東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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ハカイダー三段活用とは何か

キカイダー01』感想・第39話

◆第39話「強敵宇宙人は空飛ぶ円盤で来る」◆ (監督:松村昌治 脚本:長坂秀佳
 「悲しめ……! ほざけ! そして死ね!!」
 ハカイダーの大活躍は、約16分後!!
 工場地帯を謎の空飛ぶ円盤が襲撃し、人々を守る為に立ち向かうゼロワンのブラストパワーも通用しない。ゼロワンはブラストエンドを発動するが、人類の物理法則を越えた宇宙パワーにブラストエンドの事情変換作用がかき消されてしまい、逆に撃墜されてしまう、という衝撃の導入。
 ……まあ、予告時点から宇宙服にばっちりシャドウ印なので脅威のニューカマー現る、という事にはならないのですが、形状といい攻撃の規模といいその戦力といい、未完成に終わったジャイアントデビルの図面の一部が発掘され、それをベースに作られた円盤ロボとでもいった感じでしょうか。
 「宇宙から来た空飛ぶ円盤と思わせ騒ぎを起こし、日本中の一流科学者が調査に乗り出したところを、全員を誘拐する」
 どうやら初動でゼロワンを撃破した事に気付いていないシャドウ基地では、ザダム発案の「宇宙人ロボットの円盤作戦」が進められるが、割と凝った造形で着陸したUFOと、そこから降り立った宇宙人ロボの姿を、塾帰りの小学生3人が目撃。常に1位を取り続ける同級生・一彦に劣等感と不満を抱く3人は、小さな悪意と出来心から、凶悪な殺人兵器を持つ宇宙人と一彦を鉢合わせさせる事を思いついてしまう。
 「あいつが居なくなれば、少なくともこの3人の内、誰かがトップになれるんだ」
 「別に僕たちが殺すわけじゃないもんな」
 「そうさ、あいつは宇宙人に殺されるだけなんだ」
 なにぶん73年作品なので、ゲスト少年が無惨に溶け死ぬぐらいありそうなのがドキドキする展開で、級友達に森へと誘き出される一彦だが、宇宙人ロボは別の場所に移動していて空振り。
 事の首尾を確認しようと恐る恐る後をつけていた3人組はワルダーと出会い、全身銀色だったが為に宇宙人と誤解されるワルダー(笑) そして、少年達の使いっ走りをするワルダー(笑)
 「怪しい者ではござらん。拙者ご貴殿の友人に伝言を頼まれて参った」
 生真面目に伝言役を務めるワルダー、この時点ではどうなる事かと思われたのですが、これがこの後、思わぬ形で大きく跳ねる事に。
 3人組が再び宇宙人を目撃した公園に向かった一彦は、今度こそ宇宙人ロボと出会って冷凍ガスを吹きかけられ、氷漬けになった上で溶解ガスの犠牲になりかけるがビジンダーによって助けられ、そんな事態が起こっているとは知らずにイチローに切りかかったワルダーは、自らの行為が一人の少年を氷漬けにしてしまった事に大きなショックを受ける。
 「お笑い下されビジンダー殿。拙者一度だけ、一度だけでも子供達の味方に、御貴殿やゼロワン殿のような、子供達に好かれる幸せをこの身に、味わってみとうござった……」
 子供達の伝言役に甘んじたのは、ワルダーの抱える痛切な願いゆえだった事が明らかになり、背けていた顔を向けるマリ。
 「でもワルダー、あなたは悪い子供達の味方をしたのよ」
 ビジンダー殿、悪い子供と申されるが、拙者にはその悪い事というのがさっぱり……なにが悪で、どれが善であるのか、拙者には、それがわからぬのでござる。善悪の区別さえわかれば……」
 ヒーローの基本則といえる「子供の味方」を忠実に行った結果、悪意に荷担してしまう事もあるのではないか、という正統派ヒーローでは描きにくい仮定を、“ヒーローに憧れる存在”としてのワルダーを通して行う、かなり刺激的な展開。
 「善良な子供」の為、「“正しい”ヒーロー」が、悪意を見抜く、悪意に荷担しない、或いは結果的に荷担を免れる、というのは(良い意味で)「フィクションの機能」なのですが、その“善良さ”“正しさ”を果たして無批判に振り回してもいいのか、というヒーロー物そのものへの問題提起になっている感もあり、ワルダーというキャラを手に入れて、長坂さんの筆が一気に走ります。
 「……ワルダー」
 ワルダーは、命に代えても円盤を破壊して子供を救う、とマリに宣言して足早に去って行き、一方、3人組の少年達は今更ながら自分たちの行為に脅えていた、という子供の嫉妬を基盤に起きつつ、非常に生々しい展開。
 一彦の妹と出会った3人は、一彦が自分たちを切磋琢磨しあう友人だと言っていた事を知ると、テストの順位より大切なものがある事に気付いて森へと走り、3人組の悪意の行方が投げっぱなしにされずに物語の中で良い方向に解消されているのも、今回良かったところ。
 途中ワルダーに行き合った3人組は、謝罪と共に一彦を助けてくれるように頼むと案内を買って出るが、ワルダーに先行を促されると宇宙人ロボの手によって無惨に氷漬けにされてしまう。どういうわけか少年達を見捨てたワルダーは、宇宙人ロボは切って捨てようとするが、そこに開始16分でようやく姿を見せるハカイダー
 「女子供には手出しせぬと言ったな。その貴様が、3人の子供をなぜ、あんな目に遭わせたんだ」
 「余計な斟酌はご無用に願おう。子供とは言えこの3人、友を殺そうと謀るとは言語道断。よって拙者、天罰を下したるまでのこと」
 「はははははは、それがバカだというのだワルダー。貴様はこの3人が、友達を殺そうとした時に、その手助けをした。その上、子供達が改心し、今度は氷にされた友達を助けようとした時に、貴様は逆にこんな姿にした。ふふん、天罰が聞いて呆れるわ!」
 まさかの、ハカイダーに、人の心を説かれた!!
