戦国のコウモリ
「ゴリラは常に、二手三手先を考えておくものなのだよ!」
もしバットマンが戦国時代にタイムトラベルしたら……グラップリングフックを引っかける高い建物が無くて大ピンチという、アクションアニメ映画。
ゴリラグロッドの実験により、時空を跳躍して中世日本に飛ばされてしまうゴッサムシティのヴィラン達――そしてバットマン。各地の戦国大名に成り代わり、正しい歴史など気にも留めずに好き放題に行動するヴィランを止め、元の時代に戻るべく、バットマンはキャットウーマンと共に第六天魔王ジョーカーに立ち向かうのだが……。
ある程度の原作知識を持っている、或いは、知らない人は映像を楽しむ、という作りで、ベースになっている『バットマン』の世界観や、キャラクター関係の説明は一切なし。私は登場する主要ヴィランの名前ぐらいはわかりましたが、ナイトウィング・レッドロビン・レッドフード・ロビンが並んで出てきたのは、何が何やら困惑しました(笑)
原作知識よりは、バットさんとジョーカーのドロドロにただれた関係の消化と、人語を解し時空転移装置を作れるゴリラの存在を「まあ、ゴリラだしな……」と受け入れる事が可能な柔軟性の方が視聴において必要かもしれません。
個人的に今作の前に触れていた関連作品が『レゴ・バットマン・ザ・ムービー』(ちなみにこの映画でジョーカー役だった子安武人が今作ではグロッドを演じており、戦国時代に跳んでも子安からは逃げられはしないのだ……)だった事があり、2人のただれ度8割増しぐらいに見えてしまったのもありますが、基本、バットさんとジョーカーが命をかけていちゃいちゃしている所にゴリラが割り込む映画です。
あとバットさんは相変わらず、友達を作るのが下手。
アメコミの質感を意識したと思われる作画を軸に、スピーディに突き進んでいくハイテンポなアクション活劇で、楽しかった事は楽しかったのですが、個人的な総評としては、いまいち。
何がいまいちだったかというと……(以下、内容のネタバレを含みます)
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何がいまいちだったかというと、一番気になったのは、終盤に登場する合体お城ロボの扱い。
え? そういうの大好きでは? と思われそうですし、実際好きな筈なのですが、どうも今作における合体お城ロボが、「ネタ」の為の「素材」として消費されているように見えてしまい、そこがマイナス方向に気になってしまいました。
これは多分に、私が現在進行形で戦隊ロボなどが好きな事で一方的に引っかかっているという部分が大きいと思うのですが、なんとなく今作における合体ロボの扱いが、本気でそこに焦点を合わせて盛り上げようとしているというよりも、『バットマン』をベースにして合体ロボバトルまでやってしまう悪ノリがいいでしょ? という作り手自身のアピールに見えてしまい、その為に、自分の好きなものが「素材」として切り刻まれて消費されている感覚、が悪印象になってしまいました(もしかしたらスタッフは本気で合体巨大ロボが好きなのかもしれず、これはあくまで、私にはそう見えた、という話です)。
こう見える一因は、誕生した合体お城ロボが格好悪い――これも極めて主観的な感覚ですが、ジョーカー印の気球がドッキングして歪んだ頭部になるという演出は、格好良く見えるように描かないという意図的なものだと捉えました――事もあって、派手な合体シーンにテーマ曲までつけて、誕生した合体ロボが不細工、というのを見せつけてくる、というセンスが、決定的に肌に合わず。
ああこれは作り手の、ここまでやってしまう自分たちが面白いでしょ、というアピールなのだな、と感じてしまい、そこでだいぶ冷めてしまいました。
後、途中で挿入される大きく作画タッチの違うパートが、物語としての効果はともかく、個人的に非常に好きでない手法で、そこもマイナス。絵巻物パートぐらいのアクセントならまだしも尺が長すぎましたし、そこで描かれるのが、レッドフードによる一方的な暴力というのも、気分の良いものではありませんでした。
勿論、裏も含めて相手は極悪人であるわけで、レッドフードの設定も知っていると納得できる暴力だったのかもしれませんが、今作単独では、「謎の虚無僧が無力な町娘と中年男性に暴行を加えるの図」を延々とやる必要があったのかは疑問ですし、しかも作画と雰囲気を変える事でかえってそれが陰惨に見えるのは意図的なものとしか思えず、部分部分で、決定的に作り手のセンスと反りが合わないのが、残念でした。
良かったところをあげておくと、キャットウーマンのヒロインぶり。
あと、転移当初に被っていたバットさんのマスクが、頬の辺りに青いランプが二つ付いているというデザインなのですが、それが状況に困惑するバットさんの内心を示すマンガ的な汗記号のように見えるのは面白かったです。