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「バーディ!」

『機界戦隊ゼンカイジャー』感想・第48話

◆第48カイ!「天網恢々、王朝崩壊!」◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:香村純子)
 復讐スタンプ帳が満期達成でイジルデ爆散! から、ゼンカイジャーはトジテンドパレスへと突入していき、神フリントがゲートの設定をなにやらいじる中、イジルデの元へ介人を送り出したらイジルデの撃破後も完全放置を受ける事になったゾックスとステイシーは、バラシタラの前に倒れ伏していた。
 「界賊なんぞがわざわざ戻ってくるからでアル! 他の世界で、お宝漁りでもしていればいいものを」
 「奪うだけが、お宝じゃねぇんだよ……」
 「なに?」
 「……最初から持ってるもの……気付いたら増えてるもの……守りてぇもん、全部お宝だ! ……俺のお宝……傷つける奴は、誰だろうが許さねぇ! それが……世界界賊――ゾックス! ゴールドツイカー様だ!!」
 バラシタラの嘲弄を跳ね返すように立ち上がったゾックスはチェンジよほほいし、ずっと守ってきた家族、異邦の地で手に入れた繋がり、映像と重ねて「変化」を含めたゾックスの芯までねじ込んでみせて、引いてきた線を一つの台詞に集約して跳ねさせる香村さんのスキルは、毎度ながらお見事。
 ……裏を返すと、前回-今回と、主要キャラをこぞって同じ手法の繰り返しで力任せに押し上げていくしかない状況に陥っているわけなのですが、8の積み重ねから12まで跳ねさせる事が出来る香村さんのスキルを、5の積み重ねから7まで持って行く事に消費している感。
 ロイスを使ってリザレクトした金がバラシタラに挑みかかる一方、ボッコワウスは全トジルギアの吸収を完了させ、そこに一歩遅れて踏み込むゼンカイジャー。
 秘拳・ふりだしに戻る、をマジーヌの魔法飛行で回避するが、「ボッコワウスは、俺が守る!」と飛び出したゲゲがマジーヌを襲撃し、う、うーん……?
 ゲゲ本体が神ゲゲと記憶を共有していると解釈できるような描写があったので、てっきりゲゲ本体も腹に一物あるのかと思っていたら忠実なペットとして描かれ、この後の描写を見るとどうも、自称神憑依状態の記憶がうっすらとあるステイシーの方がイレギュラーのようですが、それはそれでゲゲ本体には頻繁に記憶の欠落があるとなってしまう事に。
 自称神が適当に空白部分の記憶をねつ造して埋めているのかもしれませんが、ただでさえデタラメな自称神の能力に加えて、ある時はA、ある時はB、と憑依対象の扱いもこれといったルールがないのでは、あまりにも話都合で雑になりすぎてしまいました。
 最終的に自称神をこの物語の中でどう位置づけるかでまだ変わる余地はありますが、現時点では“物凄く面白くない能力持ちの陰の黒幕”であり、対ボッコワウス戦の茶番感がここから急加速。
 魔拳・ローリング土俵に追い詰められるゼンカイジャーだが、シンケンジャーギアの力により巨大化したセッちゃんが「おいらだって、戦うチューン!」とゲゲに挑みかかり……うーん……元来こういったサポートキャラの活躍シーンは好きなのですが、よく言えばオマージュとはいえ、クライマックスにやられるには、あまりにも『ゴーカイジャー』で、盛り上がれず。
 そうこうしている内に、ゲートでの悪巧みを終えた自称神がゲゲに憑依すると、「ボッコワウスは背中が弱い」と唐突なコメント。
 裏切りに激怒した大王パンチの一撃でゲゲは粉々に砕け散り、自らの暴発に悲嘆する壁王様が残ったゲゲのパーツを自らに取り込むと、とうとうキャラパキ!
 壁の中から現れた、普段のセッちゃん程度のサイズの少年王ボッコワウス様の口より、トジテンド王族は、先代の亡骸を代々受け継いで力を蓄えてきた事が明かされ、パーツを吸収・再構成して人間大となったシン・ボッコワウスは、自らのものとしたトジルギアの力を発動するイワヤマ!
 一方、ツーカイザーは真剣フォーム、超力フォームを用いてバラシタラと戦いを続けており、その姿を見て気力を振り絞ったステイシーも、生身で突撃。
 「なんとでも言え! おまえの事は憎いが、これは敵討ちじゃない! 俺が……これから生きる場所を守る、その為の戦いだ!」
 子供たちを片っ端から返り討ちにしてきたと語るバラシタラに対して、自らの戦う理由を遂に見出したステイシーの、少年から青年への脱皮が一人称の変化をともなって示され、ステイシーは青春チェンジ! じゃなかった、暗黒チェンジ!
