『スマイルプリキュア!』感想8・雨のちレインボーのち豪雨
●第19話「パパ、ありがとう! やよいのたからもの」
「俺様は一匹狼。バッドエンドな未来に愛なんか必要ねぇ」
狼さんが独りで格好つけていた頃、学校では自分の名前の由来を聞きましょう、と宿題が出され、祖父母の意見を突っぱねて「やよい」の名前にこだわったやよい父は、やよいが5歳の時に亡くなっていると判明。
「あの大きくて、ごつごつした手の感触は覚えているんだけど……」
「それで充分よ。……それで充分」
冒頭からそぼ降る雨が物語をしっとりと彩る中、各人の家庭模様が描かれて、「子供が親の手伝いすんのは当たり前です!」と断言するあかね父はやっぱりなんかちょっとアレな感じで、れいか父には名付けの権限が当然のようになく、なお父(大工?)はどこからどう見ても、江戸時代から転生してきていた。
クラスでの発表シーンも丁寧に描かれ、メンバーそれぞれの名前の由来が明らかになるのは、それぞれのキャラ(そして背景としての家族)の掘り下げとして秀逸。
「華のように麗しく、美しい心を持った子になるようにと、お祖父様が付けて下さいました」
その一方で、前回に続けて公開罰ゲームになりかねない可能性が危惧されたのですが、クラス委員として黒板に「麗華」と大書してみせる青木れいかさんがこの程度の事で動じるメンタルではなかったので、クラス全体のハードルが下がって平和が訪れました。
その日の下校時、やよいは亡き父の付けた名前の由来はハッキリしなかったので、「弥生」に合わせてお茶を濁した事を明かし、揺れる気持ちを皆にこぼす。
「時々思うんだ……パパは私の事、どう思ってたんだろうって」
人の心の機能として、忘れていくもの、がしんみりと描かれ、情景描写を丹念に織り交ぜるいつにないタッチで進行。みゆき達に背中を押されたやよいは、キッズファッションの会社に勤めている母親に亡き父の話を改めて聞き、忘れていた父とのやり取りを思い出しかけるのだが……ショーのステージに登場した狼さんがバッドエンドを発動し、会場は真っ暗闇に。
やよいを気に懸けて外で待機していたみゆき達が合流し、やよいが生前の父にプレゼントした折り紙を素体とした、狐の折り紙アカンベェとバトルスタート。
開幕から、いつにないスピーディな動きを見せるアカンベェに向けて5色のプリキュア光線が放たれ、打撃戦の構図と食らいモーションにえらくこだわった戦闘となると、攻撃を躊躇って正面から殴り飛ばされたピースは、雨に濡れた地面を滑っている内に、幼い頃に父と歩いたレンガの道を思い出す――。
それが最後の一押しとなって、父と訪れた丘の上の教会で、母親の名と関連づけた「やよい」の由来を教えられた記憶が甦り、「一つの名前」から、父と娘の関係だけではなく、父から母への想いを同時に導き出してみせたのが、鮮やか。
そしてこれなら、お父さんがお母さんには名前の由来を秘密にしていた事も納得です(笑)
(ごめんね……すぐに思い出せなくて。パパは私をあんなに愛してくれたのに。あんなに、いっぱい……)
父からの愛を、確かに受け止め直したピースは今、大地にその両足を、しっかと踏み定める。
「私はパパから、いっぱいの愛を貰ったお陰で、人に優しくしようって思える。優しさはきっと、人から人へと伝える、愛の表現なんだ」
「うるせェ。愛の欠片もねぇ攻撃でトドメだ」
「あなたに愛が無いのなら、パパからもらった愛を受け取って!」
愛ってなんだ?
