『王様戦隊キングオージャー』感想・第7話
◆第7話「神の怒り」◆ (監督:山口恭平 脚本:高野水登)
ゴッドサソリによるキングオージャー刺殺事件の容疑者とされたギラは、ラクレスから再び反逆者の汚名を着せられると孤児院(?)に匿われ、前回ラストから箒市民の人が凄くサクラっぽくて仕方ないのですが、顔立ち的にラクレス侍従Bの親族で市中のスパイとかありそうな一方、山口監督好みの過剰演出の可能性も捨て切れなくて悩ましい(笑)
ブラッククワガタの力によりキングオージャーの制御を我が物としたラクレスは、世界征服と対バグナラクを両立させる戦力を手にし……段々これ、ヤンマ総長のやらかし案件なのでは……? という気がしてきたのですが、青の国から技術者とかプログラマーとかシステムデータとか色々と流出していませんか。
カグラギがラクレスに接近する一方、キングオージャーから分離後、サソリ毒によって機能を停止したゴッドトンボとゴッドカマキリを再起動させる為、スーパーハッカーYとスーパードクターHはソフトウェアと医療、それぞれの手段で国家の威信を懸けた治療対決を開始。
各陣営の思惑の交錯はともかく、実質的な宣戦布告を受けた各国の王が城下でうろちょろしているのがどうにも間抜けですが、ここでラクレスに「ブラッククワガタがある限り、各国の王が何をしても無意味」ぐらいな強者の余裕を台詞で示させておく視座が欠けているのが、残念というか相性が悪いというかなところ。
ようやくラクレスが世界征服に向けた言行の、根拠となりうる説得力の土台を表に出したタイミングなので、ここで各国の王に対するラクレスの認識を一押し入れてくれると、作品に奥が生まれたと思うわけなのですが、「眼中にない」なら「眼中にない」で、「眼中にない」を明言しておいた方が良いタイミング、というのがあると思いますし。
一方、地上の王様たちの眼中から外され気味のバグナラクでは、カメムシ参謀がぬふぬふ笑っていた。
「ついうっかり不覚にも……油断して奪われてしまった秘宝のお陰で、千載一遇の好機が」
「計算づくだろう」
……な、の?
そもそも、昆虫ソウルとは如何なる状態を示すのか、がさっぱりわからないわけですが、ギラを利用してサソリを覚醒させた……という理解で良いのでしょうか。
「カブトムシとサソリ、二大秘宝が揃った。ギラにも操れない、強大な力」
「ぬっふふふふ……必ずや、デズナラク様に献上いたします」
そして前回から、デズナラク様が急に「ギラ」個人を認識しているのも凄く違和感があるというか必要な段取りが3階分ほどすっ飛ばされている印象なのですが、正気を疑う展開になっていたカブトムシ回は、直接対面したデズナラク様がギラの“力”に気付いて一時撤収したくだりがまるまるカット、みたいな事でもあったのでしょうか……それにしてもデズナラク様が、「カブタン! おまえも仲間になれ!」までは見ていないと辻褄は合いにくいので、不可解が山盛り。
二大秘宝の入手の為にカメムシは軍団アリ怪人を呼び出し、第7話にしてようやく、巨大化する前の怪人がしっかりと描かれたのですが(ダンゴムシは一応台詞があった程度だったので)、いきなりの面白怪人枠で、極から極(笑)
「……私のパパとママは、15年前のアレで亡くなった」
「“神の怒り”の犠牲者か」
一方、青の国と黄の国のコミカルな一幕を挟んでトンボとカマキリの修復作業中、ヒメノは15年前、“神の怒り”と呼ばれる災害(映像的には、蝗害のニュアンスが見える表現)の発生時、スーパードクターとして治療活動にあたっていた両親が、その中に紛れ込んだ黒フードの男に毒を打ち込まれて殺害された過去を語る。
暗殺に使われた未知の毒はサソリ由来のものに成分が近く、前回からゴッドサソリに常ならぬこだわりを見せていたヒメノは、“神の怒り”の背後で暗躍していたと思われる何者かへの怒りを、ゴッドサソリに向けていたのだった。
「敵討ちにはなんねぇぞ。……シュゴッドはただの機械だ。“神の怒り”は人間の仕業だって、おまえが言ったんだろ? 責任は全部、命令する人間にある」