 「「……言うじゃねぇか」」
 金はスーパーチェンジツーカイし、共に満身創痍ながら戦いは再び二対一の局面に。
 「今度こそ、奪われる前に守ってやる!」
 閉じた世界を抜け出したステイシーが、奪われてから憎むのではなく、奪われる前に守る事を選ぶのは、納得と満足の出来る到達点。
 死闘が続くその頃、岩山トピア時空に放り出されていたゼンカイジャー一同に向けて、シン・ボッコワウスはボウケントジルギアの力を用いて、《儂は既にいい事を言った! このボッコ(びしっ)ワウスが!》もといアタック!
ブルーンが、マジーヌが、ガオーンが、ジュランが、次々と戦隊トジルギアの力に立ち向かっては倒れていき……あれ? 忘れているだけかもしれませんが、キカイノイド組のダメージによる変身解除描写って、もしかすると初でしょうか。
 何かこだわりがあったのかもしれませんが、そういう機能あったのかレベル。
 そして放たれたトジテンドハリケーン:全力家族パンチ(悪ふざけギリギリのラインですが、ここで両親を出す事により、OPクレジットバレせざるを得ない五色田夫妻の登場を、ここ?! と思わせたのは、悪くない仕掛け)を受け、ゼンカイザーも一撃で変身解除。
 「ふふははははは、そうだ、愚民どもは這いつくばっていればよい! キカイトピアの、いや、どこの世界でも君臨するのは、我がトジテンド王朝。遙か昔から、揺るがぬ事実だ」
 勝ち誇るシン・ボッコワウスに対して立ち上がるメンバーだが、手の中のギアは先ほどの攻撃で激しく損傷しており、変身不能……しかし。
 「…………俺たちはきっと……世界初じゃない。……だからこそ、諦めない!」
 他の世界の先輩たちも数々の苦難を乗り越えてきたに違いない、と決意を胸に立ち上がると、メンバーそれぞれがトジルギアの使用について一斉に苦情を申し立て…………う、うーん……クライマックスでメンバーそれぞれが啖呵を切る事そのものは定石といえますが、個人の心情・背景に基づいたものは前回のイジルデ戦で行ってしまっており(それにしても積み重ねてとしては中盤以前に片付いた要素ばかり)、対トジテンドの内容としては、
 第4カイ!「ブルブルでっかいおっせかい!」における介人の、
 「俺、絶対あいつら倒すから。……勝手によその世界閉じ込めて、勝手によその世界使って、俺たちの世界に酷い事させて、世界ってそういうもんじゃねぇから!」
 のリピートアフターミーにしかなっておらず、一年間の積み重ねをぶつける場としては、激しく着火不良。
 「チェンジできなくても……結果出すまで、全力全開だ!!」
 5人はそのまま、ギアを握りしめると生身で変身ポーズを撮って揃い踏みし、くすぶるだけの火種は自然鎮火しそうなものの、ジュランのギアの握り方は格好いい。
 「5人揃って!」
 「「「「「機界戦隊・ゼンカイジャー!!」」」」」
 「力も持たぬただの愚民など、儂の敵ではない」
 圧倒的な余裕で5人を見下すシン・ボッコワウスに向けてちょわーーーすると異変が起こり、大王の体内から戦隊トジルギアの力がこぼれ出すと、光に包まれた介人たちの手にした戦隊ギアが修復、更に赤い外装へと新生。
 「そっか……トジルギアにされた、スーパー戦隊の世界が、力を貸してくれたんだ」
 え、あ、うーん………………今作、並行世界の戦隊の力を参考にした戦隊ギア・その発明を盗用したトジルギア、敵も味方も“借り物の力”を用いて戦っているのが大きなポイントであり、どんな状態でも徹底してこだわる「名乗り&揃い踏み」にも“それをしなくてはスーパー戦隊の力を発動できない”トリガーのような意図が見受けられたのですが、そんな“スーパー戦隊の模倣品”から、借り物の力を強調するネガとしてのシン・ボッコワウスを乗り越えるに際して、最後は借り物の力を脱却して、自分たちの力で真・ゼンカイジャーになる事を期待していたのですが、大変、肩すかし。
 それをやると、さじ加減を間違えた場合に既存シリーズ批判と受け取られかねない危険性はありますし、シン・ボッコワウスには“悪の魂の継承者”としての面もあるにしても、ここに来てストレートに”魂の継承”をやるのなら、道中もっと素直に描いてきた方が良かったと思うのですが……これまでの諸先輩方に対する扱いの雑さが足を引っ張って、胸に響かず。
