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夢の帆を張れフライパン

光戦隊マスクマン』感想・第37話

◆第37話「夢に賭ける戦士たち」◆ (監督:東條昭平 脚本:藤井邦夫)
 ケンタがバイクで走っていると、突然、マンホールが爆発!! 中から地底獣メズメドグラーが飛び出し、巻き込まれた青年を助けて倉庫に逃げ込んだケンタの前に、レッドマスクを倒す為にケンタの力と勇気を奪ってマスクマンから戦力外にする姑息な作戦を立てたキロスが姿を見せる(文芸面での統一があったのか、藤井脚本でもバトルジャンキー要素が消え失せていますが、これは良かったと思います)。
 「俺が勇気と力を? 冗談を言うな。地球も俺も、貴様達の自由にはさせん!」
 2.5枚目的なポジションになっているケンタですが、ここは格好いい啖呵を決めてオーラマスク。倉庫の隅に隠れた青年の見つめる中、キロスとメズメの挟撃を受けたブラックマスクは、どさくさ紛れにキロスの顔面を蹴り飛ばしキロスーーー!
 どんどんザンネンダー化の進んでいくキロスはともかく、一人奮戦する黒であったが2対1の不利は跳ね返しきれずにメズメドグラーの特殊能力を浴びせられ、自分は臆病者である、という強烈な暗示を受けてしまう事に。
 精神に激しいダメージを受け、頭を抱えて震えるケンタにキロスの刃が迫るが仲間達が駆け付け、ロープアクションでシュシュッと参上したイエローに思い切り顔面を蹴り飛ばされるキロスーーー! これで後、ピンクに顔面を張り飛ばされたらコンプリートです(笑)
 「もはやケンタは、メズメドグラーの催眠波に操られる、臆病者だ」
 キロスの宣告通り、戦場に背を向けて脇目も振らずに逃走したケンタは夜の街を彷徨い……苦しむケンタが落としたブレスを拾って声をかけたのは、ケンタが助けた青年・良介。
 「これは、君の物だろ?」
 「……もう、俺には、用の無い物だよ」
 「マスクマン、それで地球を守れるのか?」
 ケンタは良介の差し出すブレスから目を逸らして壁を向き、臆病者になったケンタをコミカルに描くのではなく、暗示を乗り越えようと苦悶する姿を繰り返す表現にしたのは、少々暗いトーンにはなりましたが、戦士としての成長と内面の強さが見えて良かったです。
 (ケンタは俺をかばい、あいつらに催眠術をかけられ、臆病者にされた。でも、本当の彼は勇気も力もある筈だ)
 良介はケンタを下宿へ招き、レストランに住み込みで働きながらコックを目指す自身の境遇を説明。
 「ケンタの夢は、なんだい?」
 「…………俺の夢」
 「そう、夢。なにか一つぐらい、あるだろ?」
 「あったけど……もう、消えた」
 呟くケンタは夜のとばりの下りた街を見つめながら座り込み、ケンタの苦悩のしっとりした見せ方が、面白いテイスト。
 「夢か……」
 一夜が明けて、遊園地をあてもなく彷徨うケンタと、職場で忙しく働く良介の姿が対比され、ケンタが思い出すのは、皆で走ったサーキット……ここまで良い雰囲気だったのに、良介がいきなりフライパンでケンタに殴りかかって勇気を取り戻させようとするのは突発的な奇行になってしまいましたが、染みついた習性により敵意に反応して飛び回し蹴りからのネックブリーカーとか決めなくて本当に良かった。
 「駄目だ良介、俺にはできない……」
 ケンタは項垂れ、ゼーバよりケンタ暗殺を命じられたフーミンは腑抜けたその姿を確認して物陰でニヤリと笑い、キロスと別にフーミンが動く事でサスペンスが増しつつ、チューブ陣営の人数の多さを上手く扱えたのは、今回の良かった点。
 良介と一緒にレストランに戻ったケンタは裏稼業、じゃなかった、光戦隊の仲間達と再会するが、タケル渾身の説得も不発に終わり、メズメドグラーの吠え声に恐慌状態になると再び逃走してしまう。
 タケル達は次善の手段として、ジェットカノン無しでのドグラー撃破を目指し、キロスと正面から対峙。
 「マスクマン! よく来た。今日こそお前達の、最期だ」
 「黙れキロス! メズメドグラーを倒し、ケンタを元に戻す!」
 「五人揃わぬ前達など、恐るるに足らん!」
 「ケンタは必ず、甦ってくる!」
 一方、逃走したケンタにはフーミンの魔手が迫り……今回、後楽園ゆうえんち回を兼ねているのですが、ケンタの逃げ込んだキノコハウスに迫るフーミンがなんとも間の抜けた映像(笑)
 ケンタを助けようと良介がフライパンでフーミンに立ち向かうもかなうわけがなく、しかしその姿に、ケンタは勇気を奮い起こしてキノコハウスから飛び出し立ち上がる!
