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狼、月に託す願い

牙狼GARO> -月虹ノ旅人-』感想

◆『牙狼GARO> -月虹ノ旅人-』◆ (監督・脚本:雨宮慶太
 2019年公開の劇場版。
 シリーズの履修は、第1作とそのTVスペシャル『白夜の魔獣』、その5年後の劇場版『牙狼GARO>~RED REQUIEM~』、そして今作の主役である雷牙が主人公のシリーズを1エピソード見ているだけなので、“『牙狼』のイメージ”は、第1作に基づきます。また、雷牙周辺の人間関係に関しては把握していない旨、ご了承下さい。

 そんなわけで……コート・肌色・そして足技!
 冒頭から『牙狼』の性癖全開で、息子さんに迫る女性型ホラーの魔手!
 若かりし頃、お父さんは言いました。
 「俺の苦手な女のホラーか」
 若かりし頃、お父さんは言われました。
 「あの人、いつもあんなに無愛想なの?」
 「どうかクールと、言ってあげてください」
 「貴様の因果、俺が断ち切る!」
 若き黄金騎士・冴島雷牙は、ガロの鎧と共に一気の馬を召喚すると見事にサソリホラーを調伏するが、その直後、謎の死人に腰抱きつきのヒロインムーヴから膨大な邪気を注ぎ込まれ、鎧の浄化が必要になってしまう。
 父・鋼牙は、異郷へと消えた(またも変態の魔手なのか?!)母・カオルを探し、幼い雷牙に「必ず戻る。信じて待ってろ」と言葉を残したまま未だ旅より戻らず、両親との関係において見えない傷を抱える雷牙の心情が、物語の縦軸。
 冴島邸には忠実なる執事ゴンザが未だ健在で、食堂にはカオルのあの絵がかかっているのが、さりげなく嬉しい。
 雷牙は、同居人のマユリ(会話の断片から推測するに、雷牙のパートナーにして元魔戒法師だが現在は力を失っており、霊的効能を持つ植物を育てて暮らしている感じ)の願いで、失踪直後のまま保存されているとおぼしきカオルのアトリエを訪れ、鋼牙-雷牙の関係を大河-鋼牙と重ねて「父子(家族)」という『牙狼』のコアテーマを描くと同時に、マユリとカオルを重ねて「戦士とそれを支える者」の関係を描く構造。
 アトリエからの帰路、邪気を浴びた影響により苦しみだした雷牙はなんとかそれを押さえ込むが、急ぎ鎧のクリーニングが必要だと浄化の為に英霊の塔へ向かおうとするその前に現れる……変態だーーー!!
 真っ黒なテカテカコートに白鳥マスクという、非の打ち所のない変態だーーー!!
 さすが、シリーズ一つの集大成と思われる劇場版、変態のクオリティも非常に高く、雷牙を剣技で制する変態に邪気を注ぎ込まれたマユリは操られるように姿を消してしまい、変態白鳥仮面も大ジャンプで撤収。
 マユリの後を追った雷牙はアカモクに向かうという黒の列車に乗り込むと、奇妙な空間と奇妙な乗客が猥雑と幻想を織り成す列車の中で、バデルと名乗る少年と知り合いになり、わかりやすく銀河魔戒鉄道の夜。
 先頭車両に乗ったと思われるマユリを目指し、強固な結界に守られた列車を最後尾から一つ一つ前へと進んでいく雷牙と少年だが……無賃乗車で、逮捕。
 バルチャス要素を入れて牢獄から脱出し、結果的にショートカットに成功した二人を乗せた列車は幻想的な映像で走り続け、制止を振り切り、強い決意で次の車輌へと向かっていく雷牙を見送った少年から連絡を受けたのは……満を持して登場の父、冴島鋼牙。
 一方、先へ進んだ鋼牙を待ち受けていたのは、インモラルな雰囲気漂う仮面舞踏会、そして、変態だーーー!!
 「目的はなんだ?!」
 「目的? そんなものは無い」
 「なに?」
 「おまえがこの女を愛するならば、俺はこの女を憎む」
 「なにを言っている?」
 「そしておまえが生きようとするなら、俺はおまえを死へと誘う!」
 両者は激しく剣を打ち合わせ、父に捨てられたと心中深くに憎しみを抱いているのではないか? と精神的な揺さぶりをかけられる雷牙だが、憎いのは父ではなく「必ず戻る」の言葉を信じ切れない己の心の弱さだ、とそれに打ち勝つと、変態白鳥仮面を一刀両断。
 同時に列車が停止すると、雷牙は駅舎のホームに立っている自分に気付き、そこに現れた父・鋼牙から、邪気に支配されたガロの中に取り込まれ、死の淵を彷徨っている事を告げられる。
 実際にはマユリは変態白鳥仮面にさらわれておらず、全てはアトリエを出た直後に苦しみだすと、鎧ごとその場で石化してしまった雷牙の魂が現世と幽世の狭間で見ていた幻影だったのだ。
 同僚の魔戒騎士クロウ(どこかで見覚えがある顔だな……と思って結局EDクレジットまでわからなかったのですが、時雨のアニキでした)によって鎧の中に閉じ込められていた肉体を解放された雷牙は、鋼牙によって魂を現世に送り返され、なんとか帰還。
 だが、浄化中のガロの鎧を媒介に放出された邪気が英霊の塔の上層を吹き飛ばし、親方、空からなんか豪邸が!
 「ここで私は生まれ変わる。――金色の光を、糧にな!」
 雷牙を救うべく、魂だけでうつつの狭間に飛び込んでいた鋼牙を弾き出した変態白鳥仮面が雄々しく甦ると、時を止めて死の世界をもたらす魚を冴島邸へと向けて放ち、ゴンザのガード役を買って出たクロウをその場に残た雷牙とマユリは、ワープゲートを使って英霊の塔へと急ぐ!
 主人公カップルが出来上がっているところから始まって、ヒロインを追いかける構造の前半は、どうしても人間関係への思い入れ不足からノりにくかったのですが、存在だけ匂わされてハッキリ出てこないのではと不安があった鋼牙の登場に続き、心中のネガ面などではなく白鳥仮面が独立した悪役としてしっかり立ち上がってきたこの辺りから、グッと面白さが加速。
 白鳥屋敷により英霊の塔を制圧した白鳥仮面は、迫り来る英霊たちを次々と屠るとその力を吸収していくが、そこにメインテーマと共に切り込んでくるのは、正真正銘の冴島鋼牙!
 これは文句なく盛り上がり、両者が刃をぶつけ火花を散らしていた頃、マユリに見送られた雷牙は、英霊の塔から白鳥屋敷を目指す。
 「必ず戻る。信じて待ってろ」
 が綺麗に――父の言葉を信じ抜く強さを得たからこそ、愛する者に同じ言葉を告げられる――決まり、息子さんが一皮剥けた一方、お父さんは、14年後も外壁を滑り落ちていた。
