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狼、繋げ

牙狼GAROスペシャル』感想(後編)

◆『牙狼GAROスペシャル-白夜の魔獣-』◆ (監督:雨宮慶太 脚本:江良至)
 後半のっけから、ゼイラムホラーによる人体切断を始めとした大虐殺が行われる一方、カンタイの地では蘇生間もない邪美が、割と元気よく柔軟体操から体をほぐしていた(これがまさに準備運動であった事は、この後の展開でハッキリする事に)。
 リンと邪美の仲睦まじい姿に、老師は、大河・りん(鋼牙母)・幼い鋼牙がカンタイの地で過ごしていた頃を思い出すが、その鋼牙にギルドから、魔獣レギュレイス復活の連絡が届けられる。
 今や鷹麟の矢による、日食の日の儀式は単なる形式上の意味を越え、その話し合いの最中に怒鳴り込みにやってくる生真面目な翼お兄さんだが、女っぷりのいい邪美さんのカウンターをテンプルに喰らい、激しく狼狽してTKO負け。
 (余談ですが、女性キャラが自ら胸を鷲掴みにさせて「生きている」事を伝えるシーンが私の大好きなマンガ『暁のイージス』(作:七月鏡一/画:藤原芳秀)にもありまして、遡ると類例は他作品にもありそうですが、作者の特撮趣味を考えると『牙狼』オマージュだったのか……?)
 「レギュレイスの件は、おまえも聞いている筈だ。下らぬ争いをしている暇はない」
 リングに倒れたのをいい事に、横紙破りで土足で上がり込んできて門番を張り倒した無法者に、説教された。
 「白夜騎士って、ホラーも味方につけたんだろ? だったら、魔戒騎士同士、仲良くやろうよ?」
 自らの信念に誇り高き男二人の睨み合いに、ふんわか行こうよふんわか、と間に入った零が思わぬスキルを発揮し、『555』北崎のイメージの影響ではありますが、零はたまに、井上敏樹キャラっぽい成分が香って見えます(笑) (苗字が「すずむら」なのは、全くの偶然なのやら)
 「驚いたもんだね。おまえの口から仲良くだって?」
 「これでも、成長したのさ」
 「魔戒騎士のくせに、笑ってる」
 「俺はおまえ達の力を借りるつもりはない」
 そんなわけで、ひとまず成立した前途多難な混成パーティは矢の確認に向かうが、その力が薄れている事に気付いた邪美が、阿門が自分を甦らせた理由はここにあったのだ、と自らの使命を悟り、監督にもかなり葛藤があったそうですが、退場させたキャラクターの蘇生復活には引っかかる部分もあったので(特に本編が、生死の意味が重く、メインキャラが大切な存在を「失った」状態の物語なので)、ここで阿門法師が摂理をねじ曲げてでも邪美復活を願ったのは、目前に迫る世界の危機の為であった、というのはエクスキューズとして良い補強になってくれました。
 邪美と老師が矢にエネルギーを込める中、3人の魔戒騎士は周囲を警戒。翼が面倒くさい事に関しては妹がフォローを入れ、大概面倒くさいが自覚の薄い鉄面王子はリンの気持ちを慮り、この二人の心の距離感に関してはスペシャル編なので! と割とダッシュで縮まっていくのですが、王子様は冷徹でも不器用でもないのです(本編比)。
 待機シーンを含め、いよいよ迫る、白面のホラー・レギュレイス軍団への対応を、鋼牙組・零組・翼組の三者三様のトーンで見せるのは面白く、下僕一号ブドウ男(衣装がツブツブ)が割と強い。
 「魔戒騎士よ。生き残りたければ我らが一族となれ」
 矢の位置が明らかにされてゼイラムホラー自らも動きだし、首を切ろうが胴を刺そうが動き続けるその能力にさしもの鋼牙も苦戦。配下のホラーからホラーへと憑依を繰り返す変幻自在・神出鬼没のレギュレイスは翼を蹴散らすと結界を破壊し、ゼロも白夜の騎士ダンもその筋肉の前に手も足も出ない。
 鋼牙は意外と強いブドウ男に苦戦しながらも、兄を守ろうとしたリンの危機に鎧を召喚するが、リンが負傷。お堂へと迫るホラー軍団だが、ゼロ&ダンの足止めも効いて、エネルギー充填なった矢を手にした邪美がブドウ男を足蹴にするとまとめて吹き飛ばし、邪美さんが、この局面で一番格好良かった(笑)
