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猫のように走り、蜂のように刺す

仮面ライダーゼロワン』感想・第6話

◆第6話「アナタの声が聞きたい」◆ (監督:柴崎貴行 脚本:筧昌也
 注目は、画面右端で爆発音に耳を塞いでいるゼツメファルコン。
 あざとい……! あざといな……!
 「我々は親子だ。子供は親の言う事を聞いていればいい」
 親子とは何か、を考える迅に対して滅はプログライズキーの奪取を指示し、前回ラストで衝撃の告白をした滅は、わかりやすい悪役として“子供をコントロールしようとする親”の立ち位置に。
 一方、アニメ『パフューマン剣』出演中、新進気鋭の声優ヒューマギアにある疑惑が持ち上がり、所属事務所の多澤社長が不破に連行されようとしていた。
 「人工知能特別法第6条――本人に無許可で酷似した容姿の人工知能搭載人型ロボットを作成及び使用してはならない」
 一息で言い切った!
 ……にしても、許可取ればOK、なのは大変闇が深そうですが、著名人などの「勝手なコピー」が当然問題視されるであろう上で、犯罪に用いられる可能性も考えると、個人間のやり取りという以上の「法的な許可」が必要なのかもしれません。そしてきっと、ヒューマギア専門の闇整形技師とか存在するのだろうな……など想像を広げさせる世界観を見せてくれるのは、今作の良いところの一つ。
 声優ヒューマギアの容姿は、多澤社長が3年前に亡くした娘と瓜二つであり、たとえ血縁でも許される事ではない(不破さんは、ヒューマギアを「人間の代用品」とする事に道義的憤りも感じている様子)と法を執行しようとする不破だが、そこに迅がタクシーで乗りつけると、タクシードライバーがコウモリマギアにぜつめライズ。
 コウモリマギアは付近のヒューマギアを暴走させ、各種ヒューマギアが日常生活に欠かせない存在として溶け込んでいる社会だからこそ、いつでもどこでも戦闘員をインスタント生成できる、というのは設定の上手いところです。
 声優ヒューマギアに迫る迅は、「子供」を守ろうとする多澤社長の言葉に困惑して二人を逃がし、まんまとファルコンキーを奪われてしまったゼロワンが、下手をすると第2話が最初で最後の見せ場だったのではないか、という危惧もあった宇宙バイクを召喚してくれて良かった。
 コウモリマギアを追いかけて森の中を走る、というのは面白い映像になりましたし、高度を上げたコウモリに対してバイクでジャンプ→空中でサメにチェンジ→必殺技で撃破、というアクションの流れはスピード感があって良かったです。しかしファルコンキーは既に迅の手に渡っており……既視感の正体に悩んでいたのですが、そうか、サメゼロワンは、タロス顔なのか。
 その頃、唯阿はチェスの人から、新たなキーを受け取っていた。
 「滅亡迅雷、君の手で葬り去ってほしい。君の能力ならそれくらい可能だろう」
 「そのお言葉、光栄です」
 たぶん不破が事後処理に奔走している内にアルトとイズは多澤社長の事務所を訪れるが、再起動した声優ギアはどこか様子がおかしく、“娘”としての言葉を繰り返す。
 ヒューマギアの描写は演出陣も工夫の凝らし甲斐がある部分なのでしょうが、カラーコンタクトと効果音を活用し、ぎこちない動きで虚ろな言葉を響かせる声優ギアと、その姿に狼狽する多澤、というのは、法に触れるとわかっていて救いを求めてしまった者の哀しみが滲み出ていて、柴崎監督が好演出。
 「明日には返却しますので、今夜だけ……一緒にいさせて下さい……!」
 前回のアルトは、法的にグレー未満の案件に私情で介入して「情熱のない漫画家にヒューマギアは出荷しない!」と規約を変えずに独善で社会的権力を振り回していたのですが、今回は法的にブラックな案件をしっかり止めようとした上で、泣き落としを受けてやりきれない迷いを見せ、法と企業倫理と人情の間で揺れる、という形で描かれたのは良かったです。
 「実は僕も、早くに父を亡くしてるんです。ですが、ヒューマギアが心の支えになってくれて、生きてこれたんです」
 自らの過去の経験を重ね合わせ、アルト父は既に死んでいる(少なくともアルトはそう認識している)事と、山本ギアはヒューマギアとしてアルトにとって父代わりであった事が明示。ただ、山本ギアの容姿=アルト父のコピー、かは明確ではないので、どちらかというとそう思わせるミスディレクションで、思わぬ人物がアルトの父親だった! みたいな展開もありそうな。
