東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
旧ダイアリー保管用→ 〔ものかきの倉庫〕
特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)
HP→〔ものかきの荒野〕   Twitter→〔Twitter/gms02〕

誰かを救えるはずの力で

ウルトラマンコスモス』感想・第13-14話

◆第13話「時の娘(前編)」◆ (監督/特技監督:原田昌樹 脚本:太田愛
 2クール目に突入という事でか、新メカが追加&キャラ紹介的カットが変更されるOP映像のマイナーチェンジが行われ、本編の見所は、思春期なムサシ。
 手がちょっと触れただけでドギマギする割には、このチャンスに手とか握ってしまえるのでは……と機を窺うのが大変男子中高生なムサシですが、“ちょっと年上のさばさばした女性”が好みな事が判明し、シノブリーダーがあと10歳ぐらい若かったら、好みどんぴしゃだったのではないか。
 人類初の居住型宇宙ステーション・ジェルミナ3が完成し、もともとムサシは宇宙パイロットを目指していた事にさりげなく触れるのが、掴みから丁寧。
 ところが、その喜びを引き裂くかのように突如として、つるっとした黒塗りのボディに頭部から胸部にかけて格子状のアーマーをまとっているようにも見える巨大生命体が出現。謎の宇宙人に追われる女性を救う為に初手からコスモスを繰り出すムサシだが、コスモスの攻撃をひらりとかわした宇宙人は特に抗戦をせずに逃走してしまう。
 ムサシは助け起こした女性にいきなりの平手打ちを叩き込まれて何かに目覚めそうになるが、女性は自分の名前を含め、全ての記憶を失っていた……。
 女性はトレジャーベースに運び込まれて治療を受ける事になり、記憶を失った女とムサシとのやり取りで、「怪獣との共生」を目指して行動するとはどういう事か、を提示し直してくる目配りは、太田脚本らしい巧さ。
 記憶喪失の女の脳裏に強く刻み込まれた“時の娘”をキーワードにミステリアスに展開し、やがて女の正体は、4年前の事故で死亡した筈の、ジェルミナ3の建設クルー、レニ・クロサキと判明する。
 レニの前頭部には謎のバイオチップが埋め込まれており、彼女はそれによって一時的に生者のように行動しながら、フレーム宇宙人(シンプルながら異質さが明確な好デザイン)の仕掛けとして意図的にトレジャーベースに送り込まれていたのだった。
 「待って下さい! 彼女自身は何も知らないんです」
 「どういう事です?」
 「彼女は、体内のチップの存在を知りません。それどころか、自分が死んでしまった事さえ覚えてないんです」
 「チップを除去して、なんとか彼女を助ける事は出来ないんですか?!」
 「チップを外せば…………恐らく数分で、人間としての本来の状態に戻ってしまいます。レニは……生きてはいないんです」
 無自覚な死者の操り人形、という悲劇的な真相を告げる女医が好演で場の空気を引き締める一方、レニの描いたスケッチがジェルミナ3の外観を示す事にいち早く気付いたムサシ(こういったヒントの提示が、「思い浮かんだ事を積極的にメモしておくように」という記憶を取り戻す為のアドバイスから自然に生まれているのが巧妙)は、ある大学を訪れて、レニ・クロサキが死亡した4年前の事故の詳細を確認していた。
 「ステーションの建設は、命の危険が伴う作業だとはわかっていました。それでもレニは、自分の手で、宇宙に、“時の娘”を作りたいと」
 「“時の娘”?」
 それは、当時の建設クルーによるステーションの通称(なお、アンモナイトやオウムガイを思わせる外観)でありレニの夢、そして、宇宙空間に投げ出され死を迎えるレニの瞳が、最後に映していたもの――。
 トレジャーベースでは、レニに真実を告げる事も、二度目の死を与える事も出来ぬままコールドスリープが決定され、ムサシの持ってきた花が、殺風景な病室のアクセントして随所で効果を発揮。
 「……まるであんたが治療受けるような顔してる。大丈夫だよすぐ思い出すから。自分が誰で、何してたか」
 フブキから決定の通告を受けたムサシは、医療ベースに移動したレニの前にギリギリで駆け付け、記憶に関する治療を受ける、と伝えられているレニは、“時の娘”の記されたスケッチブックをムサシに渡す。
 「この言葉の意味がわかったら、一番最初にあんたに教える。じゃ」
 ムサシは既にそれを知っていて、それを思い出した時に全てが終わってしまう事も知っている切ないすれ違いが、絶妙なやり取り。
 一度は処置室へと向かうレニを見送ったムサシだが、それに耐える事が出来ずに、レニの身柄をさらって逃走。
 「……あの馬鹿が!」
