『海賊戦隊ゴーカイジャー』感想・第47話
◆第47話「裏切りの果て」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:荒川稔久)
――「俺の夢を邪魔するものは、死、あるのみ」
「やっほーマベちゃん。電話くれるなんて嬉しいじゃん」
全ての“大いなる力”を揃える為、バスコと雌雄を決しようとする海賊戦隊。お互いステルス機能付きの船なので、目視で探し回るのとか面倒くさすぎる……と例しに電話で連絡してみると、電話、出た。
「“大いなる力”が揃ったから、決着つけようっていうんでしょ? いいじゃないいいじゃない。どうする? いつどこにする?」
「ちょっと待て。…………明日にするか?」
待っていたかのようなバスコの受け答えに若干うろたえたマベは仲間に相談するが、既にガレオンを発見済みだったバスコの奇襲攻撃がガレオンの船体を揺るがす!
「さあマベちゃん。……派手に行こっか」
飄々とした態度から一転、厭味たっぷりに悪意の刃を閃かせ、独特の口調に癖のある表情で、演じる細貝圭さんが、本当にバスコというキャラクターの完成度を高めてくれました。
主人公のライバル役としてあまりにも強烈な存在感ゆえに、ある意味ではこの後10年に渡る呪いになってしまうのですが、〔滝沢直人 → シロガネ → 霞兄弟 → 仲代壬琴 → 理央・ロン → 腑破十臓〕という、00年代顔出し二枚目ライバルポジションの系譜における集大成と呼ぶにふさわしい素晴らしさ。
金曜ロイドと日曜ロイドの攻撃を受けた海賊戦隊は、連続“大いなる力”から敢然ゴーカイオーでこれを粉砕するが、戦いを終えると眼下でバスコがサリーに銃を向けており……
「サリー、ロイドが品切れになった以上、君に食べさせるバナナはないよ」
バスコは用済みのサリーに銃弾を浴びせて立ち去り、思わずサリーの元へと向かうゴーカイジャー。駆け寄るハカセ・アイム・鎧と、少し遅れて続くマベ・ジョー・ルカの描き分けが細かく上手く、戦隊はホント、こういうところに演出が目配りできるかで大きく印象が変わるな、と改めて。
「どうしよう……」
瀕死のサリーを前に顔を見合わせる中、マーベラスは、“切り捨てられたサリー”と、“捨てられた自分たち”を重ね合わせずにはいられず、重い口を開く。
「……ガレオンに連れてって手当してやれ」
ジョー・ルカの抗議にマベは背を向け、アイムらによりガレオンで治療を受ける事になるサリー。鎧がサル語によるコミュニケーションを試みるとなんとなく話が通じ、鎧・サリー・ハカセがソファに並ぶ映像は、完全にわざとだ。
そして……その光景に、同じ場所でバスコに傷の手当てを受けていた過去を思い出すマベちゃん(笑)
君はホント、そういうとこあるよな……。
「ったく、マベちゃんさぁ、弱いんだから格好つけて、アカレッドの真似してると死んじゃうよ」
「うるせぇ! 自分だって大して強くねぇくせに」
「まあね。でも俺が飯作んないと、みんな飢え死にしちゃうよ。せっかく仲間なんだからさ、自分の出来る事をやればいいじゃないの」
ハカセへの言葉、よりによってバスコの受け売りだったーーーーー!
