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仮面ライダーエグゼイド』感想・第38話

◆第38話「涙のperiod」◆ (監督:諸田敏 脚本:高橋悠也
 生身でグラファイトパンチの直撃を受けた大我は病院に搬送され、緊急手術の準備に入るが、その容態は極めて深刻。
 「彼を救えるのは、おまえしか居ないんだ!」
 院長が飛彩にかけた電話は正宗によって切られてしまうが、その後何があったのか、暗い表情のまま飛彩は病院を訪れる。
 「大我を助けて!」
 「……悪いが話をしている時間はない」
 飛彩が病室に向かったその頃……
 「邪魔なスナイプはもう居ない。今度こそブレイブを始末するぞ」
 むしろそのスナイプが瀕死になった為にブレイブの気が逸れて命拾いしたのですが……遠吠えムーヴが板に付いてきたパラとグラはすっかり現実認識さえ狂い出しており、もしかするとゲムデウス細胞、ハカイダー(『01』)とかマッドガルボとかジョージ真壁とかの遺伝子が混ざっているのでは…………は?! そういえばクロノスも、ベルトに細胞を打ち込まれていましたね……。
 病院で飛彩が大我のオペを開始する一方、残念な悪役の遺伝子を注入されてしまった疑惑の募るクロノスがパラグラのアジトに自ら乗り込んできて、戦闘開始。
 ポーズ封じを受けるクロノスだが、社長特権により専用装備に仕様を変更したエナジーコインカタログを取り出すと、みんな大好きマッスル化。
 ムッキムキーとパラグラを一蹴して変身解除に追い込むが、審判直前、バグスターワープでやってきたZゲンムゼロとレーザーターボが二人揃ってクロノスに食らいつき、パラグラは逃走。
 殺人の加害者と被害者である黎斗と貴利矢が薄暗いCRで互いに背中を向けながら、
 「なーんか腹立つな……あんたと意見が合うなんて」
 と、今や無敵エグゼイドのウィークポイントと化しているパラドのガードの為に共闘するのは、間合いの描き方も丁寧で良かったところ。
 Zゲンムゼロはクロノスにドラム缶を叩きつけるもパンチとキック一発ずつで簡単にゲームオーバーになり、レベルが低いという事かもしれませんが、ちょっと脆すぎでは(笑)
 「残りライフ、93……」
 土管からすぱーんと飛び出す黎斗だが、クロノスは飛彩に対して「もし彼を救ったら、彼女のデータを抹消する」と大我の手術に出向いた上でわざと失敗しろ、と命令した事を明かし、邪悪さを押し出すたびにどうにも小物になっていくのですが、何が辛いって、長期目標が全く達成に向けて進んでいないのに自称「命の管理者」なのが辛い。
 思うに正宗がムショ暮らしによる出遅れを挽回する為には、バグスターを掌握し、ゲーム病の発症・治療・消滅をコントロールする事こそが必要だった気がするのですが、私こそが社長アピールの為に初手で敵対後は全く活用出来ずにいるのは、非常に痛い失着であったような。
 檀正宗、華々しいデビュー戦を飾り、およそ30話分の成果物を横からまとめてかっさらって全て私の思惑通り、みたいに登場した割には、実質“クロノスの力”頼りのパワープレイなので“16年越しの仕込み”を行っていた人物としての説得力がまるでなく、なまじ「3番目のボスキャラ」だけに、薄すぎるメッキと思慮の不足が目立ってしまいます。
 これは『ドライブ』『エグゼイド』『ビルド』『ゼロワン』いずれにも見られるので、商業的事情も含め大森P好みの構成のデメリットといえるのでしょうが、〔悪役サイドの回転が速く賞味期限が短い・ボス的存在が自ら最前線で戦いがち〕な事により、悪役が底の浅さを露呈しながら退場する以前の段階で、“大物”を“大物”として描くのが不得手、な印象。
 『ビルド』のスタークは暗躍系としては割と上手く転がしていましたが、乗り換えていく神輿が軽すぎて、肝心の4クール目に入った頃には担いでいる本人もぺっらぺらになってしまいましたし……。
 総じて、「他者を駒のように扱う存在」を“悪”と置く意識が強く見える一方で、駒の打ち手としての質が高く見せられていない、のは残念なところです。
 「私に歯向かったところで、ライフの無駄遣いになるだけ」
 「多少のコンティニューは、覚悟の上だぁ!」
 さすがにどうかと思うところがあった……というよりは多分場の勢いで黎斗が格好良く二本差し変身をするとクロノスに捨て身で食らいつき、その間に便利なバグスターワープで九条は病院へと緊急帰還。
 正宗の意図を知って大騒ぎするニコの声が手術室の中にまで響くが、飛彩を信じた永夢は大我の命を託して病院を後にすると、23機ほど殺されながらも黎斗が食らいつき続けるクロノスの元へ。さすがに疲労困憊の黎斗が撤収した後、物理でデータを奪い取ろうとする永夢だが、エグゼイドに変身したら小姫のデータを抹消するぞ、と逆に人質を突きつけられる事になってしまい、無抵抗のまま生身の正宗に殴る蹴るの意趣返しを受ける事に。
 そして大我の手術は終了し……朝焼けの中、一方的な攻撃を受け続けた永夢に審判が迫った場へ、飛彩が姿を見せる。
 「オペの……結果は? ……なんで黙ってるんですか?! ねぇ?!」
 地面に転がる永夢は飛彩に問いかけ、いや、正宗にこの場で手術の成否が確認できない以上、不意打ちを決行する為にはそれを言ったら駄目では。
 「ふふ……天才外科医とえども人間」
 「俺に……切れないものはない」
 ……飛彩も飛彩で、正直者だった。
 勿論、この局面で騙し討ちを仕掛けてバグバイザーを奪い取るとは思いませんが(皆そこまで頭回ってなくて当然の状況ではありますし)、頭を回していなくてはいけないのに、どうやら手術結果の確認手段を用意していなかったらしい正宗の方の株価は、またも激しく下がりました。
 傲慢な自信家といえばそれまでですが、困ったら“クロノスの力”で物理で解決すればいいや、が行動原理を支えすぎて、キャラクターの格と厚みを補強する為の目配りが見えないのが、侘しい
 「俺は世界で一番のドクターだ。目の前で失いかけている命を見捨てる事など、絶対にしない」
 患者を前にしたその時、飛彩は“あの日”の小姫との約束を守って選び取り――
 「……タドルレガシー、取り返しのつかない事をしたな。彼女とは永遠の別れになってもいいんだな」
 だがそれは、一度は取り戻せるかもしれないと思った大切な者との、今度こそ永劫の訣別を意味していた。
 「やめろ!」
 「研修医。今まで俺がしてきた事は、弁解の余地がないことだ。……しかしもし許されるなら……」

