東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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残暑の読書メモ

なかなか当たり

●『ディオゲネス変奏曲』(陳浩基)
 長編『世界を売った男』が面白かった、香港の作家の短編集。
 ミステリのみならずSFやホラーを含む一方で、割と「作者の好きなパターン」に偏りが見える内容。それも含めて、短編集としてのアベレージはそれほど高くありませんでしたが、ネット・ストーカーの顛末を描く「藍を見つめる藍」は、非常に良かったです。あと、大学の講義で行われる犯人捜しゲーム「見えないX」も面白かった。
 それがダークやシニカルな方向に出る場合も含めて、作品の根底にユーモアがあるのが、重い内容でも語り口の読みやすさに繋がっている感。

●『13・67』(〃)
 2013年――香港警察において輝かしい功績の数々を築き上げ、「名探偵」「天眼」と謳われた伝説的名刑事クワンは病気により死の床に就いていた。クワンの愛弟子である警部ローは、ある事件の真相を突き止める為に病床のクワンに協力を求め、5人の容疑者を前に、前代未聞の捜査が幕を開ける……。
 掴みの第1章がとにかく強烈なのですが、1967年~2013年まで、激動の香港史と一人の刑事の生涯を重ね合わせながら描かれる、連作中編型式の警察ミステリ。
 物語は衝撃的な2013年の事件から1967年へと順を追って時代を遡っていき、抜群の推理力と刑事として型破りな行動力を併せ持つクワンが出会った事件を通して、如何にしてクワンが伝説の刑事となったのかが紐解かれ、複数のプロットの交錯と収束や、奸智に長けた頭脳犯との対決などは、ジェフリー・ディーヴァー作品なども思わせるところ。
 第1章以外では第5章が良かったですが、最後に、全6章の物語に一本の芯が通って長編としての完成を見、面白かったです。

●『黒祠の島』(小野不由美
 「そう――ここは黒祠なのですよ」
 明治政府による国家神道の整備の際、社格制度による統合に与しなかった事で、迷信であり一種の“邪教”とされた古い信仰が残る、夜叉島。失踪した友人・葛木志保の足取りを追って島を訪れた式部剛だが、外部の人間を厭う島の人々は一様に口を閉ざし、その行方は杳として掴めない。島の権力者からの妨害、不自然に覆い隠される葛木の来島、廃屋に残された惨劇の痕跡……果たして島の抱える秘密とは。
 大変久しぶりに小野不由美を読んだのですが……いや面白かった!
 謎めいた神を祀る閉鎖的な村(島)、という如何にもな筋立てから、ミステリ、サスペンス、ホラー、の要素が巧みに組み合わさって、最後に“読者を揺らしてくる部分”が、非常に強烈。それを効果的に突きつける為に作者が意図的に用いているであろう“フィクションの詐術”とでもいったものがまた鮮やかで、改めて筆力を感じさせられる一作でした。
 ……面白くなってくるまで100ページ以上かかるのは、実に小野不由美ですが。
 なお小野不由美は『屍鬼』が大好きで、文庫全5巻で、面白くなってくるのが3巻目ぐらいからなのですけど、お薦めです。

●『海底密室』(三雲岳斗
 雑誌記者の鷲見崎遊は、深海4000メートルに存在する海底実験施設《バブル》を取材で訪れたが、そこでは二週間前、常駐スタッフの一人が不審死を遂げていた。それは既に「自殺」として処理されていたが、遊が《バブル》を訪れたその日の夜、新たな死者が発生する。果たしてそれは事故だったのか、それとも深海の密室に何者かの悪意が蠢いているのか?
 『M.G.H.-楽園の鏡像-』と同一の世界観で展開する(こちらの方が時代が前)、長編ミステリ。『M.G.H.』の舞台が宇宙ステーションだったのに対して、今作の舞台が深海であるのがニヤリとさせますが(作中でもアーサー・C・クラークの引用あり)、SFの興趣をそこかしこに漂わせつつ、語り手である「私」が、主人公の携帯するデバイスの中の人工知能である、というのが一つ面白いポイント。
 なかなか珍しい語り手と思われますが、人工知能としての体温がミステリの語り手として効果的でありつつ、主人公との関係性が良いアクセントになっており、魅力的なバディ関係でありました。人工知能テーマそのものは、前半に触れるも中盤以降はほとんど掘り下げが無いのですが、こちらは同技術が既に一般化した『M.G.H.』において主題の一つとなっており、両作品が姉妹作……というか、共鳴して循環するような構造。
 ミステリとしてはいわゆる「孤島」「雪山の山荘」ものが、大仕掛けの特殊状況下で眩惑しながら成る程というところに落ち着いて、面白かったです。また、キャラを魅力的に描きつつ、きちっと使い切ってくれたのが秀逸。

●『「伝説」はなぜ生まれたか』(小松和彦
●『異界と日本人』(〃)
●『酒呑童子の首』(〃)
 それから、民俗学系の書籍を3冊。小松和彦先生は好きで、気が乗るとあれこれ手を出しています。