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怯えないで もう君は独りじゃない

電光超人グリッドマン』感想・最終話

◆第39話「さらばグリッドマン」◆ (監督:村石宏實 脚本:平野靖士)
 カーンデジファーの腹筋に敗れて一時帰宅した直人は武史に逆恨み同盟の関係を問い、「それから、僕の友達になってくれた」という武史の認識が改めて辛い。
 悪の組織において、〔上司-(駒扱い)→部下 部下-(敬愛や崇拝など)→上司〕という非対称の関係性はオーソドックスなものですが、家庭に問題を抱える武史にとって、カーンデジファー様の存在は庇護者と同時に唯一心を許せる存在であり、その存在感のファンタジーさゆえに怪獣と同様のイマジナリーフレンドの延長線上であったというのは今作の特徴的な部分。
 そして最小単位の「世界」としての「家族」が機能不全を起こしていた為に、外の「世界」と上手く繋がる事が出来ず「友達は魔王様」という世界に逃げ込んでいた武史には、直人たちが当たり前に持っているものが欠落していた、という対比が最終話で改めて鮮明に打ち出されます。
 「僕を頼りにしてくれたし、力を合わせて戦ってくれた」
 「その為に、世界中の人たちがどうなっても良かったのか?」
 またここで、武史が軽はずみに社会システムを破壊したり大惨事の引き金を引けたのは、世界にとって武史の存在感が限りなく薄い(と武史が認識していた)ように――以前も書きましたが、武史がよく人や物にぶつかる、というのは恐らくこの象徴――、武史にとっても「外の世界」の存在感が限りなく薄かったから、と着地。
 この「世界中の人たち」をどう認識しているのかが、直人たちと武史の決定的な差といえます。
 「僕は……僕だって怖かったさ! だけど……どうしようもなかったんだ! ……僕のせいなんだ……僕が全部悪いんだ」
 一方、そんな武史の中に存在する良心の部分についてはこれまで、一部作戦への多少の狼狽程度しか描かれていなかった為、不安定な情緒の勢いで吐露する、という形にしか出来なかったのは苦しく、掘り下げの不足が惜しまれる部分。タケオ回があったのでなんとか、武史には武史なりの善良で健康的で他者を思いやる理想の自分が存在していた、という事はわかりますが。
 「自分が悪いと思うんなら、責任を取ったらどうだ」
 「…………責任?」
 「そうや。丁度ここに、こんな事もあろうかと準備しておいたダイナマイトが150屯あるけん。これ巻いて、カーンデジファー野郎のタマとってみぃ! そいたら、今までの事は全部水に流しちゃる。グリッドマンのオジキもそう言ってるけんのう。どうや? それが出来たら、わいやは友達や。な?」
  「と、友達……」
 ケジメをつけろ、と迫られる武史だったが、他者に責任を転嫁する心根は一朝一夕では変わらず、これを拒絶。やむなく3人は、武史を捨て置いてそのPCへのアクセスを試みるが、セキュリティを突破できずにいる内にグリッドマンが復帰。
 「グリッドマン、こうなりゃもう一度!」
 「直人、無理すんな。どうやってカーンデジファーに勝つつもりなんだよ?」
 「そうよ。作戦が必要よ」
 どんな強大な敵にもくじけず立ち向かう姿の中には「ヒーロー性」がある一方、最終的な勝利を度外視すればそれは力ある者の「無責任」になりかねない面を孕んでおり(例えば現行『ルパパト』は、このジレンマを上手く警察サイドの物語に取り込んでいる)、“戦わなければヒーローではないが、守り抜けなければヒーローである事を全うできない”という命題に対し、キャラクターの役割分担によって、直人/グリッドマンのヒーロー性を損ねる事なく、勝利への道筋をつけて物語的な面白さと根拠も加える、というエッセンスが無理なく収められていて、幼なじみチームで戦う『グリッドマン』らしさ、の象徴の一つとして好きなシーン。
 一計を案じた一平は、全人類へ向けてマイクアピール中のカーンデジファーを虚仮にした挑戦状を叩きつけ、ここで子供のノリが入ると共に、モニター越しに聞こえてくる聞き覚えのある声に家族が気付く、という展開が素晴らしい。
