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メロンとバロンは一字違い(後編)

仮面ライダー鎧武』外伝感想2

◆『仮面ライダーバロン』◆ (監督:金田治 脚本:毛利亘宏)
 (※物語の時系列は第20話の後ですが、本編完結後に作成されたVシネマであり、前半の「斬月編」よりも本編の今後を類推できる要素が幾つかあるので、今回の配信が『鎧武』初見で、Vシネマを見ずに先に進んでいる場合は、ご留意下さい)

 「俺は貴様等を憎んでなどいない(……憎んでいるのは、あの時の俺の弱さだ!)」
 戒斗の親が自死した事がほのめかされる重苦しい描写……からタイトルが入ると、例のファンファーレが鳴り響き、空気読んでSE!!(これも元はといえばプロデュース・オブ・プロフェッサーかと考えると、とことん酷い)
 一方、沢芽市を訪れた一人の観光客……が、なんと戒斗に瓜二つ?!(二役)は、面白い話運び。
 貴虎編は、疎遠な父子関係に始まり、心を許せる相手、淡い恋情、秘密のファイル、父親の非道な所業、復讐者、そしてノブレス・オブリージュ、と如何にもな要素の詰め合わせでしたが、戒斗編の方は逆に、そっくりさんという形で本編ではやりにくかったのかと思われる崩しを取り込み、すぐに口を尖らせる子供っぽいお坊ちゃん役で役者さんの芝居の幅を見せていく、本編と反対の切り口から入ったのは、2作1セットの「外伝」として、成る程という組み合わせ。
 手法の良し悪しとか面白い面白くないとは切り離した話として、恐らく《平成ライダー》初期(というか井上脚本)だったら、多分こういうエピソードを本編にねじ込んだと思うのですが(それが評価されるかはまた別な話)、この頃にはTV特撮シリーズの経験値をそれなりに積んでいた毛利さんらしいアプローチには感じます。
 DJサガラの配信アーカイブで戒斗の存在を知った青年・シャプール(何やらVIPらしい)は街に繰り出すといきなり戒斗を発見し、どうやら「オーバーロード」云々はTV本編との接続要素だけだったようですが、冒頭では大きなカバンを手に森の中に居たのに、いきなり市内をぶらついているとだいぶ困惑(笑)
 「ねえねえ、お願いがあるんだ」
 「お願い?」
 「うん、僕と入れ替わって!」
 シャプールは、笑顔で催涙スプレーを吹きかける傍若無人ぶりを発揮すると戒斗と服を交換し……割とアイコンになっているので変えにくかったのでしょうが、そういえば普通にチームバロンの衣装のままですね戒斗!
 アバンタイトルのシリアスぶりをどこかに放り捨てた戒斗はベンチの上で目を覚まし……とりあえず、全裸放置→逮捕→ユグドラシルが手を回して釈放、のルートに入らなくてホッとしました。
 「……あいつ、絶対に許さん」
 ところが脳天気なシャプールは実の父に命を狙われており、執事のアルフレッド以下がその実行の為に動き出して状況が錯綜を始め、そんな陰謀は全く知らないS戒斗は、チームバロンのダンスに飛び入り参加。
 「え?! 戒斗が笑ってる?!」
 「どういう事?!」
 それを目撃した紘汰と舞の反応が、酷い(笑)
 しばらく愉快なダンスシーンが描かれて紘汰の出番も確保され、2話1セットの中であれこれキャラを出してくれるサービス精神は、外伝作品として良いところ。
 S戒斗は舞を引きずってシャルモンへダッシュすると、どういうわけか厨房を借りてケーキを作り始め、これは噂に聞く演者さんスキルでありましょうか……店の許可は取っていないようなのでほぼ犯罪ですが、既に昏睡強盗の実行犯なので、大丈夫。
 城乃内もちらっと出てきてコメディアンぶりを発揮していた頃、シャプールと誤解されてアルフレッドらに拘束されていた戒斗は脱出に成功し、そっくりさんの存在に気付いたアルフレッドは、傭兵ピエールにS戒斗の拘束を依頼。
 ここは、ピエール(ブラーボ)の出番を確保する為にかなり強引な流れになってしまいましたが、ドリアンに襲われるも変身できずに逃げ惑うS戒斗の元にザックが駆け付けるとナックルになってドリアンに立ち向かう大サービスで、えらく格好いいなナックル!!
