『光戦隊マスクマン』感想・第15-16話
◆第15話「さらば愛しき花よ」◆ (監督:長石多可男 脚本:藤井邦夫)
モモコとハルカが部屋の前で「じゃ、また明日ねー」と挨拶を交わしており、マスクマンメンバーはどうやら、光戦隊本部ビルに居室を与えられている模様。モモコの部屋の中には、メンバー5人が一緒に写った写真が飾られており、実に安定して仲の良い戦隊です。
部屋に入ったモモコは、大切に育てている花につぼみがついた事に、大喜び。
「なんだそんなこと。びっくりするなぁ、たかが花じゃないの。ほんっといい年して少女趣味なんだから、もう」
一方、忍者は超クールだった。
そんなハルカに、5歳の時に穴に落ちて迷い込んだ洞窟で、この花の声を聞いて命を救われた思い出をモモコは語り、抜け忍回でのスキル《植物知識》を、同じ藤井脚本回で拾う形に。
「この花はね、5年に一度、それも三日間だけしか咲かないの」
花と一緒のモモコの映像にうっすらフィルター(?)かけて、アップを多用しながら今回メインのモモコをなるべく綺麗に撮ろうとするのが、長石監督らしい見せ方。
「キャロルラブはいつも私を励まし、力づけてくれた。これからもずっと大切に育てていくわ」
「モモコ、早くつぼみが開くといいね」
辛い時や苦しい時、心の支えになってくれたキャロルラブについてのモモコの思い入れを知ると、当初は真面目に話を聞く素振りのなかったハルカがその気持ちを尊重して一切小馬鹿にせず、君ら本当にいい奴らだな……!
その反動なのか、揃いも揃って何やら殺伐とした雰囲気の出自なのですが、回想のモモコが拳法着姿で繰り返し男性に叩きのめされており、やはり一子相伝の暗殺拳法の家系だったりするのか。《植物知識》は勿論、《毒物知識》に繋がるわけですし。
いよいよピンチの時は……相手の目を狙うのよ!
その頃、ゲルゲドグラーがばらまいた種子から瞬く間に成長した深紅の花が地上に出現。チューブの侵略兵器である恐怖の地獄花が、ツタを伸ばし、トゲを突き刺し、ガスを噴き出し、夜の街で次々と人々の命を奪っていく!
「思い知れ、ゲルゲドグラーの地獄花の恐ろしさを」
死傷者不明の大雑把な爆発ではなく、地獄花による殺害が明確に語られる事で、モモコサイドの幻想性と、チューブサイドの非道な侵略行為が互いを引き立てる対比となって展開を引き締めると共に、双方の釣り合いを取ったのが今回の良かったところの一つ。
正直、回想シーンでモモコが花の声を聞いた時には、これは藤井先生の幻想ロマン趣味があらぬ方向に転がってしまうパターンでは……とドキドキしたのですが、長石監督の演出もあって、幻想性はモモコを綺麗に見せる為の素材として主に使用された事により、幻想要素の飛躍が抑えられたのが良い方向に転がりました。
被害現場を調査した光戦隊は、怪しく咲き乱れる見た事もない深紅の花を目に留めて持ち帰り、モモコがそれを調査する事に。太陽が沈み、活動を始めた地獄花の恐怖がモモコに迫るが、開花したキャロルラブから吹き出した花粉が、地獄花を枯れさせてその窮地を救う。同じ頃、オペレーションルームのハルカが地獄花に襲われていたが、モモコが持ち込んだキャロルラブがこれを枯らし、謎の連続殺人の真相と対抗策が同時に判明。
「キャロルラブが、この花を……」
だが、子供の頃から自分を支え続けてくれたキャロルラブを駆除剤として失わなければならない現実に、モモコは思わず鉢植えを抱えて自室へと駆け込み、大切な白い花をひとり見つめる。
「キャロルラブ、子供の時から私を助けてくれた……キャロルラブ……みんなを助けてあげて。お願い」
一瞬動揺するも、くどくど悩みはせずに公の大義を優先するのはこの時代的なものも感じますが、とはいえキャロルラブをあっさりと提供して情緒を失う事なく、しかし私情を優先して人命のかかった事の大小を見誤る事もない、というのは絶妙なバランス。
