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ターニングポイント

仮面ライダー鎧武』感想・第22話

◆第22話「7分の1の真実」◆ (監督:金田治 脚本:虚淵玄
 人通りの多い立体橋の上に開きかけのクラックが見つかり……もしインベスが沸いて出てくるような事があれば隠蔽工作は不可能だから街ごと焼き払っちゃおうぜ、と検討を始めるユグドラクローバーの面々。
 ……え、いや、あの……角を矯めて牛を殺すというか、万引きの発覚を恐れてデパートを丸ごと爆破するというか、クラックとインベスの因果関係を不特定多数の人間に目撃されるのと、ユグドラシルタワーからの攻撃で街が一つ壊滅するのだったら、どう考えても後者を隠蔽する方が大変だと思うのですが……街一つ焼け野原にして、タワーだけ残っている状況を、世間にどう申し開きする予定なのでしょうか……。
 それともやっぱり、タワーごと消し飛ぶ仕様なの……?
 状況としては、プロフェッサー組が貴虎をけしかけている節は見受けられるのですが、プロフェッサー的にも現時点で沢芽市を消滅させるのが研究のプラスになるとはあまり思えませんし(活きのいい実験材料が自然に転がっているわけで)……基本的にユグドラシル、目的の為には人命軽視の集団であり(貴虎でさえその自覚はある)、悪の組織性は揺るぎないのですが、そんなユグドラシルにも事情があるよ、と描いた直後に、でも悪い奴なのは間違いないよ、と悪辣さを強調したいが為に、階段を山ほどすっ飛ばしてしまう、展開の為の展開に呆然。
 人体へのヘルヘイム侵食が取り上げられた第13話において、貴虎が「危険区域の封鎖と市民の避難」を提言している(ユグドラシルにはそれが可能だと示されている)のに、クラックの出現した橋の両側を塞ぐ、程度の緩い対処で、次の段階が「まとめて焼き尽くそう」なのが、もう、めっちゃくちゃなのですが、「大量破壊兵器の所持を知った紘汰が大量破壊兵器を使用する筈だと思い込む」まではありでも、何故かユグドラシルがそれに付き合ってしまうのが、凄く『鎧武』。
 以前にも書きましたが「大人」と「子供」の世界の衝突を描いているのに、“大人の論理”で動いている集団が、凄く雑に“子供の稚拙な想像”通りの行動をしてしまうので、対比が巧く機能しなくなりがち。
 これが80年代的な悪の秘密結社であれば「そういう事もあるよね、あはは」で済む(?)のですが、物語の中において国際的大企業の体裁を取っている事実と思い切り衝突してしまい、とにかくそういった摺り合わせの部分が、今作は全体的に雑(まあそもそも、悪の秘密結社自体が現実の戯画的一面を持つので、ややこしい関係性ではあるのですが)。
 また一応、「森が活性化している」というエクスキューズは用意されているのですが、この10年以上、隠蔽工作に困るほど人目に付く所にクラックが現れなかったのならば、どれだけ幸運だったのかという話ですし(隠蔽の為に施設丸ごと消された悲劇、みたいな過去設定とかも存在しそうではありますが)、そちらはまだ百歩譲るとしても、この程度の問題をスマートに隠蔽できないユグドラシルが、これまでボロを出さずにやってこれたのは本当にどこまで幸運だったのかという話で、さすがに目が点。
 ……とか思っていたらこの後、「ユグドラシルは人類救済の為に60億人を間引きしまーす(ぱんぱかぱーん)」と、プロフェッサーの口からプロジェクト・アークの概要が語られてユグドラシルそのものが別のステージに移行するのですが、穴を塞ごうとしたら連鎖的に別の穴が広がったというか、大仕掛けの前振りとして大仕掛けを披露したら穴が広がるのが止まらなくなったというか、成る程というよりは今後への不安が先行しますが、果たしてユグドラシルはこのまま悪の組織として脱皮できるのかどうか。
 舞から連絡を受けた紘汰とミッチはユグドラシルによる現場の封鎖を確認し、これがまた物凄く雑なんですが、予算獲得に失敗したんですか主任……?!
