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5人の戦士に奇跡はいらない

電撃戦隊チェンジマン』感想・第35話

◆第35話「地球よ! 助けて!」◆ (監督:掘長文 脚本:曽田博久)
 「あれはアースフォースだったんだ……俺達にはアースフォースがあるんだ! 苦しい時には、必ず俺達を助けてくれるアースフォースが!」
 「こんなところでやられて、たまるか! 俺はアースフォースを、浴びるんだ! アースフォースさえ浴びれば、アハメスなんかに、負けないんだ!」
 「アースフォースが呼んでる! アースフォースが俺を呼んでるんだー!」
 ミニドラゴンの尊い犠牲と、地殻から噴出した謎のエネルギーにより辛くも黒獣士を撃破したチェンジマンだったが、勝利の余韻に浸る間もなくアハメス軍団の攻撃を受け、アハメスもう一つのスーパーパワー・ハードアタックにより、変身不能になってしまう!(詳しく説明はされないのですが、反アースフォース――星の力――的な作用があるのか)
 チェンジマンはまたも散開しての逃走を余儀なくされ、うち続く地震により絶体絶命の死地を逃れた勇馬は、自分を守る力の存在を感じ取り、アハメス軍団の追撃を振り切りながら山へと駆ける。
 しかし――
 「大空! それはアースフォースではない! 聞こえないのか大空?! アースフォースじゃないんだ!」
 「うわぁぁぁぁ! アースフォース! アースフォース!」
 前回ラスト、そして次回予告からてっきり、追いアースフォースによるアグトルニックで強化逆転劇になっていくのかと思っていたら、謎のエネルギーは火山活動による地殻変動に過ぎないと結論が出され、もはや「狂奔」と言って差し支えない状態の勇馬を、残りの4人が必死に止めようとする、という予想外の方向に転がっていく事に。
 「なぜ信じないんだ?! アースフォースの不思議な力を……」
 「完全に、アースフォースの虜になっちまってるぜ」
 誰のせいだ。
 アースフォースの御加護を否定された勇馬は虚ろな表情で座り込み、しばらく鳴りを潜めていた「幻想」が再び顔を出すのかと思いきや、地球の起こす奇跡に飛びつこうとする勇馬の姿が、精神的に追い詰められた末の逃避行動扱いされるという、物凄い展開。
 散開から焦点が勇馬に絞られた時は、ギルークピラニア回のように、強引に個人回要素を持ち込んでまた中途半端な事になってしまうのでは……と危惧したのですが、5人の中で精神的な弱さを徹底的に突いても話が成り立ちやすいのは勇馬だな、となるほど納得。また、勇馬が若干割を食う形にはなっていますが、前回の赤黒コンビとの対比が成立する事で、その姿により強烈なインパクトが与えられています。
 麻衣とさやかは、この際、アースフォースにすがれるものならすがりたいという内心をわずかにこぼし、ここで女性メンバーを精神的に脆く描いてしまうとどうしてもニュアンスが変わってしまうのでそれを中心にする事を避けつつ、勇馬だけが弱いわけではない事を示す、というのが丁寧なバランス。
 「アースフォースだぁぁぁ!」
 「大空ー!」「大空さーん!」「目を覚ませーーー!」
 一度は足を止めた勇馬だったが、再びの地震にやにわに立ち上がると走り出し、何かを求めるかのように虚空に手を差しのばす、ゾンビのような姿勢が凶悪で、私まだまだ『チェンジマン』を侮っていました!!
