『人造人間キカイダー』感想・第42話
◆第42話「変身不能!? ハカイダー大反逆!」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:長坂秀佳)
「服部半平、頑張るのだ。頑張れ……」
五体バラバラに吹き飛んだキカイダーを一つにまとめて背中にくくりつけた半平は、ビクビクしながらもダークの回収部隊から逃げ回る大活躍を見せ、ここだけ見ると信義に篤く友情で結ばれた主人公の相棒キャラを思わせますが、
前回は、
「冷たいようだけど、吾輩、一度しか無い青春、もっと楽しみたいもんね!」
とミツ子とマサルを見捨て、
今回は今回で、回収部隊に追いつかれるとキカイダーの腕を放り捨てて助かろうとし、半平は、どこまでも半平です(笑)
まあそれでも常人レベルで考えれば、さまよえる光明寺よりはよほど勇敢で義理堅いとはいえるのですが、場の雰囲気に流されやすくて欲望に弱い一方で、関わった人間を見捨てきれない、のもまた、この物語において半平が示す“人の心の弱さ”といえるのかもしれません。
だがその半平の命もいよいよ風前の灯火のその時、土壇場で発動した禁術、忍法・ヒロイン覚醒の術により口笛の音色と共にナイフがガマに突き刺さり、黄色いマフラーをなびかせたサブローが姿を見せる。
「キカイダーはこの世で俺のただ一人の強敵だった。キカイダーとの勝負だけが俺の生きがいだった」
「ええぃ、それがどうした。貴様なにが言いたいのだ?」
「その、キカイダーを倒したアカ地雷ガマ。俺はおまえと勝負しなければならん」
つまり、〔キカイダー < アカ地雷ガマ < ハカイダー〕が証明されるのだ! とチェンジしたハカイダーはアンドロイドマン軍団を次々に餌食としていき、その間に逃げ出した半平は、地下牢と繋がった通気口の中へバラバラのキカイダーを降下させていく。
「アカ地雷ガマ、俺はキカイダーよりずっと強いぞ!」
投げナイフの一撃により体内の電源回路を破壊され、地雷使用不能のガマを一方的に嬲ったハカイダーは、トドメは振り向きざまのハカイダーショットで木っ葉微塵。
(……俺は……仲間を殺ってしまった……)
地面に転がるアカ地雷ガマの部品を見つめ、「仲○くんには、悪い事したかも」みたいな事を言い出す言動と行動のねじれは、後のゼネラル・シャドウなども思い浮かぶところですが、まさに東映ヒーロー悪のライバルの結晶ハカイダー!
一方、バラバラになったキカイダーは半平の手を介してミツ子らが囚われた地下牢の中へと運び込まれるが、ミツ子の技術ではその修理は不可能に近い。
地下牢の中にあるのは、物言わぬパーツと化したキカイダーの体と、物言わぬ抜け殻と化した光明寺の体…………つまり、もう、残ったパーツとパーツを組み合わせるしかないのでは?!
ミツ子さんが禁断の選択に迫られていた頃、地上ではアカ地雷ガマを葬り去ったハカイダーが、己のレゾンデートルに直面し、悪魔回路に異常を来し始めていた。
「俺は……俺はなんだ?!」
「え?」
「俺は、なんの為に生まれてきた? アカ地雷ガマは倒し、キカイダーは死んだ! これからは、俺はなんの為に生きていくんだ?」
キカイダーを倒す為に生み出されたハカイダーは、造られた存在としてその意義を見失い、新しい命令の入力を待つ事なく、自我の崩壊から錯乱状態に陥ってしまう。
「憎い! 俺を造り出した、プロフェッサー・ギルが憎い!」
その怒りと憎しみは造物主たるギルへと向かい、ギルにとってハカイダーがまさしく「悪魔」と化すのが皮肉でありますが、だから付けよう忠誠回路!
「ギルを、殺す……!」
破壊の拳で岩石を砕いたハカイダーは、隠し通路からダークの本拠へと入り込むと、椅子の後ろから、出てきた(笑)
「ん?! は、ハカイダー! 何事だ?!」
「プロフェッサー・ギル、おまえを殺す」
怒れるハカイダーの出現に周章狼狽したギルは、悪の総帥としての威厳が霧消し、圧倒的暴力に怯える哀れな老人としての醜態をさらして逃げ惑い、ここまで40数話、指揮能力への疑問は大いにありますが、凶暴な表情と言動で一応の格はキープしていたボスキャラの扱いとしては、かなり容赦の無い描写。
「なぜ、なぜ俺を作り出したんだ?!」
尊大な仮面を剥ぎ取られ、ハカイダーに首を締め上げられたギルは光明寺に責任をなすりつけ……ま、まあ、完全に濡れ衣とは言い切れないのが困ったところですが、ギルを放り捨てたハカイダーは、地下牢へ。
「殺すがいい! ……殺すがいい…………光明寺をなぁ!! 光明寺を殺せば、おまえの脳も死ぬんだ! 同時におまえの能力は、アンドロイドマン以下にになってしまうのだ……はは……はハ……はぁーはははハははハは……あーぁぁぁぁっ!!」
呆けたように大口を開けて笑い続けた末、絶叫したギルは闇に包まれた居室で床に倒れ、地下牢ではミツ子さんが、キカイダーを部分的に甦らせる事で説明書代わりに使う空中殺法で修理を進め、色々とありましたが、なんだかんだ最後の最後まで、ミツ子さんがキーパーソンとして劇中でならではの役割を持っているのは、今作の良かったところ。
そして、ハカイダーは、地下牢の扉が頑丈すぎて足止めを受けていた(笑)
てれってててー♪
ハカイダーは、パッシブスキル《残念》をてにいれた!
