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なんだこれは! なんだこれは! なんだこれは!

岡本太郎式特撮活劇『TAROMAN』感想4

 〔第8話「孤独こそ人間が強烈に生きるバネだ」・第9話「なま身の自分に賭ける」・第10話「芸術は爆発だ」〕

 第8話。
 夜の街で、文豪を鷲掴みにする奇獣・傷ましき腕。
 有名な作家や画家を次々と捕まえ、カプセルに閉じ込める奇獣の目的は、芸術家を孤独にする事により、そこから生み出される新たな発想からエネルギーを手に入れる事……の背景を、「岡本太郎もそう言っていた」により、うむ、そういう事もあるかもしれない……とねじ伏せてくる、『TAROMAN』スタイル(笑)
 「このままでは新しいものが世に出ず、日本の文化はゆきづまってしまう!」
 かつてタローマンによって狂気に陥った画家が狙われたその時、奇獣・傷ましき腕の前に姿を見せるタローマン。
 奇獣の投げつけてくる芸術家入りカプセルを、ガソリンスタンドの屋根で軽快に打ち返したタローマン(やると思いましたよ!)は、奇獣とがっしり握手……から腕相撲が始まり、体勢不利となるや、空いた左腕で、「芸術は、爆発だ」。
 あまりにも酷すぎる不意打ちと、感情の推し量れないタローマンの顔とが絶妙に噛み合って大笑いしましたが、勝利の前に卑怯の二文字はないのだ!!
 助け出した創作者たちが孤独最高! あのままならもっと凄いものが生まれたかもしれない! と口々にプライドを鼻にかけて強がりを言う一ひねりが入ると、それにいたく感動したタローマンは、彼らの願いをかなえてあげたい、と再びカプセルに詰めて宇宙に放置し、人間を狂気に陥らせる事に躊躇のないタローマンであった。
 皮肉を込めた二段構えのひねりが面白いオチでしたが、そこから今回のおまけコーナーは、岡本太郎とモチーフ作品について終始真面目に語られ、まともだ……! と思っていると、かつての少年隊員役が登場して現実と虚構の境界を激しく揺るがしてきて、油断も隙もありません(笑)

 第9話。
 見所は、アイキャッチでタローマンに群がる奇獣・午後の日の、やたら可愛い路線。
 平和に浸る地球防衛組織の頭上に迫る侵略者の影――奇獣・午後の日はデータ派宇宙人。会議が踊り続けている内にタローマンに見つかると、円盤を散々に玩具にされた上で宇宙へと投擲され、カッパ星人の宇宙船と衝突。
 防衛隊員も侵略者も、組織内部の立ち回りで汲々としている事が皮肉に描かれ、ただ一人、生身の己自身として行動するタローマンの行為が巡り巡って、墜落してきたカッパ宇宙船により、基地壊滅?! となる最終回前のセオリーというか(笑)

 第10話。
 我々人類は本当に進歩したのか。
 調和は生まれるのか。
 それを試すかのように、べらぼうなものがやってくる。
 遂に出現してしまった奇獣・太陽の塔が人類文明を攻撃した時、その前にたちはだかったのは、べらぼうな巨人・タローマン!
 「つまり?」
 「気軽にバンバン撃てないんだ」
 必殺技に関して解説したコメンテーターの弁解じみた口調が妙に面白く、『TAROMAN』らしからぬ盛り上がりを彩るBGMに合わせ、八つ裂き観覧車を投げつけるタローマン(なお、これまで微妙にタローマンの地球人体めかした見せ方だった青年隊員がこの画面に居て別人である事が示されており、伏線?も丁寧に回収)だが、両断したかに見えた太陽の塔は分裂・増殖し……アイキャッチになんか知らないヒーローが居るーーー?!(笑)
 (※どうやら、『タローマン』の前番組のヒーローとの事)
 かつてないべらぼうな強敵・太陽の塔を前に、多彩にしてでたらめな技を放つタローマンだが、太陽の塔は木っ端微塵に吹き飛ぶほどに破片単位で増殖していき、『TAROMAN』なのに、ちゃんとスペクタクルしている(笑)
 「悩みが更に、増えてしまった」
 このカタストロフに、一般市民どころか防衛隊からも非難の大合唱を浴びたタローマンは、飛翔。
 ナレーション「しかし、タローマンは悩まない。人生くよくよしないことだ。小さな悩み、心配事にぶつかったら、それよりももっと大きな悩みを求めて、体当たりすべきなのだ」
 そのまま大気圏を飛び出したタローマンは、宇宙から地球を振り返ると、あっさり芸術は爆発だ」。
 遂にやってしまった最後の一撃により、芸術となって爆発した地球と、それを見やったタローマンのアップから、主題歌を流すのが、ズルい(笑)



ばくはつだ! ばくはつだ! ばくはつだ! げいじゅつだ!


 ナレーション「すると、逆に気分がサラリとして、モリモリと快調になる。精神を開き切る事。それが若さと健康の元だ。人類全体の運命もいつかは消える。それでいいのだ。無目的に膨らみ、輝いて、最後に爆発する。そして平然と人類がこの世から去るとしたら、それが僕には、栄光だと思える」
 そう岡本太郎も言っていた。
 若さと健康の為、地球爆破さえも岡本太郎によって肯定され、元より地球を守る正義のヒーローなどと主張した事はないタローマン、人類に呆れたり嫌気が差したのでさえもなく、悩みなんて吹き飛ばせを実践したら、たまたま地球単位だっただけ、とすら見えますが、まあこの世界の地球人は宇宙空間でも生存可能なので、この後『日本沈没』ならぬ『地球消滅』により、宇宙各地に散らばって地球の文化を伝えていくのかもしれません。
 かくしてタローマンは、新たな犠牲者、もといべらぼうなものを求め、大宇宙に飛び立っていく――芸術は、爆発だ!!

 これまで、数々の出鱈目を繰り返してきたタローマン、どこまでやれば最終話にふさわしい飛躍になるのか難しいな……からの地球爆破は、衝撃というより納得の範疇でしたが、作品の真骨頂はその後にありました。
 最後を締めるトークコーナーにおいて、全10回に渡り『タローマン』を振り返ってきたマニアの山口一郎氏が、創作者として今後もこうありたい、と想いを述べるのに重ねて、「夏休みになつかしヒーローショウでタローマンと並んで撮った山口少年」の写真が飛び出す大オチ! 完璧な着地……!!
 今作の真髄は、“70年代巨大ヒーロー物パロディ”としての出来の良さ以上に、“懐かしTV番組再放送特番(識者を添えて)パロディ”としての巧妙さにあったと思うのですが、この一葉の写真が最後に紹介される事で架空の昭和史の存在感とドキュメンタリーとしての完成度が爆発的に引き上げられ、もはやこれは『日曜美術館』の領域を侵食しているといっていい、最高の切れ味でした。
 こういった、虚と実の間に幻想をねじ込む、みたいな手法が割と好きなのもあり、いや実に面白かった。
 岡本太郎展の東京巡回に合わせて、「タローマンまつり」も首都圏に襲来してくれる事を期待したいと思います。
 マイナスにとびこめ!