モモコのヒーロー度を上昇させつつ、その想いを酌み取って黙って見守るチームとしてのマスクマンの姿も劇的になり、またその心情を最も知るハルカの表情や言葉で、女性メンバーの友情も補強する、と至れり尽くせりで、短い尺の中で物語の奥行きを広げる見事なシーンでした。
「長官……みんなを助けましょう」
夜が明けて、フーミン&地底獣と戦うタケル達は地獄花攻撃に苦しむが、完成した駆除剤を桃がジャイロにより空中から散布し、次々と枯死してゆく地獄花。
「この薬には、キャロルラブの平和を願う魂が込められてる。……ありがとう、キャロルラブ。……さよなら、キャロルラブ」
「何故だ、何故キャロルラブが地上の人間どもの手に……」
地底では、地獄花の天敵である事から根絶やしにした筈のキャロルラブが残っていた事に動揺が走り、バラバにはギロリと睨み付けられ、ゼーバの怒りに何やら考え込んでいたイガムは、喫煙コーナーもとい氷塊の中に眠るイアルの元へ。
「イアル……絶滅した筈のキャロルラブが地上にあった。……亡くなった王妃たる母上が、かないもせぬ平和を願って育てたキャロルラブが!」
――「イガム、イアル、このキャロルラブは、悪魔の地獄花を枯らす、平和の花。……たとえ、どんな事があっても、絶滅させてはなりません」――
回想シーンで母子の語らいが入り、抜け忍回(今回と同じく、長石×藤井コンビ)で語られた地底王妃とキャロルラブが思わぬ接続。これにより、イガム&イアルというキャラクターの背景として王妃の考え方が存在している事がハッキリとし、王妃もキャラクターとして物語の中にしっかりと根ざしてくる事に。
「イアル! 花で平和を築き守るなどと甘いことを言って滅びた我が王家! イアル! なぜキャロルラブが地上にあったのだ!」
イガムはやりきれない思いを物言わぬイアルへとぶつけ、花と女性メンバー、というわかりやすいキャラ回かとばかり思っていたら、チューブに根絶やしにされた筈のキャロルラブが残っていた事が、“消える事のない平和への祈り”のシンボルとして機能するのが非常にお見事。
少女時代のモモコ(地上人)が、花の声(地底王妃の願い)に救われた、というのも一段深い意味を持つ事になり、全体のオーダーなのか、藤井先生が地底王国関連を積極的に掘り下げていこうとしているのかはわかりませんが、この接続は大変巧い。
駆除剤散布中のジャイロに迫るチューブの戦闘機部隊との戦いで特撮空戦もぬかりなく差し挟み、合流した5人は、光戦隊・マスクマン!
うむ、秀逸回。
ゲルゲドグラーの攻撃に苦しむピンクだが、マスキーリボンで拘束するとオーラ爆殺し、前回メインが青とのコンビ回だったので、初の単独メイン回で戦闘面での見せ場もきっちり
「キャロルラブ……助けるつもりが、また助けてもらってしまったわね。…………ありがとう、キャロルラブ」
巨大戦はざっくり終了し、可憐な白い花に想いを馳せるモモコの姿を仲間達が見つめ、しんみりとしながらも前向きなオチで、つづく。
全体的にバランスの巧く取れたエピソードでしたが、キャロルラブが現在進行形の時間軸で直接喋る事はなく、モモコが聞いた声はあくまで子供時代の幻想であったのかもしれない、という形でファンタジー要素の飛躍を抑えつつ、王妃の願いが回想シーンの綺麗事ばかりではなく、具体例として落とし込まれたのは秀逸でした。
モモコ回としてもしっかりまとまっていた上でイガム関係の要素も巧く掘り下げ、良エピソード。
◆第16話「必殺!炎のバラバ」◆ (監督:東條昭平 脚本:井上敏樹)
山中でケンタを次々と襲う、トゲ付きのバネ仕掛けや迫り来る矢の殺意を込めたブービートラップ!