 「世界で、一番のドクターになって。世界で……」

 「――俺と一緒に戦ってくれ」
 ドライバーを構えた飛彩の横に永夢が並ぶと、正宗は、小姫のデータを躊躇なく抹消。
 黄金の粒子となって霧散していく小姫の笑顔を目に焼き付けながら、飛彩は、掛け替えのない存在との二度目の別れを受け止める――世界で、一番のドクターになる為に。
 「――変・身」
 正宗はクロノスに変身し、何故かやたらと余裕綽々なのですが、人質を使って他者をコントロールしてきた人間が人質を放棄するという最大の愚策を犯した以上、後は二人がかりで骨まですり潰されるだけなのでは?
 なんというか檀正宗、配牌時点で一九字牌が一枚も無いのに「私の目指す上がり手は常に国士無双」みたいな思考パターンの人で、それは“大物っぽい”のではなく“目標の為の手札の管理ができない”だけでは……と。
 「おまえはこの世界のガン。…………俺が切除する」
 「おまえの運命は――俺が変える」
 飛彩と永夢は二人並んで変身し……えっと、クロノスさん、貴方の勝機は今この瞬間だけだと思うのですが、何故、無駄なラスボスムーヴを発揮してじっと変身を見つめているのでしょうか(それはそれとして、ハイパー無敵の顔面ボディから打ち上げ変身は面白い演出)。
 飛彩の覚悟と決断は切なくも盛り上がり、話の流れとしては熱量が高い一方、クロノスとエグゼイドの格付けが完全に完了しているので、バトル的な盛り上がりの気配が皆無なのが辛いのですが、もう少し、エピソードのピークがクライマックスバトルに集約される調整と工夫が欲しいところです。
 とはいえ、これだけ余裕で構えているので、もしかしたら何か裏技があるのかもしれない! ……という僅かな期待はもちろん空振りに終わり、まさかの戦闘開始から15秒で無様に地面を転がったクロノスは、ダブルクリティカルキック(ブレイブLが白い翼のエフェクトをまとうのは格好いい)を鋼鉄化で防ごうとするも通用せず、パーフェクト負けして辛くも逃走。
 「……悪いが、先に行ってくれ」
 「……CRで待ってます」
 降りしきる雨の中、飛彩は小姫の消えた場所で膝をついて慟哭し……しばらく後、病院では大我が目を覚ます。
 「……CRには戻ったのか?」
 「ああ。…………俺の望みは果たされた」
 「……そうか……」
 飛彩は、あの日の小姫の為に、世界で一番のドクターとして生きる道を選び、その決意の結果をそれとなく察した大我とのやり取りは、いい味。
 「花家先生、貴方に対する今までの非礼、心からお詫びします」
 「謝るのは俺の方だ。おまえは俺の、命の恩人だ」
 二人の和解が描かれて、そこに立っている永夢先生も一度飛彩に正式に謝罪した方がいいのでは? という気持ちになりながら、つづく。
 飛彩と小姫の再会は苦い結末を迎える一方、ある程度の気持ちの整理はつけた、という事なのか大我の覚醒と共にふんわり笑顔で終わるのですが、「照れちゃってるの~?」みたいに飛彩を混ぜっ返す貴利矢の姿には若干の引っかかりも生じ、“生き返ってしまった”貴利矢の立場としてはそう振る舞う他ないのかもしれませんが、感情の置きどころに少々困るラストではありました。
 演出の方も、飛彩にどこまで振っ切らせてしまっていいのか掴みきれない迷いが画面から出ている感じというか。
 前回の感想でちょっと触れましたが、「命」に関わるルールが更新されている真っ最中(主人公はなし崩し気味にそれを受容)に、それ以前のルールである「失われた命の不可逆性をベースに、それでも奇跡にすがる者の葛藤(によるドラマ性)」を型どおりに盛り込み、型どおりに着地させた点に関しては、「飛彩の物語」としては良かったけれど、「『エグゼイド』の1エピソード」としてはどうにも異物感があり、釣り合いと据わりの悪さが拭いきれないのが正直。
 片方に新版ルールでさくっと甦った二人が居る一方で、片方には旧版ルールに基づいた悲劇が描かれているのを、一緒に消化してくれと見せられる事にはどうも困惑してしまい、3クール目の締めとして飛彩が葛藤を乗り越えて選択する物語としては悪くなかっただけに、二つのルールの都合のいいとこ取りが、どうしても気になってしまうのでありました。