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誰が神を殺すのか

仮面ライダー鎧武』感想・第40話

◆第40話「オーバーロードへの目覚め」◆ (監督:石田秀範 脚本:虚淵玄
 「大丈夫かね、我が友よ!」
 「えぇ?!」
 幻影の中でまさかの再登場を果たした孔雀ロードが大変面白かったのですが、この面白さで良かったのかどうか(笑)
 「君とは色々語らいたいんだが……」
 「ん?」
 「変身!!」
 「話は連れの気が……済んでからにしよう」
 連れ去った人間の生命力を集める王妃再生装置の間に乗り込んだ紘汰とプロフェッサーは、待ち受けていた緑ロードと激突。
 「おまえはもはやこの世界の住人ではない。我々の仲間だ」
 緑ロードは、禁断の果実の力を振るう紘汰を絡め取るべく、精神干渉によって幻影の世界に引きずり込み、その間に光学迷彩でタワー内部へ潜り込んだプロフェッサーは、マスターインテリジェントシステムを再起動する事で、映像記録を確認していく。
 「新たな世界の創造主は、すなわち、古い世界にとっては破壊神だ」
 一方、森の舞の前にはDJサガラが姿を現し、緑ロードの生み出した幻影と並行する形で、禁断の果実がもたらす力について、朗々と種明かし。
 「どうなるかは、あいつが決める。いや……もう決めちまった後だがな」
 散々そそのかすだけそそのしかしておいて、最後に決定ボタンを押したのは紘汰くんでーす! という態度を鮮明にするのは、こちらの方が清々しくて面白いといえば面白い(笑)
 幻術に囚われ、平和な沢芽市の光景を目にする紘汰だが、人々は紘汰の姿を目にすると悲鳴をあげて逃げ出し、異形のインベスと化した紘汰の前に現れたのは、チーム鎧武総長・裕也。
 死んだ筈の親友がドライバーを身につけると鎧武へ変身し、怪人とヒーローの表裏一体性が炙り出されるのですが、個人的には『クウガ』~『ファイズ』で既に通ってきた場所なので、インパクトは弱め。
 これは“出会ったタイミング”の問題となりますし、シリーズとしての主要なテーゼでもあるのですが、そこに今作ならではの味付けを取り上げると“主人公の無自覚性”であり、それを面白いと思えるかどうか、が改めて『鎧武』に対する根幹的分岐点、といえるでしょうか。
 「運命に流されるまま生きるしかないのが人間だ。もし、世界の運命を一人で覆すことができたら、そいつはもう、人間じゃない」
 その無自覚性こそが人間であり、自覚的に運命に抗う存在になるならば、それはもはや人の理の外側に存在するものだとDJは指摘し、英雄になるとはすなわち孤独になる事だ(シリーズの歴史を踏まえると、ここで再び、ヒーロー性と社会性が分断される、といえます)、とまた随分と露悪的な見せ方になるのですが、「それに気付かなかった方が悪い」という騙し討ちめいた話運びは、あまり好きではない流れ。
 テーマとしてはある種、《平成ライダー》史の反動的なところへ集約されていくわけですが……10年以上の中で“前提条件”として土台に埋まるに至った要素を掘り返して、ああでもないこうでもないと40話ほどかけて捏ね回してみたものの、それは“前提条件”という事で良かったのではないだろうか、というのが正直。
 「紘汰を……騙してたのね」
 「俺はあいつが望むものを与え続けてきただけだよ。覚悟するよう忠告もしてきた」
 「じゃあ……どうなっちゃうのよ紘汰は?!」
 「そこが面白いとこだよ。……あいつがもしも、黄金の果実に至ったら、選択肢は二つだ。果たしてあいつは、どちらを選ぶかな?」
 一方、セキュリティをくぐり抜けた戒斗たちは地下施設に辿り着いて怪しげな装置を発見し……
 とりあえず蹴ってみた(笑)
 止まった(笑)
 …………東映ヒーローの伝統芸といえば伝統芸ですが、割と引っ張り続けてきた装置が、それでいいのか?!