 ひたすらアースフォースの救いを求める勇馬は、危険も顧みず遂に山腹に辿り着くが、見上げた山の赤い輝きがアースフォースではない事を認めざるを得なくなってしまう。
 「アースフォースじゃないなんて、そんな馬鹿な……! 俺が試してやるぅぅぅ!」
 それでも火山に向けて走っていこうとする勇馬を、遂に殴り飛ばして止める飛竜。
 「未練がましいぞ!!」
 「……そんな事言ったって……アースフォースがなきゃ勝てねぇじゃねぇか!! どうして……どうして出ねぇんだ!? どうして?! ……どうして出ねぇんだ!」
 自分たちはもはや地球に見捨てられたのではないか……勇馬は駄々をこねるように地面に拳を打ち付け、その姿に言葉を失うさやか。疾風は何かを飲み下すような仕草の後、引き返せない一言を、絞り出す。
 「……たぶん……一度しか出ないんだろ!」
 「そうだ。アースフォースは、二度と出ないんだ。苦しい時に頼っていたら……俺達はいつまで経っても! 真の戦士になれないだろう!?」
 今作は、第1話において“奇跡”から始まっている戦隊なのですが、“奇跡”によって力を得た戦隊だからこそ、困った時にはまた“奇跡”が起きて助けてくれるのではなく、もはや“奇跡”は起きないものとして――自分たちの存在が“奇跡”の賜物なのだから――真の戦士は自分たちの力で立ち上がらなくてはいけない、と高らかに宣言。
 正直、予告の時点では、これで奇跡の地球パワーで強化というのはもう一つ面白くないし、サブタイトルも随分情けないな……と思っていたのですが、そのサブタイトルはヒーローの陥った弱気の象徴であり、それを乗り越え、「助けを求める」のではなく「助ける」んだ! というのが、改めてのチェンジマンのヒーロー宣言として放たれるのは、お見事でした。
 まあ、前回ラストで特攻したミニドラゴンは本当に特攻しただけだし、チェンジロボの逆転勝利は偶然の積み重ねに過ぎなかったという、遡ってやや首を傾げる部分は出ましたが、奇跡の先へ突き進もうとするヒーロー像の勢いが、その問題点を上回る形に。
 アハメスの空襲を受ける5人だが、飛竜の檄に自分を取り戻した勇馬を中心に、レッツチェンジ。そこに再び放たれるハードアタックだが、5人は積み上げてきた「今の自分達の力」でその苦痛を乗り越え、変身に成功する。
 電撃戦隊!」
 「「「「「チェンジマン!」」」」
 とはいえ、奇跡の助力を否定したチェンジマンは急激にパワーアップしているわけではなく、不断の訓練と鋼の精神を持ってしても乗り越えられない壁は壁として存在。アハメス軍団の猛攻にまたも苦境に陥る5人だが――しかし。
 「例の作戦だ、みんなに伝えろ!」
 チェンジマンにはもう一つの武器、知恵と勇気もとい戦術があるのだった!
 逃げてばかりと思うなよ、としっかり対策を検討していたチェンジマンは、ヒドラ兵の包囲を切り抜けるとパワーバズーカをセット。だが砲口を向けた緑獣士の前にウォールが張られ、またも無駄弾に終わるかと思われたその時、くるっと反転(笑)
 無防備に立っていた背後の赤獣士を鮮やかに爆殺し、5人の戦士に騎士道はいらない!!
 「おのれぇ! 小癪な真似を!!」
 複数の強敵による包囲攻撃という苦戦の要因を逆手に取り、最大火力を囮に使う事で標的の意識を逸らして裏をかく・ハードウォールのクールダウン時間などは恐らく既に把握済み・戦の常道は囮と伏兵・「気持ちで勝てるなら、スペシャル○リスなんていらないですよね」、というのが物凄くチェンジマンらしい一方、突然背後を向いて必殺攻撃という行動そのものはシンプルゆえに若干間抜けなのですが、それを見たアハメス様の、標的が赤獣士に変わった瞬間の目が点になる表情と、(こんな作戦に引っかかったーーー!!)という屈辱の叫びが真に迫って大変素晴らしく、アクションの印象はリアクション次第でどうにでも変わる、という基本を忠実に反映する、見事な演技と演出でした。
 巨大化した赤獣士の、ハードウォールで攻撃を防ぎつつ、自らはそれを透過する能力に苦戦するチェンジボロだが、不意打ちの目からビームでスタンさせたところを、スーパーサンダーボルトでフィニッシュ。
 「チェンジマンの力はあれが限界。この次こそ、必ずチェンジマンを倒してご覧に入れます」
 「――その言葉に偽りはあるまいな」
 「ははーっ」
 「今度こそ、スーパーパワーの全てを見せてみよ!」
 撤収したアハメスは、チェンジマンにもはやアースフォースの助力は無い事をバズーに報告。地上では、弱気を見せて神秘体験に救いを求め、少々気まずい勇馬を仲間達が改めて迎え入れ、麻衣とパンチをかわすのは怖いので、土下座を敢行する勇馬だが、ミニスカさやかさんが前に立っていた為、若干以上に変態ぽくなってしまうのであった。
 かくして高まる、アハメスとの決戦の気配――通常フォーマットで進行すると満を持してのスーパーアハメスが必然的にへたれていってしまいかねないところを、怪鳥! 苦戦! スーパーパワー! 苦戦! 三銃士! 苦戦! 知恵と勇気で逆転! と一気呵成の連続エピソードにする事で「かつてない脅威とその打破」が鮮明になり、怒濤のままに惜しみなく決着へ持ち込もうとする、というのがかなり面白い構成。
 逆にここで引き延ばされるとガッカリになってしまいそうなので、このまま一気の展開を期待したいです。
 だが次回、気合い充実のチェンジマンの前に、あの男が立ち塞がる。鬼軍曹再び?!でこいつは凄いぜ!