東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
旧ダイアリー保管用→ 〔ものかきの倉庫〕
特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)
HP→〔ものかきの荒野〕   Twitter→〔Twitter/gms02〕

ねじれたふたり

『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』感想・第22話

◆ドン22話「じごくマンガみち」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:井上敏樹
 「お供たち、目力ビームだ!」
 シンボルパーツからふわふわっとしたビームが出てくるのはままありますが、この発想は、無かった。
 物語は、真っ黒学園に転校してきた、鬼頭はるか……もとい、遙・彼方の姿から始まり、前回からソノザに缶詰にされているはるか(まあ着替えもしているので、割と自由に自宅には帰っていそうですが、喫茶店の方は無断欠勤中との事)は、脳人にも面白いと思わせるマンガを作り出すべく『初恋ヒーロー-新章-』を猛然と執筆していた。
 一時期、「ヒーロー」である為に「マンガ」を切り捨てた事で、人間としてのバランスが崩れているのではなか、という危うさの見えたはるか(タロウに見せる好意めいたものも、一種の代替え行為と捉えられなくもなく)ですが、再び「マンガ」と向き合うに際して、「かつての名声を取り戻す為」ではなく、「誰かを面白いと思わせる為」に一心不乱になっているのは、キャラクターとしてのステップアップを感じます。
 マンガの内容は、はるか・タロウ・ソノイ・犬塚らが別キャラとして登場する劇中劇が随時挿入されていく形で進行し……舞台が学園設定なのは、わかりやすい&劇場版との関連付けかと思われますが、若い役者さんの芝居の幅を広げるのは《スーパー戦隊》の面白みの一つだと思うので、こういった要素は、年に2、3回ぐらい、あると嬉しい遊び心。
 はるかの打ち出した作品コンセプト「転校生がいっぱい」はソノザ編集長にウケが良く、快調に筆が進んでいた頃、はるか不在の喫茶どんぶらでは、桃谷ジロウメンバーが軍法会議にかけられていた。
 トラボルトとしての狼藉について「記憶にございません」と供述を繰り返す(そういえば、大トラ=酔っ払いだから、千鳥足調だったのか……?)ジロウを、いつものように隙あらば排除しようとする猿原だが、タロウの反応は……
 「面白い!」
 「面白い?! 本気か?!」
 「俺はいつも本気だ」
 身内の不穏分子にいつ背後から刺されるかわからないとか、ちょっとした冒険だな! とタロウはやみうちジロウの存在を肯定。
 苛立つ猿原、感激するジロウ、我関せずと読書にふけるマスター……タロウがジロウに甘めなのは、同じドン家の名にまつわる者としてなにがしかの縁があるに違いない、と考えている事が改めて言葉にされ、意識的にか無意識的にか、此の世の人々との“縁”を求めるタロウ(理外の超人であるタロウは、社会の中に居場所を失えば、その時、ただの外敵――“鬼”となってしまう)の思考に一抹の寂しさが漂うが、弟…………だと考えるのは嫌だった。
 どんぶらでジロウが許される一方、人と脳人の白熱するマンガ道では、メインキャラが次々とはるかに告白するシーンが、ソノザに不評。
 「何故こうなる?」
 「それは、マンガだから」
 「それはマンガ家として正しい態度なのか?!」
 ぐさっっっ。
 「俺は人間の感情を学びたい。人の、喜怒哀楽を。おまえの『初恋ヒーロー』を呼んで、俺は何かを感じた。だが、これでは説得力が無い! だいたい、人間はこんな簡単に、理由もなく人を好きになるものなのか?! 没!」
 ヒトツ鬼は容赦無く処刑するし、それを邪魔するドンブラザーズにも躊躇なく襲いかかる攻撃性を見せる一方、己の求める欠落に対しては極めて純粋である事が描かれ、これまでの積み重ねを踏まえつつ、ぐぐっとソノザに愛嬌と奥行きが生まれるのは、毎度ながら鮮やか。
 (そうだ。私には、脳人さんに人間を教えるという責任がある)
 そしてはるかは、妙な使命感を内心で燃やし……これはどちらかというと、“ヒーロー”である自分が今“マンガを描く”事に理由を作ろうとする雑念が交じってきて(前回の猿原が否定的に接したものでもあり)、あまり良くない徴候のような。
 (もしかして……私のマンガが、脳人と人間の架け橋になるかも)
 種族の壁を乗り越える融和の希望にはやはり大きな飛躍が窺え、はるかの筆に邪念がまとわりつき始めた頃、タロウは配達の仕事で訪れた富豪・豪田家で、久々に「これで俺とあんたは縁ができた」を発動。