 ……まあ個人的に、ナックル(ザック)が活躍すると、どうして初瀬はこのポジションに入る事が出来なかったのか、を思って少々胸が痛むのですが、S戒斗に「グリドン」の名称についてツッコまれた城乃内が、これはこれで気に入っている的に返す姿には色々と考えさせられてしまいます。
 ザックに助けられて逃げ出したS戒斗が怒りに燃える本物戒斗とご対面していた頃、アルフレッドはプロフェッサーに接触しており、今回も好き放題に話を引っかき回す戦極P。
 「必要なのは、金と権力。それが、私にとっての強さです」
 (ふん、私の研究を金儲けの道具にされてたまるか。ま、せいぜい貴重な被験体になってもらうとしよう)
 所属している財団を我が物にしようと、資金援助を餌に独自にドライバーを入手しようとするアルフレッドに、プロフェッサーは“強力な新型”を提供し、プロフェッサーにもそういうこだわりがあってちょっとビックリです(笑)
 「俺は貴様が気に入らねぇ。それで十分だ」
 一度は、シャプールの事情など知った事かと背を向けた戒斗だが、ドラゴンフルーツ邪面をかぶり、邪悪な西洋甲冑系のライダーに変身したアルフレッドと激突。バロンに変身した戒斗はマンゴーで殴り飛ばすと一時撤収し、シャプールが財団の後継者として用済みとなった養子である事を知る。
 一方の戒斗は、ユグドラシルの地上げで工場を売り渡しはしたものの、生き甲斐を失って酒に溺れて家庭内暴力を繰り返し、最終的には自殺した父親について語られ……あまりこういう「悲惨な過去がありました」的な話作りは好きではないのですが(背景設定としては本編時点からあったのでしょうが、“悲劇的な設定”というのは、割と幾らでも作れてしまうものなので……例えばメロン編の場合は、その“悲劇”に対して貴虎がどう向き合うのか、の方に焦点を合わせていたのであまり気にはならなかったのですが)、戒斗のコアにあるのは、「悲惨な環境(を作りだしたもの)への憎しみ」よりも「悲惨な環境を変えられない自分への憤り」と示され、(……憎んでいるのは、あの時の俺の弱さだ!)というストレートなヒーローテーゼと接続。
 戒斗の中で「なりたい自分」と「変えたい世界」が(恐らく本人も自覚していないレベルで)分かちがたく結びついている事には納得が行き、第20話における、貴虎ルートと戒斗ルートの差異が明確になったのは、本編の補完としてはかなりわかりやすくなりました。
 「父親は弱者になって勝手に死んだ! それ以来、そいつは誰も信じなくなった……信じられるのは自分の力だけだとわかったからだ」
 「それって……」
 「戦うべき相手が居るなら戦え! そうでなければ、一生後悔する筈だ」
 一方、ドラゴン邪面はチームバロンを襲い、怒りの戒斗が呼び出しの場所へ乗り込むとそこに転がっていたザックが切れ切れの息の下で戒斗に雪辱を頼み……えらくおいしい役回りだなザック!!
