『仮面ライダーV3』感想・第1話
◆第1話「ライダー3号 その名はV3!」◆ (監督:山田稔 脚本:伊上勝)
タイトルコールの叫びと共に、新ヒーロー!×バイク!×爆発!が背後に重ねられたタイトルがドーンと出てくると、99%バイクと爆発で構成された映像をバックに、勇壮なリズムに乗せて力強くストレートな歌詞が次々と叩きつけられて心の中の原始の炎を揺さぶられ、そこに宮内洋の絶妙に棒のような歌声が組み合わさる事で忘我の領域に連れて行かれそうになる、私の知る限り、70年代ヒーローソングでも屈指の、トランス状態を呼ぶ一曲。
もうこれは、一種の洗脳ソングだと思います。
あなたは段々、爆発が好きになーる……あなたは段々、爆発が好きになーる……あなたは段々、爆発が……
物語は、夜陰に紛れてマンホールの中に何かを運び込む怪しい影に始まり、たまたまそれを見とがめた作業員が、マンホールの中からにょきっと突き出した巨大なハサミに突き殺されてしまう。
更にそこを通りすがったバイクの青年は、作業員の死体が煙のように消失する光景を目撃した事から、立て続けに命を狙われる事に。
本郷猛の後輩であった青年――風見志郎はコーヒーに混ぜられた毒物の分析を本郷に頼み、長髪白衣の本郷猛の、マッドサイエンティスト感が凄い(笑)
そして本郷は、密かに闇で蠢く悪の気配について、立花藤兵衛に相談を持ちかける。
「おやっさん……俺たちの目につかないところで……何かが密かに行われて、目撃者が狙われる」
「はははっ、考えすぎだ。ゲルショッカーは滅びたし、地上はもう平和になったんだぞ」
「……そう信じたいが……」
この後の作品の歴史を考えると、望むと望まざるとエターナル化していくヒーローと繰り返される戦いの意味が更に付加されて、割と重いやり取り。
「ははっ、あの男が狙われるなんて」
藤兵衛が冗談めかして笑った直後、志郎がバイクで走っていた先で大爆発! はシンプルですが、火柱の高さが凄いのでインパクトがあります(笑)
負傷した志郎を駆けつけた一文字隼人に任せ、気を失う前に志郎が残した「空から爆弾」という謎めいた呟きに周囲を探った本郷が目にしたのは、黒衣の葬列。
本郷が物陰から様子を窺う中、葬列は十字架と花輪を残して姿を消し……こ、これは、東映ヒーロー名物:勝手にお墓でも、かなり初期の用例なのでは!
本郷が墓を調べると、赤いサソリマークのついたプレートには「本郷猛の墓」と記されており、これぞまさしく、勝手にお墓オブ勝手にお墓。
志郎は藤兵衛に付き添われて救急車で病院へと運ばれていき、そこに戻ってくる本郷。
「どうした変な顔して?」
「……俺の墓があったよ」
「なんだって?! おまえの墓が……」
「あいつは三度も命を狙われた。それに俺の墓だ。……おかしな事が起こりすぎるぞ」
「うん。……おかしいな、また救急車だ」
本郷と一文字が不穏な気配を確認し合っているところにもう一台の救急車がやってくる事で、藤兵衛と志郎を運んでいったのが偽救急車であると察せられ、畳みかけるような変事の発生が、素晴らしいテンポの良さ。
本郷と一文字が慌てて偽救急車を追う中、先行した車内では藤兵衛を気絶させた救急隊員が志郎に毒薬を打ち込もうとしていたが、目を覚ました志郎は逆に隊員を抑えつけると、取り上げた毒薬入り注射器を突きつけて質問を拷問に変えるただ者ではないぶりをアピール。
……するのですが、目を覚ますや否や隊員を抑えつけて志郎の手助けをする立花藤兵衛の場慣れしすぎた尋問仕草の方が、インパクトが大きい(笑)
口を割りかけた隊員が、壁を破って突き出されたハサミによって惨殺され、車を降りた志郎と藤兵衛は、本郷たちと合流。
「ゲルショッカーが全滅して、やっと平和に戻ったと思ったんだが……」
「……また新しい組織か」
先輩二人に諫められながらも謎の悪意に対して闘志を燃やす志郎は、怪しい覆面戦闘員に追われて助けを求めてきた女性を救出。ホッとしたあまり気を失った女性をひとまず自宅へ連れ帰るが風見家には不穏な気配が近づいており、何者かに開かれた門扉により風見の表札が覆い隠されるところにズームインしていくのが、身辺に迫る不吉の表現として冴えた演出。
「我々の姿を見た者は、全て死んで貰う!」
志郎の目の前で、怪人ハサミジャガーにより小学生ぐらいの妹を含めて家族皆殺しにされる凄惨な展開となり、駆けつけた本郷がライダー変身。
悪の組織については普通に会話していた志郎ですが、仮面ライダーの正体は知らなかったと判明し、ハサミジャガーの撤収後、志郎は復讐へのたぎる想いを二人のライダーに告げる。
「俺は今日限り、人間である事を捨てる。復讐の鬼となって、親父たちの仇は必ず取る。……仮面ライダー、お願いだ俺を……俺を改造人間にしてくれ!」
「……風見、おまえの気持ちはよくわかる。しかし、個人の復讐の為に力は貸せない」
「しかし俺は!」
「改造人間は私たち二人だけでいい。人間でありながら人間でない、その苦しみは私たち二人だけで充分なんだ」
