『仮面ライダー鎧武』外伝感想1
◆『仮面ライダー斬月』◆ (監督:金田治 脚本:鋼屋ジン)
(※本編終了後に、第20話直後の語られざる物語を描いたスピンオフ作品)
「あと10年で、世界はヘルヘイムに飲み込まれ、滅びる。我々ユグドラシルは、いかなる手を使ってでも、それを防がなくてはならない」
「なああんた、本当にこんなやり方でいいのかよ?! 胸張って正しいって言えんのか!?」
紘汰にヘルヘイムの森の秘密とユグドラシルの目的を語り聞かせた貴虎だが、二人の理屈がすれ違いに終わっていた頃……今日も森の焼却作業に勤しんでいた黒影が、クラックから出現した何者かに襲撃を受ける。
翌日、貴虎とシドは現場を検分し……シドが! ちゃんと仕事してる!!
「頼むぜ~。あんたは肝心なところで甘ちゃんだからなぁ」
(……どれほど多くの命が失われようと、その重みに耐えねばならない。全てはプロジェクトアーク……人類をヘルヘイムから救う為に)
貴虎のモノローグに続いてタイトルが入り、屋敷に戻った貴虎の胸に響くのは、幼い頃に父(寺田農!)から教えられた「ノブレス・オブリージュ」の言葉……その呉島家を、父に仕えていた使用人が6年ぶりに訪れ、疎遠になっていた父の死が報される。
呉島兄弟は父の死に冷淡ともいえる反応を示し、本編終了後のVシネマという事で、役者さんの(多少なりとも)加齢などの影響もあってか、ミッチは本編第20話頃よりもシャープな感じ。
呉島邸にて、幼なじみともいえる使用人・朱月藤果(名前が懲りすぎていて既に怪しい)との交流が描かれる一方、シドも夜道で襲撃を受け……まあこの人、月の無い夜に気をつけろ!を地で行く人なので、因果応報というかなんというか。
シドに重傷を負わせた謎の襲撃者は何者なのか……兄さんは不味いアップルパイをかっくらい、まあそういう位置づけの作品ではありましょうが、何この兄さんサービス(笑) そして、迫り来る女の影!
ところが藤果の家のベランダにはヘルヘイム植物……そしてそれはなんと、ユグドラシルの内部にまで?!
謎の影は耀子にも襲いかかるとアーマードライダーに変身し、自在に生み出したクラックの中に姿を消して神出鬼没の秘密が明かされ……俺たちの野望はこれからだ! と盛り上がっていた第20話直後にこんな騒ぎになっていたかと思うと、劇場版的な敵が相手とはいえ、悪い人達も色々と大変です。
「どうしたんだい? 貴虎」
「襲撃者が判明した。我々の把握していない、未知のアーマードライダーだ」
「……ほぅ。それはそれは」
目ぇ逸らした(笑)
「あ! そうだ、これ」
露骨に誤魔化した(笑)
プロフェッサーは、主任が“無くした”スイカの代わりにプロトスイカ錠前を渡すと、クラック操作能力について何やら“思い当たり”を語り、屋敷の書斎を引っかき回した貴虎は、父の隠しファイルを発見。
呉島邸内部までもが植物の侵食を受け、ミッチが襲われクラックの向こうにメロン錠前が奪われるも襲撃者は逃げ出す一幕の後、父・天樹が理事長を務め、現在は放棄された沢芽児童保育院を訪れた貴虎は、その地下が非道な人体実験場であった事を知る。
「父さん……あなたという人は……」
世界を守る為、我々ユグドラシルは、いかなる手を使ってでも、それを防がなくてはならない――その暗黒面がまざまざと描かれ、インベスを見かけた貴虎に襲いかかった黒い影の正体は、もちろん朱月藤果。
「何故です? 何故あなたは呉島の人間なのです。私はあなたを殺さなければならない」
「……復讐か」
保育院はユグドラシルに尽くす人材を育てる為の教育施設にして、その期待に応えられなかった者を使い切ってから処理する実験場であり、基本的にストレートな要素で構成された一編なのですが、血の誇りに生きる貴虎に血の呪い(濁った面)が突きつけられるのは、巧く噛み合いました。
そして呉島貴虎という人は、その負の面も引き受けて――生んでしまった犠牲だからこそ、それに応える為に――世界を守り切るその日まで歩み続けなければならない。
