『海賊戦隊ゴーカイジャー』感想・第12話
◆第12話「極付派手侍」◆ (監督:坂本浩一 脚本:荒川稔久)
――「それだ……その目。どうして泣き喚かねぇ。助けてくれと言わねえ。さっさと絶望してみせろぉ!」
親衛隊長・凄く強いぞうの登場により、マーベラス意識不明の緊急事態に続き、ジョーが失踪?! 携帯電話で連絡を取ろうとするアイムだが、目を覚ましたマーベラスが、苦しい息づかいを重ねながらもそれを止める。
「マーベラスさん!」
「あいつが一人でっつってんならほっとけ……」
「でもマーベラス」
「……あいつなら大丈夫だ。絶対帰ってくる。それよりも……飯だ」
ここでコケ芸を入れてくれる丹波、本編での丹波の重要なお仕事が(主に姫の)芝居の間合いを作る事だったので、本編と同じような仕事をしてくれて嬉しかったです(笑)
……そういう点では、2年の歳月を経て独立独歩を強めた姫を描こうとすると丹波のウェイトが軽くなる、というのはあって、困ったおじさん度が上がる面はあったのかな、と。
ブリッジで誰かが夜通し正座していた為に、ガレオン脱出に際して見張り台からジェッッットマンした疑惑のあるジョーは、子供を殺せとの命令を拒否して反逆者となり、シド先輩の助けにより脱出した過去を思い出していた。
「ザンギャックに逆らったからには逃げ続けるか死ぬかだ。……だが俺たちは、宇宙に生きる者として、正しい道を選んだんだ」
強大なザンギャックの存在が裏打ちされ、そんな宇宙でしかし「正しい道を選んだんだ」というのは、かつて、「そんな世界」の在り方そのものと戦った『電撃戦隊チェンジマン』の系譜を今作に感じるところ。
「生きていれば、宇宙のどこかでまた必ず会える」
前回の悲劇的再会を皮肉なスプリングボートにした上で、シド先輩の声質も合わせて大変格好いい台詞で、シド/バリゾーグ役の進藤学さんは、あのジョーが憧れる先輩として、十分な説得力を持った好キャスティング。
ジョーとシドは二手に分かれて逃亡し、背後で鳴り響く銃声を振り切ったジョーはその場を離れ……――そして現在、前回マーベラスに叩き飛ばされたバリゾーグの剣の元に向かったジョーの前に、バリゾーグが姿を見せる。
「待っていました……シド先輩」
だがバリゾーグはジョーの呼びかけを完全に無視して剣だけ拾ってきびすを返し、その姿に剣を握りしめるジョー。
「先輩の記憶を……取り戻す!」
ジョーは先輩ゆずりの必殺剣で攻撃するがバリゾーグはそれを軽々と跳ね返し、微塵も揺らぎもしない無感情な声音に加え、ボスの命令が無いので敵として相手にする気さえ全くない完全無視が、実に痛烈。
「私はバリゾーグ。完璧なる機械の体を持つ、ワルズ・ギル様の忠実な部下。シドなど知らん」
立ち去ろうとするバリゾーグはしつこく食い下がるジョーを叩きのめし、殴り飛ばされて回転した際に手にしていた剣も吹っ飛んでいくのが迫力を増し、かろうじて足にすがりつくジョーだがまたも殴り飛ばされ、トドメを刺す素振りも見せずに興味の対象外として去って行くのが、重ねて残酷。
少し横道に逸れますが、殿下とバリゾーグの関係において、周囲に「殿下」「殿下」と飛ばれる殿下が、バリゾーグには「ボス」と呼ばせているのは面白いなと思うところで、ただ単にちょっと格好つけたいだけかもしれませんが、親の七光りを見せびらかして踊る殿下にも、帝国の肩書きを離れたところで他者から敬われたい願望があるのかな、と(でもその為の努力は特にしない)。
「……先輩は……俺の先輩は……もう、居ない……」
大地に突っ伏したジョーは、「生きていれば、宇宙のどこかでまた必ず会える」筈が、そのあまりにも残酷な形に涙をこぼし、“大切なもの”の為に激しい感情を見せる事により、前回-今回でジョーが、“格好付けている男”ではなく紛う事なき“格好いい男”になったのは、掘り下げ方が大変良かったです。
大荒れの殿下は凄く強いぞうに再出撃を指令し、ガレオンではマベが大量の食事の摂取によりルパン回復を行おうとしており、それをじっと見つめる姫……姫……一人お座敷の空間破壊能力が、ホント高いです姫……。
「一つ……聞いて良いか?」
「なんだ?」
「どうしてあの男が戻ると言えるのだ。大丈夫と確信できるのだ」
「決まってんだろ……俺とあいつだからだ」
そして、“格好いい男”を知る、“格好いい男”がここにも一人。