 前回の猿原とゲストが「縁」を強調していた事を考えると、これもある種の劇場版との連動で、今作の基本要素を意識的に強調している感はあります(話数としてはそろそろ折り返し地点、というのもあるでしょうが)。
 面白い奴認定を受けたタロウは立派なステーキをごちそうになると、満ち足りた生活を送った末に贅沢にも飽き、欲望を満たすと人生は退屈だ、と語る豪田に面白い話を求められるが……
 「俺は芸人じゃない。だいたい退屈なのは、豪田さん、あんたがつまらない人間だからだ」
 割と食い意地が張っているが、言う事は遠慮会釈なく言うタロウスタイル(笑)
 「俺は……つまらない人間か?」
 タロウの発言にショックを受けた豪田は、俺に面白い話を聞かせろぉぉぉと絶叫すると鬼と成り、これでタロウが明確な鬼化の原因となるのは3回目ぐらいになりますが(超力、手裏剣、今回……烈車も含めれば4回でしょうか)、タロウが常人にとっては“まぶしすぎる光”である事が、この後どう扱われていくのかは、興味深いポイント。
 豪田鬼は、クラゲっぽい頭に珊瑚っぽい意匠のボディで??と思ったのですが、後半、ドーム状の頭部に浮かび上がったものを実体化したり、サーフボードに乗って攻撃してきたところを見るに、『メガレン』モチーフの電磁鬼(学園要素繋がり?)でありましょうか。生物要素は今作怪人のダブルモチーフぽいですが、一応『メガレン』に、珊瑚の怪人が居たといえば居たり。
 一方、『初恋ヒーロー-新章-』の主人公・遙彼方(はるか・かなた)の正体は、学園から学園へと渡り歩く、怪人ハンターだった。
 ヒトツ鬼の出現と時を同じくして劇中劇も急展開を見せ、タロウもどきの変身した怪人と対峙する美少女転校生。
 「乙女心は白い花――白い花びら赤く染め、戦いましょう! 命かけ、メタモルフォーゼ!」
 遙は明らかに劇場版ゲストの島崎和歌子さん繋がりで、マントとドミノマスクを身につけた美少女オニシスターへと変身し、友情脚本協力:荒川稔久、みたいな事になっています(笑)
 或いは、渡辺監督の脳の一部に入り込んでいる、荒川脚本回路が作動したというか。
 ところが、タロウ怪人の放ったバナナで滑って転ぶギャグがソノザのお気に召さず今回も全没を暗い、重度のスランプにはまりこんでいくはるかの脳内で、ドンモモ神輿のテーマに合わせて踊り狂うはるか天女(笑)
 これ、似合っていると女性戦士コスプレ回の一貫になってしまうのですが、絶妙に似合ってな(げふんげふん)事が、泥沼に向かって突き進み始めた心情を鮮やかに示します。
 はるかのマンガ魂に歯車のズレが生じ始めていた(やはり邪念が紛れたという事なのか)頃、自らの経営する会社に向かった電磁鬼は社員にひたすら面白い話を求めるが、召喚されたドンブラザーズに追い散らされ、ドンモモの面白い話=銃撃。
 戦闘状態が中途半端なまま、CM空けるとはるかはいきなりマンガ部屋に戻っており、今回、場面転換の飛躍に関しては、かなり割り切った作り。
 前半の快調さが嘘のようにアイデアの枯渇に苦しむはるかは、電磁鬼との戦いの場で耳に挟んだ小話をそのまま借用し、ソノザ編集長そっくりの生徒を出演させるとマンガ内で殴り倒して私怨を晴らし、創作の壁に正面衝突した苦悩から、脳内を大量のはるか天女が踊り狂うと意味不明の奇声を発し、行き詰まり、追い詰められた作家の心理表現として、大変素晴らしい(笑)
 どぅんどぅんどぅんどぅん! うわーーー!
 同じことをくりかえすくらいなら死んでしまえ!
 容赦の無い没を受けたはるかは、ソノザがいつのまにやら『真・初恋ヒーロー』(椎名ナオキ)を読んでいたのを目に留めると、このスランプを乗り越えるには奴と決着をつけるしかない! と(どういうわけか)ソノザの案内でサイン会の会場に乗り込むが、鬼頭はるかを盗作作家におとしめた因縁の椎名ナオキは、全身をうさぎの着ぐるみで包んでいた。
 お、おのれ、レインボーラインの手の者かーーー!! (……すみません、個人的な許せない思いが)
 ……それはそれとして、サイン会でファンと交流する巨大ウサギの図は、強烈なインパクトでありました。
 (あれが……椎名ナオキ。噂通り、決して正体を見せない、経歴も何も一切不明の謎の男)
 ワシのマンガ賞のカタキじゃぁぁぁ、と行列を無視してはるかがカチコミをかけるとウサギは脱兎の如く逃げ出すが、ソノザの調停により両者はマンガで勝負する事になり、並んで机に向かう、はるかと着ぐるみ(笑)
 「勝った方が本物だーー!!」
 怨敵との直接対決に再び雑念が消えたのか、一時的にスランプを脱して快調に筆を進めるはるかは更なる新展開を導入し、ダンス部に入部して美人部長(配役:ソノニ)と知り合いになった遙彼方は、ダンスによって波長を重ねると「ムーディウェイブ」により二人並んでヒーローに変身し、東映ヒーロー時空をどこまでも貪欲に飲み込んでいきます(笑)
 「…………どうでしょう?」
