東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
旧ダイアリー保管用→ 〔ものかきの倉庫〕
特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)
HP→〔ものかきの荒野〕   Twitter→〔Twitter/gms02〕

愛と勇気は言葉 感じられれば力

仮面ライダー鎧武』感想・第43-44話

◆第43話「バロン究極の変身!」◆ (監督:諸田敏 脚本:虚淵玄
 「というか、なんで私の言葉を鵜呑みにしちゃうかな」
 まったくですね……。
 極鎧武vsザクロ龍玄の死闘の果て、鎧武は必殺攻撃を敢えてその身に受けながら龍玄のロックシードを外部から強制解除し、自らが致命の一撃を受けながらも、ミッチを許す事を選ぶ。
 「だって、俺たち……こないだまで…………仲間だったじゃないか……」
 一面に広がった純白の羽毛の中に紘汰が倒れ込み、白と黒のコントラストを効かせて二人の決着が美しく描かれて、世界の運命を変える事よりも目の前のミッチを救おうとするのは良くも悪くも紘汰らしくはあるのですが、でも実はこの場合、紘汰にとっては楽な方を選んでいる――裕也殺しの再来を避けている――ので、美しく描かれてしまうのはどうも違和感。
 ――「かつておまえは、友人の命を犠牲にして希望を掴み取った。その行いを否定するのなら絶望するがいい。あの時守り、救った命と――生き延びた自分にな」
 と告げられ、
 ――「俺は諦めない! 犠牲が必要だっていうなら、それを求めた世界と戦う!」
 と立ち上がった紘汰にとって「自らの命を投げ出す」行為は、絶望への直結であると同時に、生き残った者に同じ苦しみを味合わせる事である以上、してはいけない選択であったと思うわけなのですが、演出で誤魔化して強行突破を計ろうとした感があっていただけません。
 紘汰の行動に衝撃を受けながらも、自分を許せないままのミッチは病院に戻るが、そこでは心臓と同化していた黄金の果実を摘出された舞が、絶命していた。
 「それにしても君はホントに子供だなー。大人の手口というものを全くわかってない」
 プロフェッサーは錯乱するミッチにげしげしと蹴りを入れ、今作序盤から繰り返されてきた“大人”と“子供”の対立要素が再浮上するのですが、プロフェッサーってどちらかというと“稚気の人”なので、“悪い大人”代表の顔されるのは、やはり違和感。
 これは、悪の側に魅力が無いとそれを打ち倒すヒーローが輝かないのと同じ理屈ですが、総じて「騙される側」のガードが甘すぎるので「騙す側」に凄みが見えず(結果として外道ぶりの方だけが印象に残る)、冒頭に掲げたプロフェッサーの言葉が『鎧武』全体を象徴してしまっているといえます。
 また、個人の見えている範囲の世界が、更にその外側の世界と接触・衝突して次々と広がっていく(それがミクロとマクロで呼応している)構造が今作の持ち味なのに、“ずる賢い大人たちと浅はかな子供たち”に関しては序盤の錠前ディーラーの頃より不動で、これが今作最大の寓意であったとされるのはどうも美しくないものを感じます。
 紘汰に続いて舞が落命する衝撃の展開ながら、既に果実の力を受け入れていた舞は白い服の女へと変貌。神にも等しい力を用い、運命の選択をやり直させる為に時間を遡る事で課金注意報の女と繋がり、発言が思わせぶりだったのは時間の強制力の為だったと判明。
 個人的には、果実の力を手に入れたら即座に目の前にぶら下がっているDJのにやけた顔に全力パンチを叩き込んでほしかったのですが、劇中の誰一人として、(当たるか当たらないかは別にして)目の前のDJに殴りかかろうとさえしないのは、作品における不可侵の存在としてメタ的なバリアで守られているようで、DJの嫌なところの一つです。
 舞の消息を知って隠れ家に突入した戒斗と耀子は、プロフェッサーの外道働きにケジメをつけさせようとするも、ゲネシスドライバーを使用不能にされてしまう。
 「湊くんなら気付いてでも良かったろうに。いかにも私のやりそうな事だろ」
 ……まあ耀子さん、実力者ムーヴでふんぞり返っていたけど、気がつけば割とそうでもなかったポジションに落ち着きましたからね……。
 「ならば――」
 とすかさず戦極ドライバーを取り出すのは、BGMもあいまって格好良く、滅茶苦茶馬鹿にしたプロフェッサーの反応も秀逸(笑)
