東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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SとFとN

晩秋の西澤保彦

 西澤保彦作品を読みたくなる波、というのが周期的に来るのですが、久々に大きな波がやってきて、初読再読織り交ぜ、色々。
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◇『聯愁殺』
 医者、小学生、無職老人、そしてOL……少年による連続殺人事件の動機は、いったい何だったのか? 唯一生き延びるも、犯人の失踪により「自分は何故狙われたのか?」という疑問を抱える事になった女性の依頼により、推理作家や犯罪心理学者の集うグループが、事件の真相を解き明かそうと推理を戦わせる……。
 データを元に、本業の捜査官ではない人物達が推理と議論を繰り返して、ああでもないこうでもないと事件の謎に迫っていくという、古典名作『毒入りチョコレート事件』(アンソニー・バークレイ)的な形式の長編。最終的に“思わぬ真相”に辿り着くにしても、中盤やや、的外れな推論のシーンが長すぎないか、という部分はありましたが、垣間見える真相への伏線、それを適度に覆い隠す巧みな文章、点と点を繋ぐロジカルな収束、と揃って面白かったです。

◇『パズラー -謎と論理のエンタテインメント-』
 タイトル通り、ロジック重視のミステリ作品を集めた、ノン・シリーズ短編集。
 封じ(られ)ていた記憶が甦り、恐ろしい真相を明るみに出す、というのはサスペンスの常套手段ですが、西澤さんはこの、真実という名の禁忌へ向けて、自ら記憶という果皮をめくっていくスリルの過程を描くのが非常に巧くて、その巧みな手腕が活かされた「蓮華の花」が特に面白かったです。

◇『ぬいぐるみ警部の帰還』
 明晰な頭脳とたぐいまれなる美貌を持ち合わせるキャリア・音無警部がこよなく愛するのは、ぬいぐるみ。今日も現場でぬいぐるみを見つけては思考にふける警部だが……その鋭い知性は、ぬいぐるみへの思慕に引き寄せられながらも確実に事件の真相に迫っていく。
 ギャグ系のミステリが苦手(殺人事件そのものが真っ当に扱われないとか、警察の出す仮説があまりにとんでもとか)で避けていたのですが、キャラクターの変人ぶりを強調したあおりにくらべると、中身は事件も捜査方法も推理もしごく真っ当な、シリーズ短編集。
 あとがきによると、レギュラーキャラの初登場作品(今作未収録)では警部のぬいぐるみへの妄想や部下の乙女妄想が延々とくどかったそうなので、今作よりもギャグ寄りだったのかもしれませんが、今作収録作品では妄想独白は控え目になっており、無理矢理ぬいぐるみと絡めて事件を解決するわけでもなく、捜査の糸口だったりちょっとしたヒントになるエッセンス、といった具合。
 飛び抜けてこの一本、という程のものはありませんでしたが、軽い読み口で割合と楽しかったです。

◇『完全無欠の名探偵』
 再読……? 第1章だけ記憶があったのですが、読んだのか読んでないのか。他人の話を聞き、相槌を打っているだけで他人の抱える秘密と謎を解き明かしてしまうが、本人には全くその自覚のない素朴な青年が、さる大富豪の孫娘の元へと送り込まれる……果たして彼女は、四国の地で何をしようとしているのか。
 『パズラー』の項で触れたように、西澤保彦の面白さの一つは“秘めた記憶のめくり方”にあるのですが、青年に過去の話をしている内に、そこで引っかかっていた何かに、語り手本人が気付き、思わぬ真相に触れてしまう、という触媒としての探偵、知りたいのか知りたくないのか、恐れながらも自らそれをめくる手を止められない……という構造の妙味が秀逸。

◇『七回死んだ男』
 同じ一日を9回繰り返すという“時間の落とし穴”にはまる体質を持った高校生・久太郎。それがいつ起こるのかは全くわからず、一切の制御もできない為、能力というより体質であると折り合いを付けながら生きてきたが、正月の親戚の集まりの最中にそれが発生し、何故か繰り返しの2回目に、オリジナルにはなかった殺人事件が発生してしまう。祖父の酒盛りに巻き込まれ、とんでもない泥酔の苦しみを味わえば事件が避けられるとわかってはいても、同じ苦しみをあと7回味わいたくはない久太郎は、他の手段で殺人が回避できないかと頭を捻るのだが、事件は再び起こってしまい……。
 特殊体質により一日を繰り返す男、というSF設定をど真ん中に放り込んできた、まさに西澤保彦、という長編。中核に奇抜な設定を起きつつも、一種の閉鎖環境、莫大な遺産を巡る骨肉の争い、という如何にもな舞台設定そのものにユーモアが漂い、その上で積み重なる些細な違和感の正体が綺麗に解きほぐされ、意外な人物から真相の解明へ繋がるという徹底した本格ミステリの構造に収めているのがお見事。久々に読みましたが、改めて非常に面白かったです。

◇『幻惑密室』
 ワンマン社長の呼び出しで新年会に集められた男女4人が、何故か社長宅から外へと“出られなくなってしまう”。外への電話も繋がらず、奇妙な状況下に閉じ込められる5人だが、更に社長の死体が発見されて……。
 限定された超能力を用いる人物が登場し、超能力は如何に使われたのか、超能力者は誰なのか、事件の犯人は誰なのか、をロジカルに解き明かす、<チョーモンイン>シリーズの長編第1作。
 超能力が存在するが、それは用法が限定されたものであり、その限定された能力の性質(例えば、○○分しか作用しないとか、○○しながらでないと使えないとか)から、事件の真相(能力者の正体)を解き明かすという、奇想天外な設定をあくまでルールの中で行う事でミステリを成立させている、という西澤保彦作品を愛好するきっかけとなったシリーズ。
 また恐らく、どんな超常の力も、何でもありではない“制約”を与える事により、“ルールの設定”が“物語の面白さ”を生み出す、という事を教えてくれた作品の一つです。
 未だに、こんな作品を書いてみたい、と思わせる、設定面における理想のシリーズ。
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 語り口の上手さに魅力的なキャラクター造形、そして奇抜な設計をロジカルに解きほぐしながら決して無味乾燥にならない作風、と改めて好きな作家なのですが、エログロ趣味がちょっと強いので、しばらく読んでくると胸焼けしてきて離れる、というのがパターン(笑)
 ただ一方で、


 「エスパー・エリミネイト・フォース――ね」
 ううむ、何かよく判らんが、けっこうカッコいい響きではないか。
 「ええ・略すと、エスエフですね」
(『幻惑密室』)
 といったユーモアな語り口を持ち合わせているのが、たまらないポイント。