『魔進戦隊キラメイジャー』感想・第28話
◆エピソード28「時雨泣き」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:金子香緒里)
充瑠は久方ぶりに夢の中でオラディン王と出会い、わざとらしくフェニックスの絵を描いていたり、相変わらず……不穏。
「次は、ここではない場所で会いたいな」
「それ、どこですか?」
「扉を開けて入ってきてくれ。ただし、扉は一人一回しか開けられない」
「扉?」
「煌めきこそが、私に通じる」
謎めいた言葉と共に青く透き通る鍵を手渡された充瑠は目を覚ますと、夢でオラディン王に会った事をマブシーナに話し、私の夢には出てこないんですけどお父様! と、ジェラシーを燃やす姫様、可愛い(笑)
ドラマの役柄に入り込んでいた時雨が介入してややこしい事になり、ぷんすかする姫様の傍らで、夢で貰った筈の鍵を手にしている事に気付く充瑠だが、市街地で謎の爆発事件が発生。その爆発の様子が、クリスタリア襲撃時にそっくりだとのマブシーナの言葉に出撃するキラメイジャーだが、見えない敵の謎の攻撃により、キラメイジンがあっという間に戦闘不能に陥ってしまう。
試験運用中、とヨドンナと謎の敵は姿を消し、輝きを澱ませ、活動不能になってしまったキラメイストーンを治す方法はただ一つ、聖地アタマルドで奇跡の輝きを浴びる事。
だが聖地は、幼い頃にオラディンの指南役を務めていたストーン界の重鎮・ハコブーしか行く事が出来ず、そのハコブーは、地球にバカンスに来ている間にクリスタリアが陥落した事に絶望しており……って、えらくカジュアルに遊びに来ているなストーン!(笑)
ここまでの流れだと、事前にガルザが「ハコブー、たまには骨休めでもしたらどうだ?」とか親切めかして三泊四日地球バカンスツアーのしおりを渡していたりしそうですが、むしろその方が納得がいくところではあります。
「まずは、心のケアが必要ね」
失意と自責の念から姫様の元にさえ馳せ参じず、心を閉ざして南の島に引きこもっているというハコブー(以上、エクスとプレス情報で、そこで人格が分かれているのか……)の説得役を買って出る小夜だが、それにストップをかけたのは、永遠の24歳・押切時雨。
「いや……ハコブーに必要なのは、医者の診療じゃあない。……こんな時、心を癒やして、活力を与えてくれるのは…………エンタメだ! エンターテイメントだ!! 俺が行く!」
やたら気合の入った時雨は充瑠を助手に連れてザビューンに乗って南の島へと向かい、いざとなったら捨てられた子犬のような瞳攻撃をオプションで行使する予定です。
「突然の訪問を、お許し下さいハコブー殿!」
二人は南の島で巨石ハコブーを発見し、時雨らしく芝居がかりつつも(相手の性格を考慮して第一印象で足がかりを作ろうとするのも役者らしい)、まずは礼節を持って丁寧に要件を切り出すところから始まる(まあこの場合、石の方が不法滞在では……? という気はしますが)のは、大変『キラメイ』らしい描き方。
力を貸してほしいと訴える充瑠と時雨に対し、もはや仲間を思いやる感情さえも失っていると告げるハコブー(CV:稲田徹!)だが、ならば喜怒哀楽を取り戻したら力を貸してほしい、と二人は持ちかけて交渉が成立し、さっそく、石を相手に始まる漫才、は、凄く“戦隊”らしくて笑ってしまいました(笑)
まあ、実際に緊迫した状況で漫才(隠し芸含む)を始めた戦隊は過去に2つほどしか記憶にありませんが、この辺り、戦隊初参加作(『ルパパト』)で宇都宮Pや香村さんに揉まれた影響なのか、金子さんは割と、「“戦隊”らしさとは」を念頭に置いて脚本を書いているイメージ。
そして、みんなの名乗りを次々と決める充瑠、は馬鹿馬鹿しさが突き抜けてちょっと面白かったです(笑)
だが石は全く無反応で……続いてブルーが披露した剣の技にも、微動だにせず。
「本当に、感情が死んでしまったのか?!」
「どんまい時雨、どんどん行こう!」
……おバカな二人は置いておいて、
「被害が広がる前に、あの透明な敵をなんとかしないと」
真剣に対策を練る残留組は、見えない敵の正体は、プロジェクションマッピングのように画像を体に投影して一種の擬態をしているのではないかと思い至り、ヨドン反応に出撃。
「なにを撮ってるの?」
「透明マジックの種だよ」
女帝がしれっとヨドンナの背後を取っていていいのかはさておき、シーンとしては面白くなりました(笑)
一方、孤島の二人はギターとマイクを用意して歌い始め……失意で引きこもっているところに見知らぬ2人組がやってきてPerfectに浸りながら俺格好いいのテーマを歌い始めたら、湧いてくる感情は怒りだと思いますが、まあ、「喜怒哀楽」だから「怒り」でもいいのか。