呉島父の殺害を仄めかした藤果は、呉島家に関わる全てを消し去る為にリンゴ錠前を発動し、これは……ウルザードファイヤー……(笑)
「私は呉島の人間だ。父と心を通わせる事は遂に無かったが……それでも……唯一正しいと思える教えがある」
「なんですか、それは」
「――ノブレス・オブリージュ。……私は、自らが正しいと思う信念の為に、この命を捧げる! ……例えどれほど罪を背負おうと、人類を救ってみせる!」
「あなたの正しさは他人を追い詰める! いつかきっと、その報いを受けるでしょう!」
「――変身」
改めて色々とキマり過ぎている貴虎は、奪われたメロン錠前に代わってプロトスイカを発動し、網目ならぬ縞模様のスイカ斬月のデザイン(というか色彩)は格好いいとは言いにくいものの、互いに剣と盾を用いてのチャンバラは、なかなか面白いアクション。
互いの実力は拮抗するが、クラック移動による高速攻撃に追い詰められたスイカはシールドガトリングを放ち、ちょっとこれ火力重視すぎて相性悪いぞ……と不満を漏らすも、リンゴが落としたメロン錠前を確保して、メロンエナジー。
……本編からそうではあるのですが、凄くタメの効いた「めろん・えなじぃぃ」、プロフェッサーがノリノリでリテイクを繰り返しながら収録していたのかと思うと(多分、湊さんは録音助手)、状況が状況だけにさすがに後頭部をスイカバーで殴打したくなります(笑)
至近距離で向かい合うメロンとリンゴはお互いの必殺スカッシュを放ち、変身解除の末に地に倒れたのは朱月藤果。
「私を生かせば、また必ずあなたの命を狙います。……さあ、早く」
「…………私は」
煩悶するメロンは刃を振り上げ……
「……本当に甘い人。どうしてあんなに優しい人が、呉島の運命を背負わなければいけないの」
結局メロン兄さんは藤果にトドメを刺せず、地下施設に転がる藤果。ところがその体をリンゴキーの副作用が襲い、それを見下ろすように現れたプロフェッサーが、リンゴキーは天樹の元で自身が開発した最初のロックシードであった事を語り、リンゴといえば非常にポピュラーな「原罪」の象徴=「禁断の果実」でありますが、そんな重要フルーツを番外編で使ってきたのは、“始原のロックシード”であったから、と成る程納得。
ちなみに、図像学の本のメモを確認していたら、リンゴは古代ギリシャ語では「melon」(果物全般を指す)との事で、今作におけるメロンの扱いの大きさと、メロンvsリンゴという構図にも納得。
「せめて苦しまないように眠らせてあげよう。例はいらない。同じ施設の仲間じゃないか」
プロフェッサーはレモン公爵に変身すると僅かの躊躇もなく藤果を射殺。本編ではまだここまでは見せていない顔ではありますが、プロフェッサーの場合は予想の範疇内という事で(笑)
「……光実」
「……なに兄さん?」
「おまえは、身近な誰かが目の前に立ちはだかったとして、その人を倒す事ができるか?」
「……多分、出来ると思う。大切なものの為なら、それがたとえ誰であっても覚悟を決めると思う。そうしなきゃ……何も守れない」
「……そうか。すまない。つまらない事を聞いてしまったな」
思い出をセピア色の海へと沈めた男は前だけを向いて再び歩き出し……多分、今日も、休日出勤だ!!(ミッチが応接間でのんびりしてるし)
本編視聴途中なので、本編に比べてどこをどのぐらい掘り下げたのか、に関しては判断が付きませんが、概ね、本編から推測される貴虎像が補強されて、しっくり来る内容でした。
作品の評価については、その辺りがわからないと……というのがあるのでひとまず置いておきますが、ユグドラシルの悪の秘密結社ぶりを含めて、凄くストレートな、兄さんフォロー作品であったのかなと。
かくして、貴虎が休日出勤への扉を開けた頃、真・ユグドラクローバーとして迎え入れられた戒斗は、オーバーロードとやらを探してヘルヘイムの森を彷徨っていた……で、後半につづく。