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ヨドンナシステムに不備はない

『魔進戦隊キラメイジャー』感想・第37話

◆エピソード37「せな1/5」◆ (監督:田崎竜太 脚本:荒川稔久
 「ただいまーーー」
 クランチュラ、開始1秒で、超あっさり生還(笑)
 ……返せ! 数日前の精神ダメージを、のしを付けて返せ!!(笑)
 「クランチュラ?! おまえ生きていたのか?!」
 ガルザもちょっぴり心配していた様子を見せ、この二人の絡みが消化不良に終わらなかった事をはじめ生存は大変嬉しいのですが、視聴者の心を弄ぶだけ弄んだスタッフが邪悪すぎます。
 「大爆発で消し飛んだとばかり思っていたが」
 真実はいつも一つ、今明かされる、クランチュラ衝撃の脱出トリックの真相……それは、爆弾邪面を参考にして、ヨドンナの鞭によって作戦前に5分割されていたのだった。
 「地球でもしもの事があったらと思って、五分の一だけ、出陣してたのさ」
 「つまりおまえは、二割引のクランチュラか」
 ……逆にいうと、20%でキラメイジャー相手に完封勝利目前まで行っていた事になり、強い、強いぞ邪面使いクランチュラ。
 これまで残り8割が出てこなかったのは、ヨドン皇帝から徹夜で膝詰めの説教を受けていたからだと明かされ、それにヨドンナが激しい反応を見せる。
 「おい! おまえ皇帝陛下に直接お目にかかる事が出来るのか?!」
 ヨドン皇帝の秘書官を名乗りながら、皇帝と対面した事のないヨドンナだったが、そのヨドンナに皇帝からもたらされたのは、「オラディンに会え」という不可解な命令。
 休日を楽しむ瀬奈と小夜の元に乗り込んだヨドンナは、二人からオラディンの居場所を聞き出そうとするが……いやそれまず、ガルザに聞けば良かったのでは。
 鞭の操作を誤って緑を5分割してしまったヨドンナは、口の軽い緑2号から「アタマルド」の情報を得ると撤収し、やむなく桃は、前のめりな1号・可愛い全開の2号・分析担当の3号・感激屋の4号・超悲観的な5号に分裂した、5人の瀬奈と共にココナッツベースに帰還。
 「見渡す限りの瀬奈お嬢様……眼福です」
 病んでいる相棒の感想はさておき、小夜たちは、机の下で体育座りしているネガティブな5号に驚く事に。
 「瀬奈に、こんな後ろ向きな一面があったとはなぁ……」
 「うん。滅茶苦茶、意外」
 「……でも、それも込みで、一人の瀬奈ちゃんだったんだよね」
 そういえば初期には代役ンで同一人物の掛け合いを行っていましたが、一挙5人という手間のかかったと思われる撮影で、さして違和感のない近年の合成技術の凄さを感じます(恐らく、気付いていないところで色々と消したり足したりされているのでしょうし)。
 ガルザをともなってハコブーの元へ向かうも逃げられてしまったヨドンナが、「オラディンを引きずり出す」に方針転換した頃、大騒ぎのココナッツベースでは、分裂した瀬奈を物理的にくっつけるとあっさり元に戻る事が判明するが、自分自身の存在にさえ悲観的な5号は、合体を拒否。
 「あたしは……戻らない方がいい気がする」
 「確かに、後ろ向きな要素が無くなれば、超前向きで最強な瀬奈ちゃんになるという仮説は、理屈としては、成り立つがねぇ……」
 ↑今回の戦犯
 音楽性の違いから脱退を宣言する瀬奈を引き留める小夜だが、私はフォークがやりたいの! と後ろ向きに鬱々とする瀬奈5号は基地を飛び出していき、自分の事だというのにそれを溌剌と見送る瀬奈フォー。ヨドン反応に出撃した緑フォーは、キングエクスプレスザビューンを史上最速で操ってガルザに乗っ取りの隙さえ見せない強さを見せ、野外の実写映像と組み合わせながら、画面を横に広く使っての巨大戦の映像はなかなか面白くなりました。
 ローラーを呼び出した緑フォーは、ジョーキーの足下を滑って転ばせてドリルでぐっちゃぐっちゃにしてやるぜーと前しか見えないトップスピードの勢いでガルザを葬り去ろうとするが、勢い余りすぎて逃げ遅れた一般市民を巻き込む大惨事に?!
