『快盗戦隊ルパンレンジャーvs警察戦隊パトレンジャー』感想・第40話
◆#40「心配が止まらない」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:大和屋暁)
「危なかった……ザミーゴの事がハッキリして、気が緩んでたな」
魁利の姿が見えないけれど、コレクション集めに飽きてきた? とコグレに突然の牽制球を投げつけられて冷や汗をかいた透真と初美花の矛先は、不在の魁利に。
「そもそも最近のサボり方は酷すぎじゃない?」
「……ん、まあそうだな」
「魁利なにやってんの~?」
圭一郎から逃げているのでは(笑)
人間、一度疑いを持つと気になるもので、透真と初美花はある日、何やらコソコソ店を出て行く魁利を尾行。
「どうせただサボってるだけだ」
「でもでも……思い返してみると、なーんか様子がおかしかった気もするんだよね。……心配じゃない?」
魁利の足は下町へと向かい、首をひねりながらその後を追っていく2人。
「もしかしたら――レオタード着て踊ってるかもしれな「その事は忘れろ」いよ」
画面の隅に挿入される武突参流のビジュアルが、改めて強烈(笑)
そうこうしている内に橋の近くで魁利を見失ってしまった2人は、周囲を探っている内に悲鳴を聞きつけ、釣り人を襲うジュゴンでマナティなギャングラーと戦闘に。コレクションによる霧の力で青と黄を攪乱したジュゴンは、意外に強烈な衝撃波を飛ばしてくると、謎の光線を2人に浴びせて姿を消してしまう(胴体に小舟をあしらったデザインの怪人が、霧の向こうに姿を消していく、という演出が秀逸)。
「あれ? なんともない」
と思われた二人だが、突然……
「……俺はジュレを出る前に、ガスの元栓を閉めてきたか?」
「……あれ? あたし、ジュレの鍵かけてきたっけ?」
急に心配性になった2人は魁利の追跡を中断してジュレに戻り、国際警察からギャングラー情報を得たノエルがジュレを訪れると、図鑑と睨めっこ中。
「あのギャングラー……ジュゴンなの?! マナティなの?!」
「気になるな……気になって、眠れなくなりそうだ」
そこにノエルの、魁利を探していたらギャングラーに出会ったのは「絶妙なタイミング」の一言を聞き、
「待てよ……もしかして魁利、奴に何かされてるんじゃないか?!」
「そっか……絶対そうだよ! だから様子がおかしかったんだ! どうしよ~」
あらぬ方向へと心配がヒートアップ。
「だったら、やる事は一つだね」
実用性はさておき、傍目には状態異常がわかりにくい、というのが地味に凶悪なジュゴンの能力ですが、薄い笑顔で「やる事は一つ」=尾行なノエルよ、君の人間性に関して時々、もういっそ、思い切ってさいてー墓場に送り込みたくなってくるゾ。
翌日、今日もこそこそと魁利が店を抜け出すのを確認し、ノエルが初登場以来?となるパリっとした私服@秋のフォーマルスタイルで登場し、3人は尾行をスタート。
なお、今度こそ鍵かけてないぞ初美花。
この手の描写は演出テンポの都合でしばしば省略されますが、今回に限っては、わざとなのか?(笑)
3人は魁利がコンビニの女性店員と親しげに話しているのを目撃し、初美花の心配もとい妄想は、魁利と女性店員の恋愛関係へと飛躍。
「なんか……すげぇ守ってあげたくなるっていうか」
君は一度それを、つかさ先輩に言ってみてほしいな! まあ、「何を言ってる。それは私の仕事だ」と素で返されてデコピンのおまけがつきそうですが、つかさ先輩は多分、6時間後ぐらいに反芻して恥ずかしくなってくるタイプだと思うわけです(力説)
という私の妄想はさておき、初美花の妄想の中では魁利とコンビニ店員はスピード結婚し、一男一女を儲けるも鬼嫁との生活に耐えかねて離婚……