「開けろ……あけろぉ……あけるんだ!」
役割を見失った者と役割を果たさんとする者の運命が残酷に交錯し、ようやく扉をぶち破ったハカイダーの前に立ちはだかったのは、辛うじて上半身だけが繋がったキカイダー!
地面から上半身だけが起き上がったキカイダーがハカイダーを押しとどめる強烈な画で、このままアクションに突入したら凄かったですがさすがにそこまではやらず、下半身を繋ぐ猶予を与えたハカイダーは、復活直後では全力を出せまい、と自らサブローの姿になると、ジローとの最終決戦を開始。
神になる事を拒む半神半機の英雄と、神を追い落とさんとする悪魔の申し子が激しく激突し、互角の攻防の末に、サブローのパンチが、ジローの急所にクリティカルヒット!(いや、本当に……)
波に乗るサブローは、そろそろエンジンが暖まってきただろう、と変身するが、ジローは何故かチェンジ失敗。
「変身回路はまだ壊れたままか……死ねキカイダー!」
あ、遂に美学を投げ捨てた(笑)
そこへアンドロイドマン部隊が突入してきて、ハカイダーとジローは成り行きでアンドロイドマンを共に蹴散らしていき、その間に秘蔵の癒やし動物写真集により忘我の淵から立ち直ったプロフェッサー・ギルは、ダーク破壊部隊最後の戦士を、キカイダー・ハカイダー両者抹殺の為に出撃させる!
ギルが腕を振り上げると、両脇の秘書ロボットがぱかーんと割れて中からダークの切り札が飛び出してくるの期待していたのですが、残念ながらそんな事はなく、謎のロボットの襲撃を受け、シルエットで倒されるハカイダー(笑)
……いや、なんか、凄くさっくりやられるらしい、みたいな話は聞き知っていたのですが、まさか、敗北の瞬間を映してさえもらえないとは思いませんでした。
ある種の反転効果、みたいなインパクトを狙っていた可能性もありますが、直前のシーンが、どこだ!? どこに居る?! と周囲をキョロキョロする姿だった為に、急転直下衝撃の敗北というより、映す価値もない間の抜けた惨敗、になってしまった感。
「ハカイダー!」
「つ、強い……! 奴は、俺より、強い……」
「ハカイダーより強い……どんな奴だ?!」
「どうせやられるなら……俺はおまえに、おまえにやられたかったぜキカイダー……」
やられた(笑)
キカイダーの永遠になる事もできず、がっくり事切れたハカイダーを「ハカイダー! ハカイダー! まだ大丈夫だぞ!」とジローは担ぎ起こし、ここだけ見ると、敵味方を越えて戦いの中で芽生えた心の繋がりとかありそうですがそんなものは一切なく、目当ては、そこに入っている脳だけです。
〔首領への反逆〕で悪のライバルキャラ満漢全席を達成するも、最後は〔己の美学〕を放り捨てた事で完全にその存在意義を失い、〔真の最強の敵の踏み台〕をタッパに詰めてお土産に付けてくれたハカイダー、この後の諸作に与えたと思われる影響を考えると東映ヒーロー史に残る偉大な悪役といえますが、同時に、その出自ゆえに「決してヒーローにまともに取り合ってもらえない」非業の運命を背負っていたのは、驚きでした。
後、前振りを除くと、登場から6話で退場し、そのまま物語が最終回へ突入するのも、驚き。
ある意味では、“悪役の賞味期限”問題に対して、いきなりこれ以上ない満点解答を叩き出しているとはいえ、変身ブーム最初期にして、実に恐るべき芸術点の悪のライバルぶりでありました。
光明寺を手術室に運び込んだミツ子らは、マニュアルを手に脳の再移植手術を行おうとするが、そこに降り立つダーク破壊部隊・白骨ムササビ!
最後の最後で、KAWAIIとは正反対のグロテスクなダークロボットが出現し、ここでその姿にインパクトを出す為に、ギルとのやり取りも、ハカイダーへの攻撃もシルエットで処理されたのでしょうが、冒頭の今回予告でバッチリ見せていたので台無しだ!
次回――果たして、光明寺姫は脳を取り戻す事が出来るのか? チェンジ不能のジローは白骨ムササビを倒す事が出来るのか? そして、半平は今までのツケに埋もれずに生き残る事が出来るのか?! いよいよダーク最後の時に、スイッチオン!