機械は使う者次第、のテーゼを持ち込んでくるヤンマ総長ですが、第4話のラクレスとのやり取りで、2000年前の戦いの後、人類との共存の道を選んだゴッド昆虫と選ばなかったゴッド昆虫がおり、カブトムシについてラクレスが「人間を拒絶するなら――従順に変えてしまえばいい」宣言している事から、ゴッド昆虫には“意志がある”認識が示されていると捉えていましたし、人間を拒絶する意志を持っているなら、それはもはや“ただの機械”では無いと思うのですが……「三大守護神」と「シュゴッド」は違うカテゴリになっているのか、ヤンマとラクレスの解釈が違うという事なのか、固有名詞がそれぞれどの範囲を示しているのかと合わせて、だいぶ困惑。
ヤンマの考察では、三大守護神ないしシュゴッドを製造し、命令を与えた何者かが存在している、という事なのかもですが……2000年あれば色々あっただろうとはいえ共存を選ばなかったとされるカブトとサソリが都合良くソウルに閉じ込められている(? それとも、召喚アイテム?)点も含めて、用語やアイテムの扱いが不明瞭で、この辺り正直、各要素の位置づけが把握しきれていません。
「大切な人を失ったことがない人にはわかんない!」
「ああわからないね! 俺は親の顔を知らない。失う悲しみってのは……贅沢者の特権だ」
生粋のお嬢様vs成り上がり者の元貧民で、典型的な水と油なヒメノのヤンマの関係性は定番中の定番中なのですが、それが良いとか悪いとか以上に、第3話当初の、下心丸出しでヒメノをアイドル視しているヤンマ、の方が面白くて、それを越えるのに時間がかかりそう(笑)
バグナラクから派遣された軍団アリの部隊が城下を襲い、紫と黒、青と黄がそれぞれ王鎧武装して戦い始める一方、広場で活動停止していたゴッドカブトを発見した軍団アリ部隊は、“キラキラした何か”を口にして巨大化し、そのまま虫力で運搬していくのは、アリらしくて面白かったです(笑)
トンボとカマキリの修理は終わらず、両国の側近が何かを示しあわせる中、地中から出現したゴッドサソリが戦闘員に一撃を加えてカブトムシの運搬を妨害するが、話しかけようとした赤は尻尾で跳ね飛ばされて、変身が解けたところにやってきたのはヤンマとヒメノ。
「多くは話してはくれなかった……でも……人を信じてないみたいだ」
キングオージャー刺殺の件について慌てて弁解するギラに向けて、腕をぐるぐると振り回すヤンマ。
「おいタコメンチち……歯ぁ食いしばれぇ!」
総長の根性パンチ! ギラはひらりと身をかわした!
「……なんでよけてんだこら?!」
「なんで殴るんだ?!」
……うん、ギラが正しい。
「腑抜けた真似しやがったらぶちのめすって言ったよなぁ」
「なにがだ?! 僕はただ……」
「一人でなんでもできっと思ってんのか?!」
後先考えずにサソリを覚醒させた件を怒っているのかとは思うのですが、国際会議の席上でギラの信頼を得るような事を特にしていたわけでもないので、どうにも一方的。
「この俺に、仲間になれだの偉そうにのたまったよなぁ……俺の仲間はなぁ! たとえ喧嘩の真っ最中でも、やべぇ時には手ぇ貸して、終わったらまた喧嘩する! そういうもんだろうがぁ!」
そして、都会の片隅で育った純朴な少年に、いきりそんな超絶ヤンキー理論ぶちかまされましても。
あと総長、ラクレスには手ぇ貸す気全く無いのでは(「仲間」じゃないからいい、という事なのかもですが)。
「……仲間に……なってくれるのか?!」
「……はぁ?」
超絶ヤンキー理論をぶちかます為に放置していたフレンド申請をついOKしてしまったヤンマはギラに詰め寄られ、そもそもギラのいう「仲間」が物凄くふわふわとした言葉なのですが(「ギラの世界観」的には納得できる面はあるとはいえ)、その中に少なくとも「打倒ラクレスの為の革命同志」を含んでいる事は間違いないので、国際紛争まっしぐら。
