東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
旧ダイアリー保管用→ 〔ものかきの倉庫〕
特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)
HP→〔ものかきの荒野〕   Twitter→〔Twitter/gms02〕

そろそろ春の読書メモ

久々に西澤保彦とか

●『記憶の中の誘拐-赤い博物館-』(大山誠一郎
 時効を迎えた未解決事件などの資料を保管する、警視庁付属犯罪資料館――通称“赤い博物館”の館長・緋色冴子が、遺留品や資料を基に迷宮入りした事件の謎を解き明かす短編集。
 基本、過去の事件を“掘り返す”形式の為に、好みよりもやや暗いトーンの内容が多かったですが、表題作は面白かったです。
 以前読んだ《時計屋探偵》同様、事件の“情報”が事細かに読者に対して提示され、それを探偵役が一瞬で解き明かす安楽椅子探偵のスタイルが作者の最も得意とする(好む?)形式の様で、今作もそれに準じつつ、ちょっとした一ひねりが加わった構成。
 ここしばらく何冊か読んでみた大山誠一郎作品、世評の高さほどにはピンと来なかったのですが、時にキャラクターの配置が機械的になる事も辞さずに、“謎解き小説”の形式に拘っているので、「ミステリ」ジャンルの中でも、確実に“謎解き小説”を楽しめる安心感、というのはあるのかなと。
 『密室蒐集者』ぐらいまで「謎」と「解決装置としての探偵」の分離が徹底しすぎると個人的には読みにくかったですが、ジャンルとニーズの関係において成る程でした。

●『モラトリアム・シアター』(西澤保彦
 名門女子学園の関係者が次々と死亡し、春から臨時英語講師となった住吉ミツオも、その渦中に巻き込まれる事に。果たして、同僚の妻を殺害したのはミツオなのか? 混沌としたミツオの記憶に隠された秘密を解き明かすべく3人の探偵が活躍する、櫃洗市役所・一般苦情係の謎めいた職員が安楽椅子探偵を務める、《腕貫探偵》シリーズの、番外的長編。
 ……プロローグで明らかになる不倫関係と死体の数は、今まで私が読んだ小説の中で最多かもしれません(笑)
 愛憎入り乱れるぐっちゃぐっちゃの人間関係を最初に提示し、果たしてこの物語は、この語り手はどこへ向かって突き進んでいくのかと読者を引っ張り回した末に、謎のパズルが綺麗に収まって一枚の絵を完成させるのは、さすがの手並み。
 飛び道具で突破した部分もありますが、西澤さんが得意とする、“隠されて(隠して)いた記憶の襞が少しずつめくられていき、触れたくなかった真実に迫ってしまうスリルと恐怖”が主旋律として鮮やかな一作でした。

●『必然という名の偶然』(〃)
 腕貫さん不在の櫃洗市を舞台に起きる事件を描く、短編集。
 意図的にやっているのでしょうが、すぱっと割り切ったところで終わるのではなく、割り切れなかった余りの部分がいやーな余韻を残す形のエピソードが多く、こちらは好みから外れていまいちでした。