『キカイダー01』感想・第33話
◆第33話「非情 子連れゴリラの涙・涙」◆ (監督:畠山豊彦 脚本:曽田博久)
見所は、
「ゼロワンキック!」
「500トンの力ガアルゾ」
「なに? 500トン?!」
ゼロワンの戦闘能力を最新型電子計算機で分析していたら、想像以上にとんでもない数値が出てしまい、幹部2人と見つめ合い、真顔になるビッグシャドウ(笑)
ビジンダー編に入った辺りから、色々どうしようもないビッグシャドウを何とかしようと、敢えて狭い空間に収めて至近距離のカメラで映したり、部下をねぎらうシーンにやたら角度をつけたりなど、ビッグシャドウの撮り方に工夫が凝らされているのですが、虫歯菌マスク越しにも見て取れる真顔、というのがぶっちぎりで面白くなってしまいました(笑)
「「な、なんと……」」
続けて放たれたゼロワンドライバーでは、対に計測不能で計算機が壊れてしまい、ヒーローの戦闘能力にここまで真顔で脅える悪の大首領を見たのは、ジョージ真壁(『特捜ロボジャンパーソン』)以来かもしれません!
ビッグゴリラとミニゴリラ、シャドウ組織がゼロワンの戦闘能力を把握する為に送り込んできた二体のゴリラロボを相手に戦うゼロワンは、母ゴリラを倒した後の子ゴリラの養育問題について気にするが、度重なる攻撃を受けてやむなくブラストエンド。各種攻撃技の分析を終え、計画通りに事象変換系必殺攻撃ブラストエンドの詳細データを電子頭脳に収めたビッグゴリラは木っ葉微塵に弾け飛び、残されたミニゴリラの憎悪の視線を受けたゼロワンは、「俺に、おまえを育てていく金は、ない……!」と背を向けて走り去る。
根本的なところで、ロボットの親子(設定)とはいったい……? というエピソードではあるのですが、“このエピソード内部では成立させる為の仕掛け”が施されており、それについては後述。
ゼロワンが走り去った後、砕け散ったビッグゴリラの破片を拾い集めるミニゴリラをビジンダーが手伝い、更にそれをモニターするシャドウ上層部。
「ビッグゴリラは最初から殺される事になっていたのだ」
「ん?! なんだと?! いったい、何故だ」
そしてザンネンダーは、またも作戦の説明を受けていなかった。
改めて説明されるシャドウ組織の恐るべき計画、それは文字通りに命を懸けて得られたブラストエンドのデータを受け継いだ、ゼロワン抹殺の為の最強ゴリラロボの完成にあった。
「ビジンダーはミニゴリラ可愛さのあまり、やがてはビッグゴリラ二世に育て上げるに違いない」
「強敵」と書いて「説明され役」と読むのが俺の使命、俺の宿命なハカイダーは、子供ゴリラの前で親ゴリラを殺すとかお前って最低な奴だよな、とイチローを煽り、思わず話を聞いてしまったイチローを崖の上に連れ出すと、ミニゴリラとビジンダーが親ゴリラの死を悼む光景を見せつけ、動揺している隙に足を払って崖から落とす最低の三下ムーヴ(笑)
「よくやったハカイダー。ゼロワンはこれでビッグゴリラを殺した事を、ますます悩み苦しむだろう」
上司からはその健闘を褒め称えられ(なにしろ、一歩間違えると500トンのキックが飛んできます)、劇中でほぼ始めて、イチロー相手に収めた判定勝ちの内容が、会心の小悪党ムーヴなのですが、それでいいのかセコイダー。
「ふふふふふふ、ミニゴリラが復讐する時が楽しみだ。ふっふふふふ」
もはや、唯一のよりどころであったキカイダー抹殺への執着さえゴリラに託してしまい、気がつくと脳が壊死していそうで心配になってきます。
一方、ゼロワンとミニゴリラの間の因縁を知らないビジンダーはミニゴリラに特訓をつけており、成る程この辺りでわかってくるのは、今回が、「人造人間コミュニティの物語」である事。
ゴリラロボット親子も、イチローがそこに情を見てしまうのも、ハカイダーがイチローのロボット殺しを責めるのも、イチローが思わずハカイダーの話に耳を傾けるのも、ビジンダーがミニゴリラに母性を発揮するのも、シャドウがそれを前提として作戦を立てるのも、ビジンダーが特訓モードに入るのも、基本的に人造人間/ロボットしか登場せずに物語が進行する(「人間」の存在と視点が排除されている)仕掛けによって成立しており、例えるなら1話限定、動物アニメみたいなアプローチ。