改造人間という手段を用い、志郎が文字通りに人間から鬼となろうとするところに、鬼/英雄の持つ表裏一体性が見えますが、重いテーゼを交わすシーンなのに、志郎を諭すダブルライダーの間(画面中央奥)に、生き残った女性が立ち尽くしているのが、映像としてはちょっと間抜けに。
総じて、刈り込んだ情報と矢継ぎ早の展開で非常にテンポ良く進むこの第1話において、ここだけがちょっと演出として浮いているのですが、OPクレジットでも1人で1枚使っていたので、何か大写しの時間が条件のゲストだったのでしょうか……てっきり、正体はハサミジャガーだと思っていたのですが(笑)
1号と2号は女性の情報からデストロン(敵組織の固有名詞、いきなり登場)へのアジトへと潜入し、今見ると、どうして同じデザイン……? とは、つい思ってしまいます(笑)
だがすでにアジトは放棄されており、そこでダブルライダーを待ち受けていたのは、凄く、聞き覚えのある声だった。
「ようこそ仮面ライダー1号2号」
「その声は! まさか」
「ははははっ、久しぶりだな仮面ライダー」
「ゲルショッカーの首領!」
スピーカー越しの声でここまで断言できるのは、納谷悟朗さんあっての事だな、とつくづく(笑)
「おまえ達が見たゲルショッカーの首領は、私の仮の姿に過ぎない。そしておまえ達は二度と再び私の姿を見ることもないのだ」
「なんだと?!」
「私は最後の組織、デストロンを再編成した。世界は必ず征服する。まずその手始めに、宿敵仮面ライダーを抹殺する」
台詞の流れからすると、多分ここで「デストロン」の名称を初出するつもりだったのではと思うのですが、世界征服にロマンを燃やす首領は、仮面ライダー抹殺の為に開発させた、改造人間分解光線をダブルライダーに浴びせ…………やはりあの女性、ハサミジャガーならずとも、デストロンのスパイだったのでは(笑)
飽くなき首領ガッツにより分解の危機に陥るダブルライダーだったが、忠告を聞かずにアジトに潜り込んできた志郎が捨て身の体当たりで二人を救い、しかしその代償として瀕死の重傷を負ってしまう。
復讐の為に人間の心を捨てようとする一方で、誰かの為に躊躇なく自らの身を投げ出せる男――風見志郎をこのまま死なせるわけにはいかない、と二人は志郎の命を救うために改造手術を決意。
人類に対する悪意の側から誕生する、という前作と状況設定を重ねる為だったのでしょうが、ダブルライダーは放棄されたデストロンアジトの設備を借りて志郎の改造手術を行い、「村を焼かれる」×「自らの身を捨てて他者の命を助ける」の合わせ技から、新主人公が“死と再生の通過儀礼”のメタファーとしての改造手術を受ける事で、超人として新生。
最後にダブルライダーのエネルギーが注ぎ込まれる事で、先代主人公からの“力”と“魂”の継承も盛り込まれるが、志郎が覚醒するよりも前に、カメ怪人の砲撃により、設備を借りていたアジトが木っ葉微塵に粉砕されてしまう。
「これだけ撃てば、仮面ライダーは完全に死んだな」
「「はははははははは」」
「デストロンを倒すまでは仮面ライダーは死なん!」
ヒーローの不死性を誇示し、カメ怪人の背後に高笑いで現れた先輩ライダーの見せ場となるが、戦闘員を軽々と蹴散らしたダブルライダーも、強烈な砲撃を前に足を止められてしまう。
「1号2号、死んで貰う!」
「待て!」
だがその時、現れる新たな仮面ライダー!
「貴様は!?」
「仮面ライダーV3!」
「V3?!」
ナレーション「束の間の平和を破って、突如出現した暗黒組織・デストロンに家族を殺された、風見志郎は、仮面ライダーV3となって甦った。デストロンとの激しい戦いが、これから始まるのである」
複数のカットでV3の立ち姿を見せながら、立て板に水に大変早口なナレーションで締めとなり、つづく。
前作『仮面ライダー』の大人気あっての作品という事なのでしょうが、前作主人公ズがたっぷり出演により正統続編を強調し、見せ場としてのアクションシーンも先代に譲られた上で、人間としての繋がりが描かれたニューヒーロー誕生! のところで次回へつづく、豪華な一編。
それで物足りないかといえば、ダブルライダーの存在でヒーロー作品としての外連味はしっかり確保され、新たなる悪意による凶事がテンポ良く繰り出されて飽きさせず、破格の前作をフル活用して“ニューヒーロー誕生の経緯”を丁寧に描く、見事な出来でした(もっともこれは後年に見ているからな部分があり、リアルタイム時には、やっとゲルショッカー倒したのに……? 感がマイナスに出た部分もあるかもですが)。
次回――「風見志郎の変身ポーズは、必殺技はなにか?」
……メタなのか、メタではないのか、判断が難しい(笑)
「そして仮面ライダー1号2号はどうなるのか?」
……からの、サブタイトルが「ダブルライダーの遺言状」にご期待下さい!
EDは明るく爽やか児童合唱路線ですが、OPでは「父よ母よ妹よ」と熱唱される復讐鬼・風見志郎が、その為の力を得た今、己の復讐心とどう向き合うと描かれるのかは、楽しみなところ。