 「駄目ー!」
 ……場面は湘南の海に移り、打ち寄せる波を見ながら黄昏れる瀬奈5号、の前に現れたのは、小夜。
 「なんで?!」
 「もし挫折した時は、湘南で働くって言ってたでしょ?」
 逃げる瀬奈5号を小夜が必死に追いかけて二人は波打ち際でひっくり返り、スローモーションを大胆に使いながら、今回はかなり意識的に、“戦隊らしくない画”を作ろうとしたようなのですが……


 「どうして……僕が、ここにいると?」
 「おまえ……形から入るタイプだろ? そういう奴はな、挫折したら細波海岸だ。俺も昔よくここに来た」
(『仮面ライダーW』第24話「唇にLを/嘘つきはおまえだ」(監督:田崎竜太 脚本:三条陸))

 実際に念頭にあったのかはさておき、作風的にも取っかかりのやり取りが『仮面ライダーW』(塚田P作品)を思い出してしまった事もあって、田崎監督による《平成ライダー》のセルフパロディに見えてしまい個人的にはノイズが多く、ノりにくいシーンに。
 街では市民を轢き潰す大惨事は回避されていたが、緑フォーの問題点を強調しようとするあまりに、叫ぶばかりで行動で止めるのがだいぶ遅かった男性陣が、一斉に緑フォーを非難するのがテンポも感じも悪くなってしまい、一連のくだりはどうもちぐはぐ。
 一般市民をぐしゃっと潰しかけた直後に、緑フォーが「今でも下手する気は全然してない!」と快活に言ってのけながらダブルサムズアップをするのは、「万が一の事を考えない」でのはなく「考える事が出来ない」、文字通りの“人間としての欠落”が鮮やかに描き出されて、狂気の表現として大変秀逸でありましたが(笑)
 事ここに至って、人格の20%を失った瀬奈の抱える爆弾の恐ろしさにキラメイジャーは戦慄し、急遽、湘南へと飛んだ小夜は、どんな時も最悪の事態を想定して備えてきた瀬奈5号の存在があったからこそ、瀬奈完全体はこれまで突っ走ってこられてきたのだと、己の存在意義を疑う瀬奈5号を懇々と説得。
 「じゃあ……あたし……戻ってもいいんだ」
 「……いいんだじゃなくて、戻ってほしいの! ……ごめんね」
 瀬奈フォーも合流して5号と合体し、瀬奈は人間的欠落を回復するが……クランチュラさんの失われた20%に何が入っていたのか大変気になります(笑)
 街では、再び邪悪エクスプレスを発動したガルザがキラメイジンとドリルを責め立て、博多南はやむなく王様を召喚。チェーンソーで頭をかち割られそうになっていたキラメイジンを王様フェニックスが救い、年明け、もうちょっとどうにかなりますかね、キラメイジン……完全メカなら“役割を終えた1号ロボ”で済むのですが、下手に大事な相棒の為に、大変残念な感じが蓄積されて邪メンタルに転換されそうな勢い。
 ……この辺り作り手の側も、キラメイジンを出し続けなければいけない、のは作劇のネックになっている節はあり、物語の方は概ね巧く転がっている作品だけに、商業展開と基本設定の相性の悪さは、どうしてこうなってしまったのやら。新型コロナによる収録体制の変化で、キラメイストーンの掛け合いを取り込みにくくなったのが大誤算だった可能性は推測されますが。
 「オラディンは来た……さあ、何が起きる!」
 ガルザは固唾を呑んで身を乗り出し、湘南から戻ってきた緑桃の攻撃を受けていたヨドンナが、二人を引きはがして王様フェニックスと正対したその時、ヨドンナの顔が突如として異形の存在に変貌。辺り一面に重苦しい瘴気の立ちこめる中、ヨドンナの中に折り畳まれていた超巨大生物――ヨドン皇帝がその姿を現す!
 「全ての魔進どもが揃っての全面対決宣言。この耳でしかと聞き届けた」
 重々しい声音でオラディンの前に偉容を見せたヨドン皇帝の目的とは……
 「その返答だ」
 お返事だった。
 「――改めて宣告する。地球は、我が支配する」
 結果的に強引に呼びつける形になりましたが、そもそもは自分から挨拶に出向こうとしていましたし……ま、真面目な人なの?!
