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燃え上がるネクサス

ウルトラマンネクサス』感想・第16話

◆Episode16「迷路-ラビリンス-」◆ (監督:北浦嗣巳 脚本:荒木憲一 特技監督:北浦嗣巳)
 ティルトに必要なのは、専門のカウンセラー。
 前回のあらすじがまとめられた結果、組織としてのティルトの欠陥部分が克明に炙り出され、物語としては孤門の苦悩と溝呂木の邪悪を強調したいのでしょうが、どちらかというと、ティルトどうしようもないな……という気持ちが膨れあがっていきます(笑)
 ここまでの情報からすると溝呂木も元ナイトレイダーのようですし、明らかにメンタルケアに失敗した節が窺えるので、今のところ、真の邪悪を生んだのはティルトの組織体制という事に。
 やはり、戦士に必要なのは充実した福利厚生と年2回の賞与です。
 PTSDに押し潰された孤門が戦場を悄然と歩み去る一方で、カラータイマーが点滅しながらも敢然とメフィストとぶつかり合うネクサス、というのはヒロイックで格好いい描き方。
 ……まあ、姫矢の本来の目的はビースト退治(による人命救助)なので、姫矢主観においてはメフィスト戦は前座でなくてはならず、物語としてのスポットライトと、姫矢にとってのスポットライトがズレている事による、“力の入れどころ”の齟齬が発生してしまってはいるのですが、これはファウスト戦にも見られた問題点。
 作品的にはそこをNRがフォローする事でダブル主人公体制の成立と、NRの存在意義を生んでいるわけですが、物語内部ではネクサスとNRは連携はおろか意思疎通さえ存在しないので、ネクサスがNRの存在を信頼して行動している、という前提が成り立ちにくく、メタ的な理由付けにしかなっていません。
 大きな問題の根は、1クール以上かけて、ネクサスとナイトレイダーの関係が、“姫矢と孤門の個人的思い込み”以外にほぼ存在しない事であり、特にお花ビーストの共闘(?)撃破以降、「ナイトレイダー(ティルト)がネクサスをどう思っているのか?」の言及が無くなり、元より「ネクサスがナイトレイダー(ティルト)をどう思っているのか?」は一度も触れられた事が無いのですが、その互いの認識の積み重ね(変化)を想像で補うのは限度があって、明確な劇中描写が必要だと思う部分です。
 本当に今作、その時その時の主筋を進める以外の要素(周辺キャラのリアクションなど)を徹底的に刈り落としすぎて、ほぼ裸の幹のみ、みたいな事になっているのですが、どうしてここまで一直線なのか。
 辛くもメフィストを退けるもネクサスは力尽きて変身解除してしまい、通信を無視した孤門は装備一式を路上に打ち捨てて、ナイトレイダーに背を向ける……まあ先に戦場で孤門を見捨てたの、隊長達ですしね!
 「幸い、石掘隊員は軽傷で済みましたが、ビーストを取り逃がした上に、現場から、逃走するとは……」
 「結果的に、孤門を追い込んでしまった、私の責任です」
 「現在MPが、彼の行方を捜索中です。ティルトの存在を、公にはできませんからね」
 もうやだ、この人達(笑)
 とにかく、“何らかの資質”が必要だと示唆されている事や、秘密厳守の観点からも、ほどほど重要性が高い筈なのに、使い捨てレベルで現場要員への扱いが凄まじく雑という設計レベルでの矛盾点が個人的に凄く引っかかってしまって、物語への没入感が大きく削がれます。
 いっそ現在放映中の『タイガ』のイージスに毛が生えたぐらいの秘密組織だったら、個々の隊員のウェイトの重さに対する扱いの適当さにもまだ納得がいきやすいのですが、《ウルトラ》シリーズとしての防衛隊要素を中途半端に引きずった事が、今作でやりたい主人公像と正面衝突したようにも見えます(この辺り、制作環境的に何がどこまで可能だったか、という時代性も出ますが)。
 「彼には荷が重かったという事ですね」
 「かもしれません。でも私は……孤門が苦悩に打ち勝ち、必ず這い上がってくる事を、信じています」
 何を言っているのかこの人。
 OPのキャラカットが多分ハンドサインのつもりなのだろうけどいつ見ても空手チョップな隊長、寡黙だが部下をよく見ている実直なリーダー、みたいなイメージなのかもしれませんが、ろくな会話もかわさず精神面のケアもせず当初は危惧していた孤門に対してこれといった出来事ももないまま話の都合で唐突に「信頼」を口にする姿はもはや、その場その場で適当に口にした言葉を本人は常に本気だと思い込んでいるゼネラル・シャドウ寄りの人になってきて、口を開くほどに大事故。
 ティルト組織の描写にまつわる問題点については度々触れてきましたが、ものの見事に、燃えさかるキャンプファイヤーになんの対策もせず飛び込んで全身大火傷になっていて、頭痛い……。
 MPに囲まれた孤門は、「姫矢」の名前を出した姫矢元同僚男の車に引っ張り込まれ、目の前で孤門の身柄をさらわれるMPの人達が大変間抜けな具合に。孤門から情報を引き出そうとする眼鏡記者だが、隠れ家に侵入した溝呂木チョップを受けて気絶し、溝呂木は再び、リコの幻影により孤門を惑わせる。
