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コール・オブ・ネクサス

ウルトラマンネクサス』感想・第29話

◆Episode29「幽声コーリング-」◆ (監督:根本実樹 脚本:村井さだゆき 特技監督菊地雄一
 見所は、みかんで餌付けされる溝呂木眞也。
 常々公言しておりますように悪役の落ちぶれ展開は大好物なのですが、そもそも溝呂木の“悪役としての魅力”が足りていなかった為に、記憶を失って彷徨う溝呂木にはもう一つときめけず。そのときめきが発生しない事により再確認したというか、溝呂木に必要だったのはやはり、部屋の壁一面に貼った副隊長の盗撮写真とか、副隊長に撃たれてのけぞりながら「おまえの愛を感じるぜ……」とか笑顔を浮かべる方向の変態性癖だったのではないか。
 「私が初めて記憶を消した少女。彼女の身に起こった事を、私は忘れるわけにはいかない」
 第13-14話、ネズミビースト事件における被害家族の生き残りの少女、リコ。両親は事故死した事にされ、現在は兄と共に親戚の家で暮らす少女は、MP瑞生によってビーストにまつわる記憶を消される筈だったが、事件のショックにより、自分の名前をはじめ“事件以前の記憶を全て失っていた”が為に、“事件にまつわる不明瞭な記憶”だけが保持される、特殊な状況に置かれていた。
 「リコ……あなたはリコよ。リコよ」
 「俺は……なぜ逃げている? 俺はいったい……」
 そんな少女は、霧の中から響く蜘蛛ビーストの声を“両親の声”と認識し、同じくその声に導かれるように姿を見せた溝呂木と手を取り合って、ナイトレイダーがミッションを開始した山の中へと踏み込んでいく……。
 溝呂木の記憶喪失がフェイクではない事を示す為にか、足を滑らせた少女に手を伸ばして助けるシーンがあるのですが、そこで思わず『鳥人戦隊ジェットマン』の、「駄目だ、このままじゃ2人とも……手を、手を離してくれぇぇ!」「諦めるな! 貴様は戦士、俺も戦士だっ」を思い出してしまったのは毒されすぎだと思いつつ、大介さん(仮)は本当に、アップダウンの激しさが魅力的な悪役でした。
 「溝呂木……その子を離せ」
 「…………溝呂木?」
 「姫矢は? 姫矢はどうなった?」
 「……姫矢……溝呂木……いったい誰だ? 教えてくれ、俺はいったい誰なんだ?」
 溝呂木&リコは、山中で孤門&隊長と宿命の再会を果たすが、孤門の姿にトラウマを刺激されたリコが駆け去ってしまい、それを追いかける溝呂木と孤門。一方、瑞生はリコを探し回る兄と従姉と出会っていた、という錯綜する展開の中で、アップからビーストにミサイルを撃ち込む副隊長のぶれないポジションはちょっと面白かったです(笑)
 ……溝呂木再登場回における副隊長の扱いが、鬼面どアップから往生せいやスパイダーミサイルぅぅぅ! で本当にいいのか、という疑念はまあ有りますが。
 リコを探す孤門は瑞生達と出会ってトラウマが連鎖的に弾け飛んでいき、瑞生から、リコの記憶処理は行いたくない(行うわけにはいかない)のでビーストを目撃させるわけにはいかない、という事情を聞かされ……もはや穴として埋めるのは諦めたようですが、山の中を謎のユニフォーム着てごつい銃構えて歩き回っているNRを、ちょっと気合いの入ったサバゲーの人達、で処理するのはどうにも無理があり、本来はNRの目撃者も丁寧に記憶処理しなくてはまずいのでは、とは毎度思うところ(ビースト被害者に関しては、一緒にまとめて消されているのでしょうが)。
 今回に関しては、山中を動き回る事情もあってか、最初に蜘蛛ビーストの襲撃を受けた時点から孤門くんは銃を持ち歩いていないのですが、それはそれで凄くどうかと思いますし。
 管理官「処理班は今夜中に、孤門隊員がどこかで落とした装備を、草の根分けても探し出して下さい。それから、孤門隊員は400字詰め原稿用紙で10枚以上の反省文を書いて提出するように。あと、和倉隊長は管理不行き届きで減給1ヶ月の処分とします」
 隊長の月給は限界だ!
