東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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年の終わりのキカイダー

キカイダー01』感想・第31話

◆第31話「哀れ人造人間ビジンダー爆死」◆ (監督:永野靖忠 脚本:長坂秀佳
 「「そうだ、ボタンを外すのだゼロワン」」
 その瞬間に、我々が通報しておいた警察官が到着するぞ!
 ナレーション「なにも知らぬイチローは、一つずつボタンを外していく。離れろゼロワン! その女を放り出せ!」
 ナレーションさんから、かつてなく自由度の高いド直球が投げ込まれましたが、年末ギリギリに、こんな面白い台詞が、ナレーションから聞けるとは(笑)
 イチロー兄さん社会的抹殺寸前、激痛回路の痛みを押さえ込んだマリは立ち上がるとその場を走り去っていき、シャドウ基地で作戦を遂行できなかった制裁を受ける事に。マリからビジンダーへのチェンジが初披露され、変身すると女王様気質になるビジンダーは、激痛回路の仕返しにとザダムを蹴り飛ばし、調子に乗っていたハカイダーは殴り飛ばし、ビッグシャドウに改めて忠誠を誓う。
 「私はゼロワンを殺す為にのみ、この世に生を受けた、悪の天使。ゼロワンの命は、この私が、必ず」
 おまわりさんこの人です作戦の失敗したシャドウはゼロワン抹殺の為の人質として久々にミサオ一行を標的とする事を思い出し、山道をゆく3人がかぶりつこうとしたリンゴが竪琴ボウガンにより次々と壁に突き刺さっていく、というのは面白い演出。
 「ほほほほほほ、ミサオ、その体で、私に楯突こうというのかい?」
 「俺が代わりに楯突いてやろう」
 負傷してなおビジンダーからアキラ達をかばおうとするミサオだが、そこに乱入してきたのはザンネンダー。
 「俺は貴様が気に食わん。ビッグシャドウもザダムも、貴様だけを頼りにしているようだが、ゼロワンを殺すのは、この俺だけだ」
 「ほほほほほ、私とやるというのね、ハカイダービジンダー・キック!」
 「ぬぉぉぉ?!」
 お・ま・え。
 ザンネンダーはどこかで見たような映像で思い切り斜面を転がり落ちていき、その間に一味の手から逃れたかと思われたミサオ達だが、気に入らない奴の作戦の邪魔をすれば組織としては失敗するが気分がよく気に入らない奴の評価が下がれば自分の評価が上がる筈理論を唱えるザンネンダーに銃を向けられ、本格的に執念深さと生命力だけが取り柄になってきたハカイダー、何このまごうことなき三下ムーヴ。
 宿命のライバルの座も悪の最高幹部の座も転げ落ちた先で、すっかり、毎度主人公(達)の邪魔をしては追い払われて「覚えてろよー」と捨て台詞を残し続けている内に、ちょっとやそっとの爆発や墜落では死なない体質になっていき、最終的には変な人気が出るやつだこれ……と化してきたザンネンダーは駆け付けたイチローに殴り飛ばされ、やはりどこかで見たような映像で顔面から地面にダイブし、やられ素材に事欠きません。
 だが、イチローがザンネンダーの相手をしている内にミサオらはビジンダーに追い詰められてしまい、アキラとヒロシを逃がした「ミサオは子供をかばって吊り橋から真っ逆さまに転落」!