まあ、先にアカレッドがよく口にしていたとかあったのかもしれませんが、なんだかんだ兄貴分に弱いマベ、というのは貫かれている意図的なものであろうな、と。また、後に残酷な裏切りが待っていたとしても、“その時”は“その時”で否定しないのも、アウトロー戦隊としての今作らしさといえるような気はします。
「……仲間か。わかってるよ」
「ならいいけど」
これはつまり、マーベラスにとっての“取り戻せない青春”であって、80年代曽田戦隊的「青春」テーゼの、宇都宮-荒川-香村ラインによる00年代咀嚼であったのかもしれない、とここに至って思うところです。
――「なにかを得る為には、何かを捨てなきゃ。俺、あんたたちを捨てるよ」
だがその時間は終わりを告げ……険しい表情でブリッジを離れるマベの姿にルカとジョーが目配せをかわしあい、見張り台に一人立ち尽くすマベに上着を届けるお母さんもといジョー。
「どういうつもりなのか。聞かせてもらおうか」
だが、黄昏に沈みゆく空を見つめるマベは、ジョーの問いにも口を開かない。
「……罠に決まってるだろ」
「……だろうな」
「だったらなんで」
「……わっかんねぇ」
「……は?」
「あの猿がバスコに裏切られたのが芝居だとしても、あの猿はどうせこれからバスコに裏切られるんだろうなって……心配すんな。別に仲間に入れようってわけじゃない」
バスコに愛嬌と芝居のテンポと一筋縄ではいかない印象を付加し、戦闘のサポート役としても大活躍だったサリーにここでもう一仕事、マーベラスがかつての自分を重ねる役割を与えて海賊戦隊と繋げたのはお見事。緑桃銀だと純粋な良心と同情で止まってしまうので、青黄が当然のように警戒した上で、それでもサリーを捨てる事を選べないマーベラスの姿により、サリーを媒介にして、バスコとの因縁がもう一押しされてくれました。
……そしてこれ、マベにトラウマを与えた張本人(バスコ)が、マーベラスが捨てられないであろう事を計算しているのが、大変な性格の悪さ。
「……本当か? ……うちの船長は、信じられないお人好しだからな。……元ザンギャックに、女盗賊、ろくに戦えそうもない技術者に、お姫様、通りすがりの地球人。一度裏切られた男が……よくここまで集めたもんだ」
「……ジョー」
マーベラスは顔をしかめ、これを言って許されるのがジョーだけ、という二人の関係性の表現、そしてそれをわかってジョー一人を行かせるルカ、と最後まで手抜きの無い人間関係の描き方が嬉しいポイント。
「――好きにしろ」
ジョーはマベの決断を尊重するが、その夜、サリーは逡巡しながらもバスコの命令通りに宝箱を盗んでガレオンを抜け出し、バスコの元へ。ところが、銃で撃たれた際の記憶が甦って足を止めたところ、後を付けていた海賊戦隊に声をかけられる。
「本当にいいのか?」
飼い主であるバスコか、優しく接してくれた海賊戦隊か、揺れ惑うサリーのヒロイン力が急上昇だ!
「おまえは黙ってろ。いくら作戦だとしても、仲間をわざと傷付けるなんて、酷すぎる」
どういう存在か色々謎だったサリーですが、バスコがここまで仕込んだと発言して飼い主のエゴを剥き出しにすると鎧が強い正義感でそれに反論し…………な、渚、さやか……う、ううっ、頭が……。
バナナと人情の間で揺れ動くサリーは、葛藤の末に海賊戦隊を選び、進み出て、勝ち誇るマーベラス。
「最後の最後に大逆転ってとこだな。人を裏切り続けてきたてめぇが悪いんだよ!」
「ははははははっ! マベちゃーん、人を裏切り続けてきた俺が、猿を信じてるとでも思う?」
だがそれこそがバスコの思惑通りであり、バスコは爆破スイッチをぽちっとな。
「何かを得るためには、何かを捨てなきゃ」
バスコが事前にサリーに与えた、「お守り」の首飾りに仕掛けられた爆弾が起爆し、サリーーーーー!!
“動物にだけ心を開く男”なのかもしれない、と思わせる余地を作っておいて、“動物にも心を開かない男”だったのは予定調和に近い落としどころではありますが、利用価値がある内は十分に可愛がり、戦闘でかばう様子を見せるなどの積み重ねも上手く、ここまで、バスコの本性を不透明にする効果も含めて、良い引っ張り方になりました。
……にしても、死に様が……えぐい……。
サリーは跡形も残さず木っ葉微塵、マベは意識不明の重傷を負い、怒りを燃やす5人はゴーカイチェンジ。ダイレンジャー・ハリケンジャー・ギンガマンを次々と繰り出すが完全バスコには全て通用せず、完敗。
「やーっと揃った。34の“大いなる力”……全てのレンジャーキー……ゴーカイガレオン……そしてナビィ。宇宙最大のお宝は、この俺のもんだ」
6人を倒してレンジャーキーを奪い取ったバスコは、ガレオンに入り込むと騒ぐ鳥をぺしっとはたき落として踏みつけにしながら船長の椅子に腰を下ろし、雷鳴の轟く中に高笑いが響いて、つづく。