初春の西澤保彦キャンペーン
◇『依存』(西澤保彦)
懇意にしている教授の新居に招かれたタック達――だがそこに姿を見せた教授の新妻を見て、タックは顔を青ざめさせる。「あの人は、ぼくの実の母なんだ。そして、ぼくには彼女に殺された双子の兄がいたんだ」。
匠千暁シリーズ長編第5弾。
タックの過去にまつわる衝撃的な事件を軸に、時制を前後しながらいわゆる“日常の謎”的なエピソードが繰り返し挿入され、やがてそれが一つの真実に辿り着くという、連作短編集とはまた違う形で、一本の長編と複数の短編が絡み合って融合したような凝った構成。西澤さんが得意とする、“隠されて(隠して)いた記憶の襞が少しずつめくられていき、思いもかけない、同時に、触れたくなかった真実に迫ってしまうスリル感”が存分に振るわれ、面白かったです。
また、意外なキャラクターの主観により、タックの過去にまつわる謎解きとともに、主観人物の心の奥底に迫る謎解きにもなっていて、シリーズ一つの集大成として、見事な出来映え。全体的に重苦しい内容ながら、着地点の美しさも良し。
にしても、もともと恐らく作者の中では人間的に“格好いい”キャラなのであろうと思われますが、ボアン先輩はシリーズを重ねるごとに、男前になっていくなぁ。
◇『黒の貴婦人』(〃)
匠千暁シリーズ短編集。
長編シリーズの過去と未来が入り交じっており、学生時代のエピソードが2本、卒業後のエピソードが3本の計5本。前2本は『依存』と時期が近くちょっとした前日談とも読め、後ろの3本はその後の二人にまつわるエピソードが明確に出てくるので、読んだタイミングが良く、キャラクターものとして楽しめました。
ミステリとしての出来はいずれも少々弱かったですが、長編シリーズが重い内容のものが続いていたので、爽やかなデザートといった趣きあり(必ずしも事件の内容が軽いものばかりというわけではないですが)。