 丼の中にコーンフレークと牛乳を満たしてフルーツを盛りつけたけれど、最後にトンカツを乗せたので「これはカツ丼です!」と言われているような気分。
 「閉じ込められてるってのに、パイセン達、さすがだわ」
 「ここまでされたら、もう絶対負けない! ボッコワウス! おまえを倒して、全部の世界を解放する!」
 “借り物の力”については残り1話で取り扱われる可能性はまだありますが、生身名乗りから1分半後に普通にチェンジ全開するのも盛り上がりに欠け、ただでさえ自称神の暗躍で茶番じみている対ボッコワウス戦が、どうしようもなく深い谷間に落ち込んでいきます。
 スーツの都合で難しいのは重々承知の上で、これで変身したらデザインがバージョンアップしていたら、おお、とも思えたのですがそんな事もなく、改めて変身したゼンカイジャーが大王へ突撃していた頃、勢いに乗る金紫を相手にまだ普通に戦っていたバラシタラ、凄い。
 「テニス以外も、つえぇじゃねぇか」
 「当然だ。守りたいものが出来た。おまえと同じだ!」
 金紫は連携の精度を上げると徐々にバラシタラを押し込んでいき、自称神の憑依が解けたフリントが合流して声援を送ると、最後は必殺技の撃ち合いの末に、一座の文字通りの後押しも加わって、バラシタラ、遂に戦死。
 「この俺様が、こやつらごときにぃぃぃぃ!!」
 残るシン・ボッコワウスは、スーパー白が正面から動きを止めている間に、赤黄桃青が背中の弱点に全力全開キャノンを押しつけ、前後からのダブル砲撃を叩き込み……敗因:背中、からは凄く某戦隊の香りがするのですが、今回どうも、そこかしこに顔を出すオマージュとかセルフパロディというより内輪ネタが引っかかり、最終回1話前にして、『ゼンカイジャー』の悪いところが大噴出した印象。
 「我が王族の……儂の世界がぁぁぁぁぁ!!」
 シン・ボッコワウスの大爆発をもってして全てのトジルギアが砕け、内部に閉じ込められていた並行世界が解放されると、分厚いスモッグに覆われていたキカイトピアにも青空が戻り……ただの、工場に(笑)
 同じ頃カラフルには、まるで神の配剤のように偶然立ち寄った寿司トピアで妻・美都子を発見した功が夫婦で帰還。
 一方、フリントの挙動から神の介入に気付くステイシーだが、介人たちに知らせようとしたゾックスが突如として豹変すると、明らかに自称神モードで「カイゾクトピアに戻る」と言い出し、そのままさらばーい。
 ターさん達とも再会し、トジテンド王朝打倒を喜ぶキカイノイド達だったが、歓喜の輪の中からいつの間にか姿を消していた介人は、怪しい微笑みを浮かべながら充電切れしたセッちゃんを抱えてアース-45へと帰還し、同時にスカイツリー上空に謎の大型機械が出現。
 「トジルギア装置起動まで、3.2.1――」
 そして――全ての世界は閉じられる。
 降り積もる無数の歯車で、つづく。
 ……今回の教訓は、悪の組織を倒すモチベーションは定期的に確認しよう! でしょうか。
 勿論、数多の世界をギアに閉じ込めて侵略活動に悪用するトジテンドは許しがたい存在であり、アース-45に迫る現実的な脅威としても排除すべき対象である事は間違いないのですが、あまりにも侵略行為=毎回のドタバタ騒ぎに注力した結果として、今回もドタバタが片付いた! 事に登場人物が満足しきって、その背後にあるトジテンドの存在に怒りを向ける描写が欠落してしまい、トジテンド王権を武力革命する意識が誰にとっても希薄になってしまった(潜在的には所有しているが、物語としては本当に潜ってしまった)のは、クライマックスへの流れとして痛恨でした。
 全く同じ状況に陥っていたイジルデは、復讐日記の読み上げでなんとかしましたが、さすがに2話連続かつスケール感の違う存在を相手に同じ手段を使うわけにもいかず、何故トジテンドは許しがたい悪なのか、という確認作業は終章を前に一度はやっておいた方が良かったなと。
 加えて今作の場合、最終盤に入って「悪の組織」の背後の黒幕がフォーカスされた事により、ますます「悪の組織」が前座になってしまい、仮にも組織のボスキャラの撃破シーンとしては史上屈指のカタルシスの無さに