「久しぶりだな、ケンタ」
それは、ケンタの師匠・車翔吾が、久しぶりに来訪する弟子への歓迎として用意していた……のか、日常的に命を狙われているので常に設置してあるのか、もしかしたら借金取り対策の可能性もあり、光戦隊の闇は深い。
「先生……もっと、もっと稽古をつけて下さい。僕は、僕は強くなりたいんです」
軽やかに罠を回避したケンタが、暗い洞穴の中で師匠と激しくぶつかり合っていた少年時代を懐旧していると、バラバ率いる部隊と地底獣ガマロドグラーが奇襲を仕掛けてきて、オーラマスクして戦闘に。……なお師匠は、え、あいつ今なにやってるの? という顔になりました。
戦闘員を叩き伏せるマスクマンだったが、蝦蟇口ドグラーの放った特殊な虫により赤黒青桃が生命エネルギーを奪われ、それを我が物としたバラバは、マスキーロッドを一撃で両断するファイヤーバラバへと超進化。
飛び道具からの地形攻撃でバラバを足止めして辛くも本部へ撤退するが、師匠に助けられたケンタ以外の4人は、気力と筋力を失って変身不能になってしまう。
「変身しなくても、戦う事はできる」
鍛えれば鍛えるほど無限大・秘められた力は生身の体から・筋トレこそが解脱への道のモットーを掲げる光戦隊は、姿コンツェルンの私有する地図にない特訓施設・風雲地獄島へと再上陸し、もっと岩をーーー! と、ジブラルタル海峡を越えよとばかりに放たれる砲撃の嵐を生身で受け止めようとするが……ちょっと無理そうだった。
「みんな! どうしたんだ?! 立つんだ!」
「駄目だ……全然力が出ない……」
「お前達それでも選ばれた戦士か。エネルギーを奪われたのなら、何故もう一度エネルギーを引き出そうとしないんだ。やり直すんだ、初めから。オーラーエネルギーは無限だ。何度でも引き出す事が出来る」
オカルト良りの指導者@恰幅のいい中年男性が強すぎる信念を持ってスーパーパワーに若者達を導いていく、という構図は2年前の『チェンジマン』と同様の今作ですが、『チェンジマン』のアースフォースが“外的な”力であったのに対し、“内的な”力であるオーラパワーの特色を改めて打ち出し、海岸で瞑想に入る4人を遠隔オーラパワーでサポートする長官。
(焦るな……恐れるな。無だ。無の境地から、オーラエネルギーは生み出される)
年齢的にスタミナに不安があるのか、他に何か理由があるのか、前線に立つことはない姿長官ですが、考えてみると長官ポジションと戦隊メンバーが“同様のスーパーパワー”を有している、というのは割と珍しいでしょうか。
勿論、うまくやらないと「ではどうして長官は自ら戦わないのか?」という疑問が発生してしまうので気軽に持ち込むと地雷、というのはありますが、この辺り翌年の《メタルヒーロー》シリーズ『世界忍者戦ジライヤ』(主人公の父親が師匠的存在のマスターニンジャ)が非常に巧く処理していたのも、今作と『ジライヤ』の間にある繋がりを感じないでもなく。
照りつける太陽の下、タケル達が必死に精神を研ぎ澄ます(モモコとアキラが途中で一度倒れる事で、オーラパワー再獲得に厳しい「試練」性が与えられているのが後半にかけて効く事に)一方、ケンタもまた、少年時代の修業の地で己を磨き直そうとしていた。
(鍛え直すんだ……! 俺も一から、もっと強く……もっと強く!)