 「誰だ! 儂を愚弄するたわけ者は! 発信地などすぐにわかる。息の根、止めてくれるわ!」
 武史と意気投合するだけあり、案の定カッとしやすいカーンデジファー様はCワールドを移動してジャンクへと迫る。
 「――奴が来る!」
 その気配を察知し、前回今回と、グリッドマンが格好いいのも良いところ。
 「グリッドマン、合体だ!」
 「よし!」
 「直人……頼むぜ」
 一平の激励に頷いた直人はブレスを構え――
 「アクセーース・フラッシュ!」
 魔王城と化した武史PCに居座り手出し不能のカーンデジファーを、リスク承知でジャンク内部に引きずり出して迎え撃つ、という乾坤一擲の大勝負を仕掛ける事で、定例の変身シーンもしっかり劇的となり、直人はグリッドマンと合体。更にそれを武史に見せつける、という物語的意味も与えられていて、渾身のラスト変身に、武史がグリッドマンの真実を知る劇的な瞬間が重ねられる、という流れが非常に上手い。
 この一連のシーンは、『グリッドマン』全39話の集約かつ集大成として、実にお見事でした。
 かくしてジャンクに乗り込んできたカーンデジファーに、今日もダッシュで奇襲を仕掛けるグリッドマン。だが、作戦と手駒の制作を武史に任せ、筋トレに励んでいた魔王様はがっぷり四つでそれを受け止め、全身を覆うマント姿で上段回し蹴りするカーンデジファー様が格好良すぎるのですが。
 「ここが貴様のアジトだったのか!」
 「ゆか、今だ!」
 「監禁プログラム、発射!」
 戦慄のネーミングセンスによるプログラムが投入されてカーンデジファーの動きを封じ、ゆかと一平は拘束したカーンデジファー様を、ドラッグ&ドロップでまさかのフロッピーディスクへ!(笑)
 収めてしまおうとするが間一髪、監禁プログラムを打ち破りカーンデジファー様はこれを回避。
 いくらCワールドとHワールド、ヒーローと魔王と子供達が密接に影響し合う世界観とはいえ、ラスボスの最期が圧縮されてフロッピーに収められて焼却されるはあんまりだったので、正直、回避されてホッとしました(笑)
 作戦失敗したゆかと一平はバリアシールドを転送するが、対するカーンデジファー様は魔王剣を取り出し、あの、ここに来て、カーンデジファー様がアクション的に滅茶苦茶格好いいのですが?! という大変嬉しいサービスぶり。ラスト2話、グリッドマンがキャラ的に、カーンデジファー様がアクション的に、それぞれ格好良さを付加される事で、最終決戦が非常に魅力的なヒーローと魔王の激突になっています。
 基本、グリッドマンのバトルは跳んだり跳ねたり回ったりという路線なのですが、カーンデジファー戦でもそれを貫いてくれたのは、嬉しい予想外。
 両者は剣を振り回しながら激しい打撃を応酬し、カーンデジファー様のマントの下は、割とプロレスラースタイル(※マグマ星人のアトラクションスーツとの事)。魔王光線によりバリアシールドを吹き飛ばし、余裕のカーンデジファー様はモニター越しにHワールドを覗くと武史の存在を発見。家から追い出した事は棚に上げ、グリッドマンの手先に成り下がったのかとお仕置きビームを放ち、倒れた武史を助けたゆかと一平は、荷物の陰に揃って避難する。
 「な、なんで僕の為に?」
 「私たちはあなたを救いたいのよ! いいえ、あなただけじゃない。世界中の人を助けたいの」
 「おまえだって、カーンデジファーにこのまま好き勝手やらせていいと思ってないだろ?!」
 重ねて、武史の《説得》フェーズがスキップ気味になってしまったのはラスト2話の残念な部分ですが、自身の卑屈な思い込みも含め「誰にも顧みられない」事(視線が向くのは嘲笑される時だけ)が最大のコンプレックスであった武史にとって、「誰かに助けられる」事が大きな転機であった事は窺え、出来れば数話をかけて、互いの立場を知らぬまま歩み寄りのきっかけが醸成されていくフェーズが描かれていれば……というのは全体の中で惜しまれるところ(今作、30話台は割とのんびり単発エピソードをやっていたのですが、1年やる予定だったのかどうなのか)。 (※4クール→3クール短縮らしいとの事)
