『仮面ライダーアギト』感想・第37-38話
(※サブタイトルは存在しない為、筆者が勝手につけています。あしからずご了承下さい)
◆第37話「ひとりだけのアギトでいい」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:井上敏樹)
「アギトは俺一人でいい」
この年は『ガオレンジャー』のローテに入っていた渡辺監督がスポット参戦し、木野アギトが涼と真島を追い詰めていた頃、氷川くんと北條さんは、張り込み中になんだか仲良くなっていた(笑)
基本的に北條さん、自分の話を真面目に聞いてくれる人は好きそうですが、的外れで悪意的な推論を繰り返すただの道化に終わる事なく、アギトや超能力者に好意的ではない北條さんの視点が、G3ユニットよりもむしろ真実に肉薄していくのは、面白いポジション。
同時にそれは、好き嫌いと直観で生きている小沢さんが常に一番に正解に辿り着く事を避けてもいて、G3-X誕生編以降、“天才・小沢澄子にも(ゆえに)解決できない問題がある”としたのは、作品全体にとって良いバランスの取り方になりました。
飛び蹴りを食らってギルスは完敗し、涼は真島が回収したバイクで逃走。現場に駆け付け、変身を解除した木野さんと出会った氷川くんは……
「何度アギトに……いえ、あなたに助けてもらった事か」
豪快に、勘違いしていた(笑)
繰り返される錯綜を経て仮面の下の素顔が繋がりだし、かつてない強敵・水のエルを前に3人のライダーが共闘のきざしを見せ、いよいよ……というタイミングで、氷川くんが思い切りボタンを掛け間違える、凄く好きなシーンです(笑)
「あれほど高潔で、純粋な人間には、会った事がありません」
「ふーん……」
「……なにか?」
「胡散臭いわね。だいたい、純粋な人間なんて言葉の矛盾よ。人間は不純だからこそ、人間といえる。もし誰かが純粋に見えるなら、その人物は自分の影の部分を隠そうとしている可能性が高い」
コロッと転がされた氷川くんの木野評に対しては、久々に切れ味鋭い小沢節が炸裂し、バーニング誕生編で一つの節目を迎え、終盤に向けた各キャラの配置が定まった事で、しばらくスポットの外れていた小沢さんも北條さんのカウンターとしての輝きを取り戻し始めます。
「私が出会った人間の中でも、まずまず純粋と言えるのは……あなたと津上翔一、二人だけだわ」
「ちょっと待って下さい?! よりによって、僕とあの津上翔一が似てるっていうんですか?! 冗談じゃありません! 小沢さんは、人間観察が、偏ってるんじゃありませんか。小沢さんも木野さんに会えば、本当の純粋さというのものがわかる筈です」
「……あなた……最近、結構、逆らうわね」
そして氷川くんは徐々に巣立ちの気配を見せ始め、このところ絶好調だった涼は再び廃屋で悶絶する羽目に。真魚の助けを求めて美杉家を訪れた真島は翔一くんとも再会して涼を病院に運び込むのだが、その手術を依頼されたのは、事もあろうかスーパードクターK!
アギトの正体が人間である事を知った北條が再び捕獲作戦を立案した矢先、まさか木野こそが涼の命を狙っているとは知らない翔一は、イグアナアンノウンの反応にきゅぴーん。2体のイグアナに囲まれると、ベルトの光が赤青紫と変じてパンプアップし、バーニングは、擬音を付けるなら完全にふしゅるるるー!なのも、好きです(笑)
殴り飛ばしたイグアナを追って倉庫の外に出たアギトは太陽光線を浴びるとその場に佇み……おや!? アギトの様子が……!
