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掴み取れ……君、求めるもの

仮面ライダーアギト』感想・第50話

(※サブタイトルは存在しない為、筆者が勝手につけています。あしからずご了承下さい)
◆第50話「君のために変わればいい」◆ (監督:長石多可男 脚本:井上敏樹
 「これからは、アンノウンを保護する事が我々の仕事です」
 土のエルを追うアギトの前に立ちはだかったのは北條G3-Xと尾室G3であり、特別編におけるG3マイルド登場はありましたが、元々「中身は別人でも可能」という属性を持つとはいえ、とうとう本編においても、G3(シリーズ)が唯一性を完全に失う事に。
 警察上層部が、人類と超人類(アギト)の対決を見越して、暗にアンノウンによるアギト狩りを黙認する姿勢を示す一方、大人の走りを見せ損ねた涼は、ストーカー返しに遭っていた。
 ……うん、なんというか、これまでのツケですね。
 表向きはすげない態度を取りつつも、割と人の繋がりに飢えている葦原さんは早くも押され気味で満更でもない表情を浮かべ、アギトの力に覚醒を始め体調不良を訴える可奈を心配そうに見送った翔一の元には、とうとうリストラされてしまった氷川くんが挨拶に訪れる(生真面目)。
 「僕たちの間も色々ありましたが、いつまでも津上さんは津上さんのままで居てほしい、今ではそう思っています」
 ……なにやら、含みが(笑)
 東京を離れる際に挨拶には訪れるが、美杉家で話を聞くまで就職した事を知らなかったという微妙な距離感の氷川くんは、アギトを恐れる人々の存在を警告し、最初は笑い飛ばす翔一だが、前夜の事を思い出してか、深刻な表情に。
 「とにかく……色々と、お世話になりました。君には何度お礼を言っても言い足りないぐらいだ」
 「なにを言ってるんです。同じアギトの会のメンバーじゃないですか」
 「……補欠ですけどね、僕は」
 「この際、正会員にしてあげます」
 一転して二人の笑顔のやり取りは大変良くて、明・暗・明のコントラストが非常に印象的。
 そして、平穏の影にも残酷な破滅が忍び寄り……(この明暗の差別化は基本的な劇の機能ですが、井上敏樹はかなり意識の強いタイプかなと思います)翔一はアギトに近付いていく可奈を目撃、なんだかんだとスコーピオンとの待ち合わせに向かった涼の前で、踏み切りを待つ内に通り過ぎた電車の中に自らの現し身を見たスコーピオンは、舌を噛み切って自死を遂げる。
 「なんで……なんでこうなるんだ……どうして?!」
 悲劇に翻弄され続ける涼は土のエルに復讐の牙を向けるが、剣で喉を貫かれ、またも水落ち。スコーピオンの記憶と共に涼は水中へと沈んでいき……警察では北條さんが、人類全体の意志を代表、とか言い出していた。
 「アギトの存在は世界を混乱に陥れる。これは間違いのないところだ」
 「違うわ。アギトを恐れているのはあなた自身よ。あなたには無い力を持ったアギトを、あなた自身が恐れているのよ」
 「……いけませんか。私はごくまともな人間です。私がアギトを恐れるなら、ほとんどの人がアギトを恐れるに決まっている!」
 これがいわゆる、“主語が大きい”(笑)
 「いいえ! ……私は人間を信じている。アギトは人間の可能性そのものよ。アギトを否定するなら、人間に未来は無いわ」
 羨望、嫉妬、やがて恐怖……人間心理のネガ面を北條さんが、一方で人間の善性を小沢さんが掲げてぶつかる事で世界の厚みを増し、この局面で凡俗のルサンチマンを剥き出しに出来る北條さん、凄く便利(笑)
 ……まあ、便利すぎて、数話経つと立ち位置がいつの間にか変わっているような……? みたいな面はあるのですが、北條さんだとまあいいかと許せてしまう、不思議な存在です(笑) 憎まれ役にも正義の味方にも誰かのライバルにもなりきれなくて、つまるところ『アギト』は“北條透の物語”ではない、わけなのですが、その脇役性こそが、なんともえいない魅力なのかもしれません。
 「人間は、小沢澄子が言うほど賢くはない。アギトの存在は、たぶん人類にとっては早すぎるのです。我々は正しい……正しいのです」
 新生G3ユニットに加わりつつも、アンノウン保護に疑問を抱く尾室に対し、北條は自らにも言い聞かせるように繰り返し、この“弱さ”の中にこそ人間性があると見た時、北條透という存在は実に人間的であり、おそらく井上敏樹の好きなキャラでもあったのかな、と(この、北條透的なるものは、後の草加雅人に繋がる地下水脈になっているようにも思えます)。
 北條さんを通してアンチテーゼを盛りこみつつ、自分の中に目覚めた力に戸惑い、苦しむ可奈は部屋を飛び出していき、追いかけた翔一は、ビルの屋上に立つ可奈を発見。
 「…………もう、おしまいですね。私の夢も……なにもかも」
 「なに言ってるんですか。なんだってそんな事を」
 「津上さんも見たじゃないですか、私の体。……なんで? いったい何がどうなってるの?」
 「落ち着いて下さい! なんでもないですから。可奈さんは、可奈さんのままです。絶対」
 前回、涼がこぼした「普通に生きるのが俺の夢」と共鳴する形で、異形の変貌を遂げたものはただの人間としての夢を見てはいけないのか? が逆説的に織り込まれ、「ヒーロー性」と「人間性」の衝突の中で、どちらにも本質的な違いはないのだ、と己を掴み取った翔一は、可奈を救おうと手を伸ばす。
 「なんで……? 私が……あんな……あんな……」
 だが可奈は足を滑らせて屋上から転落し、ギリギリでその腕を掴む翔一。
 その頃、氷川くんは空港で小沢さんの見送りを受けて帰国の途につこうとしており……
 「忘れないわ。あなたの事。私にとって……あなたはいつまでも最高の“英雄”よ」
 「…………ありがとうございます」
 いいシーンなのですが、なんだこの蚊帳の外感(笑)
 氷川くんが出発ゲートへと消えていく一方、翔一くんは可奈を引き上げようと必死にその手を掴むが、可奈の心は、かつての沢木雪菜のように絶望に支配されていた。
 「……お願い……離して……」
 「何を言っているんだ、可奈さん」
 狙い澄ます形で、可奈の姿に重なる雪菜。
 (離して……お願い)
 (駄目だ。姉さんは、間違っていたんだ。アギトだからって、自分を追い込んで、自殺するなんて)
 (離して……)
 (姉さん、俺は、アギトになっても、楽しい事がいっぱいあった。アギトになったって、人は、人のままで、生きていけるんだ)
 (違うわ。人はいずれ、アギトを憎むようになる。アギトを恐れるようになる。アギトはきっと、人の手で滅ぼされる)
 (そんな……そんな事)
 氷川くんの言葉を思い出した翔一の心に揺らぎが生じ、今作が極力“名前を付けない”物語である事は何度か触れてきましたが、人間を襲う怪人ポジションが物語の中で名前を与えられず、形式上のラスボスさえ最後まで名無しである今作(青年がどんな存在であるのか、は仄めかされますが)、アンノウン=アギトを殺す者=名も無き大衆の悪意、に帰結するからこそ、そこに名前は無いという見立ても可能かもしれません。
 (みんなに、憎まれるのは嫌。だから――離して)
 繋いだ手が離れかけたその時、翔一を支え、伸ばされるもう一つの手。
 「あなたは」
 「離すな! おまえの手は……人を守る為の手だ! 離すな」
 名前を持たない遍在する悪意が誰かを世界から弾き出そうとしたその時、それに立ち向かえるものとはなにか、が象徴的に示され、かつて、一人では雪菜を支えきれなかった沢木哲也が、翔一と“二人で”手を伸ばす事で可奈を救うのは極めて劇的で、それは、翔一と可奈のみならず、沢木の魂も救う事に。
 ここで再び空港に場面は変わり、飛行機の離陸シーンを挟むのが巧妙な間を生み、氷川くんの帰郷が、思わぬ形で役に!
 「……以前……君と同じような境遇の女性が居た。彼女は死を選び…………俺は、彼女を救う事が、出来なかった。だが所詮人は……自分で自分を救わねばならない。君が君でいられるか、君でなくなるか……それを決めるのは、自分自身だ」
 決して珍しいフレーズでは無いですが、どこかで凄く知ってるぞ……と思ったら、