 「はははははは! 儂は貴様達の世界に更なる恐怖を巻き起こしてやる。ふはははははは……!」
 グリッドマンを蹴散らしたカーンデジファーは、ジャンクのCワールドで暴れ回ってアシストウェポンのプログラムを次々と消滅させ、火を噴くジャンクと共にグリッドマンに迫る消滅の危機。
 Hワールドの藤堂邸からは巨大な触手が突き出して市民がパニックに陥り、カーンデジファーは、いよいよCワールドから外へ顕現しようとしていた! と序盤の仕掛けもしっかり回収。
 「カーンデジファー、貴様の思い通りには、させん!」
 死力を振り絞って立ち上がったグリッドマンはジャンク内部から通路を開くと、カーンデジファーがやってきた道を逆に利用して武史のPCへと侵入。キラキラミストで本丸を正常化するという起死回生の一手を放とうとするが、後を追ってきた魔王様にねじ伏せられてしまう。
 だがその時、ゆかを押しのけてキーボードの前に座った武史が、カーンデジファーごと自らのPCのデータ全てを抹消する、という手段を決意。
 「カーンデジファーは、僕の心の醜さに引き寄せられてきた怪物なんだ。奴を倒さない限り、僕は立ち直る事ができない」
 延々と他者への責任転嫁を続けてきた武史が、遂に己自身の醜さを認め、しかし一方ではそんな自分を一時的とはいえ救ってくれたカーンデジファー――そして「我が良き友等」――との決別に、どこか悲しげな表情で涙を流す、というのは大変秀逸でした。
 ここではカーンデジファーは武史の内面から生まれた「怪獣の一種」という様相も与えられており、武史にとってPCデータとカーンデジファーの抹殺は、ある意味で「父殺し」であり、コンピューターという「揺り籠」を破壊する事で、自ら生きる力を得る、という新生の象徴にもなっています。
 馬場家や井上家が集う藤堂邸周囲の上空ではCワールドとHワールドの境界が崩れ始め、カーンデジファーとグリッドマンの死闘が虚空に浮かび上がる。
 「貴様の首、表の世界の土産にしてやろう」
 人々の送るエールが力に……という程ハッキリとした扱いにならなかったのは好みとしてはちょっと残念でしたが(武史の改心からスポットが外れてしまうのを避けたか)、グリッドマンは魔王剣を咄嗟の白羽取りで受け止め、ジャンクでは武史が破壊プログラムを完成させる。だが魔王城のCワールドを破壊してしまえば、グリッドマン/直人も巻き込まれてしまうかもしれない……それでも、やるしかない、と決断してエンターキーを押す役割はゆか、というのも関係性をしっかり収めて格好良かったです。
 「直人……」
 道中、物凄い勢いでヒロイン推しされていたゆかは、ラスト2話では控え目になるのですが、むしろ幾つかのエピソードでやりすぎな感じがあったので、バランスとしては良かったと思います。
 取っ組み合いしながら現界化しかけていたグリッドマンとカーンデジファーであったが、飛来した破壊プログラムをグリッドマンがキャッチすると、その効果により武史PCのCワールドが消滅していき……これにて、悪事の証拠隠滅!
 つまるところやはり、宇宙最強のセキュリティは、自・爆!!
 「おのれグリッドマン……こうなれば貴様も地獄へ、道連れにしてやるぅぅぅ!」
 セキュリティ対決に敗れた魔王は最後の力でグリッドマンに迫るが、
 「グリッドーーー・ハイパー・ビーム!」
 破壊プログラムを直接叩き込む青白い閃光が突き刺さってバラバラに砕け散り…………た、逮捕は? 前回の「逮捕する!」が格好良かっただけに腰砕けではありましたが、犯人の射殺やむなしの状況ではありましたし、カタルシスとしてはそれはこうなる、というのは納得の展開。戻ったら膨大な始末書と下手すると降格処分が待っているかもしれないが、強く生きろ、ハイパーエージェント!
 ケジメの腹マイトもとい自爆プログラムによりカーンデジファーは消滅するが、崩壊の光に飲み込まれてしまうグリッドマン……果たしてグリッドマンは、直人は、死んでしまったのか!? これでライバルが減っ……じゃなかった、直人の死に打ちひしがれるジャンクトリオだったが、グリッドマンは生きていた!