 「可哀想に……ミサオ姉ちゃんは、必ず僕が見つけだしてくるからな」
 アキラとヒロシを別荘(ギルの……?)に落ち着かせたイチローはミサオの行方を探して渓谷を彷徨い、その帰りを待って寄り添うように眠る兄弟の悲しみがリエコ退場の時よりしっかり描かれているなと思ったら、アキラがリエコの写真を持ち出したのは、後付けながら補強として良かったです。
 「リエコ姉ちゃんも、シャドウに殺された。今度は、ミサオ姉ちゃんまで。それでも兄ちゃんは、泣くなっていうのかよ」
 「ばかやろぉ! ……たった一人のお姉ちゃんだった。口は悪いが、あんなにいいお姉ちゃんは居なかったんだ」
 アキラとヒロシは滂沱と涙を流し……振り返れば自分が何者かという記憶を失いながらさまよい歩き、無気力・無感動だったアキラが、イチローの背中に守られ、己の立場を怒り嘆き、やがてリエコという庇護者を失い、生き別れの兄との再会、あっけらかんとしたミサオとの同行に至る、という旅路を通して、遂に人間らしい情動を取り戻した姿と思えばなかなかに劇的ではあるのですが、途中の段取りがすっ飛ばし気味だった事と、アキラ少年の位置づけが基本的に忍法帖ギミックであり、キャラクターとして丁寧に扱われていたとは言いがたいのが、惜しまれるところです。
 ただまあ、それでもそれなりに、一応の着地点を設定した、というのは良かったところ(これでリエコダーも完全な無駄死にとはなりませんでしたし)。
 イチローが捜索を続ける中、泣き疲れて眠ってしまう兄弟「だがその後に意外な事が起こる」。なんと吊り橋から落下後、崖から突き出した木の枝に引っかかっていたミサオは、マリによって助けられて手当を受けていたのだ。イチローと再会を果たすミサオだが、そんな事を知らぬ兄弟は、ビッグシャドウのタマぁ取って姐さん達のケジメをつけるんじゃ! と丸太を手に取り二人だけで出入りに向かってしまう。
 気持ちで勝てるならスペシャルポリスなんていらないですよね、とシャドウマンに捕まりかけていた二人はマリによって助けられ、一足遅れでやってきたイチローは、マリ=ビジンダーである事を指摘。
 「君が人造人間だというのは、最初からわかっていた」
 あ、あれ?! 明らかに、今なにか、サーチして確認していましたよね?!
 イチロー兄さんのスペック的には気付いていた方が自然なのですが、話の筋としては気付いていなかった方が自然なので、大変ややこしい事態になっています(笑)
 「ビジンダーで居る時は、冷酷で残忍な悪のロボット。このマリの姿で居る時は、どうしても悪い事のできないかたわもの」
 「いや、今の君が、本当の君の筈だ!ビジンダー、君を僕の力で、直させてくれ」
 「いいえ、できないわゼロワン! 私は、シャドウで産まれたロボット。そして私の使命は、ゼロワン、あなたを殺す事。チェンジ・ビジンダー
 マリは周囲にハートマークの舞うバック宙からビジンダーにチェンジするが、ビジンダービームをかわしたゼロワンは、いきなりのゼロワンカット、続けてドライバーでビジンダーを気絶させると上半身を裸に剥き、冒頭では、あんなにドキドキしていたのに兄さん! 見損なったよ兄さん!(byジロー)
 「俺の腕じゃ、完全な良心回路にはならないだろうが。せめて、せめてイチローぐらいの良心を、持たせてやりたいんだよ」
 ビジンダー内部に良心回路を勝手に組み込むイチローだが、ザンネンダーの介入によりビジンダーの身柄は奪われてしまい、再び敵として姿を見せたビジンダーと「遂に宿命の対決となる」。
 「俺は君を殺したくない。俺の腕じゃ、不完全な良心回路だが、俺なりに精一杯やったんだ。君の体は、もう良心回路がついているんだ。……ビジンダー、後は君の意志次第だ。僕は君を敵に回したくない! ……ビジンダー!」
 「……ゼロワン、あなたがどんな事をしても、しょせん私はシャドウで産まれた悪のロボット。私は、あなたを殺す為に造られたロボットなのです」


 「おまえは正義に生きることを望まれて生まれてきた。俺は、破壊する事だけを望まれて生まれた」
 「裏切ればいい」
 「おまえは自分を裏切れるか? 正義を捨てられるか? 誰も背負って生まれた運命には、逆らえないんだ」
 「どう生きるかを決めるのは、自分自身だ!」