この後、なんでもかんでも「仲間」に突っ込んで解決しようとする、典型的な駄目なマジックワード化とその使用法になって物語は泥沼の様相を呈していくのですが、フレンド申請について悪あがきをしているところに再起動したシュゴッドが集まり……国家のプライドを懸けて争っていた青と黄のエンジニア達が危急の時に手を取り合ってシュゴッド復活! が主題だったのに、何も焦点の当たっていなかったハチとチョウも一緒に復帰してしまい、今回に関しては作風が合うとか合わないとかでなしに、技巧的に問題のある手の連発で、保留していた脚本家への評価はガクッと下がります。
クライマックスバトルに向けて主題が跳ねるのではなく、バトル直前に主題が派手なピンぼけを起こす為、ギラとヤンマが声を合わせてのキングオージャー降臨も盛り上がれず。
赤青二人乗りのキングオージャーが戦っている間、ヒメノはサソリと対峙し……
「イシャバーナ女王! ヒメノ・ランが命令する! おまえは人類に仇なすものか? その身で示せ」
あ、命令するんだ。
ヒメノに毒針を向けるサソリだが、カブトムシが復帰すると方向転換し、
「もしかして、仲間を取り戻したかったの?」
の一言でいきなり意思疎通が図られるとヒメノはコックピットに招かれて、とりあえずソウルは内部にふわふわ浮かんでいました。
「なに言ってるかわからないけど……わかるよ。勝手な事ばかりされて、やだったよね。……人間って醜い。ごめんね」
いきなりヒメノが思春期の活動家みたいな「人間って醜い」に飛躍して戸惑いますが、カブトムシにしろサソリにしろ、2000年のタイムスケールがどこにも感じられない成り行きばかりで、シュゴッド周辺の散らかり具合が消化しにくい展開が続きます。
「ところでなんだけど、ほんとーにただの仲間?」
ギラがサソリを女性名で呼んでいる時点でだいたい想像はつきましたが、サソリからカブトムシへの好意が示されると、ヒメノはサソリの協力を取り付ける事に成功し、“女性同志で向かい合った”事で心が通じ合ったとかそういう理屈なのかもしれませんが、2000年のあれこれに関してはヒメノいきなりのダイビング「人間は醜い」で片付けられると、後は「仲間」マジックで強引にゴールまで持ち込んでいき、幾ら何でも土砂崩れが激しすぎるのでは。
サソリに乗り込んだ黄が合流すると赤とサソリも改めて意思を疎通し、左腕にサソリナックルが装着されての主題歌バトルがスタート。
戦闘員を軽々となぎ倒すと、サソリ神拳でチェストされた軍団アリが末期の台詞を残して大爆発する、いつものが突然入り、今後はシリーズお馴染みの要素も交えていくという事なのか、山口監督がねじ込んだのか。
カブトムシとサソリはなんか夕陽の彼方に去って行き、ヤンマとヒメノに見逃されたギラは孤児院に戻るが、そこにはリタと兵士の手が回っており(それはそうだ……)、ラクレスから決闘裁判を要求されて、つづく。
……ところで王様たちは、自国の地下に巨大昆虫爆弾が設置されている件については、もう忘れているのでしょうか??
とにかくシュゴッドを再起動させないと話にならない、のはまあわかるとしても、前回の今回でバグナラクの巨大昆虫爆弾について一切触れられないのはさすがにビックリで、足下に巨大昆虫爆弾、ラクレスの手にキングオージャー、という状況に対してなんら手を打つ素振りの見えないまま(カグラギだけはなにやら暗躍しているようですが)、せっかく合体できたキングオージャーはあっさり元に戻し、カブトとサソリが去って行くのをにこやかに見送っている場合ではないと思うのですが……。
カブトとサソリに関しては、人の手で制御できないもの、という扱いなのかもですが、少なくともヤンマの考えは違う筈ですし、そこで「シュゴッドの意志」と「王として国を守りたい意志」の衝突が描かれないまま先に進んでしまうと、“「王」である事の意味”が薄れてしまうわけで、そのキャラクターの在り方を貫く事よりも、話の空気を悪くしない事を優先した結果、人物の行動原理と優先順位がぐっちゃぐちゃになるパターンに陥っていて、残念。