 「おまえは自分を裏切れるか? 正義を捨てられるか? 誰も背負って生まれた運命には、逆らえないんだ」
 「どう生きるかを決めるのは、自分自身だ!」
 「運命が全てだ!」
(『特捜ロボジャンパーソン』第15話「翼をすてた天使」)

 ……JPさんでした(笑)
 「ヒーロー」を描く事で鏡象としての「人間」を炙り出そうとする井上作品と、「正義とは何か?」を突き詰めていく内にヒーロー物の極北に辿り着いてしまった『ジャンパーソン』がここでシンクロしたのは興味深いポイントですが、時間がかかりそうなので、掘り下げは保留。
 「……可奈さん、俺、思うんです。可奈さんの料理を食べて、幸せになれる人が、きっといっぱい居るって。だから……また一緒に料理を作りましょう」
 「私……わからないです。どうすればいいのか。本当に」
 その時、可奈を狙って土のエルが現れ、可奈を沢木に託した翔一の「変身!」の声に可奈が振り返って足を止めた瞬間に足下の鳩が一斉に飛び立つのが、シンプルだけど効果的。
 「津上さん!」
 ここで流れるBGMが大変素晴らしく、翔一くんのヒーローとしての「変身」に、望まぬ運命に弄ばれながらも、それでも、「如何に生きていくのか」の意志が乗せられ、そしてそれが可奈に届くのが、実に痺れます。
 「可奈さん、生きて下さい。俺も生きます」
 「津上さん!」
 「――俺の為に。
 ――アギトの為に。
 ――人間の為に!」

 そして、最高に好きな台詞。
 以前、第25話の感想で、「やった……繋がった……!」が『アギト』で好きなシーンベスト3の一つと書きましたが、残り二つが「何度アギトに……いえ、あなたに助けてもらった事か」(第37話)と、ここです。
 記憶を失い空っぽの器ゆえに聖なるもの(アギト)の乗り物として、みんなの居場所を守るために戦ってきた翔一くんが、少しずつ自身を確立する中でやがて自分の守りたい居場所を世界に手に入れた末、アギトの為にも人間の為にも戦うが、それは何より、自分がそうやって生きていきたいからだ、と高らかに宣言する、見事な到達点でした。
 また、このシーンの劇的さを引き上げているのが前回の次回予告で、予告では「俺の為に」をカットし、「アギトの為に、人間の為に!」と、いってみればごく普通の部分だけを用いた上で、隠されていた「俺の為に」がクライマックスにおいて明らかになる事で破壊力を増すのが、会心の予告トリック。
 それは『アギト』という作品、津上翔一というヒーローが辿り着いた、猛々しい魂の咆哮となり、次回――最終回。
 …………あ、真魚ちゃんの出番がまた無かった。