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仮面ライダー鎧武』感想・第38話

◆第38話「プロフェッサーの帰還」◆ (監督:山口恭平 脚本:虚淵玄鋼屋ジン
 「僕は兄さんを乗り越えた…………ようやく解放されたんだ。呉島貴虎の呪縛から!」
  「――それは違うな。おまえは決して、私からは逃れられない」
 貴虎を海に沈めたミッチの目に映る、幻影貴虎が、凄く悪い顔で素敵(笑)
 「もしかして……壊れちゃった?」
 緑ロードの見る前でミッチは錯乱気味に幻影貴虎を罵り、ミッチの抱えるコンプレックスと罪悪感が厳しく突きつけられますが、ミッチ関連はあまりに重苦しくなりすぎて、個人的には面白く見られる段階を越えてきてしまっているのが正直(貴虎好きとしては、久々のきっちりスーツの兄さんをこういう形で見られたのは面白かったのですが)。
 メタ的に酷すぎる妨害を乗り越えて、ようやく戦いの跡に辿り着いた紘汰は、砕けた斬月ベルトを拾って、鎧武アジトへと帰還。
 「あいつが罪を重ねるってんなら、俺が目を覚まさせてやる!」
 ……遅いよ!!
 前々回、ここにスカッと辿り着いてくれていたらまだ印象が違ったのですが、3クールも終わりになって、未だに仕掛けのタイミングが一つ遅い主人公は、作り手の思惑通りだとしても、やはりストレス。特に今回は、発言が完全に(知らないところでの)舞の後追いになっていて、なぜ分断した上で同じ事を言わせてしまうのか、首を捻ります。
 仮にも主人公としては、せめて半歩は先に進んでほしいものなのですが、それが無いので、前回のDJから戒斗への煽りも、“おじさんにマジックアイテムを貰って喧嘩に強くなっただけ”のイメージを強めてしまう事に。
 「俺たちが諦めたら、あいつは本当に、ひとりぼっちになっちまう」
 「いいね~、熱い友情。実に感動的だ」
 そこに神経を逆撫でする口調と気のない拍手で現れたのは、バミューダパンツの戦極凌馬。
 ユグドラシルと完全に袂を分かったので、カジュアルフォームといったところなのでしょうが、ハカイダーの一件があるので、脳の不具合が進行していないか、ちょっと心配になります(笑)
 さすがにプロフェッサーには問答無用で殴りかかる紘汰だが、プロフェッサーはそれをひらひらとかわし、鎧武とレモンが正面から激突。物音を聞きつけたザックがダイビング変身するも蹴散らされるが、レモンvsレモンに、更にバロンレモンが加わって果汁300%になったところで、降参の意を示したデュークは、自ら変身解除。
 「とりあえず話を聞いてもらえないかな? 君達に提案があるんだ」
 アジトで四方を囲まれたプロフェッサーは、タワーに潜入可能な自分専用通路の存在を明かすが、幾ら何でも信用されるわけがなく、会談は物別れ。一方、校長ロードに王妃復活計画の進捗を報告した緑ロードは、禁断の力を横流しされたせいで困ってるんですけどーと極鎧武の存在を指摘するが、校長は泰然自若としてそれを受け止める。
 「人類は敵では無い。彼らが滅びる定めの猿に過ぎぬから、芽を摘むだけの事。だが、人類の中にただ一人でも未来を切り拓く者が居るのだとしたら、考えを改めねばならない」
 「蛇にそそのかされたか、王よ!」
 「口が過ぎるぞ! 見極めねばならぬ。それが滅び行く我らに残された最後の責務だ」
 前々回、人類文明終焉へのカウントダウンを加速させた校長ですが、放っておいても滅びそうだからやっただけでアタックチャンスそのものは与えるべきと言い出し、「王妃のみに執着している」のかと思えば「試験官の責務」を持ち出して、どうも腰が据わりません。
 勿論、一人の人物が一つの情念だけに囚われる必要性は無いのですが、限られた尺の中で強い意志をあれもこれもと詰め込めば、多面的ではなく曖昧になるのが必定であり、そして優先順位の不透明なキャラクターほど、物語の都合で顔を変えているように見えてしまうのが当然なわけで、前半のピエールと全く同じ失敗を繰り返しているのは残念。
 鎧武アジトでは、今後の方針をめぐって話がまとまらず、罠を承知でプロフェッサーの提案に乗る派の紘汰と、罠とか力で踏みつぶせばいい派の戒斗は、丘の上からユグドラシルタワーを見つめる……。
 戒斗はこれで、罠をぶち抜いた実績があれば格好いいのですが、最近明るみになった実態は、どちらかといえば、罠にはまらないように入念に準備をする人なので、その気になって罠に突撃すると、顔面から泥水プールにダイブしそうで不安になります。
 ……そういう点では戒斗にとって、罠とか力で踏みつぶしていくのが“理想の自分”で、罠にはまらないようにするのが“現実の自分”で、その“理想と現実のギャップを理解した上で、理想に向けて歩もうとしているのが戒斗”であるのかもしれません(湊さんがこれを感じ取ったとすると、戒斗への肩入れに一定の納得)。