「辛いよな……」
今度も全く無反応のハコブーに対し、歌を中断した時雨の眼からこぼれ落ちる涙。時雨はハコブーの境遇に同情すると、涙を流しながら己の力不足に悔し涙を流し、そんな時雨の姿に、思わず貰い泣きするハコブー。
「そんな! 二人とも、泣かないで! ……あれ?」
間に立った充瑠が何かの既視感を覚えていた頃、黄緑桃銀は、隠匿映像用のタブレットを手に逃走した強化ベチャットを追いかけ、狭い建物の中で争奪戦に突入していた。
伝統芸のアイテムパス合戦を踏襲しつつ、建物内部での目まぐるしいアクションを手持ちカメラのような映像で追いかけながら見せるのがスピード感と迫力満点で、戦闘員を追いかける黄 → 走りながらアロー召喚 → キャッチして後方に向けてシュート → 仲間達をフェニックス → 追跡続行する黄は背後から矢を受けてダッシュしながらフェニックス、が非常に格好いい流れ。
この間、一切のカット割りをしない戦隊では珍しい長回しなのですが、更にそのまま、タブレットを奪い返した戦闘員が二階の仲間に投げて二階の戦闘員がそれをキャッチ、を即座にカメラに収め、直後に階段下にカメラを向けると、黄が床下から貫通射撃! とスピーディーな流れで痺れるアクション。
その後も、カットの切り替え無しに多対多の争奪戦が狭い建物内部で繰り返され、近接格闘あり、現場では見えない光線をかわすのあり、黄と戦闘員を追いかけてカメラも段ボールに突撃、と長回しでの展開にビックリの超濃密な約1分。
わからないのはこの後、銀と戦闘員がもつれるように窓から飛び降りた後で、落下した二人を捉えたカメラが二階→一階へとそのまま追いかけていってカット割らずに地上からの映像に繋がっているのですが……どうやっているのか、これ。
もしかするとここまでのシーンでも、複数のカメラを用いているが、カットを割っていないように見せる技術が駆使されたりしていたのかもですが、狭い建物内部での見せ場たっぷりの追いかけっこに長回しによって増幅するスピード感を組み合わせ、戦隊では珍しい見せ方がスパイスになっている点も含め、非常に充実したアクションシーンでした。
敵が強化戦闘員(簡単に一撃で倒せるわけではない)だから成立しているのも、物語全体の流れの中でお見事。
最後は銀がワンダーゲットしたタブレットを破壊すると、隠匿が解除された姿を現したのは、通常の邪面獣の二倍のサイズを誇るヨドン巨獣。
「姿が見えたところで、おまえらではどうにも、できないよ」
ヨドンナの指示に従って巨獣が攻撃を開始し、広げた翼を振るうと屋根の瓦や自動車が吹き飛んでいくのは、どちらかといえば円谷テイストの映像ですが、今作の志向の見えるところではあり。
一方、南の島では時雨につられるように大泣きしたハコブーが己の憂いを吹き飛ばし、全ては事前の情報から貰い泣き狙いの計画通りだった、と時雨が充瑠にこっそり説明。
「え?! それじゃあ、全部演技だったの? どっから?」
「漫才から、全て布石だ」
「マジですか……」
やたら高いテンションは、素っ頓狂方面に振り切れていたのではなく、激情のあまり泣き崩れる姿に違和感を出さない為のキャラ作りであった、と目を剥いて自慢げ(笑)
「でも、ハコブーには内緒だぞ。騙しているようで申し訳ない」
割と今作、嘘も方便路線で突き進みます。
「たとえ演技でも、心が救えたら本物だよ。凄いよ、時雨さん」
「そう言って貰えると、役者冥利に尽きる」
それに対して、笑顔で心から讃えられる充瑠と、出発前の宣言通り、そんな「エンタメの力」に誇りを持つ時雨の言葉は、大変良かったです。
まあ、「見る方も演技だとわかっていて心を動かされる」のと「見る方は演技だと知らずに心を動かされる」のは、本質的な意味合いが違うとは思うのですが、言いたい事には共感できますし、充瑠と時雨の表情が大変良かったので、良しという事で。
博多南から連絡が入り、ハコブーに乗り込んだ2人は巨獣に苦戦する仲間の元へと救援に駆け付け、黄金のドラゴンのような魔進ハコブーが巨獣に噛みついたところで、つづく。
音楽祭は、劇中でも一部披露された、しっとりバラード……からの「なんか変だよね」が大変面白かったです(笑) ……いや笑うところではないかもですが、歌詞に合わせた映像の編集(仲間の顔がここで入る)も素晴らしく、アニキの魅力のよく出た名場面集でした。
新アイテム登場回の前編という、メインライターが出てきても良さそうなエピソードを任された金子さんが、キャラ回と新装備登場を見事に両立させたのは、今後に向けても大きそう。
次回――新ロボ登場になりそうで小夜回にするのは難しそうな雰囲気で、ここで一回、博多南ソングを挟んでおくのか??