「財産のほとんどを裁判で持っていかれた上に、親権まで奪われて、哀しく、孤独な、老後を送る事になるんじゃ……心配すぎる……!」
続けて魁利はファミレスに入り、あちこちで店員と親しげに言葉を交わしているのが実に魁利らしいですが、同時にそれがオチへの伏線にもなっていたり。
「魁利が一人で食事をしている…………もしかして?! あのハンバーグが美味すぎて、箸が止まらなくなり、店長を褒めちぎった挙げ句、店の全メニューに挑戦した結果、パンパンになった腹に、何故か飛んできたキツツキが激突! 腹が爆発して、魁利が死んでしまうのでは。……心配すぎる……!」
妄想の方向がわけわからない透真ですが、これも彼女のファンタジー教育の賜物なのか、或いはたとえ想像でも「俺の料理に飽きたのか?!」とは1ミリも考えたくない精神の防衛機構が無意識かつ強靱に働いたのか。
ランチを終えた魁利が次に入ったのは、書店。
「「魁利が、本を探してる……は?!」」
「もしかして……本に手を伸ばしたら手と手が触れ合って、どうもすいません! と顔を上げてみると、別れた筈のあのおばちゃん?!」
「ただの元嫁かと思ったが、その正体は悪の組織のスナイパーだった!」
「突然追われる身となった魁利は、おばちゃんの追跡をなっんとか逃れるけど……」
『いらっしゃいませ』
「安心してちょっと食べ過ぎてパンパンになった腹に、何故か飛んできたキツツキが激突! 腹が爆発して魁利が死んでしまうのでは?!」
「「心配すぎる!」」
何故か初美花の妄想の途中からルート分岐しているのですが、単発のボディブローと思われた二人の妄想を融合させて循環構造(どんな展開でも「腹が爆発」のオチに辿り着く、という構造の示唆そのものが、話芸としての笑いになっている)に持ち込んで、下がった顎にアッパーカットを叩き込んでくるという畳みかけ方が、凄い、大和屋さんホント凄いよ!
抱えている背景が重すぎてルパン側のキャラが崩しにくい、というのが今作の難点の一つであったのですが、あくまで妄想のイメージで実際でないとはいえ、状態異常の効果を巧く組み込み笑いを生み出す、という崩しのパターンの持ち弾の多さは、もはや戦慄。
またこれは編集の妙ですが、次回予告そのものが囮だった、というのも効果的になりました。
「だいじょぶかい?」
真顔のノエルに心配されつつ尾行を続ける3人だが、またも同じ橋の近くで見失ってしまい、そこに飛来する……
「キツツキ!」
「よくも魁利を!!」
「オイオイ、何言ってんだ。オイラだよ~」
グッドストライカーに銃を向けた二人はノエルに止められ、確かに全体の色合いが似ているといえば似ているのですが、何故か飛んできたキツツキには確固たる理由があったのか(笑)
グッティの情報により3人は工場地帯で暴れるジュゴンの元へと向かい、激しい怒りを燃やす透真と初美花だが、そこに遅れて魁利もやってきて、駆け寄る2人。
「も~、バカバカバカ、すっごい心配したんだからね!」
「おまえの腹に……何故か飛んできたキツツキが激突するのが、心配で心配で」
「キツツキ? ……てなに?」
頭をすりつけてすがりついてくる透真に、大変困惑する魁利。
「どうやら、ギャングラーの術にかかっていたのは、レッドくんじゃなくて、この2人だったんだね」
「「え?」」
「ようやく気付いたようですね。私は人間の心配する気持ちを、増幅させる事が出来るのです」
透真と初美花はショックのあまりその場に崩れ落ちて戦闘不能になってしまい、進み出る魁利。
「ったく、簡単に引っかかりやがって」
「そうかもね。……でも、2人は、君を心配しすぎて戦えなくなったんだよ。多分、君の態度に何かしら不安を感じていたんじゃないのかな」
「え?」
軽く毒づいた魁利はノエルの言葉に仮面の奥の瞳を揺らし、妄想ギャグだとばかり思っていたら、ここでこう繋げてくるとは……!