ためらわないことさ! と2本の指に愛という名の殺意を乗せて放たれたピースサンダーが直撃するとアカンベェは消し飛び、ここまで全編しんみりとしたタッチで進めてきたのですが、最後は愛を打撃に飛躍させざるを得ず(笑)
優しさはきっと、人から人へと伝わる10万ボルトだと焼き付けられた狼さんは撤収し、思い出の折り紙を取り戻したやよいは雨上がりの空の下、かつて父と訪れた教会を母と共に見つめる。
「ママ、私、やよいって名前が、だっいだっいだっいだいすきになった!」
「ママも、ちはるって名前が、だいだいだいだいだーいすきになった!」
父の日に絡め、“人の死”を背景に、太陽を隠し全編しっとりとした雰囲気で送る変化球の一本でしたが、メインに据えた、娘が「父との思い出」を取り戻すだけではなく、その母が「亡き夫からの愛情」を新たに見つける物語にもなっているのが、物語の過去でキャラクターを殺した事に対しての誠実さとして、良い着地点でありました。
バトルの決着の持ち込みがやや強引になった――ドラマの感傷と上手く繋ぎきれなかった――部分はありましたが、この点の目配りが光った一本。
「良かったね、やよいちゃん」
「うちも自分の名前、大好きになったで」
「私も。おとうちゃんに感謝しなくちゃね」
「名前は、私たちが親に貰う、最初の愛情なんですね」
最後は物陰から見守っていたみゆき達の台詞で綺麗にまとめ………………青木父だけが、少し、可哀想だった。
次回――ちょっといい話が2本続いたので、次は魔法のアイテムでドタバタするぜ! と強い意志を感じる予告。
●第20話「透明人間? みゆきとあかねがミエナクナ~ル!?」
「うちら、透明人間になってしまったんや~!!」
魔女がマジックアイテムをなくす → キャンディが拾う → 周囲に被害が及ぶのもはや王道パターンで、魔法のカメラに写された事で、透明人間となるみゆきあとあかね。
「しゃーない、キャンディが戻るまで」
「この姿で、乗り切ろう!」
「私たちもお手伝いします」
れいか達に事の次第が通じると、カメラの回収をキャンディに任せて出席へのこだわりとそのフォローに全員のベクトルが向く、やや間違ったギアが入ってしまい、青春と家族の時間は終わった! とドタバタ喜劇に力強くアクセルを踏み込んでくる『スマイル』節(慣れてきました)。
しばらく学校での騒動が描かれると今回も派出所のお巡りさんが登場し、カメラが魔女のアイテムだと知る通りすがりのキャンディだが、魔女は自らを透明にして逃走。
透明の世界を認識できるみゆきとあかねを元に戻した魔女は、びっくり箱アカンベェを透明にする事で優位に立ち回り、アリが畳を這う足音をキャッチできれば音で場所を察知可能……出来る! マーチなら出来る! も魔女の妨害で失敗に終わり、東映ヒーロー名物:ギャグ回の勢いで壊滅寸前に陥るスマイルプリキュア。
更に、今週は愛だの友情だのでは逆転を許さないぃぃ! と見えない圧力がかかって絶体絶命の危機となるが、我が軍には全員平伏でお迎えした軍師様が居るのだ! ささ、軍師様、なにとぞ、なにとぞ秘策を……! と期待の眼差しを向けられたビューティが知力判定に成功し、ブリザードで雪を降らす事で透明化を打ち破り、逆転勝利を遂げるのであった。
魔女の撤収後に、予備のカメラを拾ったキャンディがみゆきとあかねを写し、二人がまたも透明に! のオチで、つづく。
●第21話「星にねがいを! みんなず~っと一緒!!」
開いた窓からフライング・ブック・ダイブ! で久方ぶりにキャンディ兄妖精が来訪すると、男児視点とは違うのか、逮捕スレスレをくぐり抜け、苦労して手に入れた割にはこれまた久々登場の秘密基地でプリキュア会議が執り行われ、本をずらして扉を開くギミックとか夢があって好きなのですが、見せすぎるとそれはそれで面白くなくなってしまうものではあるのかもしれません(とか思っていたら、今回使用)。
両陣営の組長出所まで、メルヘンランド組は残りデコル1つ、バッドエンド組は残りエナジー2点……抗争に一大転機が近づく中、姐さんの出所を祈念して七夕の飾り付けが行われ、2話ほど前から、メンバーの私服/制服が夏服に衣替えしているのですが、みゆきの私服がパジャマに見えて仕方ありません。
メルヘンランドには「ペガサスの日」という七夕とちょっぴり似た行事がある事が語られて、それぞれ短冊に願い事を書くと皆で流星雨を鑑賞しに行くが、そこに出現した赤鬼が、バッドエンドカムヒア。
「私たちの願い! スマイルでいっぱいな未来にする為に! みんなで頑張るの!」
かつてなく筋肉質の笹アカンベェに苦戦するプリキュアだったが、必殺技5連撃を叩き込んで逆転勝利。遂に16個目のデコルを回収すると、収納ケースに全てのデコルを填め込む事でメルヘンランド復活の儀……を皆が固唾を呑んで見守っている際に、デコルを一つ、オーナメント気分で飾り付けに使った事をみゆきが全く思い出さないのが凄い(笑)
このままでは、なに考えとんのやわれ! ケジメ見せぃ! と激怒した一同によりみゆきが笹の葉さらさら飾り付けられるバッドエンドを迎えそうになったその時、救世主ジョーカーがデコルボックスを丸ごと強奪する掟破りでちゃぶ台をひっくり返すと、別離のフラグを立てまくっていたキャンディを誘拐。
「願いはかなう? 残念ながら、あなた達の願いは何一つ、かないませんよ」
ジョーカーは高笑いしながら姿を消し、キャンディの力とは何か? 先に出所するのはどちらか? 暗躍ポジションだったジョーカーが最前線に姿を見せて物語は風雲急を告げ、みゆきのアホの子ムーヴが希望の光に繋がる可能性を示唆しながら、つづく。