 一方、眼鏡記者から連絡を受けた姫矢元同僚女はネズミビーストに襲われた所を姫矢に助けられるが、姫矢は元カノ?からの問いかけよりも孤門の救出を優先し……駆け去る時の言葉が丁寧語なので、付き合っていたわけでなく職場の先輩後輩に過ぎないのかもしれませんが、前回の回想などを見るに女性の方からは明らかに好意のオーラが出ており、ウルトラマンの変身者を「くん」付けで呼び片思いの気配を感じさせる年上のショートカットついでにちょっと幸薄そう」って、あまりにも稲森博士(『ウルトラマンガイア』)と丸被りなのですが、いったい誰の趣味なのでしょうか!(笑)
 「駄目だ孤門! 闇に囚われるな!」
 「もうヤツを楽にしてやれ」
 「何?!」
 「おまえはヤツの中に自分の姿を見てたんだろうが、いい加減ヤツは苦痛から解放されたいんだよ。愛する者の思い出に浸って、過去の中に生きる方がヤツには幸せなのさ」
 「そんなのは、生きてる意味がない!」
 姫矢の前には今日もミスター嫌がらせが現れ、変身しない方が強いのでは疑惑が膨らむ中、幻影リコの手を取り生きる苦しみから解放されようとした寸前、リコフクロウ様を踏みつぶした孤門は、本物のリコの言葉、そして姫矢の言葉を思い出す。
 「……リコは……死んだんだ。……おまえは、リコじゃない」
 変えられない過去にすがる事をやめ、誰かを助けられる未来を選んだ孤門が偽リコをきっぱりと否定すると、リコフクロウが力強い光を放って周囲を眩く染め上げ、本当に、霊験あらたかだったな、リコフクロウ様……。
 溝呂木ラビリンスを抜け出した姫矢は、ネズミビーストと交戦中のNRを目にし、空間の割れ目から飛び出した直後に「過去は変えられないが、未来なら変える事ができるかもしれない」という姫矢の言葉がリフレインされるので、孤門不在でNRが壊滅する未来を幻視でもしているのかと思っていたら(助けた副隊長の反応も妙に弱々しいし……)、ネクサスまで現れて普通に現実でそのまま話が進んでいく、というのは、少々困惑。
 隊長は孤門にネズミの弱点を教えて銃を託し、ウルトライヤーでそれを聞いたらしいネクサスがネズミの口をこじ開け……どうにもこうにも、やたらとわかり合っている孤門と姫矢の距離の接近がダイジェストすぎて置いてけぼりにされてしまい、決定的瞬間が今ひとつ劇的に感じられず。
 (僕はもう逃げない。憎しみも、哀しみも、全て背負っていく――)「これ以上、誰かを不幸にしない為に!」
 孤門の銃撃は見事にネズミの再生コアを打ち砕き、ネクサスは必殺ビームでネズミを完全撃破。
 喪失を乗り越える孤門 → NRの危機を救う → 隊長からのパス → ネクサスとの連携 → 未来を変えるんだ!
 という成り行きそのものは綺麗に収まったのですが、とにかく姫矢と孤門の関係性の描写不足が全方位に響いており、作り手の想定している到達点よりも遙か以前に着地している事で生じた温度差が、そのまま物語への没入感の障害になってしまいました。
 また、「セラを失った姫矢」と「リコを失った孤門」を重ね、哀しみに囚われて立ち止まる事なく未来を変える為に戦うんだ! と持ち込んだ結果、孤門と姫矢が同一化してしまったのは、個人的には不満。
 話数的にはまだまだ中継ポイントの一つでしょうから、これから次のステップに進むのだろうとは思いますが、現時点においては、立ち位置や能力は違うが同じ思考法のヒーローが2人に増えた、という状況にあまり面白みを感じず、なるべく早く次の段階に進んでほしいところです。
 (この苦しみは、リコと生きた証なんだ。もう僕は、迷わないで歩いていく。……過去を変える事はできないけど、未来は、変える事ができるかもしれないから)
 孤門は思い出の動物園で眩い日の光に向かって顔を上げ、再起した孤門を清々しく描いてつづくのですが、ティルト的にどうなのかとか、眼鏡記者がチラリとも出てこないとか(今回、孤門から手に入れた情報があるので再登場はありそうですが)、あれだけ嫌がらせにこだわっていた溝呂木がリコフクロウの光を浴びた程度であっさり追い払われて以後出てこないとか、描写の問題が色々と気になって、映像に比べて全くスッキリせず。
 積み重ねた不幸の前振りから爆発した悲劇を乗り越え、迷宮を抜けて前を向いて歩き出す孤門を描く一区切りとしては、冴えない出来でした。
 1クール目における、露骨な前振りからの露骨な悲劇はまだ諦めがついていたのですが、ここ数話の、丁寧に準備していた落とし穴に端から万歳してダイブしていき、落とし穴を落とし穴だと見せつけながら全身火だるまになっていく展開は率直に辛く、そろそろ浮上の気配が真剣に欲しいのですが、次回――これから本当の闇を見せてやる!(副隊長が)
 爆発大炎上をバックに仁王立ちする副隊長の足下に「闇―ダークネス―」とサブタイトルが入る次回予告は、大変面白かったです(笑)