怪人の特殊能力を引き金に、笑いは笑いとして成立させつつ、そもそも、増幅された心配にはしかるべき種があったと、マグナム回以降特に強調されていた魁利の抱える潜在的不安要素と連結してみせ、魁利が“仲間”達がそれに気付いていた事を知ると共に、滑稽なほど過剰な反応だからこそ、奥底の本音を感じ取って正面から受け止めざるを得なくなり、お笑いと見せて一転……というだけでなく、お笑いであった事そのものに意味がある、ギャグとシリアスが不可分に結びついた構成が実にお見事。
前回も伊勢エビを一人で尾行して、やや先走り加減の(そして独りでそれを成し遂げる能力を得つつある)魁利に透真が不安を覗かせる描写があったのですが、その流れを巧く汲みつつ、お笑いに包んでいたからこそ、視聴者にも魁利にも見えないところから一撃が来るという不意打ちが絶妙で、ナンセンスギャグと計算された構成を両立させる、大和屋さんの得意技が会心のはまり方で、唸らされました。
魁利はここしばらくの、余裕をなくし加減だった自分の言行を顧みて……回想に出てくる圭ちゃんへの鬱陶しさを再確認、じゃなかった、いやなんか、心の余裕を失っているのは9割方圭一郎が原因な気はしないでもないわけですはそれはともかく、自分が独りではない事を改めて知る。
ここしばらく積み重ねてきた魁利の不安要素(闇に生きる快盗として完全に境界線を越える)がこれで問題解決だと若干あっさりしすぎかなとは思いますが、煎じ詰めると「仲間によって引き戻される」という王道の構造が取り込まれている事で説得力が補強されており、残り話数で手の届く範囲が見えてきつつある状況で、もう一度踏み込んでも良し、これで落ち着いた事にしても良し、と上手い所に中継地点を設営した、という感があり、前半の荒川さん、後半の大和屋さんと、腕利きのサブライターを起用してきた差配も効いています。
特に今作においては、中盤からの参加により“求められている役割”がわかりやすかった事もあってか大和屋さんの筆が走りましたが、荒川さんは『ジュウオウ』に続いて、香村さんメイン作品では煩悩よりも調和を大事にしながら、苦しいところを補ってくれたといった印象。
「それに、敵の術にかかったとはいえ、こんなに心配してくれるなんて、僕はちょっと羨ましいかな」
思わず血の涙を流しそうな程にね!
「ブルー。イエロー。……心配してくれて、ありがちゅー。――後は任せな」
敵を目前にしているとはいえ、背を向けながら、語尾をふざけて、というのがまた魁利らしくありますが、魁利とノエルは並んで変身し、二人名乗りで戦闘開始。
そして衝撃! 装備品の仕様が違うといえばそれまでですが、ルパンXは、サイレンストライカーを他人に叩き込んでもらわないとスーパー化できないのか!(笑)
至近距離で銃口を向ける方にも、ちょっと必要とされる勇気!!
スーパー銀の独りトライアングル砲撃@僕は泣かない、を霧で逃れようとするジュゴンだが、ルパンレッドもミラクルマスカレードし、タービンの巻き起こす風で霧を無効化。至近未来予知でジュゴンを撃ち抜き、ザミーゴすら退けたスーパー化の特殊能力は、一般怪人相手に使うとなんだかヒーローぽさの減じるエグさ。
胸部から背中にかけての増加パーツという事で、やはり通常よりは動きにくそうな分を、すだれ状の分割マントのヒラヒラ具合でカバーしながら接近戦に持ち込んだVレッドは、ルパンコレクションを回収。後は用済みとばかり、Wスーパーが並んでサイレンミサイルとビクトリーマグナムの一斉砲撃で塵も残さず灼き尽くし、ちょっとお笑い気味の怪人にもフルパワーでオーバーキルしていくスタイルです。
ジュゴンは巨大化し、マグナムロボとXエンペラーが戦いを挑むが、ジュゴンはエンペラースラッシュをひらりと回避し、頭脳派の怪人の集めたデータが、巨大化してから活かされる、というのはかなり珍しいパターンでしょうか。
そこに青と黄が戦線復帰したルパンカイザーマジックが参戦すると、マジックで5体のルパンカイザーに分身。全バリエーションのルパンカイザーが、手前に「ルパンカイザー」と大書された空港の滑走路のような場所に並ぶ、というのは『Gメン’75』のパロディ?