 「さあ、シャプールを渡せ!」
 「笑止! ……欲しいなら俺を倒せ。俺より強い事を示せ!」
 正直、初見時はまた、戒斗さんの異世界転生者スイッチが入ってしまった……! と思ったのですが、こうやって分解してくると、戒斗にとっては「環境(世界)を変えたいならそれにふさわしい強さが必要」であり、そこでミニマムな「周辺環境」とマクロな「世界」がねじくれ曲がって混線してしまった(ストレートに憎めない程度に父親が好きだった事は本編の回想シーンからも類推可能なので)為に、外へ向けて出力するとこうなってしまうのだな、と一定の納得。
 そしてそんな戒斗が、幸か不幸かマクロな世界を変えられる「力」の一端に触れてしまったわけですが、果たしてその先に辿り着く場所はどこなのか……。
 スイッチ全開のバロンに殴られたドラゴン邪面が、段ボールの裏に隠しておいたオフロードバイクに突然またがると、バロンもそれに対抗してバイクアクション合戦になり、どこからオフロードバイクが出てきたのかはさておき、スーツ着たまま空中一回転するなど見映えのするアクションが連発。
 思えばマンゴー以降に特に強化の無いバロンは、バイクの加速を乗せたランスアタックでドラゴン邪面を撃破。ところがダメージの大きくなったドラゴン邪面は、錠前の暴走により、内部から飲み込まれるようにインベスと化してしまう。
 いよいよLV上げが足りないバロンだが、そこにいきなり、ピンクのコートの耀子が現れるとリンゴ錠前を投擲し、バロンファイヤーならぬリンゴバロンが誕生。
 ふぁいやーー ふぁいやーー
 強さは不思議なバナナパフェ! 錠前の浸食作用を気合でねじ伏せたバロンは、剣と盾は飾りだ! とリンゴキックでアルフレッドインベスを撃破し、それを最後にリンゴ錠前はボロボロになって砕け散るのであった……。
 「これが俺の求める強さ……」
 後日、財団に戻るというシャプールからの手紙を受け取った戒斗は、シャプールがシャプールなりの戦いを始める事を知り、駆紋家の墓へと花を捧げる。
 「俺は力を手に入れる……世界を壊す為に」
 何故か耀子がその背を見つめて「不器用な男」と万能フォロー爆弾を投げつけ、自らの道を明確に歩み始めた駆紋戒斗の背中を見せながら、本編第21話以降へと、つづく。
 偽物騒動に巻き込まれた挙げ句に道ばたに放置された舞と、クライマックスで戒斗の運命の女神となった耀子の扱いの差はなんだか本編この先を暗示しているように見えますが、このタイミングで見ると参考書の解説を読んだ感は多少ありつつ、本編戒斗の解像度は上がる外伝でありました。
 まあ逆に、本編での描写不足が目立って引っかかる点も出てくるでしょうし、外付けブースターの与えられなかった紘汰の言行が余計に気になる事も増えるかもしれないので、基本はボーナストラックとして捉えておきたいと思います。
 「外伝」としては、メロン×バナナを一つのパッケージにするにあたり、「本編から想定される要素を山盛り」と「本編とは違う切り口のドタバタ劇」で色分けしつつ、最終的には共に「世界」とどう向き合うのかの物語としたのは、巧い作りであったと思います。
 2作合わせてメインキャラ大挙出演のサービス精神も豊富でしたが、難を言えば、そちらにウェイトがあった分、両編のゲスト悪役の存在感が今ひとつ、だったところでしょうか。
 特にアルフレッドの方は、「坊ちゃまに仕えるアルフレッド」「お父様に仕えるアルフレッド」「自らの野心を剥き出しにするアルフレッド」と視聴者からするとコロコロと顔を変えるキャラなのですが、それぞれの芝居にあまり差異がなく(これは、戒斗役の小林豊さんの一人二役を強調する為に、敢えて演じ分けなかった可能性はありますが)、悪役の存在感としてはもう少し、「豹変」の要素を出しても良かったかな、と。
 後これは作品の内容とは別の話で……以前見た『仮面ライダーアクセル』の際も同様だったので一種のお約束になっているのかもしれませんが、個人的に、EDクレジットと一緒に流されるオフショット集やメイキング映像が物凄く苦手で、Vシネマまで付き合ってくれたファンへのサービス、としてはわかるものの、一つの作品を見終わった直後に、ハイこれは作り物でしたよー、と見せつけてくれなくてもいいよなと思うわけで、それを入れるなら映像特典とかに分けておいてほしかったな、と。
 これは完全に個人的な好き嫌いの話ではありますが、作品としては、やられるとガックリ来てしまうのでありました。
 二人の男の背中の後に、物語は本編へと戻り、果たして、葛葉紘汰は手にした「力」で、「世界」とどう向き合う道を選ぶのか――?!(DJおじさんに面白がられつつ)