 「あ……はん、確かに古い戦極ドライバーにはブレイカーを仕込んでないよ。そもそも必要ないからね」
 余裕綽々のプロフェッサーがデュークに変身すると、ドライバーの性能差は如何ともしがたく、ノーマルバロンは完封負け。
 変身の解けた戒斗は、このまま己自身の弱さに屈し座して死を待つよりはとヘルヘイム果実に手を伸ばすと食らいつき、インベス――いや、その力を飲み込んだオーバーバロンへと変貌する。
 「これが、ヘルヘイムの力……世界を蝕み、染め上げる力。……はははは、ははははは! ははははは!」
 戒斗は、赤金黒のボディに頭部から二本角を生やし、原典通りにまさに悪魔そのものといった異形の存在と化し、全身に走る黒いラインがステンドグラスを思わせる事で、神秘的な雰囲気を増している(『キバ』のファンガイアも彷彿とさせます)のが格好いい。
 「意識を、保ってる……馬鹿な。……化け物めぇ!! 許さん……許さんぞ! 私のドライバーに頼らずに、人間を越えるなど!」
 「成る程。それが貴様のこだわりか。――案外つまらんプライドだな」
 デューク怒りの一撃を軽々と受け止めたオーバーバロンは、赤ロードを思わせる霧状の姿になってデュークを一方的に痛め付けると、最後は変身の解けた戦極凌馬に凄まじい威力の拳を叩きつけ、壁にめりこむプロフェッサー。
 「貴様の真理など、机上の空論。俺の真理は! ――この拳の中にある」
 ……ん、うーん……まあ戒斗さん、基本的にアウトプットに問題のある人なのですが……なまじ前段で“ズルくて悪い大人”の象徴に位置づけたプロフェッサーを、正面から打ち砕くパワーをそのまま肯定してしまうと、結局は社会の上下構造に対する暴力革命に行き着くわけで、デリケートな背景設定を持つ戒斗だからこそ、暴力で世界をひっくり返す立場に辿り着くのは避けた方が良かったのではないか、と。
 もはやヒーローフィクションである事がフィルターとして機能していないのですが、最終決戦において“紘汰の敵”とする為に、戒斗から意識的にヒーロー性を取り上げた部分はあるかもしれません。
 「そんな姿に成り果てて、長く保つまい……いずれ貴様は破滅する! それが貴様の……うん、めい……」
 さすがに、直接殴り殺すのは避けたかったのか(実際には致命傷を与えているとは思われますが……)、よろめくプロフェッサーはビルの屋上から転落死。
 「……果たしてどうかな。俺は誰にも屈しない! 俺を滅ぼす運命にさえも!」

◆第44話「二人の目指す未来は」◆ (監督:金田治 脚本:虚淵玄鋼屋ジン
 第1話冒頭の戦いは、運命を変えようと時間を遡った結果、時の因果の中で迷子になってしまった舞が迷い込んでしまった可能性未来の一つとされ、舞が元の世界に戻って黄金の果実を与えるには、誰が黄金の果実を手に入れる事が確定しなくてはならない、とある種のパラドックスが発生。
 舞の任意選択制になった時点で戒斗に勝ちの目がないのでは……というのがあるので、ややこしい事をして舞不在の状況を作ったのでしょうが、「時間移動したら並行世界から戻ってこれなくなりました」自体が、説得力の薄い新ルールなので、もう一つ綺麗に繋がりません。
 またそれを、運命を覆そうと懸命に藻掻く舞の物語とその果ての絶望として劇的に描くのではなく、運命の外側で時間流を優雅に泳ぐDJに「説明」させてしまうのでひたすら盛り上がりに欠け、床に空いた大穴の更に下を掘り進んでいくDJが、このまま物語の外側に居る存在を貫いてしまいそうで、物語的不可侵の存在の擬人化などするものではないな、とつくづく。
 「おまえが前に言ってくれたじゃないか。一人で苦しまなくていいって。あの言葉があったから俺は……今まで頑張れたんだ。だから今度は俺が同じこと言ってやる。一人で苦しむな。俺が舞と一緒に戦ってやる」
 瀕死の状態から急速に回復中の紘汰は夢の中で白舞と出会い、一見、紘汰と舞の関係性がくるっと収まる作りなのですが……そもそも舞、女紘汰というか、紘汰の言行を肯定し続ける紘汰フォロワーの役割を課している内に実質的に“もう一人の紘汰”と化してしまっているので、つまり、自分で自分に言っているに等しい状況であり、紘汰がそれを言うべきは、ミッチや戒斗だったのではないか、と思うところです。
 毎度お馴染み「紘汰はいつもそうだった」が入り、戒斗について警告を残した舞の姿が消えていた頃、自らの求めるものを手に入れる為に世界を滅ぼす決意と力を抱えた戒斗は、ザック・ピエール・城乃内と接触