 「待って下さい! 時間を下さい。少しでいいんです! フブキ!」
 レニに同行していたフブキは歯噛みし、同じく現場に居たドイガキは、警備に連絡を回そうとする右田医師(右田昌万監督がゲスト出演)を押しとどめ、逃走するムサシとレニ → 車へ乗り込む二人 → 機体の発進準備を行うフブキ、と動きを付けながらのやり取りが、緩から急へとダイナミックなスピード感を場面に与えていて、巧い。
 「聞こえてる。必ず……あいつは必ず俺が連れ戻す」
 「ムサシはあのままレニに、生きている意味を見せておいてやりたいんだ!」
 「わかってんだよ、そんな事は」
 先のコールドスリープの決定にしても、キャップが伝えても良さそうな内容を、嫌な役を引き受けたといった形でフブキが敢えてムサシに伝えており、ムサシの心情を慮るからこそ騙し討ちのような事を避けようとする、仲間に対するフブキの誠実さが見えて太田さんの目配りを感じます。
 裏を返せば、ここまでのフブキとほぼ別人になってしまっている面はあるのですが、むしろフブキに関しては、立ち位置を考えればこれぐらいの配慮をしなければいけないキャラであって、ここまでの扱いが雑すぎたよな、と。
 緊急発進するフブキだが、タイミング悪く、地底から蛇顔で大耳の怪獣ガルバスが出現。
 これに気付いたムサシは、レニを車に残して怪獣の迫る市街地へと向かうが、その間にレニは、ムサシが教授から受け取った、かつての自分の写真を目にしてしまう。
 「私は、あの事故で……」
 その頃、レニを送り込んだ宇宙人の仕込みにより、トレジャーベースのコンピューターに異常が発生。出撃したテックサンダー各機も制御不能に陥り、街に怪獣が迫る中、ムサシが変身したコスモスは墜落寸前のリーダー機をキャッチすると、そっと地面に降ろ……さず投げたーーーーー!!
 ……いや、まあ、多分、きっと、足下に降ろすと怪獣との戦いに巻き込まれる事を懸念したのかとは思われますが、だいぶ生死のジェットエクストリームだったリーダーは前回、似たような状況でなんとか不時着に成功した同僚が意識不明で医務室に担ぎ込まれる原因を作った怪獣が立ち上がろうとする姿に声援を送っておりました。
 リーダー機を救ったコスモスだが、過去のデータと違って激しく凶暴なガルバスの火球を受けて思い切り吹き飛ばされ、ど派手に吹き飛んでいく発電所
 「街が……」
 その光景に愕然と呟く地上のドイガキは前回、ボディプレスで工場を無惨に破壊した怪獣が立ち上がろうとする姿に声援を送っており、やはり前回は、揃ってちょっと正気を失っていたと思われるのですが。
 倒れたコスモスの頭上には謎の宇宙球体が浮かび……かつてない危機の中で、つづく。
 前後編という事で尺の余裕もあったのでしょうが、キャラクターの掘り下げや目配りに長けた太田脚本と原田演出、双方の長所が活きて、今回は面白かったです。ここまで扱いの微妙だったリーダーとフブキの出番を増やしてムサシと絡めつつ(キャップとアヤノは削る形になりましたが)、レニや女医など、ゲストやサブキャラもそれぞれがしっかりと活かされた上で、ぬかりなくムサシが中心となって物語を動かし、太田さんの巧さが光りました。
 原田監督もここまで、あれこれと工夫を凝らすもいまいちピタッと来ない感じがあったのですが、ようやく、脚本と噛み合った感。
 個人的には、今回ぐらいの空気というかテンションが、あれこれ受け止めやすいのですが……次回――フレーム宇宙人の真の狙いとは何か、果たしてレニの運命は。

◆第14話「時の娘(後編)」◆ (監督/特技監督:原田昌樹 脚本:太田愛
 防衛軍の戦車部隊が出撃し、ガルバスを砲撃。その光景を見ながら力尽きたコスモスは、現場で倒れていたムサシとしてリーダーに回収され、病室で寝ている間に、事態の主導権は防衛軍に。
 「だいたい、こんな事ぐらいで怪獣の保護を諦めるなんて馬鹿げてます。電気や水道が少し止まっただけで……」
 え。
 「ライフラインが止まれば、最も被害を受けるのは、病人や乳幼児、老人なのよ」
 ……あ、ちゃんと叩いた(心底からホッ)。
 まあ、太田脚本回なので大丈夫だろうとは思いましたが、若き隊員の浅はかさを示し横っ面をはたかれるの前提(ゆえに多少の誇張を含んでいる)としても、そんな考え方の奴に銃を持たせてはいけない、という点では「馬鹿げてます」はギリギリアウトだったと思いますし、これが信頼度の高い原田×太田の座組でなかったら、私の中で『コスモス』が4クールほど早く最終回を迎えかねないところでした。
 「怪獣の捕獲・保護は、一歩間違えれば、大惨事を招く恐れがあるの。私たちアイズの活動は、失敗が許されないのよ」
 2話前と3話前の自分たちにも教えてあげてほしいですね!
