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魂の重さは何グラム?

仮面ライダーゼロワン』感想・第31-32話

◆第31話「キミの夢に向かって飛べ!」◆ (監督:柴崎貴行 脚本:高橋悠也
 人工知能搭載人型ロボ・ヒューマギアがもたらすのは、人類の希望か、絶望か。AIテクノロジー企業を、新たに立ち上げた若き社長が、夢に向かって、今、飛び立つ――」
 飛電製作所を立ち上げたアルトの元を、漫画家・石墨が訪れ、アシスタントギア・Gペンの修理を依頼。「俺の大切な相棒を戻してくれ」と訴える石墨に「……それは……Gペン次第です」と答えたアルトは、石墨を一度帰宅させた後で、バックアップデータからGペンを再起動させ……
 「まずはGペンの意志を聞かなきゃ。これからは、ヒューマギアの気持ちを一番に考えよう、って思って」
 のっけから意味不明な事を言い出したのですが、漫画家アシスタントとして納品したヒューマギアが職場復帰を拒否した場合、飛電製作所で引き取るの!? それとも、おまえはもう自由だ、と野放しにされて野生のヒューマギアになるの?!
 初期の『ゼロワン』って、「大量製造の既製品でも、使っていると愛着が湧くから、道具とはいえ大切に使いたいし、高度な人工知能であるヒューマギアはそれに応えてくれるから、もっと良い関係が築けるよ」という物語で、それは身近な感覚として理解できるところから始まって未来ガジェットに繋がる面白さだったのですが、「大量製造の既製品でも、それぞれに個性と自由意志があるから、それを尊重しよう」と言われると、ついていけない、というのが正直。
 購入者がそれを前提にしているとか、元は大量製造の既製品でも、ある一人と一台の間で生じる「特別な関係」を掘り下げていくのなら話はまた変わりますが、今のアルトの言行はいうなれば“あらゆるドラえもん型ロボットに等しく友情を示すのび太くん”であり、その思い入れ全ての共有を劇中世界と視聴者に求めてくる、随分と厄介な主人公と物語になってしまいました。
 また、バックアップデータから再起動したGペンは、「石墨と一緒に働いていたGペン」ではないのでは? という強い疑問が生まれるのですが、第3部でテーマとなる「自由意思(夢)」の基盤を成す“個性”がどこに紐付けられているのか、いきなり行方不明。
 Gペンに関しては本体がそのままだったので、本体メモリーにラーニングの蓄積による“個性”が残っていたと解釈可能ではありますし、お仕事対決編で「バックアップ」を都合良く濫用していた事により、「バックアップデータから再起動したのに、破壊される前の“個性”を有している」事象が発生していたので、衛星ゼアにはリアルタイムでヒューマギア個々の“個性”が記録され個別管理されているのかもしれませんが、新展開の核となる要素が物凄くあやふやな扱い、という毎度ながらの『ゼロワン』らしい作劇。
 そこはもう、気にしてくれるなという事なのかもしれませんが、アルトがヒューマギアそれぞれの意思の尊重を掲げる度に、アルトが見ているヒューマギアの“個”とは、いったいどこにあるのだろう……? とどうしても気になってしまいます。
 これが第1部における、破壊されると基本プログラム以外は一からラーニングし直さなければならなかったヒューマギアなら、“個の一回性”は飲み込みやすかったのですが、第2部以降の、“バックアップによる不死性”を得たヒューマギアと、“個性”という要素は、物凄く相性が悪いのではないか、と。
 そこのフォローの為に前回、父ギアはバックアップが吹っ飛んで再生不能になったので人間と死と同じだったんだ……とアルトに言わせておいたのでしょうが、これだけ「バックアップ」が魔法のアイテムとして使われていると、“個の一回性”を主張されてもどうにも真に迫ってくれず、とりもなおせず個々のヒューマギアに“個性”を見るのを難しくしてしまっています。
 「人間と一緒に笑い合えるように、俺がヒューマギアを、導いていく」
 そして、「ヒューマギアの気持ちを一番に考えていく」と言いつつ「自分の理想を押しつける」巨大な矛盾を抱えているアルトですが、果たして物語として、そんなアルトを殴ってくれるのかどうなのか。
 「こいつがいつ、そんな事を望んだ?! 独りよがりなおまえの夢に、僕の友達を巻き込むなよ」
 一応そこを突いた迅も、今回ラストでは「おまえが言う夢ってやつに、友達の未来を賭けてみるのも、悪くないかもしれない」と一時共闘してしまいますし。
 「誰かの命令で動くんじゃなくて、おまえが考えるんだ!」
 全回線クローズ中の衛星ゼアとの接続を求めるGペンに対し、自由意思の獲得を訴えるアルトですが、“善行だと信じて目的不明瞭な人型ロボットを次々と世に送りだそうとする主人公”をどういう目で見ればいいのか、割と本気で困ってきました。
 恐らくは、“そんなヒューマギアを受け入れるようになる人間社会”が今作の着地点の可能性は見えてきましたが……どうにもやはり、『ゼロワン』社会の基本的な描写不足により、“ヒューマギアと共存して築く明るい未来”のビジョンがアルトにしか見えていないのが困ったところです。
 もっと素直に、人とヒューマギアが手を取り合えばこんな事が出来るんだ! という明るいビジョンを前半の内に幾つも描いておいた方が良かったなと(その土台作りを丁寧にやるには滅亡ギルドの一時壊滅が早すぎたわけですが)。
 「ヒューマギアだって、夢を見ていいんだよ!」
 そして最終的に、漫画家アシスタントギアが「マンガを描いてみたい」と言い出すのをいい話みたいに描かれるので、困惑は更に深まります……。
 Gペン破壊失敗の報告に、物に当たり散らして小者ムーヴに余念の無い天津社長は本日も自ら最前線に立ち、飛電製作所へ。
 「ここか……ヒューマギアを自己啓発させて、自我を芽生えさせているという危険な会社は」
 反論の余地無く、ほぼテロ組織ですね……。
 「ヒューマギアのみんながこれから先、どう生きてくかは、あいつら自身が決める事だ。俺は社長として、みんなの夢を見届けていく」
 製造無責任を唱えるアルトですが、真面目な話、ラッパーギアの一件がアルトの中でどう処理されているのかは大変気になります。今後、詐欺に目覚めた婚活ギアをぶった切る回とかあったら、それはそれで凄いですが。
 「人も、ヒューマギアも、夢を持つのは自由だ!!」
 社長自ら物理でリコールしようとするサウザーに立ち向かうゼロワンは、A.I.M.S.レイダーとの連係攻撃に苦しめられるが、フェニックス迅が助勢に駆け付け、とうとうめでたく、元テロ組織の構成員と手を組む事に。“ヒューマギアの未来の為の共闘”と書くと格好いいのですが、サウザーの強敵感など既にどこにも存在しないので、全く盛り上がりの無い共闘。
 一方でバルカンとジャッカルが戦っているのですが、こちらも格付けが完了しすぎて、不破さんが一方的に唯阿さんを殴りつける大変感じの悪い戦闘になっており、ここまで筋立てについて色々書いてきましたが、何が一番問題かといえば、悪玉サイドの脅威感が皆無な為、戦闘が致命的に面白くない事。
 サウザー登場から一ヶ月あまりゼロワンが負けっ放しだったのでその反動といえば反動ですが、ここ数話の戦闘シーンが「しつこい嫌がらせを追い払う」ぐらいの意味しかなくなっていて、やる事があまりにも極端すぎます。
 「このままで済むと思うな……飛電或人ぉ! おまえの会社は、潰してやる!」
 つまり――地・上・げ?!