 紘汰は、ヘルヘイム側の出入り口に回り込んでインベスを迎撃する作戦を閃き、ミッチと共に森に入り込んだところで戒斗を発見。
 「沢芽市もユグドラシルも、森の侵略に脅えるただの弱者でしかない。俺が立ち向かうべき相手はより強いもの。このヘルヘイムという世界そのものだ」
 「冗談言ってる場合じゃないんだぞ?!」
 「より絶対的な力。人間の限界を超えて世界そのものを屈服させる手段。その手がかりがこの森にはある」
 本編だけだと、また変なスイッチが……と思ったかもですが、ここは外伝の視聴後だと、戒斗の目指すべきものがだいぶわかりやすい事に。
 バンペイユにまで育った友情はどこへやら……戒斗に袖にされた紘汰は、くしくも同じ発想の水際作戦を実行中だったユグドラシルと喧嘩腰ながらも共闘し、ジンバーチェリーを発動。
 「ほほぅ、相変わらず大した適応力だ」
 プロフェッサーが、これまで特に強調されてこなかった紘汰の素質に言及する一方、街に戻ったミッチは万が一の為に舞たちを地下に匿おうとし、どうやら緊急事態の為に用意された地下シェルターに多数の人間が集まっているのですが……特に市内のVIPといった様子ではなく、恐らくユグドラシル社員の家族といったレベルの人々だと思われ……いや、それだけ多数の人々を地下に動かすぐらいなら、地上のクラック出現区画の周囲をもっと本格的に封鎖できたのでは……。
 これが如何にもVIPの特権といった様子だったらこの後のプロフェッサーの言葉に繋がりますし、もしかしたら、これだけ多くの人々がユグドラシルの裏面を知りながら“自分だけは助かる側だ”と思って素知らぬ顔で生きているみたいな空恐ろしさを表現したかったのかもしれませんが、幾らなんでも秘密の公開範囲がリスキーすぎて(詳細まで知らないのかもですが、「何やら不安そう」と舞が言及)、率直に、演出の意図に悩むシーン。
 「生き残れるのは7人に1人ってことだね~」
 ユグドラシルが進める「プロジェクト・アーク」――それは、戦極ドライバーの量産により、ヘルヘイムの森に侵略された世界でも人類を生存可能にする事。だが、10年後までに生産可能なドライバーはおよそ10億台。ユグドラシルは人類文明存続の為に、世界的なバイオテクノロジー企業であり医薬品メーカーである事を利用して、人類の総人口を7分の1まで減らそうとしていた。
 「おまえら……平気な顔してそんな事を!!」
 紘汰の怒りは尤もな一方、貴虎の顔も思い浮かぶのが今作の良し悪しではあり、ここはユグドラシル側に感情移入の余地を作るよりも、紘汰のロジックへの同調を強める構造の方がスッキリしたと思うのですが、どうも構造を複雑化しすぎたかな、と。
 加えて、第22話にして〔人類救済の為に60億抹殺を掲げる組織vsそれに怒りを燃やすが特に解決手段のアテはない主人公〕というのもバランスが悪く、ここまで8話(せいぜい12話)程度で良かったと思うのですが、改めて、本編20話ぐらい使って前日譚をやった感。
 インベスウェーブをなんとか退け、隙を突いて耀子のピーチ錠前を奪い取った紘汰は、クラックを通ってユグドラシルビルへと突入。
 「ユグドラシル! もう絶対許さねぇ!」
 とりあえず大量破壊兵器を使用不能にしてやると乗り込んでいくが、立ちはだかったのは貴虎。
 「あんたらのやり方は絶対に許せねぇ!!」
 「誰に許されるつもりもない。その罪を背負って、我々は未来を切り拓く」
 兄さんは兄さんでキまりすぎている部分もあるのですが、キまっていなければやっていられない、という点で昭和ヒーローな一面があり、メロンとレモンが再び激突。
 レモンの猛攻に少々押され気味となったメロンは、鎧武総長の死の真実を伝え、愕然と膝を付く紘汰。
 「咎めはしない。あの時戦っていなければ、おまえ達は殺されていた」
 「俺は……俺は……」
 「かつておまえは、友人の命を犠牲にして希望を掴み取った。その行いを否定するのなら絶望するがいい。あの時守り、救った命と――生き延びた自分にな」
 長らく伏せられていたカードが遂に開かれて、茫然自失となる紘汰で、つづく。
 序盤、あまりに強引な展開に目が白黒しましたが、ユグドラシルは“敵”として一つ別のステージへ(多分)突入し、裕也に関する真相は「貴虎から紘汰への試練」として機能する事になり、それを乗り越えた紘汰が次のステージに上がっていけるのか、という構造になりそう。
 ただその為には「70億を救う道」の糸口ぐらいは掴めないとアンバランスさが解消されないわけですが、戒斗ルートがそこに繋がってきそうな気配で、次回――勝ち鬨