 失意のムサシは、レニが防衛軍の特務部隊(リーダー格が、妙に『ガイア』の瀬沼さんに似ている)に追われている事を知るとトレジャーベースを抜け出し、写真をきっかけに記憶を取り戻していたレニと再会。
 「……僕の考えていた事は、夢物語だったのかもしれない。怪獣を保護しようなんて」
 「100年前には、宇宙ステーションの建設も、誰もが夢物語だと思ってたよ」
 第3話で理想と現実の衝突を描いた後、チームアイズ全体が勢いあまって、“理想の為に現実を軽視する”方向に舵を切り気味だったのですが、ここで、現在と未来の要素が加わって軌道修正。
 「実現するまではいつも、夢物語だったんだよ。それでも、多くの名も無い者たちが、夢物語に憧れ、命を落とし、夢を継いできた。……私たち建設クルーが、ジェルミナ3の事を、“時の娘”と呼んだのは、自分たちが、夢を継ぐ者の一人だっていう、誇りがあったからだよ。ムサシ……あんたもそうじゃなかったの?」
 たとえ今は成し遂げられなくても、夢を忘れず、繋ぎ伝えていけば、それはいつかの現実になるかもしれない。
 「人間が、地球で生まれた怪獣と、可能な限り一緒に生きていこうとする。そんな話、今は夢物語かもしれない。けどあんたは、それがいつか実現すると信じてきたんじゃなかったの?」
 レニは、自分が“死者”だからこそ、夢を継げる“生者”であるムサシに懇々と語りかけ、じっと考え込むムサシ……。
 一方、脱走したムサシを探すリーダーは、宇宙生命体(過去に登場した事にするなど、劇中の怪獣への名付けにこだわる作風を貫き、ひたすら名無し)の真の目的は、人類の怪獣に対する忌避感を煽る事かもしれない、と推論。
 「人間が、快適な暮らしだけを求めて、他の地球生物全てを排除しようとすれば、人間は、きっと自滅する」
 ・アイズの目的である「怪獣保護」に対する未来志向の組み込みと現在地の確認
 ・「可能な限り」といった文言による地雷の回避
 ・『コスモス』世界の一般大衆の視点
 といった今作に不足していた要素を抑えつつ、現実へフィードバック可能な普遍的なテーゼと、それを踏まえて、ではアイズ及びその活動は何の為にあるのか、の再確認までを盛り込んで、前後編とはいえ、太田さんが、メインライターみたいな仕事ぶり。
 2クール目の頭の前後編という事で、ひとまとめをしながらムサシに壁を乗り越えさせたい、といったオーダーがあったのかもですが、太田さんが“書ける人”な為に、ムサシを壁にぶつけるどころか、現状『コスモス』の問題点をえぐり出して突きつけるところまで刃先が到達してしまう事に。
 結果として、(タイミング的には恐らく半ば事故で)第11-12話の北浦監督回とはだいぶ毛色の違う内容になったわけですが、個人的には今回の前後編のような味付けの方が断然好きです。
 一度は地中で眠りについていたガルバスが再び目覚めると、エネルギープラントへ向けて行動を開始。プラント駆動に伴う超音波がガルバスを引きつける事を知ったムサシは、停止技術を持ったレニと共にプラントへ向かうが、その入り口は当然のように閉じられており、そこに追いついたリーダーが、レニへと銃口を向ける。
 「あなたが悪くないのはわかってる。でも、行かせるわけにはいかない」
 「私があなたでも、きっと同じ事をする。だから、あなたが私でも、きっと同じ事をする筈です」
 二人の女の強い眼差しがぶつかり合い、後から駆け付けた特務部隊の姿を目にしたリーダーは、咄嗟にロックを物理で破壊するとムサシ達を奥へと進ませ、その銃を特務部隊へと向ける。