 「社長として、どうするべきか……正直今はわかりません」
 「……アルト社長」
 悩みつつも多澤に時間の猶予を与えるアルトだが、そこへやってくるゴリガン刑事。
 「ちょっと待ってくれ! ……多澤さんは違反を認めてる」
 「ほぅ、話が早いな」
 アルトは「社長」の立場でどう判断・行動するべきなのかを考え悩み、あくまで法を執行しようとする不破/A.I.M.S.との対立要素も描かれる事で、前回嵌まった落とし穴の回避に成功しており、今回これが出来るなら前回どうしてああなった……と悩ましいのですが、(柴崎監督ともども)1本やって掴めるものがあったのか、今作の落とし穴の配置が巧妙なのか。
 多澤社長が心の整理を付ける為に、三日後のオーディションまで待って欲しい、とアルトは不破に懇願。不破は不破で全く人情を介さないわけでもないし悪質な事案というわけではないという判断か、或いは、ひゃっはー! 場合によってはこれを足がかりに査察だぜ査察ぅーーー、叩けば埃がたっぷり出てきそうじゃねぇか飛電さんよぉーーー?!という思惑か、それを受け入れる。
 ……まあ、この後を見るに明らかに広報を兼ねた公開オーディションで合格させた声優がいきなりの廃棄処分、とかいう事態になったら、相手方としてはたまったものでもありませんが。
 石墨先生は大変お怒りです。
 そしてオーディションの日――
 「パパ……大好きだよ。また会おうね。……天国で」
 別れの日を覚った声優ギアは、オーディションの会場でヒューマギアとして仕事をこなすのではなく、“娘”としての言葉を父に伝え、割と最後のラインで描写がドライな部分がある今作ここまでの中では最もウェットな見せ方でしたが、その意図をくどくど説明するところまでやらないのは、良いバランス感覚だと思います。
 「僕らは子供……お友達だよ」
 だがそこに迅が乱入し、声優ギアに滅亡迅雷精神を注入。“最後の仕事”を果たして虚脱していたのか、声優ギアはさくっとオーバーライドされるが、あくまで“娘”としてギアを守ろうとする多澤の姿に、迅は困惑を大きくする。
 「ねえゼロワン……教えてよ! なんでこの人守んの?! ぜんぜん、意味わっかんない!」
 第4話までの印象に比べると、前回から迅の見せ方が一気に子供っぽくなったのはここに接続する予定通りではあったのでしょうが、精神的に子供→親子の関係について煩悶、があまりに急流すぎて、ドタバタしてしまったのは残念。スケジュール的に限界だったのでしょうが、出来ればもう2話ぐらいは使って、少しずつ歯車がズレた末の爆発、といったような形で見せてほしかったです。
 「……おまえ、そんな事もわかんないのか。親が子供を守るのは当たり前の事だろ! 子供の為なら死んでも構わない。……そう思うのが、親なんだよ!!」
 それはそれとして、これも前回の問題点だった、アルトのヒーロー性に物語のピークを収束する、という作劇が今回はしっかり意図されていたのは、良かった点。前回はこの先に不安いっぱいだった筧脚本ですが、今回は随所に改善が見られ、前回の今回なので経験から修正されたというよりも扱ったテーマと求められたオーダーによる部分が大きそうですが、作品全体として明るい材料です。
 「親が、子供を守る……」
 ――「ねえ滅……親って、子供を守るものなの?」
 ――「守る? 守る必要がないくらいおまえは強い。それに俺とおまえの関係は普通の親子とは違う」
 ――「なにそれ……」
 目の前の出来事、アルトの言葉、滅の言葉……「親子」という情報を処理しきれなくなった迅は混乱の末に声優ギアのベルトを外そうとするが、声優ギアはカエルマギアに変身してしまい、アルトもゼロワンに変身。そして、苦悶する迅の前に、滅がその姿を見せる。
 「息子よ。親離れが早すぎるぞ」
 思っていた事をそのまま、劇中人物に言われてしまいました(笑)
 「おまえは俺に作られたヒューマギアだろ。だから子供と呼んだんだ。いいか、使命を実行しろ」
 なにかと怪しげだった迅がヒューマギアであると明言され、子育てに悩める滅お父さんは、新たなドライバーにより、迅に滅亡迅雷精神を再注入。
 叩き込め、滅亡迅雷精神!!
 パワーが同じなら最後に物をいうのは精神力!!!