 「俺は新たな力を手に入れた。この力を使って、古い世界を破壊する」
 ここでピエールが、戒斗の雰囲気の変化を感じ取って警戒態勢を取るのは傭兵設定が格好良く活かされ、戒斗はロックシード無しでクラックを開くとインベスを召喚。
 「俺は黄金の果実を手に入れ、世界を造り替える。誰にも邪魔はさせない」
 前回拾っておいたプロフェッサーのドライバーで耀子がマリカに変身すると、パティシエ師弟はダブル変身。そして戒斗は、悩めるザックの前でオーバーバロンへと変貌する。
 「戒斗! 本気なのか! 本当に世界を滅ぼすつもりなのか?!」
 「だったらおまえは、どうする?」
 「え?」
 「前にも言った筈だ。未来は己の手で勝ち取ってみろと。おまえが求める未来はなんだ?」
 「俺は……」
 劣勢のドリアンとドングリに視線を動かしたザックは無言で変身するとその助勢……ではなく、ドングリを殴り飛ばす事を選択。
 「決めたぜ戒斗! 俺はおまえに、ついていく!」
 戒斗の“友”として、ザックにはこの後に来るであろう如何にもおいしい役回りが割り振られ、ナックルの打ち上げからピーチアローを受けたグリドンはドライバーとロックシードを破壊されて敗北。ブラーボもオーバーバロンに一刀両断されてドライバーを失い……こうなってみるとこの二人には(今はそういう状況ではないですが)戦い以外の明確な居場所があって、紆余曲折の末に、収まりどころを手に入れて城乃内は良かったなと。
 それはそれとして、戒斗はどうやって黄金の果実を手に入れるつもりなのか、トロフィーはあってもゴールが見えないので見ていて予測のしようがないのですが、やおら大量のインベスを召喚。
 「俺たちはインベス軍団を作り、沢芽市の外へ打って出る」
 こ、これから国盗り開始するの?!(笑)
 ゴールの位置が行方不明のまま、時間軸から外れた舞をこの世界に引き戻す為、誰が黄金の果実を手に入れるかを確定してみせると紘汰に告げる戒斗ですが、森のルールそのものであるはいえ、それさえもDJの説明ままであり、DJ周りがとことん、物語の底を抜き続けます。
 「俺はこの世界を破壊し、舞と黄金の果実を手に入れる! 決着をつけよう、葛葉紘汰」
 戒斗は敢えて旧型ドライバーでノーマルバロンに変身し、紘汰も鎧武に変身。勝ち鬨となった鎧武は「やめてくれ戒斗!」と叫びながらいつものように火縄銃を土手っ腹に叩き込むが、変身解除して地面に倒れた戒斗は、ニヤリと笑うとオーバー化。
 「どうした葛葉! 貴様も黄金の果実を求めるなら全力で来い」
 「なんでなんだよ、戒斗! 俺はおまえが世界を救ってくれるってんなら、黄金の果実を譲っても構わないと思ってたのに!」
 またも「譲ってやる」発言の飛び出す紘汰さん、4クール目に入っても「一方的に信じる」ばかりで「向き合って互いの落としどころを探る」事と無縁だったのは、ある意味、驚嘆。
 「くだらん! どうして世界を救う義理などある。むしろ、舞を手に入れる為だけに世界を滅ぼしても構わない。俺はそう判断した!」
 オーバーバロンは紘汰の申し出を一蹴し、戒斗の「世界を救う義理などない」は十分に納得のいく行動原理なので、どこまで本心かはさておき後段でミッチと同様の理屈を付け加える必要は無かったように思えるのですが、結局、(黄金の果実抜きに)3人の男が舞を巡って争う構図になっていて……そこまで舞が魅力的なヒロインだと自負があったの? は、少々首をひねる部分。
 ただここで、上述したように舞を「ニアイコール紘汰」として置き換えると見え方が少し変わってきて、
 ミッチが憧れるのも憎むのも紘汰
 であり、
 戒斗にとって邪魔者であり手に入れたい輝きも紘汰
 であると捉えると、紘汰/舞に向けられた感情を通して、ミッチと戒斗の抱える二面性が描かれているのは、手法としては面白みがあります(舞まるごと、は生け贄として大きすぎたと思いますが)。
 また同様に、舞を巡って争っているのではなく、物語の中心に居る紘汰と、その紘汰と同一化しようとする紘汰が居る(すなわちそれは、葛葉紘汰のもう一つの姿としての、世界の母なる女神との合一である)、と見ると、今作の目的地は、聖婚を経た神格化による主人公(英雄)の完成、なのかな、と。
 「おまえってやつは……おまえは俺が止める!」
 紘汰も大将軍し、激突する互いの究極の力だが、龍玄戦の傷が癒えない鎧武は動きに精彩を欠き、わざとらしくバロンの加勢に入ったナックルが紘汰を逃走させて、つづく。