 「……好きだ」
 そして、いい笑顔を浮かべるソノザに予想外に好評だった(笑)
 美少女バトル路線(ステゴロ)に確かな手応えを得るはるかだが、編集チェック中に机を離れたウサギの着ぐるみは何故かまかないを調理しており……出てきたのは、はるかの(自称)得意料理ビーフストロガノフ。
 その味はこれまたはるか作のものと瓜二つであり……これを真面目な伏線と捉えると、だいぶ着ぐるみの中身は絞られてきたような(笑)
 1・同居人として、はるかストロガノフの味を知るオバ
 2・はるかストロガノフをコピーする技量を持ち、ここまでのあらゆる鬼畜の所業を平然と行えそうなマスター
 3・理屈はともく、並行世界的などこかからやってきた“もう一人の”鬼頭はるか
 辺りが候補で。
 果たして椎名ナオキとは何者なのか……物語冒頭から確かに存在していながら、今の今まで気にも留めていなかった人物に予想外のフォーカスが当たる一方、面白い話を求める電磁鬼が砂浜に出現。
 「面白い話をしてくれぇぇ!」
 「ふざけんな! そう簡単に、面白い話が出来るかぁ!!」
 魂の、叫びであった。
 ドンブラ一行は、ドンモモの音頭によりおもむろにアバターチェンジすると全員揃ってファイブマンとなり……学校繋がりといえば繋がりですが(ただし高速戦隊の方が繋がり強い)、唐突に、これまで無かった全員で同じ戦隊にアバターチェンジが行われてだいぶ困惑。
 穿った見方をすると、『ゼンカイ』放映前に白倉Pが悪い病気を出して『ファイブマン』に放火した問題があったらしいので、現場的に未だ思うところがあったりしたのでしょうか。
 そこに勢い込んで駆けてくるジロウだが、ファイブマンに追加戦士はいらない、と青と黒から邪険な扱いを受けて砂浜に倒れ、相手がジロウにしてもちょっと感じ悪いですが、イヌはともかくサルは、前々回、まんまとジロウに踊らされて世俗の垢まみれになった件を恥と感じていたりはするのかも。
 (やっぱり……嫌われてる……みんなに。……でも……駄目だ。こんな事でめげちゃ!)
 他者に好かれていない事を認知はできる事が判明したジロウだが、ヒーロースキル《オリハルコンメンタル》が発動すると、「やあみんな! 今日は悪かった! 俺は、反省すべきところはちゃんと反省して、直すべき所はちゃんと直す! だから、 問題点をどんどん言ってくれ!」(byとある天使)とはならず、どんなに嫌われてもくじけずに突き進む道を選んでしまって立ち上がり、ドン覚醒。
 乱入してきたバロム仮面と金ドラが戦っている間に、電磁鬼はサーフボードを作り出してドンブラザーズを蹴散らして、サーフィンしようぜ!
 「こっからが面白い話だ」
 だがドンモモが鮮やかにサーフボードを切り裂くとロボチェンジし、やはり、ドンモモにとっての面白い話=力による制裁であり、電磁鬼は打ち上げロボタロウにより百万倍の花火となって、ドン! ドン! ドンブラザーズ!
 金ドラはキョウリュウゴールドに先輩チェンジしてバロム仮面を追い払うが、その活躍は……誰も見ていなかった。
 「やはり僕にも必要だ……ロボタロウの力が!」
 ジロウがようやく真実に辿り着いていた頃ドンブラザーズは巨大戦の真っ最中で、どこかで見たようなロケットパンチを放つ電磁鬼(今回も高速鬼回同様、渡辺監督が鬼のアクションに原典オマージュを加えた感じでしょうか)を手数で圧倒すると、ドンブラパラダイスで、鬼退治・完了。
 豪田は、面白い夢をみたような……と屋敷の前で正気に戻り、急ぎ缶詰工場に戻ったはるかが目にしたのは、無人の事務所と、机の上に残された椎名ナオキの原稿。
 食い入るように原稿をめくったはるかは…………
 (ま……負けた)
 敗北を認め、マンガへと取り組む決意を新たにする。
 (でも……このままじゃ……終わらない。きっと、おまえを超えてやるから……!)
 偶然か、それとも必然か、はるかの決意は椎名が描いたマンガのコマに重なり、ドンブラコ、ドンブラコ、ゆらり揺れて辿り着くのは地獄極楽はたまた異世界――鬼が出るか蛇が出るか、はるか征け。マンガの道を突き進むのだ。たとえ原稿が真っ白で天女が踊り狂っても、それはマンガ家の宿命だ。進めはるか、真の『初恋ヒーロー』を描くのは、おまえだ。
 個人的に創作者テーマは突き刺さりがちなのですが、ソノザという思いもがけないキャラからのパスを受け、はるかが“私”としての魂をかけた情念を取り戻してくれたのが嬉しかった上で、苦悩の中で再びマンガと真摯に向き合い、これまで盗作野郎と見下していたであろう椎名のマンガを読んで自ら敗北を認める結末が非常に美しく、満足度の高いエピソードでした。
 再び歩み出したはるかのマンガ道が、この先の物語にどんな意味をもたらすのか、楽しみです。
 次回――イヌが犬となり、ネコとツルが出会い、そしていよいよロボドラタロウ?!