 「今すぐにでも、この手で自ら蹂躙してやりたいが、この大地にはまだ澱みが足りぬ。故にしばらくはこの地では、ヨドンナの姿を取るが、我の降臨は近い。その時が、貴様等の終わりの時だ」
 全て丁寧に説明してくれて、間違いなく、時候の挨拶とお中元お歳暮を欠かさない、律儀な人だ……(ガルザとは、凄く気が合いそうです!)。
 女装趣味をカミングアウトした皇帝が、巨大な竜の尾にも似た左手を一振りすると激しい閃光と共に皇帝を中心として放射状の大爆発が起こり、その軽い一撃で大地に伏す魔進たち。
 「どうだ、この星の海は澱みに満ち、大地は腐りきって、ヨドンヘイムの植民地となるのだ」
 その強大無比の戦闘力の一端を見せつけた皇帝は再びヨドンナボディに収納され……ヨドンナは、宇宙服のようなものなのか。或いは、皇帝の出現時には、逆にヨドンナが皇帝の中に収納されていたりするのか。前者なら完全に皇帝の器ないし擬態、後者ならベースとしてのヨドンナ人格の存在にワンチャンスが有り得て、出来るなら後者が良いのですが、皇帝の格納後、その間の記憶が全くないヨドンナの姿がやや滑稽な哀しさとして描写されているように見えるので、どんな形であれ、ヨドンナ人格の存在が活きる展開を期待したいです(逆に、「器にすぎない」事を見せるならば、最低限これぐらいのタイミングでやっておかなくてはならない、と思うところでもあり)。
 ガルザはヨドンナを回収して帰還し、垣間見えたヨドン皇帝とのあまりの戦力差に、打ちひしがれるキラメイジャー。
 「強すぎる……強すぎる……」
 「みんな、恐れてはならない。君達の叡知とキラメンタル、そして全員の絆があれば必ず倒せる。そう信じるのだ」
 以前にちょっと書きましたが、オラディンと博多南は、昭和戦隊長官要素を二分割している部分があるので、ここではオラディンが長官ポジションとして戦士たちを励まし導く言葉をかけ、なんとか顔を上げるキラメイジャー、でつづく。
 年の最後にとうとうヨドン皇帝(CV:山路和弘)が秘密のベールを脱ぎ、東映ヒーロー作品との関係では、チベットに高飛びでお馴染み烏丸所長(『仮面ライダー剣』)が印象深い山路さんは、引っ張った末の登場に見合う満足のキャスティング。
 首から上が機械仕掛け、胴体から下はクリーチャー系、とキメラ的なデザインですが、顔が少々キタネイダスを彷彿とさせる(角、か……?)のは、今作としての『ゴーオンジャー』オマージュ要素であったりするのでしょうか。
 幹部退場編?!を先に行い、何をやるのかと思った年の終わりに絶望を見せつけて来年に引っ張るという、皇帝にふさわしい仕事ぶりでありました。
 エピソード単独としては、「女性コンビ回」と「瀬奈の普段と違う面を描く」を掛け合わせた結果、「別に説得役は小夜でなくても良かった」(&あれだけ瀬奈に執着しているマッハは特に目立たず)となってしまったのは大変残念で、女性同士ならではの距離感が巧くキーになったり(今回は黄青回と違って、普段の絡みの少なさが裏目に出る事に)、小夜の新たな魅力が引き出されるといった事もこれといってなく、今作のアベレージからしても過去作の女性戦士回を見渡しても、荒川脚本としては平々凡々たる出来。
 また、「他人のネガティブな部分を肯定的に受け止める」という充瑠の役割(普段なら「なんか違う気がする……」と呟いていた筈)が、そのまま小夜にスライドするような話運びになっており――勿論、説得役が充瑠だったら海のシーンの演出は変わっていたでしょうが、逆に言えばそこで、「あの説得シーンに小夜ならではの面白さはあったか」と考えると、キャラの掘り下げという点においてはあったとは思えず――、典型的な、構成の都合で物語が歪められる形になってしまいました。
 皇帝出現が最大のポイントなので、復帰した緑桃もさしたる活躍もないまま消化不良で終わってしまいましたし。
 最終章を前に、横の繋がりを確認&強化するべく、男性コンビ回・充瑠×ファイア回・女性コンビ回、とやってくれた流れそのものは良かったのですが、最後の一つが不満を感じる出来映えで、中盤ならともかく、残り話数を考えるとキャラの関係性について一区切りになるエピソードであろうだけに、惜しまれます。
 次回――ちゃんとあって良かった宝路回。叔父さんとの関係がどう描かれるのか、そして邪面師の活躍が楽しみです。