 冴島邸で一人頑張っていたクロウは、マユリの花が邪気を吹き飛ばしたチャンスを掴み、カラス天狗のような鎧をまとって魚クリーチャーに勝利。雷牙を想って丹念に育てられたマユリの花が邪悪を退ける力を目の当たりにしたゴンザは、その花を英霊の塔に届けるようにとクロウを説得し、魔戒騎士たちの戦いの中で、そこに浮かぶ人の想いを常人として酌み取って貴重なパスを繋ぐ、愛されゴンザ。
 またここで、「カオルの絵」と「マユリの花」が、戦いを支え未来を繋いでいくものとして重ねられ、白い花を手に英霊の塔へと飛び立つ天狗特急便。
 白鳥屋敷の玉座でパワーを溜める変態白鳥仮面……の正体は、仮面ライダーナイト!
 そして、死人の体を渡り歩いた末に、その元魔戒騎士の肉体をゲートにして現世に顕現したのは、きょ、京本政樹ぃぃぃ!
 考えてみれば因縁の敵としてはこれ以上なく納得なのですが、ここで京本さんの登場は驚きました。
 塔の上層を塞ぐ邪気の歪みに行く手を阻まれていた雷牙は、なにやら異貌の神的存在と交渉。時空の狭間を彷徨う旅人となる代償を受け入れる事により、発動した契約に基づき白鳥屋敷に辿り着くと、雷牙の誕生を希望として復活したと語るバラ崎先生と父子共闘バトルがスタート。
 一方、天狗特急便は英霊の塔まで辿り着くと、魚に追い詰められていたマユリの危機を救い、子犬系後輩気質を感じさせるクロウ、当初は主戦場から離れたところで一応の出番を与えられるぐらいの扱いなのかなと思っていたら、飛行系鎧のインパクトに加え、主戦場にもきっちり参加したこの辺りから、段々と格好良く見えるようになってきました。
 続々と決戦の場に集結していく魔戒騎士だが、バラ崎の生み出す死の領域は拡大を続け、屋敷の絵画の中から正統派のホラー軍団が出現するのが、嬉しいサービス精神。大量のホラーに追い詰められる父子だが、そこに列車の少年バデルが駆け付けるとホラー軍団をまとめて吹き飛ばし、なんとその正体は、鋼牙の父・冴島大河の大盤振る舞い!
 「バデル」とは旧魔戒語で「父」の意味……は、本編のセルフオマージュネタと思われますが、ここに三世代の黄金騎士継承者が集い、風にたなびく純白のロングコートと真っ黒なラバースーツの男が3人並ぶと、画面が……濃い(笑)
 親子三代とバラ崎先生の死闘が開始される一方、回想シーンの力を借りて屋敷の結界を破壊するクロウだが、バラ崎先生のスタンド攻撃を受けて撃墜され、時間停止によりリタイア。
 「時は満ちた。今ガロの系譜をここに断ち切る!」
 結界は消え去ったものの死の領域の拡大は止まらない中、絶体絶命となったマユリは謎の少年に助けられて英霊の塔内部に引き入れられるが、親子三代の攻撃を凌ぎきったバラ崎は暗黒騎士と化すと、かつて最強と呼ばれた魔戒騎士オウガの鎧を召喚。金色の光――英霊たちの魂を喰らった事で得た力によりオウガの鎧と融合する事で、究極の鎧として新生する!
 「貴様等に鎧は無い。終わりだ!」
 4本の剣が交錯する一方、塔の中に引き入れられたマユリはガロの英霊と接触。その手の中に残されていた希望は、たったひとひらだけだったが、幻像として現れたカオルの手がそれに寄り添い……フィルターの効果などもあるのでしょうが、ここで出てきたカオルが第一作のイメージを明確に感じさせる姿だったのは現実世界で約15年に渡る物語の地続き感を強めて良かったです。
 ……まあ、かつての鋼牙脳内にしばしば現れた白ワンピース概念カオルが『牙狼』世界に拡大して、概念女神化している感じもありますが(笑)
 雷牙を見守り、愛する者たちの想いが可憐な白い花を甦らせると、雷牙の元に届いた花は黄金の鎧となり、ガロ、復活!
 ……と思ったらバラオウガの攻撃を受けてすぐに解除されてしまいましたが、そこから、祖父と父が片腕ずつにガントレットを身につけて、オウガの攻撃を防ぐのが痺れる演出。
 再び立ち上がり、集った3世代の黄金騎士ガロが、鎧を次々と部分装着しながら怒濤の連続攻撃を浴びせ、ここからは、魔戒騎士のターンだ!
 3世代合体ゴールデン曲芸キックを受けてもなお健在のオウガだが、今度は大河が鎧を完全装着し、まさかのガロジェットストリームアタック(笑)
 魂の継承がこれ以上なく直球な映像で描かれ、大ガロ、鋼ガロ、雷ガロ、の三連撃を受け、遂に砕けるオウガの鎧。
 「馬鹿な……! たった一つの鎧で……」
 「一つではない!!」
 「この鎧には、沢山の人の想いが込められている!」
 「そして共にに戦った、盟友の姿を刻んできた!」
 「この鎧は、その想い、姿を、希望として、未来へ運ぶ鎧なのだ!」
 シリーズの歴代キャラクターの姿を背負いながら雷牙たちはオウガに啖呵を叩きつけ、黄金騎士ガロとは――を通して、ヒーローとは何か?に至るのが、エログロバイオレンスを売りの一つとして押し出しつつも、その根源にヒーローフィクションの魂を据える、牙狼>の真骨頂。
 またここに至って、「英霊」達とは、劇中における歴代ガロの継承者であると共に、メタ的に、数多のヒーローフィクションにおける「英雄」達である、との解釈も可能となり、京本政樹の外見以外は自らが何者であるのかを既に喪失しているバラ崎が、人の世を護るヒーロー達が倒すべき大いなる概念悪、として成立するのも、お見事。
 三世代ガロ共演にサービス以上の物語意味を鮮やかに込め、シリーズ一つの集大成として、歴代作品を見ていれば見ているほど感動の増す構造ではあるかと思いますが、視聴したシリーズ作品は少ないながら、今回この映画を見て良かった、と思えるシーンでした。
 『牙狼』ど真ん中をやりつつ、真っ正面からのヒーロー賛歌になっているのが、大変ツボ。
 「おのれぇ……!」
 悪あがきを見せるバラオウガだが、もはや黄金騎士ガロの敵ではなく、メインテーマのアレンジをバックに炸裂する金狼感謝三世代スペシャルによって浄化されると、世界は輝きを取り戻すのであった……。
 大河は英霊の世界へと戻っていき、父と子、二人の狼は再会を約して別れ、邪神的存在の口より、鋼牙の長年の家出は通りすがりの魔戒騎士に目覚めてしまったのではなく、契約の先取りにより、雷牙に代わって時空の狭間の旅人となっていた事が原因と判明。