 蜘蛛ビーストは霧の中に姿を消し、溝呂木の生存を知っていて黙っていた上層部に対する隊長の不審ゲージがまたも上昇したりしながら一夜が明け――ビーストの呼び声に導かれるようにリコがふらふらと出歩いている内に、溝呂木はTLTの捕獲部隊に身柄を確保され、孤門は一人となったリコと出会う。
 「覚えているんだね、僕の事を。……でも信じてほしい。僕は君たちを、守ろうとしたんだ」
 タンクバースト事件について孤門に謝罪の機会が訪れ、リコもそれを受け入れるのですが(トラウマではあるが孤門の心情は直感的に理解していたという前振りはあり)、「信じてほしい」とか「守ろうとした」とか、こういう一方的な気持ちの押しつけは、「謝罪」ではなく「弁解」だと思っているので、個人的にはどうもスッキリせず。
 孤門くん的に、どこまで細かく話していいのかわからないというのはあったでしょうし、くどくど台詞のやり取りをする場面ではないのですが、孤門くんの好感度やヒーロー性の上昇よりも、受け入れるリコの側がいい子、としかならなかったのは組み立ての失敗だなと。
 蜘蛛ビーストが再び出現して町へと向かい、ようやく登場した憐が台詞もなく変身するといきなり蜘蛛ビーストの前にネクサス降臨、という展開は悪い意味で『ネクサス』ぽいのですが、ここ3話の流れからは、だいぶ困惑。……終わってみると、今回のエピソードは憐からは焦点を外したインターミッション、という事にはなるのですが。
 孤門からリコを託されて下山しようとする瑞生だが、ネクサスとビーストの戦いをリコに目撃させるわけにはいかず、立ち往生。幸いネクサスの亜空間発動が間に合って事なきを得るが、少女の瞳には、亜空間の中の戦いが映っていた……。
 「あの子達の住む街を守る為に……僕は……今できる事をするだけだ」
 前半とても足りなかった、孤門くんなりのヒーロー宣言により遅まきながら孤門の脱皮の一端が描かれ、それらしいものが皆無だったわけではないのですが、2クール目の内に劇的に組み込んでおいて欲しかった要素。
 炸裂したチェスター砲により弱った蜘蛛ビースト(造形もよく、格好良いデザインだったのですが)は、ネクサスのキューティーネクサスアローにより真っ二つにされ、その消滅の光景の中で、リコはビーストの擬態ではない、本物の両親の記憶を取り戻す……。
 「俺は……誰なんだ」
 一方、ティルトに捕縛された溝呂木は、独房の中で頭を掻きむしるのであった……で、To be continued...
 今作で初めてEDパートに本編がはみ出す演出が採用されて(危うく飛ばすところでした)、両親の記憶から自己の存在を取り戻したリコの姿が描かれ、怪獣処理係としてのみの憐/ネクサスの扱い、珍しく1話限りで仕留められるビースト、といった点も見るに、溝呂木編の露悪的な描写の犠牲者としてあまりな扱いだった少女リコ(もう一人のリコ、の存在も重ねて見ていいのでしょう)の、当該エピソードを担当した根本×村井による救済エピソード、と捉えれば良さそうなインターミッション。
 そこで再登場する溝呂木に、記憶喪失繋がりを用いて前半戦の要素を拾って絡め、あまりにも酷かった少女リコのその後に光を当てつつ瑞生のヒロイン度を上げていく、という狙い自体は悪くなかったのですが、が……
 「本当に彼女の事を思うなら、ビーストを憎みなさい」
 「その憎しみを、力に変えるの」
 「それでいいの。その憎しみが、戦う力になる。……あたしはずっとそうしてきた」
 当該エピソードにおいて、孤門くんの復讐の炎に憎しみという名のガソリンをガロン単位で注ぎ込み結果的にタンクファイヤーの一因となった人の存在は完全スルーなのが、前半戦のフォローへの限界を感じさせるところです。……まあさすがに、副隊長と復活溝呂木の絡みはあると思いたいですが。
 また、「呼び声」という直球のクトゥルフオマージュを軸に置き、蜘蛛ビーストの叫び声はこれまで他のビーストが捕食した人々の声で構成されており、振動波によって戦闘情報を共有しながらビーストは進化している、と序盤の姫矢発言の補強に繋げられるのですが、肝心の、蜘蛛ビーストが何故その呼び声を用いていたのかという点は不明瞭なまま進行する為、ラストで少女リコが記憶を取り戻すシーンの劇的さも弱くなり(死者に惹かれていた少女リコがネクサスによりビーストの呪縛から解放された、という見立ては可能ですが)、オマージュありきの構造に見えてしまったのは、残念。
 もしかすると今作だけに、「ビーストが振動波によって戦闘情報を共有し進化している事にNRが気付く」事が要点の一つで、上手い事繋がった、みたいな仕立てだったのかもですが、姫矢の言及が第3話ぐらいだった覚えなのであまりにもキャッチボールが遅く、むしろイラストレーターがそれに気付いていなかったらビックリ案件なので、どちらかといえば、それは無いと思いたいです(笑)
 溝呂木の記憶喪失、は今のところ安直で面白みのない感じですが(その“都合の良さ”を、少女リコの境遇と重ねる事で物語にスムーズに取り込んだのは上手い仕掛けでしたが)、前半戦では大変消化不良なキャラクターだったので上手い具合に弾けてほしく、次回――カメラは再び憐に。