キラキラし始めたアギトは、筋肉装甲がひび割れて剥がれ落ちると銀色のアーマーを纏った新たな姿に進化し、個人的に、《平成ライダー》史上でも結構な謎強化というか、バーニングで十二分に格好いいのに、二段階変身で強化を上乗せする必要があったのか……? とは改めて見ても思います。
これはバーニングが今作にしては珍しく物語の盛り上がりにきちっと合わせてきたのに対して、追加強化が実に今作らしいざっくり加減という印象の問題もあるとは思いますが……(笑)
二刀流を振るった銀色アギトがイグアナ1号を切り裂くと、2号は逃走。待機していた北條はバイクで走り去るアギトを追跡し、変身を解除したところで前後を取り囲むと、ヘルメットの下から出てきた顔は、津上翔一。
「アギトは俺だけでいい」
一方、手術台の無防備な涼に向けては木野のメスが煌めき、つづく。
◆第38話「誰がために変わるのか」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:井上敏樹)
「なぜだ……なぜ邪魔をする?! 雅人……!」
オペにかこつけて涼を葬り去ろうとする木野だが、弟のものであったその右手が激しく震え、騒ぎの中で目を覚ました涼は半裸逃走。
木野は氷川に涼の捜索を要請し、小沢はその態度に疑問を抱く。
「今までアギトは私たちに何も求めてこなかった」
ここは木野への疑念の補強なのですが、“通りすがりの超人”としてのヒーロー像を初期アギトに象徴させた上で、そこからの変化(人間への接近)を意識的に組み込んでいる今作の構造を考えると、かなり示唆的な台詞です。
アギトが一人ではないのでは、と小沢が一つの真実に辿り着いていた頃、木野の前には沢木が姿を見せる。
「かつて……アギトを葬った者。これから……アギトを救う者。神を…………裏切った者だ」
自分の世界の確固すぎる人同士が、今、激突!
「アギトの種は、人間という種の中に、遙か古代において既に蒔かれていたのだ。たった一つの、目的の為に」
「一つの目的……?」
「人間の可能性を否定するものと戦う為にだ!」
アギトの力を正しく使っていない、と沢木から糾弾された木野はイグアナアンノウンの気配に走り出すと、好勝負を演じていたG3-Xに裏拳を叩き込み、凄く、アギトらしいです。
「違う……あれはアギトではない」
だが、伊達に殴り合いコミュニケーションの世界を3クール生き延びてきたわけではなかった氷川くん、陽の当たるところでよく確認したらすぐに気付いて良かった(笑)
「我々としては、あなたがアギトになったきっかけを掴まなければなりません」/「なぜあなたがアギトに?! どうして! あなたはアギトになったんですか?!」
ここで、とぼけた調子で進んでいた北條-翔一サイドと、切迫した氷川-木野サイドが、「どうしてアギトになったのか」という点においてシンクロするのが、巧い構成。
「これだけは言っておきましょう。いずれ私は、あなたが知る……唯一人のアギトになる」
木野はバイクで走り去り、翔一は逆行催眠にかけられ……過去を辿り、あかつき号の記憶を追体験した末に、死の記憶により気絶。
北條はアギト捕獲を自慢したばかりに小沢を面会させないわけにはいかなくなり、遂に小沢はアギトである津上翔一と対面する。……二人揃って、氷川くんより先に。
「あなた……アギトなの?」
「はい。実は。へへへ……」
「……そう。良かった。あなたがアギトで」
ここの笑顔の芝居は非常に良くて、ふわふわしていたパーツが、ある時ふっと物語の歯車としてカチッと機能する(機能するまでの期間を様々な手管で誤魔化す事ができる)のは、井上敏樹の巧いところ。
「助けてくれるかしら、氷川くんを」
「ハイ。慣れてますから」
しぶとくしつこいイグアナアンノウンから真島を守る氷川より急報を受け、翔一を連れて部屋を飛び出す小沢に膝蹴りを叩き込まれる北條さん、だいぶ可哀想(笑)
翔一より先に現場に現れた木野アギトは真島と涼に狙いを定めるが、挿入歌に乗って小沢と翔一がパトカーで駆け付けるとアギト変身! は非常にヒロイックな変身シーンも合わせて大変盛り上がる展開で、つづく。
ある種のアンチヒーローである木野の登場から、様々なキャラクターの目線を通して「何をもってヒーローとするのか」が問われ、翔一くんにとっての“自分の居場所”とは「如何なる欲望なのか」というのは後の『オーズ』でより明瞭な言語化をされて掘り下げられるテーマ性といえるでしょうか。
次回――……おや!? ギルスの様子も……!