 どうせ生き返らせたのだから、と開き直っている節もありますが、邪美さんを撮る雨宮監督は大変楽しそうであり、演じる佐藤康恵さんにバレエ経験があるとの事ですが、しなやかな動きと姿勢の良さときつめの顔立ちが、改めて非常にはまった好キャスティング。
 「この鷹麟の矢が、おまえを封印する!」
 矢の力と鋼牙の一撃により、辛うじてレギュレイスを退ける一同であったが、負傷したリンがホラーの猛毒を受け、レギュレイスと同化の危機に陥ってしまう。救ってもらった命の使いどころとして、邪美はリンの体内を蝕む毒と自らの血の入れ替えを申し出、その儀式が行われる事に。
 「邪美、約束しろ。……リンを助けて、おまえも必ず生き残れ」
 「…………わかった。そう何度も死んでたまるかよ」
 男たちはまんじりともせず儀式の成功を祈る事となり(つまるところ「手術中」)、翼は頑なに、身内としての情よりも、白夜の騎士としての使命を優先しようとする。
 「俺は魔戒騎士になると決めた時から情を捨てた。情を捨てなければ人は守れぬ。リンも同じだ。俺たち兄妹は、強くならなければいけないんだ。貴様等にわかってたまるか!」
 「わかってるのさ。今の翼は、一昔前の鋼牙だからな」
 言・わ・れ・た。
 某キャプテン・マーベラスだったら耳から血を流して床をのたうち回りそうな精神ダメージですが、その辺りは割と打たれ強い鋼牙は、魔戒騎士である事に忠実であろうとする翼に向かい合う。
 「魔戒騎士は守りし者のために戦う。翼、おまえにとって守りし者とは、誰だ?」
 「……誰?」
 「守りし者とは、誰よりも大切に思う者のことだ。……その顔を想い、命を賭して戦える者のことだ。リンは大好きなおまえを守りたいから、レギュレイスに立ち向かった。――おまえが守るべきものは、リンじゃないのか?!」
 本編における鋼牙の道のりを踏まえて、使命にこだわるあまり守ろうとする対象と向き合おうとしない魔戒騎士は、鍛え上げられた鋼のようでありながら“しなり”を失っているが故に脆い一面を併せ持ち、個人の意思としての守りたいものこそが、そこに“しなり”を与えてより強くするのではないか、と英雄の大義と私人としての在り方を接続して戦う背骨を与えるのは、アフター『クウガ』らしいヒーロー論。
 リンの身代わりとして使い果たされるのではないかと危惧された邪美の命も鋼牙との約束によって此の世につなぎ止められ、回復したリンと連れだった邪美に素直に謝罪と感謝を述べる翼であったが、翼の魔道具である腕輪の中に身を潜めていたレギュレイスが不意に復活すると、矢とリンを奪い取ってしまう。
 「鋼牙、力を貸してくれ。俺は、リンを助けたい」
 「……言われるまでもない」
 (なおこの二人の最終的な握手とかは特に描かれないので、これが最大限に友好的な会話となりました(笑))
 アレ誕生、じゃなかった、封印破壊を防ぐべく、今度こそ心を一つにした一行はレギュレイスを追って奈落の森へと急ぐが、そこは物理法則さえ歪んだ奇妙極まりない世界であった。
 森の中を急降下しながら、魔戒騎士&法師は、白面ホラー軍団&しぶといブドウ男と激突し、なんかもう、邪美さんが一番強い勢いで笑えます(笑)
 翼がようやく打ち破ったブドウ男(思わぬ大健闘)は、レギュレイスにトドメを刺され、人間の姿を取り戻して絶命。
 そして、森を抜けたところで無様に地面に転がる男達の前に、旗を両手にすたっと降り立つ邪美さんが格好良すぎるんですが(笑)
 「邪魔をするな。お前たちに構っている時間はない」
 強敵レギュレイスに対し、3人の魔戒騎士は揃って鎧を召喚し、ここを配信動画のサムネイル画像にしてしまったのちょっとどうかと思うわけですが、レギュレイスは背中からカラクリアームを展開。
 やむを得ない仕儀とはいえ、本編で熟成された暗黒騎士と不滅の大神官、更にはホラーの始祖まで倒してしまった後に、レギュレイスがやたらめったら強いのは若干ノリにくいところはあるのですが、10万馬力をレシーブ! トス! アタック!! した魔戒騎士ハリケーンも通用せず、3人はまとめて変身解除。