 「ここは任せた。俺は葛葉を追う」
 装置に繋がれていた人々も意識を取り戻し、ここに来て戒斗がやたらめったらヒロイックで格好いいのですが、タイムリミットブーストの気配もあって、素直に応援させてくれない作りではあり。
 「おまえはもう紘汰じゃない! ただの化け物だ! この世界に居ちゃいけない存在なんだ!」
 混乱状態のインベス紘汰は鎧武に切り刻まされ、ロケーションが初瀬リタイアの地なのが大変えげつない。
 「俺は……みんなを救う力が欲しくて……だから、オーバーロードになるしかないって……」
 「それが便利な道具だとでも思っていたのか? おまえは世界の運命を覆す者として、世界の外側に立つしかなくなる。おまえはもう人間ではないのだ」
 世界の衝突と拡大を描き続けてきた今作において、最終的に主人公が世界の外側に立つのは合理的な帰結ではあり、世界から拒絶を受け、逃げ惑う紘汰に更なる絶望を与えるべく緑ロードが囁きかけ、DJの解説と合わせて、禁断の果実の力を得た者の末路のように描かれるのですが……これはこれで緑ロードの思惑に則った幻影であり、DJはDJで200%信用できない語り手なので、紘汰と一緒に視聴者も騙しにかかっているように見えるのが、悩ましいところ。
 実際問題、「新たな世界の創造主は、すなわち、古い世界にとっては破壊神だ」というDJ発言はかなり欺瞞があるというか、今作世界ではそういう事なのかもしれませんが、英雄神話の基本構造からすると、「古い世界にとっての破壊神」を斃した者が「新たな世界の創造主となる」(父殺し・神殺しのモチーフと、宇宙の再生産)ので、新世界の創造主が古い世界から排斥と追放を受けるのは(虚淵さんはまず間違いなく、この辺りの神話的知識は踏まえているでしょうから)意図的な歪曲と飛躍が見えるのですが、それがDJと緑ロードに共通した詐術なのか、虚淵さん流の解釈と今作で“やりたい事”なのか判断が付きにくく、なまじ神話構造を取り込んでいる分、引っかかるところであり。
 紘汰を探す戒斗の前にはミッチが立ちふさがり、両者が変身の予備動作をしながら画面手前に向けてダッシュ → カメラを上方(二人の間に立つタワー)へ向けて二人がフレームから外れる → カメラそのまま変身した二人がアップで衝突、は好演出。
 「どう? これでもまだ僕が弱者だと?」
 「貴様はもはや、強い弱いの問題ではない! ――ただの馬鹿だ!」
 Pレモンは録画映像を見続けてニヤニヤし、精神的に追い詰められた紘汰は四聖獣フレンズに囲まれ、駄目押しとばかりに現れた裕也鎧武と激突。
 「あの男は、どちらを望むかな? 世界を犠牲にして、己を救うのか。或いは、世界を守って、己を滅ぼすか」
 「……そんなの、決まってるじゃない……あいつはいつだってそう……昔から変わらない!」
 ここに来てまた、あまり好きではないテーマが飛び出してきてしまいましたが、元より紘汰、「何をしたいかハッキリしない」系のキャラで、それが舞視点における「他人の為に」となっていたので、その「何をしたいか」の所に「世界を守る」が入ってそれは「俺がしたい事だから犠牲ではない」というレトリックは素直に頷きがたいというか、結局、紘汰は“ヒーローではない”と繰り返し描く一方で、紘汰の「昔から変わらない」精神性はヒーローそのものであった――足りなかったのは“力”だった――というのは、個人的には不満。
 好き嫌いの話ではありますが、これだったら、「俺は日本一の蕎麦職人になる」とか「俺は世界一のサッカー選手になる」とか「俺は宇宙一のパティシエになる」とか明確な夢があった上で、「でもそれよりも世界を守る」事を選んだ時に“ヒーローになる”構造の方がスッキリとはしました。
 ……願わくば、紘汰に“そんなルール”さえぶっ壊してほしいものですが、どうなりますか。
 「……すまん裕也。誰が仲間か、誰の為の世界か……そんな事はどうでもいい。ここには、死なないでいてほしかった奴がいた。そしてまだ! 生き延びてほしい人たちが残ってる!」
 迷いを振り払った紘汰は、裕也への攻撃を止めると、オーバーロードのお友達へと突撃。
 「俺の味方かどうかなんて関係ない! 守りたい者は変わらない! たとえ俺自身が変わり果てたとしても!」
 「人間は、必ずおまえを拒む! そんな連中の為に、犠牲になる気か?!」
 「犠牲なんかじゃない! 俺は俺の為に戦う! 俺が信じた希望の為に! 俺が望んだ結末の為に!」
 紘汰が自覚的に一歩を踏み出す大きな転機にして集約点で、物語への好感が積み重なっていればグッと来たかな、と思うのですが……どうも、ピントが合わずじまい。
 スカラー事件をピークに致命的な事故こそ減ってきた今作ですが、ガードレールでずっとドアを削っているというか、右折禁止のところでずっと右折を繰り返しているというか、部分部分で面白いと思うところはあるも、これまで触れてきた好みと合わない要素が細かく積み重なり、それを突き抜けて突き刺さるるものが出てきませんでした。
 ……いやまあ、まだ終わっていないのですが、構造的には物語のクライマックスへ向かう最終列車に乗り損ねたかな……といった感触があり、後は、それぞれのキャラクターの着地点を見届けるぐらいの気持ちで見ようかと思います。