「この中に、いつもと違うルパンカイザーが居ます。さてどれでしょう~?」
「答は~~~、CMの後!」
直後に実際のCMに突入するというメタネタながら常套句ギャグとしても成立しているのですが、そのギリギリのラインを縫う所に笑いがあるので、CM抜きで見ると微妙な印象にはなりそう(笑)
CM明け、見事に正解したジュゴン(なお私は気付きませんでした)には、商品としてサイレンルパンカイザーの一斉射撃がプレゼントされ、トドメはVVVビクトリー超電磁快盗スピンでアデュー。
てそうか、これは、三ツ矢雄二さんネタなのか……? と、使用2回目にしてやっと気付く。
戦い終わり、魁利が透真と初美花を連れて行ったのは、橋の下の工場跡で面倒を見ていた捨て犬。
コンビニ店員への「色白で……小さくて、めっちゃ可愛いんすよ」という台詞の時点でオチはなんとなく判明しており、少々、アナクロな不良すぎる感もありますが、透真と初美花には隠れて犬の世話をしていた上で、飼ってくれる人を探していた、というのは魁利らしいなとは思うところ。
無事にキツツキレストランの店長が飼い主に決まって連れて行く途中、橋のたもとで「手と手が触れ合って、どうもすいません! と顔を上げてみると、別れた筈の朝加圭一郎?!」
「ただのお人好しかと思ったが、咲也の正体は悪の組織のスナイパーだった!」
「突然追われる身となった魁利は、国際警察の追跡をなっんとか逃れるけど……」
『いらっしゃいませ』
「安心してちょっと食べ過ぎてパンパンになった腹に、何故か飛んできたグッティが激突! 腹が爆発して魁利が死んでしまうのでは?!」
「「心配すぎる!」」
……ではなくて、ギャングラーを倒した僕をお祝いしてジュレで一緒にご飯を食べようそうしよう、今日のランチは賑やかだなぁと圭一郎達を(たぶん強引に)引き連れたノエルとバッタリ出会い、気まずい表情でちらちらと視線をかわす魁利と圭一郎が、離席できない状況で偶然再会した別れた夫婦みたいなのですが、だから魁利(むしろルパンレッド)は一度、つかさ先輩に「なんか……すげぇ守ってあげたくなるっていうか」と言ってみて(以下略)
確かに鬱陶しいし、兄を思い出して面倒くさいし、快盗の仕事にとって厄介な存在ではあるけれど、圭一郎が自分を心配してくれている、という部分は受け入れた魁利は、自ら歩み寄ると、圭一郎のスマホにゲームをインストール。
マグナム回では兄の幻影を撃って試練を突破した魁利ですが、過去のトラウマの影響を含めて、本質的に“今の人間関係”を切り捨てられない精神状態が改めて見え隠れし、ただただ背中を向けて逃げるのではなく、それを受け止める一歩を踏み出し始めた、ようにも思えます(その変化のきっかけを、本来は時限式の“仲間”である透真と初美花、そして外からの視線を持ち合わせたノエルが与える、というのが美しい)。
「はい。お薦めのゲーム。100万円はサービスしとくよ……圭ちゃん」
「あ……ありがとう」
ぎこちないながらも二人が最低限の交友関係を修復する一方で、背後に立つ透真が常連客に対するとは思えない厳しい視線を圭一郎に向けているのですが、思えばこの二人の間にもキャンプ事件があったので、圭一郎への危険人物認識が高まっているのか、次回へ繋がっていく要素なのか。
一歩離れてついていく透真を除き、子犬を囲んで一同やいのやいのしながら、つづく。
ジュゴンとの戦闘現場にも出てこられなかった警察戦隊は最後のシーンで出番があってホッとしつつ今作としては惜しまれる所ですが、今回の完成度を達成する為に警察戦隊を削ぎ落とさざるを得なかったと考えると、W戦隊VS構造は、やはり企画のハードル設定が高すぎたかなぁ……とは思うところ。
『キュウレン』にしろ今作にしろ、戦隊にはまだまだ色々な引き出しの余地がある、と見せる事そのものに一定の意義があった事は想像に難くないですが、果たして来季は、そういった変則路線を続けるのか、はたまた思い切ってシンプルな構造に戻ったりするのか。……そういえば、今季は、冬映画、無い……?
次回――酒は飲んでも飲まれるな! デストラさん本気に、これまで無かった透真×つかさ回となりそうで、色々と立て込んだ内容になるとスポットライトはそこまで強くないかもですが、透真回としてもつかさ回としてもデストラ回としても楽しみ。
一気に物語が動きそうな雰囲気ですが、年内の残り話数を考えると、このままクリスマス決戦編に突入してデストラさん退場(?)、年末に総集編風味を一本やって年明けの最終章に……という形なりそうでしょうか。色々と道筋の整理はついてきた感じなので、走り抜けた先の美しい着地を期待したいです。