 日食に合わせて封印の石を破壊しようとするレギュレイスは白面ホラー軍団を放つと目的地へと急ぎ、敵の側もスケジュールに縛られているのは、行動原理として上手く機能。零と翼に促されて先へ進んだ鋼牙は、リン救出の為に先行していた邪美と合流すると背後からのダブルアタックで矢を取り戻し、奪還した矢を手に邪美が鋼牙と格好良く並び立つ一方、人間のザルバは新人と一緒に後方で足止めを受けていた(涙)
 「この世界は、我らのもの。我がすべての王となる」
 だがいよいよ日食の時、巨大ホラーへと変貌したレギュレイスにより、邪美と鋼牙は次々と叩き伏せられ、再び矢を奪い取られてしまう。
 「鋼牙!」
 圧倒的な強敵に対して法師と騎士は友情のコンビネーションアタックを決め、零、零……(涙)
 まあ、鋼牙と零のダブルヒーローは本編でやったからいいよね、という事なのでしょうし、零が特別好きなキャラというわけでは実は無いのですが、「主人公の抱えている重い設定は物語の進行で解消されるが、ライバルキャラは解消まで手が回らない上になんとなくそのまま不憫なポジションに落ち着いてしまう」に頭から見事にはまっていて、ちょっと可哀想になってきます。
 「白夜よ、今こそ我らが世界となれ」
 二人の攻撃もレギュレイスの足を止める事は出来ず、湧き出し続ける白面ホラーの物量に零・翼・邪美は押さえ込まれ、鋼牙も岩の下敷きで絶望的な状況に陥ったその時、なんとか一矢を報いようとするも弾き飛ばされてしまったリンの筆に気付いた鋼牙がそれを掴むとリンに呪文を促し、大事なハンマー移動ならぬ筆移動を見せた鋼牙が、間一髪、ガントレットだけ召喚でレギュレイスの振るう怒りの矢を弾き返し、《おうぉー おおおおおー おおおーおー おーおーおーーー!》は、大変格好良く決まりました。
 「無駄だ、間もなくこの世は我が一族のものとなる」
 「貴様等の住む世界などない!」
 劇中でハッキリ語られませんが、恐らくはリンの母親の形見かと思われる法師の筆がキーアイテムとしてしっかり機能し、ホラーの攻撃を弾きながら段階的に鎧を装着した鋼牙は、顔出しアーマーの姿から、遂に黄金騎士ガロへ。
 ……の直後に、レギュレイスに肉の芽を打ち込まれて背中から節足状のパーツが飛び出してくるのが今作のパターンですが、苦境の中、ガロは手にした鷹麟の矢を自らに突き刺す事でスタンド能力にじゃなかった、邪気を払い、その脳裏に再び亡き母の姿と言葉が甦る――。
 矢の力をその身に宿したガロは、消し飛んだ節足に変わり複数の光輪を背負い、本編ラストのハードルを越えるとんでもない見た目の鷹麟モード、黄金騎士ガロ・レクイエムを発動すると、天空へと矢を投擲。
 その一投は巨大レギュレイスを貫いて白夜の結界を破壊し、天魔降伏の儀式の成功により、レギュレイスの一族は浄化されるのであった……。
 死闘は幕を下ろし、無数の蝶を舞わせる華やかなリンの術に翼も笑顔を浮かべ、前半のリンの「ねえゴンザ、どうして男は魔戒騎士になると、優しくなくなるの? 笑わなくなるの?」は、鋼牙への厭味ではなく、翼の事を示していたのが明らかになり、念願かなって兄の笑顔を取り戻すリン。
 そして鋼牙は舞い踊る蝶の姿に、同じ術を使っていた母が幼き自分に向けた言葉を思い出す。
 「大丈夫。母があなたを――守ってあげる」
 リン兄弟にとっては、春のイメージで雪解けを示す蝶が、鋼牙にとっては「魂の象徴」として機能し、両親の姿を見る鋼牙――
 「リン、礼を言う。おまえのお陰だ」
 「え?」
 「俺も、母の事を思い出した。いや、覚えていたんだ。リンの言うとおり、いつも俺を見守ってくれていた」
 邪美はカンタイの地に残る事を決めて“大切な存在”としてリンを抱きしめ、一度は死んだ者が外界に関わりすぎるのを避ける意識もありそうですが、阿門-邪美-リン、と法師の系譜は受け継がれていくのかと思われ……翼兄さんとのフラグの行方も気になります!