◆第32話「ワタシのプライド!夢のランウェイ」◆ (監督:田崎竜太 脚本:筧昌也
 モデルギアをゲストに据えてみたら、そういえばレギュラーにモデルみたいな人が多い、という事が浮き彫りになりましたが、
 「不破諌は、飛電製作所の用心棒になったようです」
 は今回ぶっちぎりで面白かったです(笑)
 飛電製作所は人気モデルギアの復旧を依頼され、バックアップから再起動。
 「君は今までずっと、電源を切られてたんだ」
 成り行きから考えるとモデルギアの再起動に使われたのは、前回ラストでシェスタやお祭りになっていた素体だと思われるのですが、それがモデルギアとして動き出した途端にモデルギアの継続的人格をそこに見出せるアルトは、思ったよりだいぶ、ぶっ飛んでいるというか、アルトが真に人格を見ているのは、「ヒューマギア」というよりも「マザーデータ」なのでは。
 勿論、人工知能なのでその本質はデータとはいえるでしょうが、器の継続性に全く意味を感じていないというのならば(お仕事対決編によるバックアップから復活したギアへの対応はこれで筋は通る事に)アルトが本当に境界を引いていないのは「人間とヒューマギア」ではなく「人間とデータ」なのでは、という気がしてきました。
 そして、器と関係なく「マザーデータ」そのものに“個性/自我”が発生(継続)するというならば、同じデータから3体のヒューマギアを起動した場合、そこに宿っているのは果たして“個性”なのか? という疑問が生まれるわけですが、ヒューマギアの魂の在処についてはますますよくわからなくなってきました。
 唯阿の仕掛けにより脳内の亡を目覚めさせられた不破は滅亡迅雷に連れて行かれ、モデルギアがランウェイを歩くとか1000%許せない! と今回も喧嘩しにきたサウザーは、モデルギアの足に傷を付けただけで高笑いするようになり、今からでも遅くないので、闇の四鎧将○ークラッシャーとか、チェッ○メイト・フォーとかの雇用を真剣に考えた方が良いのではないでしょうか。
 「ヒューマギアも夢を見ていい」にやたら動揺した亡は天津の道具扱いを卒業して不破とも一定の歩み寄りを行い、ファッションショーとバルカンの戦闘を重ねる田崎監督らしい演出でありましたが、正直、数話前に「不破さんの脳の中に住んでいるんだよ!」と出てきたばかりの亡が独立を決意しました! とかやられても特に盛り上がれず。
 「夢を持ったヒューマギアは、今後ハッキングされ、暴走する心配はありません」
 イズが代役を務めてファッションショーで大々的にヒューマギアの再アピールに成功したアルトはまたファジーな事を言い出し、自立したヒューマギアはゼアともアークとも接続せずに行動可能になるから、という理屈なのかと思われますが、アークは無線で強制接続してくるのでは……そして何も実証されていないので、多分にアルトの願望にもとづく発言と思われるのですが、社長業はどこまでもゆるゆる。