東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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ここ一ヶ月ほどの読書メモ

ミステリ三昧

●『ミステリーズ』(山口雅也
 短編集。少々実験的というか、あまりストレートではない内容のものが多く、相性合わず。

●『日本殺人事件』(〃)
 日本人の義母の影響で、憧れていた日本の地を訪れた私立探偵トーキョー・サムは、日本人の文化や精神に深く関わる三つの奇妙な事件に巻き込まれる……作者が古本屋で見つけた、ある米国人作家の書いた小説の翻訳、という体裁で、一種の勘違い日本を訪れたアメリカ人探偵の活躍を描く短編集。
 主人公の苗字「トーキョー」(義母の旧姓)が、“日本ではポピュラーな苗字”というところから振るっているのですが、帯刀する侍階級が存続していたり(ただし権力を持っているわけではなく精神的な意味合いが強い)、茶道が高度にファストフード化していたり、万能挨拶である「どーも」を取得していると胸を張る主人公が「日本人の言う縁の概念はまだ理解できていないが……」と韜晦してみせたり、とにかくパラレル日本の描写が物凄く洒落ていて面白かったです。
 今となっては特に目新しさはない世界観ではありましょうが、現実をベースに少しずつどこか様子の違う世界の表現、情報の調節の仕方などが、冴える一作でした。

●『キッド・ピストルズの冒涜』(〃)
 探偵士、と呼ばれる名探偵が警察よりも大きな力を持つパラレル英国のロンドンを舞台に、スコットランド・ヤードのパンク刑事キッド・ピストルズが、マザー・グースの童謡を彷彿とさせる奇怪な事件の謎に挑む短編集。
 こちらも現実とは少しズレのあるパラレル世界を舞台にしており、探偵士そのものが古今の名探偵のパロディであるなど、「ミステリ小説的な事件の起きる世界観」そのものを俯瞰で捉える、一種のメタフィクション的な手法が採られた上で、「マザー・グースミステリ」の縛りをかけた上でロジカルなパズラーが展開するという趣向。
 奇怪な状況にこだわった事件もさることながら、こちらもパラレル世界の描写が非常に達者であり、究極的には、この奇妙な世界で次に何が起きるかだけでワクワクする……という、ミステリ以上にといえば語弊がありますが、良く出来た異世界ファンタジーとして面白かったです。

●『開かせていただき光栄です』(皆川博子
 18世紀ロンドン――解剖学に強い偏見のあった時代、官憲の目をくぐり抜けながら精力的に解剖に励むダニエルと5人の弟子たちだが、妊婦の屍体を解剖中に警察に踏み込まれ、慌ててそれを隠し戸の中にしまいこんだと思ったら、今度はそこから四肢の切断された見知らぬ屍体が現れて……?!
 5人の弟子たちの軽妙なやり取りが面白い一方、事件や背景は少々陰惨で、サスペンス色の強いミステリ。合わない部分もありましたが、なかなか面白かったです。

●『大きな棺の小さな鍵』
 アンソロジー
 収録作品の中で面白かったのは、「黄昏時に鬼たちは」(山口雅也)、「覆面」(伯方雪日)、「二つの鍵」(三雲岳斗)。

●『天城一の密室犯罪学教程』(天城一
 戦後間もない1947年、江戸川乱歩の推挙により雑誌『宝石』誌上でデビューを飾り、様々なアンソロジーに作品が収録されながらも、数学者としての本業もあって単著の無かった“幻の探偵作家”の短編集。
 数々の短編と、私家版で出された密室評論「密室犯罪学教程」をセットにした理論と実践テキストからなる作品集で、以前、なにかの本で紹介されて興味を持っていた「高天原の殺人」をようやく読む事が出来て、満足。
 時代が古い事に加えて、限られた紙幅や、作者自身の意図から、非常に切り詰められた内容に独特の文体で一部わかりにくいところもありましたが、逆に、ほとんどの装飾を剥ぎ取って限りなく冗長性を削いでいる為に、1940~50年代に書かれた小説の文章としては、読みやすい面もあり。
 作品の背景に時代の事情が色濃く出ており、作者の思想哲学が複雑に織り込まれていたり(作者は、それを織り込んでこその小説である、と考えている)、戦前に東北帝国大学を卒業した数学者、という経歴の持ち主だけに、評論や解説に当たり前のようにマルクス主義とかハイデッガーとか出てきたりと難解な部分も多いですが、読めて良かったです。