 そして一足先に出発した零は、何故か門番の暁くんからの好感度が滅茶苦茶上がっていた(笑)
 「零、彼も連れて行けば良かったのに」
 「俺は一人でいいんだよ。弟子なんてガラじゃないし」
 「そうかしら? あなたは、本当は寂しがり屋のような」
 「おまえだけでいいんだって」
 《丸く収める》スキルは修得したものの、相変わらずロンリーハートな零はバイクにまたがり、前編途中、割と強引に挿入されたバイクの移動シーンに、何故いきなりバイク……? と思っていたのですが、そのバイクで走り去る姿が零の今作ラストシーンになるのは、割と直球の《仮面ライダー》オマージュでありましょうか(長石多可男テイストというか)。
 零の抱える傷を考えると一朝一夕に解消されるものではありませんし、ここは零のそんな情念を大事にしてくれたのが良かった所である一方、いつか、本当の名を呼んでほしいと思える誰かに再び巡り会ってほしいキャラではあります。
 鋼牙が屋敷に戻ると傷ついた絵が修復されており、祝・回し蹴りだけじゃなかった。
 相変わらず避暑地のお嬢様概念を背負ったファッションのカオルは鋼牙フィルターによりキラキラ輝いており、本当はもっとラフな格好をしているのでは、という疑いさえ首をもたげます(笑)
 「……お帰り」
 「……それはこっちの台詞だ」
 「……ただいま」
 「ああ。……お帰り」
 油絵は修復可能(本編でもそのエピソードがあるのが上手い接続に)、からゴンザのナイスアシストが決まり、最後の最後でカオルが正ヒロインの貫禄を見せ、見つめ合い手を取り合う二人、真っ白なキャンパス(「未来」の象徴でありましょう)の上を寄り添うように蝶が舞い、終幕。
 鋼牙が若干丸くなったような気がする事を示すゲストヒロイン・阿門法師のメッセンジャー・鋼牙の母りんへの導線・新たな魔戒騎士との繋ぎ役・健気ポジション・邪美の柔らかい一面を引き出す役目・人質・カオル召喚、と、映画的な尺の中で劇の進行をスムーズにする為にしても、リンが多機能高性能すぎるのはあまりにも頼りすぎで多少引っかかりを覚えていたのですが、最終的に“邪美の継承者”と収まる事で、阿門-邪美-リンが一本の線に並び、魔戒騎士の使命である「人を守る」とは何かといえばそれは、「人を繋ぐ」――「命を繋ぐ」事ではないかと今回のテーマを象徴する役割となり、納得(勿論、鋼牙母の存在も補強になっていますが、これは子役であるリンだからこそ大きな効果を発揮するので)。
 それはまた、鋼牙とカオルそれぞれの帰還・再開・結合へと繋がって示され、全体としてサービス満点のボーナストラック的な作りに、鋼牙の母や新たな魔戒騎士の登場で世界観に広がりを加えつつ、『牙狼』一つの終着点として美しく着地した特別編でありました。満足。