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脳幹に二発

仮面ライダーゼロワン』感想・第7話

◆第7話「ワタシは熱血ヒューマギア先生!」◆ (監督:山口恭平 脚本:筧昌也
 見所は、教え子達の目の前で、その慕う教師ヒューマギアの脳髄に鉛弾をぶち込んで鉄くずに変えようと意気込む不破諌さん。
 ……貴方、中学生に自分とは別方向のトラウマを植え付けてどうするつもりですか。
 「……大変そうですね」
 「……現場は、板挟みに次ぐ板挟みですよ」
 ヒューマギア教師のリセット(データの初期化)について相談を受け、とある中学を訪れたアルトとイズ。母親達からの抗議の嵐に担当の男性教師と一緒に頭を下げて同情を寄せ、詳しい事情を聞く前とはいえ、ヒューマギアを初期化しようとする側に対し、アルトが最初から否定のバイアスがかかった状態で入らなかったのは、細かく良かったところです。
 別口で教育委員会から連絡を受けた不破も姿を見せた、学校が抱える問題、それは……弱小バスケ部の顧問に据えた体育教師ヒューマギアが、想定外の「熱血教師」になってしまった事。
 機械ならではの観点からデータに基づいた熱血指導を行う教師ギア・コービーはバスケ部の生徒達から慕われていたが、ヒューマギアにも拘わらず決められた部活動の時間をオーバーし、その行動が受験にも響くと問題視されていた。
 一度は自力でリセットを行おうとした依頼者は、コービーのまくし立てる理屈に押されてリセットできずに困り果てており……自分で理由をつけてリセットを拒否するヒューマギアって、もはやそれは既に暴走しているのでは。
 一方、滅から飛電或人の暗殺を命じられた迅と暗殺ギアが学校に潜入し、暗殺技能をラーニングされた割にやたらお茶目なノリの暗殺ギア――通称:暗殺ちゃん――と、いちいち自分で効果音を口にしながら暴れるようになった迅のテンションが相乗効果で上がっていくのは、山口監督っぽいノリ。
 率直に、あまり得意ではないノリのキャラ付けなのですが、子育てって難しい……!
 “黒塗りの車”から降り立ち、迅と暗殺ギアの前に立ち塞がった唯阿/バルキリーは、OPクレジットに力強く「仮面ライダー迅」(そのまま)と書かれてしまったゼツメファルコンに押し込まれるとホーネットに変身……するのではなく壁を蹴って暗殺ギアの方へと回り込み、新たなキーを絶滅ドライバーに填め込む事で暗殺ギアの機能を停止させると、フリーズした暗殺ギアを黒塗りの車に乗っていた人員が回収。
 車の違いから、どうやらA.I.M.S.とは別の組織としての行動のようであり、まだ姿を見せぬ第4極(肩書きからすると唯阿はA.I.M.S.に出向しているようなので、出向元だとするとこちらも政府関係の可能性はありますが)との繋がりが不穏な雰囲気を漂わせる唯阿ですが、戦いに巻き込まれた学生を身を挺してかばう姿を入れる事で、(現時点では)善玉サイドの「仮面ライダー」としてのヒーロー性は下げないのが手堅い。
 悲鳴を聞きつけたゼロワンとバルカンが現れるとバルキリーは目視される前に姿を消し、ゴリラにならずにショットガンをぶっ放すバルカン。
 「こいつの威力にも慣れてきたな」
 そう、鍛え上げた筋肉こそが、科学を越える唯一万能の真理。
 ゼツメファルコンは暗殺ギアが奪われた事に気付いて撤収し、翌日――A.I.M.S.により封鎖された体育館に入り込んで練習していたバスケ部を目にしたアルトは、練習場所として飛電の施設をこっそり提供。
 「それにしても……ヒューマギアなのになんで立入禁止の場所に入ったんだ?」
 コービーの行動に疑問を抱きながらも、バスケ部の一員である裕太少年の、受験を控えて退部者が出てしまう前の最後の試合でなんとか初勝利をあげたい、という夢を応援する事を決めたアルトは、その夢を支えるコービーを信じる事を選ぶ。
 「弊社としては、コービーをリセットする事はできません。規約の事もありますが、今の状態は、教師ヒューマギアとして、正しいラーニングの結果だと思います」
 これに不服を抱く担当の分度器教師は、バスケ部が次の試合に負けたらコービーをリセットして下さい、と賭けを持ちかけ……一企業(しかも超大企業)のトップが出した「会社としての判断」に対し、それを撤回するように賭けを申し出るという、大変突飛な人格に。
 アルトの話を聞く態度も露骨に悪く、せっかくアバンタイトルでは比較的フラットに描いていたのに、この後、物凄い勢いで、ただの非常識で無責任な駄目人間になっていくのですが、アルト/コービー側を肯定的に描く為の単純化が行きすぎて、「人格に問題のある人がコービーを否定している」という形になってしまう事で、「人とAIの関係性」を描くにあたり、“普通の人々”がヒューマギアをどう受け止めている(いく)のか、という要素から離れてしまい、かえって物語全体の主題からズレてしまったように思えます。