 ――「夜の月が虹を放つ時、愛する旅人が愛する者の元へと帰ってくる。昔からの言い伝えだ。月の虹が輝く時、俺はカオルと共に帰ってくる。雷牙、必ず戻る。信じて待ってろ」

 かくして、未来の息子を救う為に鋼牙は月虹の旅人となり、父の深い愛を知った雷牙はマユリの元へ帰還すると、ただ父を待っているだけではなく、父を迎えに行く旅へ共に行こうと告げる。
 「で、いつ旅立つんだ?」
 「……そうだな……帰ったら……すぐ」
 の、ちょっととぼけた感じが妙にいい味を出し、実質的プロポーズ(?)が、実に気持ちのいい場面に。
 そして月虹の蝶は旅人を導き……人生という名の、旅は未来へと繋がっていく!

 当初は、2時間の映画だし、感想はさらっとめにしよう……とメモ控えめにしていたのが気がつくとこのぐらいの物量になる面白さ(謎基準)で、お薦めして下さったガチグリーンさん、ありがとうございました。
 シリーズ一つの集大成として極めて濃厚な『牙狼』ぶりで、大変面白かったです。
 特に三世代揃い踏みを、英霊たちに見守られながら継承されていく黄金騎士とは何か、という形で『牙狼』ならではの説得力を乗せたヒーロー論に繋げて物語に落とし込んだのは、お見事でした。
 時代に輝け、牙狼