティ内部の反乱分子と合流する中年同盟だが、催眠光線を操る巨大なウニのようなデスパー怪人・サデスパー市長が姿を見せ、再会まで後一歩だった荒井の妻子は一足違いでデスパー兵士にさらわれてしまう。
 追跡する車中で、そもそも荒井は、数年前に妻子と共にデスパーシティから脱出しようとしていた過去を思い出し、唐突にサイボーグだった事にされた荒井、これまでテクノロジーの出処が謎でしたが、その正体はデスパー製サイボーグでした!
 1クール目の締めにデスパー軍団の強大さを示す秘密都市が登場すると共に、サイドキック荒井は『仮面ライダー』の本歌取りであった事が判明するのですが、同時にインターポールは記憶喪失のサイボーグを秘密捜査官として雇っていた事になり、改めてそこは、本当にインターポールなのかの疑問が膨れあがります(笑)
 荒井の妻子は偽物で、銃弾を受けた荒井と五郎を匿った反乱分子は容赦なく銃殺され、一連の経緯からユリは、実弟が内部の裏切り者であった事を自ら指摘。
 「モルモットみたいな生活は嫌だ!! 俺だって……人間なんだ!」
 「自分だけ良ければ、みんなはどうなったっていいっていうの?」
 「…………どうしろっていうんだ姉さん。俺にどうしろって?!」
 無言で弟を見据え、まばたき一つせずに自決を求めるユリが、超怖い。
 「俺は嫌だ! やだ! 死にたくない!」
 拳銃を手に外へ飛び出した弟をユリはライフルで銃殺処分し、“反体制組織における内部粛清による死”は十中八九、全共闘-70年安保闘争連合赤軍事件、といった社会事象を背景としているのでしょうが、同時代性を欠いた50年後に見るとそこにどんな「意味」を与えようとしていたのかは(私の年齢からも)掴みにくく、また、あまりにも生々しい為に普遍的(寓意的)なテーゼも読み取りにくく――いやでも時代背景の方に意識が向いてしまう――、そういった社会問題を特撮ヒーロー物に取りこんだインパクトがあるにしても、今日見るとあまりにも直裁的でグロテスク。
 ……とはいえ、「デスパー・シティ」という舞台を用意する事により、「悪の秘密結社に支配された世界」(仮想新人類帝国)をミニマムに作り出し、人間が「自由と尊厳」を奪われる支配の有様、そこに現れて「救世主」として扱われるヒーローと、レジスタンス内部の「人の心の弱さ」を描くのは、面白い発想。
 ただ、そこに放り込まれた渡五郎に新たな主体性が生じるかといえばそういうわけでもなく、ガイゼルも出席している最高幹部会議に殴り込みをかけるにあたり、敵の数が多いので「ウデスパー兄弟は、私が引き離します」とユリが告げるのに対して、「勇敢な人だな君は」で済ませるのは、あまりにも呑気が過ぎるのでは。
 たとえ肉親といえども、身勝手な理由から同志たちを犠牲にした弟を断罪したユリが、腕スパー兄弟を会議場から外へ連れ出すといきなり自爆スイッチをポチっとなするのも呆然と見つめるに留まり、今回の渡五郎、この新たな舞台に行動が順応していません。
 カチコミ前に渡された代替え品の中枢回路がユリのものであり、密告者として弟を始末する決意を固めた時、ユリが既に陰腹を切っていた事を悟った荒井が、ユリの爆死に憤って遮二無二突撃しようとするのを止めると、表面上とはいえあくまで理性的に剛力招来するのは、ここ数話の渡五郎の姿として象徴的。
 ボイラーデスパーとサデスパーに殴られながら久々に変転の時を待つと、サナギマンは超力招来!
 「自由の戦士・イナズマン!」
 完全に倒され役だったボイラーデスパーは、ボイラー加熱アロー攻撃をイナズマンに二本の槍で格好良く弾かれると、伸身ひねりこそ入れたものの、イナズマンの名もなき飛び蹴りであっさり爆死。
 だが腕スパー兄弟は普通に生きており、居並ぶデスパー幹部陣。
 「イナズマン! デスパーを甘く見るではないぞ」
 「貴様たちは邪魔だ。消えてもらおう」
 ウニデスパーが目を光らせると巨大な爆発で盛大にアジトが吹き飛び、巻き込まれた五郎と荒井は海岸線に漂着して目を覚ます。荒井は一緒に流れ着いた人形がかつて娘に贈ったものだった事から妻子の無事を信じるが、デスパー・シティの所在は不明となるのであった――。
 「俺は命のある限り、何度でもガイゼルに挑戦するぞ!」
 デスパー・シティという新たな舞台、苛烈な支配の元で勇敢に戦うレジスタンス闘士たちとの出会いと別れを通して渡五郎に新たな戦いの燃料が投入されるのかと思えばそういうわけでもなく、ここ数話の薄めのリアクションのまま、荒井の過去と情念が再設定されるに終わったのは、悪い事ではないもののちょっとした肩すかし。
 個人的には現在、限りなく無色透明な模範的ヒーロー同志と化している渡五郎にこそ、デスパー軍団と戦う為の意識を再設定してほしいのですが、そもそも『イナズマン』が『仮面ライダー』の継承色が強かった上で、ヒーローとしての立ち位置は『イナズマン』からそのままスライドしている為に、現在のイナズマン、ヒーローとしての味付けが3倍薄めたスープのようになってしまっており、『F』でしか取れないダシが欲しいなと。
 次回――振り袖……般若……うう……「大東京襲撃・着物毒蛾作戦!」。