 わかりやすさを意識したにしても、完全にこのエピソードにおける敵となっていて、ここまで悪し様に単純化しなくても良かったのでは。
 「やだ! ……なぜ…………なぜ、私は、ここに居る……」
 バスケ部は惜しくも試合に敗れ、嬉々としてリセットしようとする教師と、嬉々としてスクラップに変えようとする不破を止めるアルトの前で、コービーに異変が起こる。
 「どうした、コービー?」
 「私は……私はバスケ部が初めて勝つのを見届けたい。だからここに居る」
 「……これは」
 「私の先生は……みんなだ」
 コービーがただの体育教師ヒューマギアから、バスケ部の生徒達と同じ夢を追う望みを持つ事を自覚したその時、嬉々として姿を現す迅。
 「ゼロワン! そーれーは、ヒューマギアの自我、だよ」
 「滅亡迅雷……」
 「僕たちはね、そういうヒューマギアを友達にしてきたんだ」
 出し惜しみしない種明かしにより、滅亡ギルドのこれまでの行動の数々がアルトの中で一本の線に繋がり、引き続きの展開の早さでサブライター回でもぐいぐい動かしてきます。……同プロデューサーの『ビルド』の時はこれで中盤、致命的に停滞したので、そこの所は結構心配。
 「自我だと? 危険だな」
 「それは違う! コービーの自我は、みんなの夢で作られた素晴らしいものじゃないか!」
 果たしてそれは、暴走の前兆なのか、願いの結晶なのか――不破とアルトが揉めている間に迅はコービーにベルトを装着し、コービーはマンモスマギアへとゼツメライズ。
 一方、唯阿は強奪した暗殺ギアを何故か自由にするとドードーマギアへと変身させ、その一部始終をカメラに収めていた。
 情熱タイガーに変身したゼロワンが、マンモスマギアの火炎吸収反射を受けて苦戦しているところに暗殺ドードーも乱入。バルカンはイズから鞄ブレードを奪い取って無断で振り回し、氷の弾丸でしれっとゼロワンを助けたホーネットは、射撃に用いたキーをゼロワンにレンタルする。
 「私はA.I.M.S.の技術顧問。信頼しろ」
 そもそも新しいプログライズキーを取り出している時点で不信なわけですが、素直に装着したゼロワンは、肩部と胸部のクリアパーツ装甲が格好いい冷静ベアフォームへと変身。
 キーが共有で使えるという玩具ギミックのアピールなのでしょうが、バルカンは唐突な回転斬り・シューティングカバンストラッシュでドードーを葬り去り、シューティング要素はどこに、という疑問を差し挟む前に、熊ゼロワンはマンモスを氷漬けにして粉砕するフリージングインパクトで撃破。
 暗殺ギアは目立つ扱いだった割にあっさりと葬り去られ、迅は絶滅ドードーキーを確保するが、もう一つの絶滅マンモスキーは、迅よりも早く唯阿が密かに回収するのであった……。
 そして誰一人退部しなかったバスケ部は1年生の新入部員も加わって活動を続ける事になり、そこには顧問として一からバスケを学ぶ、体育教師ギアの姿があった。
 「裕太くん達、コービーと一緒に、また成長しますね」
 「……俺は何度でも信じたい。ヒューマギアは人間をサポートする、夢のマシンだ」
 AIが人を支えるように、人はAIを育て、共に手を取り合って夢の実現を目指せる筈……と一つの理想像を語る形で着地させつつ、その基部には深い闇のマグマが横たわり……独自行動の目立った唯阿は、入手した絶滅ギアのデータを分析中。
 「道具は使いようだな」
 果たしてその思惑やいかに、でつづく。
 筧脚本が予想外の三連投になりましたが、前回が良かったのと比べると、物足りない出来。第5話ほど正面から落とし穴にはまったわけではなく、むしろその回避が意識されていたのですが、そこから分度器教師を安易に嫌な人間として描く事により、話の流れを強引にヒューマギアの排除に持ち込んでしまったのは残念でした。
 男性教師の描写に関しては演出ベースの問題も大きそうですが(恐らく、過剰に悪印象を増幅しているのかなと)、リセットの要求に賭けを持ちかける、というのは幾ら何でも無理がありますし、それなら、廃部寸前の弱小バスケ部をヒューマギアに押しつけたらかえってややこしい問題が発生して困っている、という心情をもう少し掘り下げて、今回のエピソードを通して男性教師がどうヒューマギアと向き合っていこうとするのか、という要素も描くのが、作品全体の主題に沿って誠実であったかな、と。
 その「変化」を一手で切り取れるのがヒーローフィクションの醍醐味であり、同時に、そこまで盛り込まないとスッキリしない難しさではあるのですが、そこまで手が回せないのならば、男性教師の扱い方そのものが悪手であったと思います。
 次回――滅パパ、いよいよ出陣。