東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
旧ダイアリー保管用→ 〔ものかきの倉庫〕
特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)
HP→〔ものかきの荒野〕   Twitter→〔Twitter/gms02〕

スーパー藤井邦夫タイム

超獣戦隊ライブマン』感想・第17-18話

◆第17話「泣く人形!襲う人形!」◆ (監督:東條昭平 脚本:藤井邦夫)
 見所は、玉乗りしながら現れる頭脳獣。
 「ケンプが探し続けている心を持った人形。本当に居たとは」
 「確かにあの人形、持ち主の必死の願いが乗り移り、心を持っている。とうとう発見できたか」
 病弱な妹・春子を元気づけようと陸上競技に打ち込む姉・令子の為に作られた人形トトに心が宿るザ・藤井節。
 ファンタジーとしてはそんな事もあるだろうという要素なのですが、基本的に「科学」テーマ寄りの今作において、超科学的解釈などを一切交えずにオカルトをそのまま突っ込んでくる為に非常に咀嚼しづらく、持ち込んだメルヘンやロマンスが物語性と噛み合わないまま進行する、悪い時の藤井脚本。
 年間のバリエーションとしてメルヘン的なエピソードがあっても良いとは思うのですが、あまりにも『ライブマン』と接続する為の仕掛が不足しており、素材が巧く馴染んでくれませんでした。
 ……前回と比べると、いきなりキョンシーが出現したところから、複雑な過去の因縁と絡めて確かに『ライブマン』にしてしまうのが、曽田さんの魔術といいましょうか(この辺りは勿論、求められている役割の違いなども出ますが)。
 「あの人形を奪うのか」
 「当然だ! だが、力尽くで奪っては、人形の心が消えるかもしれん」
 念を入れたケンプは、令子の夢枕に囁いて悪魔の靴と人形を取引すると、手に入れた人形を素体にピエロヅノーを作り出し、藤井先生のメルヘン趣味がすっぽ抜けて三塁側ベンチ前まで転がっていくパターンの中、とんちきな作戦行動に終始大真面目なケンプの体調が不安になります。
 ケンプは、心を持った人形により心を持たない人形を操る事で街をぬいぐるみパニックに陥れ、ぬいぐるみを利用する事で、愚かな人間の唱える優しさが欺瞞に過ぎない事を暴くのだ、と理論武装
 令子の頑張りを見守っていためぐみが、ピエロヅノーの素体がトトである事に気付いて説得を試み、後は、めぐみさんの可愛さで強行突破。
 3人パーティの紅一点でフォーカスしやすく、また、女性メンバー二人体制の時期に培ってきたキャラクター性を一人に統合した、という要因もありますが、めぐみさんの“強くて可愛い、そして賢い”は、80年代戦隊ヒロインの究極体ともいえる造形で、それを見事に受け止めてみせた森恵さんは、会心の好キャスティング。
 めぐみ必死の説得が功を奏して正気を取り戻したトトは、令子に悪魔の靴を脱がせ、ピエロヅノーはライブマンが撃破。トトと一緒に頑張れば、その真心こそが妹に伝わって励みになる筈だとめぐみは令子を諭し、姉妹の抱える根本的問題は解決しない(しようがない)まま終わるのは、この時代らしさでしょうか。

