『人造人間キカイダー』感想・第3話
◆第3話「呪い オレンジアントの死の挑戦」◆ (監督:北村秀敏 脚本:伊上勝)
「教えてやろう。ダーク破壊部隊の一番の暴れ者、オレンジアントだ」
冒頭から、笛の音に導かれるように不気味な蟻の怪人が出現し、その性能テストにより、蟻酸を吐きかけられて盛大に崩壊する灯台。
海辺でレジャー……ではなく多分サバイバル中のジロー一行は、波間を漂う灯台守妻(果敢に蟻に立ち向かうも蟻酸で溶かされた灯台守夫は、後の結城丈二……?)を発見する事でオレンジ蟻の暴虐を知り、その蟻はダークの為に人間狩りの真っ最中。
逃げようとした男が背中に蟻酸を吐きかけられると、いきなり炎上爆発する刺激的なシーン……の背後にずっと見える、「ホテル暖香園」の看板(笑)は多分、タイアップ。
アンドロイドマンは「ダーク!」「ダク!」「ダーク!」の連呼で意思疎通するように……と思ったら、普通に「なんだ、マネキン人形か」と喋ったので、単なる移動中の掛け声だった模様です。
人間狩りに巻き込まれた服部と少年がさらわれようとしたその時、ギターのジローがホテルの上にすくっと立つとダーク構成員を蹴散らすが、本日も笛の音に苦しめられて、ナレーションさんによる基本設定の解説。
「ふはははははは! プロフェッサー・ギルは、音波笛のサイクルを、今までの10倍にアップした!」
え……? 今までの10倍のペースで、吹くの……?(例えば一日2回だったところを、一日20回……?)と最初思ったのですが、恐らく周波数の単位、現在でいう「ヘルツ」の事で、出力を上げた、みたいな話でしょうか。
かさにかかるオレンジ蟻だが、今回も巧妙な参ったフリをしていたジローは、不意を突いての反撃から、スイッチオン。
「ダークが破壊活動し、罪なき人々を困らせる限り、俺は戦う。それが光明寺博士から授かった、俺の使命だ」
キカイダーのヒーローとしての行動原理は、あくまでも創造主にインプットされた使命に基づくものと語られる事でロボット性がアピールされ、この点においては、キカイダーとダーク怪人との表裏一体の鏡像としての関係性は、『仮面ライダー』よりも強いといえるでしょうか。
オレンジアントの強力な蟻酸攻撃を前に、さしものキカイダーもボディを溶かされて苦しむが、チョップで腕を破壊すると蟻は逃げだし、両者痛み分け。
ミツ子は、戻ってきたジローに光明寺博士が予定していた良心回路の最終調整を行おうとするが、躊躇無くボディをめくるミツ子と、ジローの非人間性(ロボットの回路部分)を目の当たりにしたくないマサルの微妙な温度差が描かれ、目を覚ましたジローは回路が完全になる事を拒否。
「俺は今のままで充分だ。余計なことはやめてくれ」
「止めないで。お父様はあたしに……」
「光明寺博士の良心回路は不完全かもしれない。だが、その不完全さを俺の意識のコントロールで補っている。もう大丈夫だ」
ジローが、完全なシステムを与えられる事よりもむしろ、不完全さを自らの意志と精神で補えているところにこそ、己の自由意志とアイデンティティの存在を感じているのは、面白いポイント。
……まあ、気合いでなんとかなっているから大丈夫、と不具合の故障を拒否するロボット、と考えると凄く怖いですが(笑)
「お願い。あたしにやらせて。完全な人造人間になって」
「ミツ子さんの願いもそれだけは聞けない」
一方のミツ子は、父に託されたという思いも含め、完全な人造人間になる事こそが“正しい”と感じているが、ジローは繰り返しそれを拒絶。
「何故なの? お父様もきっと、あなたが完全になるのを願ってるに違いないわ」
「光明寺博士も? どうして?」
「どうして、あなたに「ジロー」と名付けたかわかる?」
「いや」
「……ホントは、あたしたち兄弟に、兄が居たわ。名前はタロウ」
……シンプルで大変わかりやすいのですが、今聞くと、お供を手足にしそうだったり、芸術を爆発させそうだったりで、大変微妙な気持ちになってしまう2022年・夏(笑)
「そうか。それで、俺の名がジローなのか」
タロウは山火事から村を守る為に死去しており、その山火事を起こした組織こそがダーク、と光明寺家との因縁が語られ、己が死者を模した存在だと知らされたジローの胸中はいかばかりか。
「ジロー、お願い。良心回路の最後の部品をセットさせて!」
「……俺は……俺は……あくまで一人の男として、貴女に接してきた。人間のつもりで。……俺のその体の中は、心臓の代わりに動力エンジン。頭脳がコンピュータ。……わかっているが見て貰いたくない」
「ジロー……」
そんな事を言われても、おしめを変えるどころかネジと銅線だった頃から知っているのよ、と微妙な空気が漂ってジローは一人切なく波止場でギターをかき鳴らし、第3話にして、某イチロー兄さんの100倍ぐらい、情緒が発達してデリカシーの観念を持っていますジロー!
これがイチロー兄さんだったら、爽やかに笑いながらマサル少年の目の前で胸のパネルをぱかっと開けて、「よぅし、ひと思いにやってくれミツ子さん!」と言い出しかねないところなので、良心回路とは何か、完璧な人造人間とは何か、人は何故、神を真似て自らの写し身を作り出そうとするのか。
前回の弱点説明に続き、かなり早い段階において、割と長めのやり取りを用いて、人造人間としてのジローの心情・周囲の視線とのギャップがハッキリと言葉にされて、他作品との差別化の意識が見えますが、ふと気になって確認してみたらこの時期の伊上さん、東映ヒーロー作品に限っても『仮面ライダー』『超人バロム・1』『変身忍者嵐』そして今作を掛け持ちしているので、脚本の立場からしても、早めに主人公の特性と方向性を明示しておきたい、という事情もあったのかもしれません。
伊豆シャボテン公園でオレンジアントの痕跡を発見したジローだが待ち伏せを受け、サイドマシーンに潜り込んでいたマサルを連れて一時撤収。そこにダークの破壊部隊が迫るが、服部の助けもあって反撃開始で、ED曲に合わせて戦闘開始。
このED、何が好きって……
ギターのパンチでぶちたおす
が最高に好きです(笑)
ギターは大事な打撃武器!
地中から毒針攻撃を受けるキカイダーだが、チョップ投げそしてデンジエンド! により今回は派手な爆発でアントは吹き飛び、蟻酸によって終始キカイダーを苦しめた上、頭脳に致命的な欠陥もなく、割と有能な怪人だったのでは、オレンジアント。
サイドカーにミツ子とマサルを乗せてジローは伊東の街を去っていき、冒頭で拾った灯台守妻の出番は特になく(あのまま死んだ……?)、ダークの人狩りで生き別れになった母子はごくごく薄いフレーバーで再会し、終わってみると「街を襲うオレンジアントを倒しました」以外の要素は特に何も重視されていない、という凄い内容でしたが、その合間に語られるジローの自意識こそが、今回の主題だったでありましょうか。
3人は光明寺博士を探し求め、果てしない戦いの道を行き……恐らく本編内容に対して尺が長すぎる為、ひたすら煽り文句を叫び続ける、みたいな事になっている次回予告は、今後どうにかなるのか?!