 で、その視点をあてはめると、紘汰も当初は“理想と現実のギャップ”を抱えていたのですが、ある時点(第12話ぐらい)から「変身」して“理想だけを追いかける男”になっており、ミッチは他者(貴虎)が期待する“理想の自分”を否定したいあまりに“もう一人の自分(チーム鎧武の自分)”を演じてきた結果、“現実の自分を理想の世界にはめこもうとするに至った”とでもいえましょうか。
 貴虎兄さんは、“理想と現実の間で妥協した人(=大人)”なわけですが、そんな兄さんが諦めた“理想の自分”を部分的にミッチに押しつけていたと考えると、それはミッチもグレるよね……と。
 貴虎は貴虎で、気高くあろうとする事で己を保とうとしていた(グレるエネルギーが全て貴族的精神にコンバートされてしまった)、血統の被害者でもあるので、この兄弟に関しては完全に負の連鎖なのがえげつない。
 ……プロフェッサーは、“理想の自分で居られないなら、世界なんていらない”感じでしょうか(笑)
 そこに舞を交えて嵐の前のほのぼのシーンとなり、暮れなずむ夕陽の中に集う3人の姿は山口監督が良い切り取り方で、話題はミッチの事に。
 「友を見捨てない。それがおまえの強さだ。だが……葛葉、おまえはどうなんだ」
 「俺だって舞と同じ……!」
 「いや、決定的に違う。こいつが強いのは、自分の未来と向き合ってるからだ」
 「……自分の未来」
 「だがおまえは、他人の為ばかり戦うおまえに、自分自身が思い描く未来はあるのか」
 いつまで経っても自分を見つめ直さない紘汰に、戒斗がズバッと現在地の確認を求め(くしくもミッチが指摘したように、紘汰には“現実の自分”が存在していない或いは極めて不確か)、最近の戒斗は、すっかり状況整理マシーン。
 「……その答、私も知りたいな」
 「舞……」
 「ね、約束して。戦いが終わったら、紘汰が望む未来を教えて。紘汰の夢を」
 「……わかった。ちゃんと考えとくよ」
 これが3人が集う最後の機会だったりするとだいぶドラマチックですが、戒斗の肉体には、緑ロードから受けた傷の影響で森の侵食が進行し……食糧調達に向かった舞の元には、キラキラした瞳のミッチが再び姿を現す。
 「舞さんはなにも悪くない。……だから僕が舞さんを守ります。何も心配しないで下さい。一緒に行きましょう」
 「おい! ミッチ、いい加減にしろよ」
 「黙ってろよクズ」
 同行していたペコが玄武ロードに襲われ、笑顔で「一緒に来て下さい」を繰り返すミッチに、実質拉致される舞。傷だらけのペコから事の次第を聞いた紘汰はミッチを追い(戒斗は仲間の治療を優先)、敵意を剥き出しにしたミッチメロンと正面から激突する。
 「あいつてっきり壊れたかと思ったけど……これほどのものになるとは」
 緑ロードが観戦する中、勝ち鬨鎧武さえ上回る戦闘力を見せつけるミッチメロンだが、その前に再び立つ幻影貴虎。
  「ふんっ、こうやっておまえは、身近なもの全てに手をかけるんだな」
 「どけよ」
  「いつかは、あの女の事も……邪魔になるに違いない。フッ……」
 「消えろぉぉ!!」
 自分は変わる事なく、周囲をねじ曲げようとするミッチ自身の、内心の理解と罪悪感が貴虎という影として現れ、ミッチメロンがそれを頑なに否定しようとする内に、バロンが参戦。
 「本気で戦わなければ、おまえがやられるぞ!」
 「やるしかないのか……」
 鎧武は極を発動し、無人の遊園地という戦闘シチュエーションは鎧武にしては面白いのですが、ここまで37話に渡り、身も蓋もないほどに〔戦闘力=装備品の強弱〕だった世界に突然、“一線を越えて向こう側に行ったので超強い”という新しい理論が投入されて激しく困惑。
 「僕はこの手で未来を掴む。……もう誰にも邪魔はさせない」
 幻影の貴虎ごと真メロンアローで全てを撃ち抜くミッチメロンを前にバロンと鎧武は一時撤退し、紘汰に〔にげる〕コマンドがついていないので、いつの間にか戒斗が〔にげる〕コマンドを覚えているのですが、多分、耀子さんからスキルスロットにねじ込まれました。


 「あなた、引き時ってものがわからないの?」
(湊耀子/第25話)

 “引き時をわからない男”から“引き際を見極められる男”へ……戒斗にとってだいぶ大きな転換の筈なのに話の都合で処理されてしまうのが凄く『鎧武』ですが、もはや名物といっていいバトル中とそれ以外のキャラ描写の齟齬が、結局、終盤まで解消されないまま響く事に。
 「ふ、ふふ、ふふふ……ふふは、ふははははは」
 ミッチメロンは狂笑を響かせ、つづく。
 次回――そもそもね、舞さんに白ワンピースを着せない紘汰さんがおかしいんですよ。