◆第18話「罠!丈の愛した頭脳獣」◆ (監督:長石多可男 脚本:藤井邦夫)
 珍しく険しい表情のビアス様がマゼンダの前にガラス瓶を投げ捨て、その中身に目を開くマゼンダ。
 「マゼンダ、それが何かわかっているな」
 「……はい」
 「おまえは自己改造した時に人間・仙田ルイを捨てた。かすかに残っていた、優しさと愛する心の遺伝子もな」
 「はい」
 「ではなぜ! 優しさと愛する心のこの遺伝子が、おまえの実験室に大切に保管してあったのだ。人間と地球を支配しようという超天才にあるまじき愚かな行為、許しがたい」
 瓶を投げたり踏みにじったり見せつけたり、ビアス様が大忙し。
 「……私は、愚か者ではありません」
 「ではなんの為に、このくだらぬ遺伝子を保管しておいた?!」
 狼狽して目を泳がせるマゼンダは咄嗟に、その遺伝子のカオスで頭脳獣を作りライブマンを倒してみせると宣言。
 「面白い作戦だなマゼンダ」
 凄みを効かせてマゼンダを見下ろすビアス様が握った瓶を落とすとバラバラに砕け散り、そこにサブタイトルが入るのが、格好いいアバン。
 そして……派手なスケボーのトリックを決めていた丈は、怪我をした少年を助ける白いワンピース概念のマゼンダそっくりの女性を目撃し、そう、予告からそんな予感はしていましたが(今作だと井上敏樹の可能性もありましたが)、今回も、藤井節全開でお届けいたします!
 「マゼンダの奴いったい何考えてんだ?」
 「きっと何か企んでるんだ。俺たちもそっちに行く。油断すんなよ」
 「そう、クライムは悪いに決まってるんだ」
 ……じゃなかった、マゼンダ?を尾行する丈だが、妙に可愛い声のマゼンダ?は今度は老婆が階段を登るのを手伝い、少女の為に水に濡れてボールを拾い……その姿に困惑を深める丈。
 (優しすぎる……マゼンダにしては優しすぎる。……変だな。顔かたちはルイだ。でもその心は優しさと愛に溢れ、まるで正反対。まさか……)
 マゼンダ?を追い続ける丈は、坂道を爆走する乳母車を一緒に助けた事から、マゼンダ?は、マゼンダではない、と結論づける。
 (人のために優しく、涙まで流す。この人はルイじゃない。ルイによく似た別人なんだ!)
 元より惚れっぽい丈は「レイ」と名乗った女性と公園で花を愛で、長石監督の、女優さんはなるべく綺麗に撮ってあげよう力が炸裂!
 「完全に気を許したな丈。ツインヅノー、丈を早くアジトに誘い込め」
 それを正真正銘のドクターマゼンダが見つめる中、順調にいい雰囲気になっていく二人。丈はレイにペンダントを贈り、それを受け取ってはにかむレイだが、丈が離席した隙に、焦れるマゼンダの平手打ちが炸裂!
 声と芝居と映像と演技の合わせ技により、危うく視聴者も眩惑されかけたところで、しっかり、マゼンダの悪を見せてくるのが、手堅い。それにしてもマゼンダ、第3話か4話ぐらいから顎周りのメイクが追加されたのは、油断すると顔が綺麗に撮れすぎるとかだったのでしょうか……。
 「丈……私のレイって名前、「冷たい」って、書くの……私は……私は……さよなら!」
 自宅と称したアジトに近付くも、丈を罠にかける事に苦しむレイは丈を振り切って走り去るが、それを追いかけた丈は結局、罠にはまって地下室に落下してしまう事に。
 「許して……許して丈」
 泣き崩れるレイを見下ろしながら階段を降りてきたマゼンダが光線を浴びせると、レイの姿は醜い頭脳獣ツインヅノーへと変貌。
 「丈、おまえに高性能液体火薬を注入し、人間爆弾に改造してライブマンの基地に送り返し、一気に破壊してやる」
 罠にはまったヒーロー史上でも結構大変な事になりかける丈だが、赤と青が駆け付けて救出され、バイモーションバスターでツインヅノーを消し飛ばそうとする二人を止めると、ライブマンは一時撤収。
 「だけどあの頭脳獣はレイって人なんだ!」
 レイ/ツインヅノーについて、ルイそっくりの女性が頭脳獣に改造されたと捉えている丈が基地を飛び出していく一方、マゼンダは砂浜に佇むレイの姿を、複雑な面持ちで見つめていた。
 (私の捨てた、優しさと、愛する心……)
 そこにケンプが姿を見せ、vsライブマンという構図のみならず、ボルト側の人間関係も肉付けしてくるのが秀逸。
 今回巧いのは、レイが“もともと性格の良い怪人”とか“色々あって良心に目覚めた怪人”とかではなく、“優しさと愛する心の化身そのもの”であり、その優しさも、丈と惹かれ合った事も紛う事なき真実であると共に、苦し紛れの罠を張った結果として、はからずもマゼンダが、擬人化された自らの良心を目の前に見せつけられている構造。
 それは目を逸らそうにも否定できない自らの真実の一部であり、ここまで読んだ上での「面白い作戦だな」だったら、大教授、えぐい。
 また、“ハートの形をした遺伝子から生まれた怪物がヒーローと恋に落ちる”のもメルヘンといえば実にメルヘンなのですが、それを“生体改造の際に捨てたはずの愛と優しさの心”と置く事で『ライブマン』の物語性としっかり接続されているのが、前回との差といえます(同時に、「遺伝子」が具体的な物質でも、寓意的な象徴でも成立するようになっている)。
 「どうしたマゼンダ? おまえまさか……レイを見ていて人間としての自分を、取り戻したくなったのか」
 「黙れケンプ! 私は、ライブマンを倒す!」
 唇を噛んでマゼンダが立ち去ると、そのやりとりをドクターアシュラが物陰で聞いており、アシュラ参戦後、やや散らかっていたボルト側の人間関係が新たなスパイスを加えて再構築されそうなのは、今後へ向けた好材料
 「私は……仙田ルイが捨てた、優しさと愛する心の遺伝子のカオスで作られた、頭脳獣だからなのよ」
 再び砂浜に駆け付けた丈に対しレイは自らの正体を語り、レイ/ツインヅノーに秘められた事情を知るライブマン
 「レイ……このペンダントは、俺が君の優しさを信じた証だ。……たとえ君が頭脳獣だとしても!」
 だが丈は「レイ」という存在を信じてペンダントを再び握らせ、泣き崩れるレイ、やるせない表情を浮かべる丈たち、逆巻く波濤を背景に、役者さんの表情をたっぷりと引き出す、実に長石監督らしい演出。
 長石多可男×藤井邦夫というと、前作『マスクマン』第26話「熱砂に消えた命!」が、良い怪人×交流と悲恋×海、と今回に近い素材が並んだプロットなのですが、このエピソードではマスクマン側が“醜い怪物としてのゲストの正体”と実質向き合わないままだったのが非常に不満だったので、今回は丈がレイ=頭脳獣と知る段階を踏まえた上でその先へ進んでくれたのは、とても良かったです。
 「マゼンダ、レイがおまえの捨てた優しさと愛する心なら、俺は意地でも守り抜くぜ!」
 「くだらぬ意地だ。かかれ!」
 勇介とめぐみが戦闘員を相手取っている間にレイを連れて逃げようとする丈だが、その前に立ちはだかるマゼンダ。
 「破壊してやる。優しさと愛する心の遺伝子で作ったレイを!」
 「やめろマゼンダ! おまえに人間の心が少しでも残ってるなら、レイを頭脳獣に戻すな!」
 「さらばだ、レイ」
 レイを必死にかばう丈に対し、躊躇うような表情を浮かべながらもマゼンダは光線を放ち続け、最後は丈をかばって光線を浴びた事で、レイはツインヅノーへと変貌してしまい、砂浜に無情に落ちるペンダント。
 「あははははははは! あははははははは! あはははははは……」
 自らの優しさと愛する心を葬り去ったマゼンダは狂ったように笑い、今度こそ完全に人間を捨てた……のかと思いきや、丈に背中を向けるとその頬を涙が伝い落ち、それをアシュラだけが見ていたというのが、渋い。
 「……マゼンダ」
 「マゼンダ!」
 哀惜の表情を浮かべていたマゼンダが涙をぬぐい振り返ると、文字通りに人の心を捨てたマゼンダに対し、怒りを向ける丈。
 「どうしてわかってくれなかった? よくもレイを。許さん! ――イエロー・ライオン!!」
 単独変身バンクから主題歌イントロが流れ出して、マゼンダに躍りかかるイエローライオン。ツインヅノーの光線技を回避した勇介とめぐみも変身してOPに合わせて戦闘となり、前回から一転、悲恋ロマンス趣味が鋭い回転でインコースギリギリに決まった藤井脚本と、名匠・長石多可男の情感溢れる演出が絶妙に噛み合って、ドラマからクライマックスバトルへの劇的な切り替えが、完っ璧。