 「ケンタ! おまえにも夢がある筈だ! あの4人と叶える夢が。勇気を出せぇ!」
 「黙れ! 腰抜けのケンタに何が出来る」
 「……うぅ……夢を壊されてたまるかぁ! わぁぁぁ!!」
 絶叫と共にケンタはフーミンへと蹴りを繰り出して良介を救い、たとえ勇気と力は失っていても、幼少期から繰り返した修行の日々により肉体に染みついた蹴りの鋭さは変わっていないのが、大変マスクマンです。
 「良介! 俺のブレスを!」
 しかしまだ暗示の解けたわけではないケンタが、全身を小刻みに震わせながらも仁王立ちし、ケンタからブレスを受け取るのは非常に格好良いシーン。
 ……一瞬、「フライパンを!」と言うのかと思ってすみませんでした。
 「俺は、俺はケンタ!」
 「うん!」
 「ブラックマスク!」
 「そうだ!」
 良介の合いの手を受けたケンタが自己暗示をかけながら勇気を奮い起こすと瞳に炎が宿り、精神集中により甦るオーラパワー。恐怖を振り切ったケンタはオーラマスクに成功するとフーミンとアングラ兵を蹴散らし、仲間達の元へと急ぐ。
 「……良介! 俺達の夢は! 地球の平和を守り! F1レースでチャンピオンになる事だー!」
 「頑張れよケンター!」
 ケンタに助けられた恩義を返そうと、ケンタを立ち直らせる為にあれこれと世話を焼く良介が非常に好感度が高いゲストキャラになっており、そんな良介に向けて、前夜は口に出来なかった夢を大声で伝えながらケンタが駆けていくのがまた、とても良いシーン。
 今回とにかく、ゲストキャラの見せ方が良かったのが、エピソードを支える芯として十全に機能してくれました。
 また、あまり顧みられる事のなかった「姿レーシングチーム(私たち)としての夢」をここで改めて拾ってくれたのは、終盤戦を前に良い仕事。当時の尺の都合もあってか、メイン回は〔1:4〕という形に分断された型式になる事が多いですが、一人が別行動の時ほどチームとしての結束が強く描かれるのは、今作の秀逸な部分(だけにハルカ不調回はちょっとピントがズレた印象になりましたが)。
 ジェットカノンにまたがったブラックマスクは、キロスとメズメを蹴散らして仲間達と合流。
 「メズメドグラー!」
 「ぎゃあぎゃあ吠えるな。俺はもう臆病者じゃない!」
 「なにぃ?」
 「行くぞ! ――光戦隊!」
 「「「「「マスクマン!」」」」」
 から会心の主題歌バトルに突入し、先にフーミン戦で戦闘員を繰り出しておいた事により、マスクマンvsキロス&メズメ、という純度の高いバトルになったのが引き締まって良い感じ。
 赤青黄桃は苦戦しながらもコンビネーション攻撃でキロスを吹き飛ばし、メズメの火炎放射を受けながらも勇気と力で暗示を乗り越えた黒は、マスキーロッドを叩き込んでレーザーマグナム!
 マスクマンはジェットカノンを炸裂させてメズメを抹殺し、キロスは撤収してオケランパ。Gロボは割と一方的にメズメドグラーを撃破し、戦いを終えた5人は良介の作った料理をご馳走になる事に。
 「一生懸命に夢をかなえようとする心が、勇気と力を、甦らせてくれたんだ!」
 良介は最後まで感じの良い爽やかさが貫かれ、ヒーローの戦いを間近に見た青年(最初は腰を抜かしていた)が、勇気を出してヒーローを支えた時、ヒーローもまたそれに応えて甦る、という構造も綺麗。
 また、その原動力を「夢」とする事で身近な要素に落とし込みつつ、マスクマンの根っこにある要素を引っ張り出してきたのは秀逸でした。
 プロット的には、ヒーロー-子供の関係で描くと定番になりそうなところをケンタと同年代のゲストキャラを用いているのが一ひねりになっていますが、結果として互いを支える「夢」のリアリティが増して物語の説得力を上げる事になり(子供ゲストを起用していたら、良くも悪くも、もう少しふわっとした話になっていたかなと)、『マスクマン』らしいトーンの友情エピソードとしても良い出来で、面白かったです。
 どうしても悲恋ロマンス趣味が偏って印象的な藤井先生に、こんな引き出しもあったとは驚きましたが、やはりある時代に継続して主力を任されている脚本家には、それだけの力があるのだな、と改めて(藤井脚本で得意技方面以外での傑作というと、『チェンジマン』のID野球回もありますが)。
 なお藤井邦夫は今作と同年放映の『メタルダー』でも、第9話「夢みるモンスター!十字砲火の恋人たち」において「夢」をテーマにしたエピソードを執筆しており(こちらは実に藤井脚本な悲恋ロマンスものですが)、これもなかなかの秀作。
 次回――妹に近付く穀潰しめ、歴史そのものから抹消してやる!!