戦隊は基本的に〔チーム〕単位の描写になるので、相性の良し悪しや絡みの多少はあっても、特定の二人の関係性を強調するのは、ラブコメ要素を除くとあまりやりませんが(意図的にそれを組み立てていった金字塔の『鳥人戦隊ジェットマン』でも完成するのは最終盤ですし)、マーベラスとジョーの特別に強い絆を明言する、ぐっと踏み込んだ見せ方(宇都宮P作品的には、後年の『ルパパト』がこの系譜といえるでしょうか)。
「始めて会った瞬間に――運命は決まった」
マーベラスは、鳥を連れて様々な星を渡り歩いていた頃に、ゴーミン部隊と戦うジョーの姿を目にしたという馴れ初めを語りだし、姫に対して口が軽いのは、他のメンバーが船に招いたという事実の重視もあるのでしょうが、手当の件を教えられてその分の借りは返そうとする渡世の仁義もありそう。
「なんだあいつ……やるな」
ザンギャック同士と思われる争いの中で、ジョーの気概と剣技に目を止めたマーベラスは、多勢に無勢のジョーに加勢。
……なんか今、どこかの時空からノイズが割り込みましたが、気にしないで下さい!
「チーフ、どうしてそんなに映ちゃんの事気に入ったの?」
「面白い奴だからさ」
「宇宙海賊か……俺を助けても、金はふんだくれないぞ」
「そんなもんはいらねぇ。……俺が欲しいのは、おまえだ」
どうしても某不滅の牙の幻影が背後に浮かんで仕方がない狙った獲物は逃さないスタイルでマーベラスはジョーをスカウトし、ゴーミン部隊を相手取った二人は自然と背中を合わせながら剣を振るい……マーベラス、絶対、このシチュエーションに憧れてたな……!
「おまえの剣の腕と、その目が気に入った」
戦いが終わり、改めてジョーを勧誘したマーベラスは、発信器付きの首輪@ザンギャック印を、互いにダメージを負いながら強引に解除。
「俺には夢がある……宇宙最大のお宝を手に入れるっていうなぁ。その夢を掴むために……おまえを連れていきたくなった」
「……付き合うぜ。……夢の果てまで」
かくして凄腕剣士ジョーがマーベラス海賊団に加入する事となり、回想シーンの成り行きからすると、ザンギャックにより壊滅した“赤き海賊団”の生き残りとしてその遺産を受け継いだマーベラスにとっても、自ら船長として踏み出した第一歩であったのかと思われ、互いにとってまさに運命の出会いであった事が窺えます(この辺りちょっと、意識的にかRPGぽさもあり)。
「そんな事があったんだ」
それは古株のルカさえ知らない二人の過去であり、1クール目の締めに海賊戦隊の“始まり”が明かされる事で、そこに存在する絆をより劇的に強調しようとする構成。記念作品である一方で変化球なヒーロー像という意識が強かったのか、今作1クール目は「海賊戦隊とは如何なる戦隊か」が繰り返し描かれていくのが一つの特徴といえますが、その積み重ねが、一つのピークを迎える事に。
「なんだか、羨ましいですね」
「ふっ。だから絶対戻ってくる!」
ジョーとの信頼関係を羨ましがられてちょっと得意げなマベだが、凄く強いぞうが海賊に宣戦布告し、傷が癒えぬままに出撃を決意。
「――行くぞ」
「……おまえ達。地球がどうなろうと関係ない筈だろう?」
「ああ。関係ねぇな。これは俺たちの戦いだ」
「……その怪我では無理だ。手を貸そう」
「いらねぇお世話だ。俺の背中を守ってくれる奴が――ちゃんと来る!」
「……成る程」
そして姫は姫で、本編であれこれあったので、こういった仲間関係が間違いなく大好物と思われ、私も丹波と寿司屋以外の供が欲しいぞ……とちらっと考える乙女心なのであった。
親衛隊長率いる大兵団相手にマーベラス達がゴーカイチェンジする一方、シド先輩への想いを胸に野原に倒れ込むジョー……の姿で、画面右側に大きな空間が広がっているのが、良いカット。
そして、その空虚を埋めるのは――
「こいつをやる。モバイレーツとレンジャーキー。夢を掴むための道具だ」
少しずつ賑やかになっていくガレオン内部が回想で描かれ、マーベラスの過去はまだ断片的なのですが、“赤き海賊団”壊滅→ソロ航海→ジョー→ルカ→ハカセ→アイム、と徐々にクルーが増えて現在の海賊戦隊が出来上がった姿が描かれ、マーベラスもジョーも、互いに大切な物の喪失を経験した同士なのは、二人の共感の要因の一つであるのかも。
「……そうだ。俺は……!」
ジョーは地面に転がった携帯を掴み直して体を起こし、ジョーの帰りを待ち戦い続ける4人の元へと馳せ急ぐ。
(俺にも、仲間が居る! 帰る場所がある!)