●『誰もわたしを倒せない』(伯方雪日)
 後楽園ホールのゴミ捨て場で発見された身元不明の死体は、売り出し中の若手覆面レスラー?! 顔のない死者、ならぬ、顔のない生者、の身許を追う刑事たちがプロレス/格闘技界の虚実を目の当たりにする第1話「覆面」を始めとした、格闘ミステリ連作短編集。
 上述のアンソロジーに収録されていた「覆面」が面白かったので、その後に続くエピソードの収録された今作に手を出したのですが、通して読み終えた時に、それぞれの短編の密接な関係性が見えてくる、連作短編としての構成が非常に巧み。
 エピローグまで到達して、物語を貫く情念が明らかになった時、それが非常に丁寧に各エピソードの中に織り込まれていた事が浮かび上がり、かなり面白かったです。
 なお、プロレス/格闘技界を舞台にしている事による独特の前提が幾つか出てきますが、事件に関わる刑事が格闘技マニアで作中で随時説明してくれるので、特に知識が無くても大丈夫かなと。個人的には、ちょうど去年『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(増田俊也)を読んでいたので、「ブック」「アングル」「総合格闘技とプロレス」といった辺りの予備知識があった分は読みやすかったです。

●『M.G.H.-楽園の鏡像-』(三雲岳斗
 日本初の多目的宇宙ステーション・白鳳を新婚旅行で訪れた材料工学の研究者・鷲見崎凌は、無重力空間を漂う、まるで墜落したかのような不可解な死体を目撃する。果たしてそれは、事故なのか、事件なのか。壁一枚向こうは真空の世界に現れた奇妙な死体の謎を追うSFミステリ。
 宇宙ステーションを舞台にした特殊条件下の謎解きに、主人公の抱えるトラウマ、サイバースペースの発展に関わる人間の意識の問題を絡めて展開し、ステーション内部の情景などはいまいち脳内に映像化しにくかったものの、事件の真相は綺麗に映像として頭に入ってきたので、そこはいい作品でした。あと、犯人の○○が謎解きの鍵の一つになっていたのは、演出効果やそのもたらす意味が多重になっていて、鮮やか。

●『京都東山美術館と夜のアート』(高井忍)
 新人警備員を主人公に、市立美術館で起こる幾つかの事件を描く、短編集。
 著者の『柳生十兵衛秘剣考』は、ミステリ×剣豪小説として大変出来が良かったので期待していたのですが、今作や『本能寺遊戯』など、小説の形式に近年の研究成果を取り込んで上書きされた常識を語りつつ歴史の謎に迫るタイプの作品は、どうも蘊蓄と物語のバランスが悪い印象。
 率直に、1ページ近い劇中人物の台詞によって「これこれこうで、こう」と語られるなら、その筋の本を読んだ方が頭に入ってきますし、取っかかり、というには、場所によってはそんなやり取りが数ページにわたって続くので決して読みやすくもなく、興味を引く為の主題の持ち出し方も含めて、小説に仕立てている事の面白さを、あまり感じられない作品でした。

 今回の出物は、『誰もわたしを倒せない』(伯方雪日)。あと、『キッド・ピストルズ』は後続のシリーズ作品も読みたい。
 2ヶ月ほど読書スイッチがONになり、ここしばらくは、もっぱらミステリばかり読んでいたのですが、そろそろ“特定ジャンルを集中して読んでいる内に、段々と自分が何を読みたいのかわからなくなってくる症状”が出始めたので、読書スイッチが切れそう感。