 藤堂邸の異変も収まり、グリッドマン万歳の大合唱がわき起こる中、グリッドマンと直人は無事にジャンクへと戻り、4人は勢いでスクラム。そして使命を終えたグリッドマンは、ハイパーワールドへの帰還を告げる。
 「私の使命は終わったのだ。……
 一平くんの天才的な閃きと勇気は、いつまでも失わないでほしい。
 ゆかちゃん、君の優しさと、冷静な判断には随分助けられたよ。
 武史くん、もう君は独りじゃない。これからは、みんなと力を合わせ、未来を切り拓いていくんだ。
 直人、本当によく戦ってくれた。君がいなかったら、私は任務を成し遂げる事が出来なかっただろう。
 ありがとう。私は君たちから教えられた。それは、本当に信頼できる友達を持つ事が、最強の武器だという事を。それじゃみんな、元気で!」
 感謝のエールを4人に送り、爽やか敬礼を決めるハイパーエージェント。
 「「さよなら」」
 何故か、台詞を同時にまとめられる武史と一平(笑)
 「グリッドマン、さよなら」
 「さよなら」
 ジャンクを離れてグリッドマンは飛び去っていき、それを追いかけて外へ出た4人は夕暮れの空を見上げる……そして武史は、後生大事にポケットに入れていたゆか宛てのラブレターを破り捨てる。
 「なんだいそれは?」
 「もういいんだ。……君たちが……友達になってくれるなら」
 「え? なんで?」
 とか言われたらどうしようかと思いましたが、
 「もう、友達じゃない」
 で良かった(笑)
 殻に篭もっていたこれまでの武史の一方的な視線による人間関係の終結、の象徴としてラブレターも機能し、笑顔で西の空を見上げる4人。そこでは、ハイパーエージェントの星が光り輝くのであった。
 「ありがとう!」
 「「「「グリッドマーーン」」」」
 で、完結。
 この後、ビデオカメラ事件の真相にゆかが思い至り、頭を丸めた武史が土下座を繰り返す一件があったりなかったりしそうですが、男衆は割と最っ低繋がりで仲良くなれそうなので、後々まとめてゆかに捨てられないかは心配です(笑)
 武史に関しては、逆恨み同盟として引き起こした件の実害が大きすぎる為、責任の取らせようが逮捕・裁判しかなくなってしまった結果、PC破壊による脱皮と再生という内面的な問題解決を重視したマイルドめの決着となりましたが、「武史を救済する」事自体は本作序盤から物語の着地点として明確に示されていましたし、武史の蹉跌を「心の擦りむき」とし、「もう君は独りじゃない」から、「誰もが皆ヒーローになれるよ」というのは、OP歌詞を本編に象徴的に取り込みつつ、『グリッドマン』の寓話的側面からは、納得の行く決着でした。
 これが成人済みだったら、車椅子で(中略)されていたかもですが。
 武史の家庭の問題や、Cワールドの妖精など幾つか掘り下げ切れない要素はあったものの、今作これまでの積み重ねを大体において拾い、迫力の肉弾ラストバトル・それぞれの役割分担・勢い任せだけではない決戦、などなど予想を遙かに超えて面白い最終回でした。
 また、少年少女のある時期に寄り添い、転んだ時に側に居てくれて、そして「使命を終えて」去って行く――だけどいつだって見守っているし、次は君の元へ行くかもしれない、というのは凄く好みのヒーローテーゼで、メタ的な意味合いも含めてそんなヒーローのありようが濃縮されたラストは、大変美しい着地でありました。
 ED映像は、怪獣と各種グリッドマンを1カットずつで総ざらいという嬉しい編集。


ずっと君といたい もっと君を知れば
今よりも強くなれる
COME ON IN DREAM WOW... ずっと

 総評としては以前に書いた、「悪役の魅力的な90年代だけど80年代的な作品」というものになりますが、急展開ながらきっちり集大成としてまとめてみせたラスト2話は見応えがあり、後味の良い作品でした。逆恨み同盟は実に魅力的な悪の組織でしたし、1話1話の完成度としては隙が目立つものの(もっともこれは、同時期の比較対象となりうる東映特撮作品に天才・扇澤延男が居た、というのが大きいかも)、アニメ的デフォルメと実写特撮からなる世界観が噛み合ってきた3クール目はアベレージも上昇し、トータルでは面白く楽しめた作品でした。
 グリッドーーー腹・筋! 緑川光はそんなこと言わない)
 基本無言の戦闘にメリハリをつける都合上、グリッドマンがよく怪獣に痛めつけられる事もあり、グリッドマン個人について最も印象的なのは、繰り返される悶絶シーンと、おもむろに腹筋で火球攻撃を跳ね返そうとするも失・敗な私。
 当初は「説明は後だ」やその肩書きに不審も覚えましたが、最後の手段として直人・武史と強制合体の末に全てを統合するグリッドマン人格となり、崩壊の光の中で爽やかガッツポーズを決めるエンドでなくて良かったです!
 さて次は、録画を溜め込んでいる『SSSS』を見ようそうしよう。