大乱戦中の4人は、
赤:リュウレンジャー・ボウケンレッド、ハリケンレッド
黄:イエローマスク・メガイエロー・アバレイエロー
緑:ミドレンジャー・オーグリーン・グリーンサイ
桃:デンジピンク・ピンクフラッシュ・タイムピンク
と個別ゴーカイチェンジを連続で繰り出す大盤振る舞いでゴーミンの大軍を蹴散らしていくが、親衛隊長の必殺攻撃を浴び、変身解除のピンチ。
「へへっ……全然……痛くねぇなぁ」
……マーベラスはちょっと、痛み止めを服用しすぎて、脳内のいけないスイッチが入ってしまったのではないかとドキドキします!
山中を走るジョーは姫&丹波と出会い、1枚の秘伝ディスクを渡される。
「海賊衆の絆、見せてもらった。勝負は私の負けだ。その代わり、必ずザンギャックを倒せ」
「……すまない」
いきなり路上で斬り掛かってきた姫ですが、〔たたかう〕コマンドを通して海賊衆を見定めるサムライ言語な意図は見え隠れしていたので、5人の在り方を見てキーを託すというのは納得の着地。
また今回、『シンケンジャー』最終盤の構造を意識したと思われる作りになっているのですが、どこか剣鬼に陥る危うさを抱えて見えたジョーが、シド先輩を失っても“こちら側”に戻ってきたのは、海賊戦隊の絆によるものであり――そこに姫が勝利への道筋を見出すのも逆『シンケン』として綺麗に収まりました(そして『シンケンジャー』とは“ひっくり返しの戦隊”であったので、監督・脚本は『シンケン』不参加なのですが、メタ的な部分も含めて鮮やかな取り込み)。
「……勝てますかな」
「侍たちに劣らぬ絆。五人揃えば勝負は見えている。……行くぞ」
姫&丹波は去って行き、最後に、丹波がジョーの走り去った方向を笑顔で見送るのが、大変良かったです。
マーベラスらは生身でゴーミンらに囲まれて前回-今回と激しいアクションが続き、割と足場の悪いところを駆け回って頑張るハカセ。アイムは上着を被せて視界を塞いだゴーミンに至近距離から銃弾を叩き込み、やはり殺意が高め。
業を煮やした親衛隊長の攻撃で再び追い詰められる海賊達だが、敵陣に向けて叩きつけられる衝撃波……そして、帰ってきたジョー。
「遅くなってすまない」
「別に。いい肩慣らしになったし」
「そうです。ちょうど暖まってきたところです」
「どうせならもうちょっと遅くても……うっ」
仲間達は次々とジョーに強がってみせ、“倒れても立ち上がる”ヒーロースタイルが、ふてぶてしくてしぶとくて、余計な事は聞かない海賊たちのスタイルで描かれ、格好つけきれないハカセも大変いい味(笑)
「背中……頼むぜ」
「ああ、任せろ」
バリゾーグの前では激情を露わにしていたジョーが、淡々とした無表情を貫く事で海賊戦隊の副長としてのジョーに戻った事が示されるのが格好良く、主題歌インストに合わせて5人並んでゴーカイチェンジのところで、赤と青の二人にカメラを寄せるのがまたおいしく、好演出が目白押し。
「派手に行くぜ」から、赤と青は背中合わせになってゴーミンを迎え撃ち……
「覚えてるか?」
「当たり前だ!」
剣を振るう二人の姿が運命の出会いと重ねられ、これはもう、戦友の姿として、問答無用で格好いい……!