 「運命が全てだ!」
(『特捜ロボジャンパーソン』第15話「翼をすてた天使」)
 20年の間隔があるので、果たして意識があったのかどうかはわかりませんが、『ジャンパーソン』ファンとしては傑作第15話を思い出さずにはいられないやり取り(ビジンダーが「悪の天使」を名乗っているのも繋がりますが、果たして下敷きであったのか)。
 イチロー兄さんが“正義のロボット”に生まれてきた事に対して迷いも悩みも無いのに対して、JPさんは自分が“正義のロボット”として生まれてきた事そのものに対して深い屈折を抱いているのですが、良心回路を取り付ける=正義のロボットになる、のではなく、「良心回路」はあくまで“きっかけ”(のシンボル)であり、「後は君の意志次第だ」(「どう生きるかを決めるのは、自分自身だ!」)というのが、時代を超えた普遍的なテーゼとも繋がって、格好いいところ。
 ビジンダーは運命に従う事を選び、説得を諦めるイチローだが、その戦いにアキラとヒロシが割って入り、ビジンダーをかばう。
 「おどき……」
 「二人は君をかばっているんだぞ!」
 「二人ともそこをおどき! どかないと、ビジンダーレーザーで黒焦げになるよ!」
 冷酷非情な悪のロボットとしてた戦いを続けようとするビジンダーだが「その時、不思議な事が起こる」。
 「嘘をつくな、ビジンダー! 今君の目から流れているものは、それはいったいなんだ!」
 イチローの同情を惹くためのザダムの設計により、マリとビジンダー、二つの人格の間を揺れ動くビジンダーの目からは涙がこぼれ落ち、テーマ曲をバックに、マリの涙とビジンダーの涙が重ねられるのは、アップを多用した力強いやり取りもあってなかなかいいシーンでした。長坂さんの脚本も、ようやくギアが上がってきた感じ。
 「君は、涙を流す事のできる、唯一のロボットだ。君さえその気になれば、シャドウを抜け出す事もできるんだ!」
 「おだまり!」
 己の中の良心を振り払うかのようにビジンダーはレーザーを放ち、アキラとヒロシを守ったイチローは、チェンジ01。説得虚しくいよいよ激突するかと思われた両雄だが、そこへ乱入したお邪魔虫ダーがミサオ達へと銃を向け、ゼロワンは足にダメージを受けてしまう。
 度重なる身勝手な乱入の末、人質を取っての嬲り殺しを宣言するザンネンダーのあまりにも醜い所業に、こんな奴と同じ組織に居るとか耐えられない、とビジンダーはザンネンダーへと躍りかかり、変身して一当たりが小刻みに入るも、長尺のクライマックスバトルに相当するのはビジンダーvsハカイダー、というちょっとした変化球。
 「「馬鹿者どもめが」」
 その戦闘を確認したザダムはビジンダーハカイダー?)を自爆させ、「哀れ人造人間ビジンダー爆死」!! そして、一緒に木っ葉微塵になるハカイダー(笑)
 ナレーション「ビジンダーは、悪魔の戦士ザダムの超能力によって、摩訶不思議な爆発を遂げる」
 遂にナレーションから「摩訶不思議」扱いを受ける、シャドウ絡みの出来事。
 ナレーション「ハカイダーは、そしてビジンダーの生死は如何に。イチローは征く、果てしないシャドウとの戦いの道を」
 ゼロワンが関与しないまま戦闘が終わる思い切った決着となり、サイドカーで走り去るイチローを見送るという形で、アキラ達からはとうとう「さよなら」宣言。この数話、物語的な意味を失ってコメディリリーフの座に落ち着いていましたが、これにてお役御免、でしょうか。
 リエコ退場後、3人組でコメディリリーフになってから予想外に機能していた部分はあったのですが、今作前半戦の迷走を象徴する存在になってしまい、イチローとの関係性を上手く使い切れなかったのが、惜しまれます。
 喋りすぎの予告からどうなる事かと思われましたが、次回予告の内容通りに本当に最後まで展開しつつも、個々のシーンがしっかりと肉付けされており、とっちらかりはしながらも見応えのあるエピソードでした。ビジンダー(マリ)が子供を守り、子供から認められる事で“正義のロボット”に近付いていく、というのもアキラ&ヒロシの使い方として悪くなかったところ。
 次回――「この作戦の指揮者、強敵・インクスミイカ」。
 物凄くつぶらな瞳なのですが、強敵、なのか……。