 不撓不屈の負けじ魂を注入され、ど根性ヒューマギアとして再起動した迅はドライバーにファルコンキーをセットすると、蛍光ピンクの滅亡ファルコンライダーへと変身。
 はやくもトレードされてしまったファルコンキーですが、目つきの悪いファルコン意匠のマスクや装甲の模様が左右非対称というのは好みで、どこか不安定さや歪さを示しているようにも見えて面白いデザイン。
 高速飛行による奇襲から壁に叩きつけられたゼロワンは更に、背後から物凄い勢いで走ってきたカエルの濃厚な口づけ、もといがぶっと噛まれてぺっと吐き出す爆破ダメージで地面を転がったところをぐりぐりと踏みつけられ、かつてない大ピンチ。ゼロワンに馬乗りになり、強引にドライバーをもぎ取ろうとするゼツメファルコンだが、そこにA.I.M.S.の装甲車が駆けつける。
 「人工知能特別法違反を確認。全て破壊する」
 本日も唯阿はスタイリッシュ変身を決め、不破のマッスル変身との対比でお互いのスタイルが引き立つというのが、複数ライダーを見せていく上でいいアイデア。今回はバルキリーのターンという事で、カエルが暴走させた清掃員ギアに対し、膝の裏を蹴り飛ばしてから後頭部を撃ち抜く、「頭を上げるな、そして惨めに死ね」アクションが素敵。
 「やめてくれ! そのヒューマギアは責任を持って俺が!」
 「社長さん! 貴方たちがすぐに廃棄すれば、こんな事にはならなかった!」
 声優ギアに三日の猶予を与えたら人類滅亡の危機、というのはさすがに推測難度が高すぎてこれは結果論ではありますが、法律違反を見過ごしたアルトの判断が“正しかった”のかを、登場人物の口からしっかりと突きつけ、その上で、今回範囲で無理に正解を描こうとしなかったのも、良かったです。
 また、幸い人的被害は出なかったものの、その可能性はあった事が、滅亡迅雷ネットの脅威が現実に存在する中でヒューマギアを巡る社会は今このままでいいのか? その状況下でアルトは何を選ぶのか?という物語全体のマクロの問題と繋がっている構造も秀逸。
 だからこそ、何かが起こったは時に自らの責任でそれを止める事が、ヒューマギアに理想を唱える者としての覚悟である、というアルトのヒーローとしての位置づけがゼロワンの言葉に改めて集約され、その為にこそ「社長」という立場に大きな意味がある、「社長×ヒーロー」という基本事項の補強も鮮やかに決まりました。
 子ガエル爆弾に押し負けたバルキリーは、チェスの人から受け取った新たなキーをセットし、ホーネットにフォームチェンジ。装甲に蜂の巣の意匠が組み込まれたバルキリーホーネットは、背中の翼で華麗に空を舞うと蜂の子ミサイルで子ガエル爆弾を蹂躙し、池に逃げ込んだカエルを全蜂の子ミサイルで炙り出すと、電光を纏った鋭利なるハチの一刺し・サンダーライトニングブラストフィーバー、でフィニッシュ。
 「ライトニングホーネット、まずまずだな」
 ネコより火力200%増しだそうですが(代わりに何か大事なものが減っていそうで気になる)、トリガーハッピーによる圧殺から足技でトドメ、とこれはぽい、唯阿さんぽいな……!
 「何がどうなってる?!」
 「滅亡迅雷が、仮面ライダーの変身を遂行した。同時攻撃で、食い止める」
 おっとり刀でやってきたゴリラを加え、ゼツメファルコンに同時攻撃を仕掛けるA.I.M.S.ライダーだが、ゼツメファルコンはその飛翔能力をフル活用し、悠々と飛び去ってしまう。
 「迅、よくやった」
 「うん。人類滅亡に、また一歩近づいたね。ふふふ」
 デイブレイクタウンに戻った迅は、滅にカエルから回収したデータを渡し、何も疑問を持たない無邪気な笑みを浮かべ続ける……。そして娘の写し身を失った田澤は、娘の声で喋る音声AIを飛電から提供されて人生の張りを取り戻すのであった。
 「人は、心の支えが無いと生きていけない。AIは、それをもたらしてくれる。つまりは……愛だな」
 アルトの判断についての疑問を突きつけつつ、田澤にはそれなりの救いを与えた上で、AIは人の心の支えになれるのではないか、というのはアルトの過去を踏まえた上で、アルトが夢見る未来の形、今作世界におけるAIと人間の理想的な関係性として、納得のいく着地。
 アルトは「AI」と「愛」を掛けた事を全身でアピールし、それに追随する秘書子さん芸人デビューの日は、刻一刻と近づいていくのであった……!
 滅亡ギルド側の新ライダーとバルキリーの新フォーム登場、と今回もギミック盛り沢山でしたが、ゼツメファルコンがゼロワンを圧倒している間にホーネットがカエルを爆殺する流れを無理なく収めて双方に十分な見せ場を作り、充実と満足の内容。
 エピソード内容が物語全体の構造と呼応しており、それがクライマックスバトルにおいて一つの絵になる構成も上手くはまっていただけに、戦闘終了後、地面に転がったゼロワンのリアクションが「あいつ、つぇぇぇぇぇ!」だったのは軽すぎた気がして惜しまれますが、迅関連が駆け足だった点を除けば落とし穴も上手く回避し、総じて今回は面白かったです。
 アバンタイトルでアフレコ現場に興奮したアルトが「後でサイン貰っちゃおう」と言い出した時は前回の悪夢が脳裏をよぎったのですが、筧脚本に対する前回のマイナスイメージを払拭とまでは言わないものの、次の登板があれば改めて期待させてくれる出来でした。