 「なんのつもりだ!?」
 「――気が変わったのよ」
 特務部隊を睨み付けながら至近距離で互いに銃を向け、ここで、出撃ワンダバテーマが流れ出すのが、ズルい!!(笑)
 音楽そのまま、プラントを停止させようとするレニ&ムサシ、ガルバスの進撃を食い止めようとする戦車部隊の姿が描かれ(防衛軍は防衛軍で街を守る為に命を賭けているわけで、尊重されねばならないと思うわけです)、なんとかタービン停止。元来は大人しい性格のガルバスは正気を取り戻すが、戦車隊と宇宙球体に前後を挟まれてしまう。
 「行って。ガルバスを救うには、あの宇宙生命体を倒すしかない」
 「僕には、出来ない……」
 「あいつを倒して、私を眠らせて。……ウルトラマン……コスモス」
 消耗し、地面に座り込むレニは、窓枠宇宙人を倒せばレニが死ぬ事を知り立ち尽くすムサシを促す。
 「あんたは優しいから、あたしが生きていれば、きっとあいつを倒すのを躊躇う。初めて会った時から、あんたを知ってるような気がしてた。……でもそれは、あいつがあたしに植え付けておいた、偽の記憶だったんだ」
 トレジャーベースの妨害作戦の成功後も、窓枠宇宙人がレニを自由にさせていた理由はコスモスの行動を封じる為であった、と前回からの伏線が鮮やかに回収されると共に、宇宙人の奸智と外道さが際立ちますが、コスモスさんも、地球人偽装セットが安物なんですか?!
 「あいつが仕掛けた、罠だったんだ。だけど……それでも私は、あんたに会えて嬉しかった。あんたの手で……私を人間に戻して。……あの空に、“時の娘”を作ろうとしてた、レニに戻して」
 仮初めの生に、それでも喜びはあった、と告げるレニの言葉に覚悟を決めたムサシは、無言のまま変身。宇宙球体を光線で攻撃すると、姿を見せたフレーム宇宙人に、悪逆無道の宇宙生命体許すまじ、とコロナモードを発動し、切ないピアノのメロディをバックに両者は対峙(ここは思い切り盛り上げるBGMでも良かった気はしますが、これはこれ、でもあり悩ましいところ)。
 フレーム宇宙人の透明化能力に苦しむコスモスだが、レニの視線がその能力を破り、姿をさらけ出す。
 「許さない」
 動揺する宇宙人に猛攻を浴びせ、レニと視線をかわしたコスモスは、必殺光線を放ち、フレーム宇宙人は爆散。コスモスは残心を決め、レニは宇宙を見上げ、その瞼の裏に浮かぶのは――“時の娘”。
 「レニ……僕は夢を継いでいく。人間と、怪獣と――この星を守る夢だ」
 ムサシはレニが最後に居た場所で写真に誓い、壁を乗り越えたムサシが再スタートを切ると共に、ここ数話うっちゃられ加減だった、アイズも、ムサシも、どうあがこうとまず人間社会に属している点を自覚させてくれたのが、最後まで抜けがなく、お見事。
 ……まあ、外道な宇宙生命体だったら木っ葉微塵に爆殺してもいいのか問題は少々わだかまりが残りますが、フレーム宇宙人(暗黒の中で手を伸ばすイメージ映像や遠回しな作戦になんとなくメフィラス星人を重ねて見ていましたが、クライマックスバトルを見ると、バルタンへの意識もあったのでしょうか。デザイン的には両手にメトロン入っているので、意識的な詰め合わせかもですが)の悪質さをこれでもかと積み重ねる事で誤魔化しつつ、コスモスさんの倫理的感的にどうなのかは、ちょっと気になるところです。
 ウルトラ族的には平常運行どころか、ちょっとあいつの母星を潰してくる、レベルでしょうが。