 「拙者は……拙者は悪を助け、善を見殺しにしたと申すか。…………拙者は……拙者は……」
 心を持たず、善悪の判断がつかず、それ故、善が悪に、悪が善に「変わる」事も理解できない(自身も「変わる」ことが出来ない)為に、ちぐはぐな行動を取ってしまうワルダーの悲しみと苦しみがこれでもかと描かれ、氷の彫像と化した少年達の前で、がっくりと膝を付くワルダー。
 「楽にしてやるぜ」
 懇切丁寧な説明は勿論、ワルダーへの精神攻撃だったハカイダーは無防備なワルダーの背に鉛弾を続けて撃ち込み、肉体的にも苦悶するワルダーの絶妙な撃たれぶりも含め、素晴らしい名シーン(笑)
 ようやく現れた正統派ライバルにより、「悪い意味で残念なライバル」の座からさえ転がり落ちて存在意義の消滅が危ぶまれたハカイダーですが、顎の下まで浸かっていた小物の海に思い切って飛び込む事で「下衆で卑劣などうしようもない小悪党」ポジションを手に入れてここまで光り輝く事になるとは、夢にも思わなかったミラクル。
 人生に大切なのは、適材適所。
 下劣極まりないハカイダーの手にかかったかと思われたワルダーだが、怒りのチョンマゲが真紅の輝きを放つと立ち上がり、猛攻を受けて一挙に絶体絶命に追い詰められたハカイダーが、容赦なく撃たれ、惨めに這いつくばる姿も素直に見られるようになって、奇跡の芸風ハカイダー
 「ハカイダー殿、お主まだ懲りぬか」
 一方、イチローとマリは円盤撃破へと向かい、それぞれチェンジすると割とざっくり宇宙人ロボを撃破。宇宙服に身を包み、声をチェンジャーで変えているだけの人間を、偽装作戦としての「宇宙人」の「ロボ」なのだ、と言い切った力技は、いっそ評価したい(笑)
 だが円盤にはまだ待機メンバーが居たらしく、空中から強烈な爆撃を受けたゼロワンとビジンダーは手も足も出ずに爆撃の嵐を受ける事に。再び地上に着陸し、スペース砲撃を浴びせてくる円盤に近付くこともままならない両者だが、その時、ウェスタン調の格好いいBGMと共にバイクに乗ったワルダーが現れ、もう完全にヒーローのノリ。
 約束通りに命を賭けたワルダーのバイク特攻にも耐えた円盤に対し、ゼロワンとビジンダーは決死の合体技・ブラストレーザーを放ち、兄さん、兄弟の絆はどこにいったんだよ兄さん!!
 恐らく、良心回路の同調による合体システムにより円盤ロボは虚空に散り、少年達は無事に元の姿に。ゼロワンとビジンダーは、無惨に胸甲が砕け散ったワルダーを助け起こすが、肩を貸そうとする二人を拒絶したワルダーは、何も言わず、夕陽を背に受け荒野に去って行くのであった……。
 そして、仲良く走っていく子供達を、笑顔で見送るイチロー
 ナレーション「ゆけイチロー、ゆけゼロワン。果てしなきシャドウとの戦いの道を」
 ぴんぽんぱんぽーん
 本日の負け犬コーナーは、担当者なます切りの為、お休みとさせていただきます。
 ぴんぽんぱんぼーん
 次回――またしれっと予告に出てるなミサオ(笑)