怪人の特殊能力による状態異常、のプロットを持ち込みつつ、「怪人を倒したら状態異常が回復」のセオリーは採らない事により、力を奪われた4人と力を奪われなかった1人の双方の特訓にそれぞれの意義を与え、マスクマンとは何か、を改めて描く真っ当な修行編。
(勝てるかバラバに……あの、バラバに……。……俺一人で)
敗北の記憶に思い悩むケンタが、固く握りしめた両手のアップの後ろにボディアーマーを伝い落ちる汗を描き、流血描写をせずに、流血的な心情を表現してているのが素晴らしい演出。
ところがそこに突然、漆黒の鎧武者が現れ抜き身の日本刀でケンタに襲いかかる! この凄まじい東映感(笑)
(このままではやられる……!)
タケル達が瞑想を続ける中、謎の鎧武者の執拗な追跡に追い詰められるケンタは、必死の寸前、振り下ろされる日本刀を受け止める真剣白刃取りに開眼。渾身の反撃を鎧武者に叩き込むと頬面が現れ、その小隊は、もちろん師匠。
「ケンタ、今の呼吸だ」
「先生、僕の為に……」
「おまえが、正義の為に、戦ってるのはわかる。だが……心に、恐れがあっては、勝つ事はできん。行け。そして、勝つのだ」
抱き起こした師匠が瀕死状態のごとく呻いていますが、お互い、殺意には殺意を向けなくては、真の力は引き出せないのです。瞑想中の姿長官も、そうだそうだと言っています。
マスクマン不在の地上がチューブの大空襲を受ける中、ブラックマスクは一人敢然とバラバに勝負を挑み、一方で灼熱していくタケル達4人と姿長官のオーラパワー。
「バラバ、許さん!」
「貴様死ぬ気か……?!」
バラバの必殺剣を開眼した奥義で打ち破った黒が相討ち覚悟で組み合う一方、無念無想の境地に到達した4人は遂にオーラパワーを回復し、アップで次々カッと目を見開いていくのがリズミカルで格好良く、また、一方的に黒に助けられる役回りではなく、4人の再起は再起でヒロイックに描かれるのが、良いバランスでした。
「……みんな!」
「腑抜けどもに用は無いわ!」
「オーラマスク!」
バラバの口臭高周波を受けて追い詰められた黒を助けた4人は再変身。
「みんな、元に戻ったんだな」
「貴様達ぃ……!」
「へっ、オーラエネルギーは無限なんだ! 幾らでも引き出す事が出来るんだ」
ここだけ抜き出すと無限エネルギー自家発電システムなのですが、オーラパワーを再び引き出す為の苦闘が入念に描かれる事で“奇跡の否定”が成されており、あくまでもそれは自らの心身を鍛える事で成し遂げられるもの、というのは、『チェンジマン』における追いアースフォース否定からの流れも感じるところ。
「なにぃッ?!」
「光戦隊!」
「「「「「マスクマン!!」」」」」
今回も絶妙に決まって、2話続けて気持ちいい揃い踏み。
つくづく、ここが美しくはまるのが醍醐味であるな、と。
再び5人揃ったマスクマン(黒一人では結局バラバに勝っていないのも良い目配り)は、鮮やかなコンビネーション攻撃でバラバを退かせると、次々と剣を投げつけてからのレーザーマグナムで地底獣の虫攻撃を阻止してからショットボンバー。巨大戦ではジャイアントスイングからの銃撃、そしてファイナルオーラバストにより蝦蟇口ドグラーを葬り去るのであった。
大きな危機を乗り越えた5人は、ケンタの師匠も交えて川原で焼き魚を楽しみ、真剣白刃取りを会得したと豪語するケンタの頭をアキラが竹刀で叩いて一騒動、のほのぼのエンドで、つづく。なおアキラがケンタの背後から竹刀を振り下ろす為の隙をモモコが誘導しており、二人のコンビ要素が強められると共に、常在戦場、光戦隊の闇は深い。