「馬鹿な……! あれだけ痛め付けてやったというのに、まだ足りないのか?!」
手勢を失い愕然とする親衛隊長に対してゴーカイジャーは一筆奏上。黄&桃のコンビ攻撃に続き、緑が謎のスピン攻撃を決め、赤のジャンピング横回転大斬刀が炸裂し、秘伝ディスクを用いた青が真剣丸二刀流の空中殺法@丹波ディスクで切り刻み、坂本監督好みのワイヤーアクションが連発。
「なぜだ……なぜ急にこれほどの力が……!」
「教えてやる! 俺たち5人は強い絆で結ばれた仲間だからよ!」
『シンケンジャー』のテーマを踏まえて「絆」への集約はわかりますし、エピソードとしては満足の面白さだったのですが、最後の最後でマベが言葉にしすぎた印象。
なにぶん『シンケン』が1年かけてその集約点へ辿り着いた作品だったので、物語開始前からの関係性を持ち込んで土台にするというテクニックは凝らしているのですが、『シンケン』を踏まえているからこそ『ゴーカイ』1クール分とのギャップが目についてしまいマジックワードである事を越えられなくなるという、今作の手法が裏目に出てしまったように思います。
……というかマベ、「俺とあいつだから」「運命は決まった」「俺の背中を守ってくれる奴が――ちゃんと来る!」辺りからずっと、薬で半ば朦朧としながら口を滑らせまくっているのでは(笑)
ファイナルウェーブで派手に弾け飛んだ親衛隊長は巨大化すると早速ビルをぶったぎる大物らしい仕事をこなし、ガオゴーカイオーのアニマルハートを弾く力を見せるが、その時、シンケンキーが浮かび上がって光を放ち、“大いなる力”を発動。
分割されたガオライオンが足はそのまま、腕と胸部がゴーカイブラックボックスに収まるまさかの変形合体のパーツとなり、兜を被って胸部からライオンヘッドが飛び出した、シンケンゴーカイオーが誕生(成る程、獅子繋がり)。
二刀をポールの両端につけたゴーカイ薙刀でスゴーミン部隊を壊滅させたシンケンゴーカイオーは、超巨大烈火大斬刀で凄く強いぞうを押し潰し、殺意×殺意の織り成す、驚愕のデビュー戦を飾るのであった!
ビックリドッキリフォームチェンジ路線のゴーカイオーですが、先に手に入れていた“大いなる力”からの変形、は驚きのアイデアで面白かったです。
後、雑に翻訳した凄く強いぞう、世渡り上手の面があったのかもですが、ダマラスへの批難はしても、殿下を小馬鹿にする事も恨み言を口にする事もなく、最後まで忠節に殉じて地球に散ったのは、帝国軍人ここにあり、といった感じで、割と嫌いではないキャラでした(中村悠一加点あり)。
「やっぱりいいなぁ……5人で居るのが」
激闘をくぐり抜け、5人並んで夕陽を見つめている最中、とてとてと近寄ってジョーの顔をじっと覗き込むアイム。
「……なにかついてるか?」
「いえ。ジョーさんも意外と熱い台詞をおっしゃっていたんですね。……マーベラスさんには」
たぶん無意識だとは思われるのですが、アイムは段々、ジョーの内角を抉るボールを投げるのが愉しくなってきていませんか。
「……おまえ、何を話したんだ」
「ん?」
慌てるジョーに向けてへらっと笑ったマーベラス、唐突に膝を付いて皆を心配させるが、鳴ったのは腹の虫。ルカが船長に肩を貸して歩き出し、いつも通りの仲間達の背中に向けて、囁くように呟くジョー。
「……ただいま」
「「「「え?」」」」
「なんでもない。飯だ飯」
ハカセとアイムの肩を抱えたジョーが仲間達への親愛の情をかつてなく表現し、ガレオンに帰還する5人の姿で、つづく。
姫&丹波登場、殿下ご出馬、バリゾーグの秘密、ジョーの過去、海賊戦隊の始まり……と盛り沢山の前後編。坂本浩一監督は個人的にプラマイ評価の振れ幅が広いのですが、基本的にアクションを主体にしつつ、その合間にガツガツ情報を詰め込んでくる今作とは相性が良かったようで、5-6話に続き、今回も面白かったです。
マベとジョーの関係を中心に海賊戦隊の絆を描いた一方、洗脳された旧知の人物が必死の呼びかけに1ミリも反応しないまま去って行く見せ方が徹底して痛切でしたが、殿下-バリゾーグ-ジョー、の今後も楽しみです。
次回――アイム、誘拐される。