悲しみ溢れた時は 勇気の鐘を鳴らすのさ
涙の欠片ぬぐって 希望に巡り会える日まで

 イエローは悲しみのライオンパンチをツインヅノーに叩き込み、生命のヒーローは、バイモーションバスターでフィニッシュ。巨大ツインはざっくり超獣剣の錆となり、ヅノーベースから地球を見つめるマゼンダに近付くドクターアシュラの手には……丈がレイに贈ったペンダントが。アシュラは無言のままそれをマゼンダに投げ渡して去って行き……渋い。
 「マゼンダの奴……どうしてルイの優しさと、愛する心の遺伝子を取っといたのかな」
 「わからない。でも私、マゼンダがツインヅノーを作るためだけに、取っておいたとは思いたくないわ」
 果たしてそれは、捨てた筈の人間への未練だったのか? 答は誰にもわからないまま、丈は砂浜に、この世に命を得ながら、波間に浮かぶ泡沫のごとく儚く消えていったレイの幻を目にする――
 (さあ……大地にしっかり根を下ろして、花を咲かせるのよ)
 「レイ……」
 しばし幻影と戯れる丈だが、やがてそれは寄せては返す波にさらわれ消えていき、丈は決意を持って、遠い海を見つめる。
 ナレーション「丈は願った。優しさと、愛する心の遺伝子で作られたレイが、かすかにでも、マゼンダに残っている事を」
 「また会えるさ、レイ」
 果たしてその想いが、マゼンダの中のレイを、揺り動かす日は訪れるのか……?
 趣味が合うのか長石×藤井コンビは毎年のようにこういった雰囲気のエピソードを手がけており当たり外れはありますが、藤井先生お得意の悲恋物というのみならず、人が好くて真っ直ぐな丈の格好良さを引き出した上で、ボルトサイドの人間関係の掘り下げに、先々へ繋がる様々な感情の流れも描き、およそ17分の尺でここまで詰め込めるのか! と濃厚な内容で、今回は大当たり。
 怪人との交流エピソードに悪の幹部顔出し活躍編を組み合わせた基本はオーソドックスな作りながら、そこに横軸の人間関係を盛り込む事で1エピソードに収まりきらない物語世界の奥行きを生み出し、それによって「優しさと愛する心」を捨てきれずにいたマゼンダの情も深まる、というのが見事な作りでした。
 前回はメルヘン大暴投、今回は悲恋ロマンス会心の一投、と、どちらも実に藤井邦夫! という脚本が2連発で、溢れる趣味性から出来不出来の落差まで、(2話ずつ配信の関係で)大変濃厚な藤井邦夫スペシャルでした。
 次回――オブラーが、なんだか色々大ピンチ。