 そこで前座感や茶番感を出来る限り打ち消す為には、トジテンドの“悪”を印象づけておく必要があったわけですが、まだバラシタラvs金紫のバトルの方が盛り上がる構図となり、そして毎度言っていますが、悪が輝いていないとヒーローも輝かないので、実にぱっとしないクライマックスバトル。
 シン・ボッコワウス戦があまりに茶番 → ゆえにトジテンド王朝の打破やターさん達との再会による歓喜も平板に → 話に起伏が足りないのでラストシーンに衝撃を生む為の落差が出ない、と完璧な負のドミノ倒しが発生してBパートがほぼほぼ空騒ぎと化し、物語を劇的にする為の動力が伝わりませんでした。
 黒幕がいきなり飛び出してくるのも問題があるとはいえ、VSボッコワウスを明らかな茶番にしてしまったのは大失敗だったと思うのですが、その茶番を回避する為には、ボッコワウスに対するキャラクター個々の情念を強める事により、視聴者から見れば黒幕が存在しているが劇中の人物たちが目前の決戦に示す強い意識で茶番を茶番と感じさせない仕掛けが必要でありながら、それを成立させる為には、どうにも仕込みと素材が足りませんでした。
 少し引用が長くなりますが、先に触れた第4カイ!「ブルブルでっかいおっせかい!」感想で


 「俺、絶対あいつら倒すから。……勝手によその世界閉じ込めて、勝手によその世界使って、俺たちの世界に酷い事させて、世界ってそういうもんじゃねぇから!」
 これまでは降りかかる火の粉だったトジテンドの、具体的な悪行を知った上で改めて打倒を宣言し、「俺たちの世界に酷い事して」ではなく「俺たちの世界に酷い事させて」で、勝手に閉じ込められて利用される他の世界の為にも怒っているのが、実に劇的に介人のヒーロー像を示してお見事!
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(中略)
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 「イジルデ様! ……いえ、イジルデ! あなたは私に、何も教えてくれませんでした。でも私は……今日学びました! これまで私が、どんなに狭い世界に居たかという事を! 知る事で、世界は広がるという事を!」
 「掃除係が偉そうな事を」
 「お別れに……私が教えてあげます! 私の名前はブルーンです!!」
 知識を与えず、個を圧殺しようとする支配者に向けて、ブルーンが訣別と共に自らの個の証明を叩きつけるのも気持ち良く決まり、そんな彼らの“個”を認める者こそが、五色田介人、といえそうでしょうか。
 また、前回は他者との出会い、今回は知るという事(どちらも日常で誰もが出来る事でもあり)で、「新しく広がる世界」という要素が繋げられており、スカウト後半の二人で、『ゼンカイジャー』のテーマを明確に押し出してきたのも、お見事。
 その目指すものはいわば、世界と世界の出会い(比喩でもあり劇中の実際でもあり)を幸福なものにする事であり、介人にとっての「世界ってそういうもんじゃねぇから!」が、両親の影響で平行世界の存在を信じ続けていた青年らしいモットーとなって、ゼンカイジャーの真ん中に立つヒーローの姿が、きっちり確立。第1話冒頭でキカイノイドに率先して握手を求めていたのも、ただの好奇心でも何も考えていないのでもなく、介人なりの信念に基づいた行動であったとなり、巧い。
 同時に、トジテンドとは如何なる悪なのか、も明確になり、立ち上がり4話でここまで納めてきたのが脱帽ですが、《スーパー戦隊》メインライター3作目にして、香村さんが完全に、更に一つ上のステージに昇った感。

 と書いたのですが、作品の持っていた様々な“面白さ”は別として、こと対トジテンドに関するテーゼに関してはこの時点がピークとなり、第4話時点での組み立てとしては非常に素晴らしかったものの、そこが完成地点になってしまって、『ゼンカイジャー』としてその先へ進め(ま)なかったのは、大変残念。
 ラスト1話残っているので、上述した“借り物の力”も含めて、宙ぶらりんになっている作品のテーゼについて不満点を解消する内容に期待をかけたいところですが、自称神の真意とは? そして介人たちは、閉じたセカイを再び開く事が出来るのか――?!

 余談:次作『ドンブラザーズ』の玩具CMが入りましたが、ヒーローの基本ギミックがぱっと見《平成ライダー》路線で、成る程そちらへ行くのか感。