冒頭のゼロワンvsゴリラ親子の戦闘シーンにおいて、物凄く強引に、ミサオ・アキラ・ヒロシが、あんパンを賭けてプロレスごっこをしている非常にどうでもいいシーンが挿入されるのですが、想像としては、脚本時点では人間が一切登場しなかったが、さすがに全く出てこないのはまずいという事になって人間の登場するシーンを付け足しのでそんな事になったのかな、と(ビッグシャドウは、「正体不明」という事で)。
中盤以降はミサオらが全く出てこなくなるので、「人造人間/ロボットの世界」という仕掛けが明確になるのですが、参加2本目の曽田さんが、思い切った奇策(初登板も人魚姫で大変頭おかしかったですが)。
また、内容の方向性や主人公の扱い方は違いますが、後の『超人機メタルダー』(1987)において、徹底して悪の組織サイド主観で進み、主人公は変身後のエネミー扱いでのみ登場するという異色作だった第11話「勇者の追撃!天空にそそりたつ巨人!!」(扇澤延男デビュー作)を思い出すところ。
世が世なら、○○戦隊を率いていたかもしれない地獄の手榴弾特訓でミニゴリラの心身を鍛え上げたビジンダーは、今こそ無限の力を引き出す時、とミニゴリラにビッグゴリラの電子頭脳をセットして改造手術を敢行し、背後で流れる切ないハープのテーマ曲とのギャップが大変酷い事に(笑)
「実験が成功しますように。ミニゴリラは私の子供と同じです。強いロボットにして下さい。…………ふふっ、おかしいわ。ロボットのくせに、お祈りなんかして」
果たして、その祈りを聞き届けたのは天使か悪魔か――起動したビッグゴリラ二世は、移植された電子頭脳の影響によりビジンダーの事を忘れており、シャドウの計画通りにゼロワンに勝負を挑む。復讐ゴリラを相手に躊躇するゼロワンは一方的な殴打を受け、そこに育ての親として乱入するビジンダー。
「おまえのような奴に育てられてたまるか。馬鹿も休み休み言え」
「あなたにはわかる筈よ。ようく見てごらん」
再三のビジンダーの説得に、手榴弾を投げつけられた記憶、じゃなかった、厳しくも暖かい特訓時代を思い出すゴリラだったが、更にお邪魔虫ダーが乱入。ゴリラ母を爆殺したのはゼロワンである、とビジンダーに告げ、姉と母とどちらがいいか、改めて悩むビジンダーはゴリラに踏みつけにされてしまう。
これを助けようとゴリラ二世の頭部に500トンキックを叩き込むゼロワンだったが、ゴリラ五連バズーカを受けて左腕を落とされてしまい、ブラストエンドの発動モーション不能という、驚愕の大ピンチ。
不可解な事象が発生する事でお馴染みブラストエンドですが、世界の法則に介入する為には複雑かつ正確な術式が不可欠なのです!
連続で技を放つも全てゴリラ二世の強化ゴリラ装甲に阻まれ、打つ手無しかと思われたゼロワンだが、ビジンダーが再び乱入し「何故だ母ちゃん」と本音がぽろりとこぼれたゴリラにビジンダーレーザー!
「何故だぁぁぁぁ!!」
直撃を受けたゴリラは哀れ木っ葉微塵となり、勢い余った容赦のなさが、かえってゴリラ側の悲哀を強める事に。
ハカイダーはすたこらさっさと逃走し、ビジンダーは助けられた借りを返しただけだ、と言い残して01に背を向けて去って行き、ゼロワンにはただ、その背を見送る事しか出来ないのであった……。
「マリ……負けるな。マリ……おまえは美しい。おまえの顔には笑顔がふさわしい。泣くなビジンダー」
な、ナレーションさん……?
いつもより感情を強く込め、喋りのトーンも違うので一瞬悩みましたが、多分ナレーションさん。というかもはやこれは謎の第三者視点によるモノローグ(笑)
ナレーション「親子二代、凶悪のロボットは倒れた。人造人間が背負うのは、非情の宿命なのだ。キカイダー兄弟も、その為に苦しみ、悩んできたのだ。ビジンダー、おまえも自分で悩み、苦しみ、自らの道を切り拓くのだ」
面白い面白くないでいうと、荒っぽい、という感想になるのですが、終始「人造人間/ロボットのコミュニティ」において物語が展開する奇手が印象的なエピソードとなりました。
次回――ビジンダー、またも核爆発の危機にスイッチON!