『ウルトラマンガイア』感想・第10話
◆第10話「ロック・ファイト」◆ (監督:村石宏實 脚本:小中千昭 特技監督:村石宏實)
「コマンダー、チーム・クロウに関しては、自分には考えがあります」
「……任せる」
演習では好成績だが、堤チーフの腹案により実戦投入が見送られている、女性パイロットだけで構成されたチーム・クロウが食堂で検討中、側を通りがかるチーム・ライトニング。
「研究熱心ですね、稲城リーダー」
梶尾さん、なぜ貴男は、そこでわざわざ挑発しにいきますか。
「あたし達は実戦の度に機体を落としたくないから」
案の定、痛烈なカウンター攻撃を受け、背後で沈痛な面持ちになるぽっちゃり。
「……そんなに墜としてないよな?」
「結構……」
「未知のターゲットを相手にしてるんです。命張ってね」
部下をかばう梶尾だが、横に立つクロウ03に鼻で笑われる。
「――安い命ですね。あたしは犬死にはしたくないです。勝つ為に飛ぶ」
「立派だな。いつになるか知らないが、その意気を実戦で見せてくれ」
めっちゃ感じ悪いぞ梶尾!
社食にラーメンやお寿司が無い事を嘆く我夢のお気楽なぼやきとは対照的な、ファイターパイロット同士のプライドが火花を散らすエリアルベースに緊急警報が鳴り響き、地球圏に出現する巨大なワームホールとそこから姿を見せる巨大物体。
「これは……怪獣か?! 宇宙船なのか?」
「大きさは?」
「およそ……800メートル」
ライトニングが迎撃に出動し、始めての宇宙空間(大気圏上層?)でのドッグファイトとなるが、物体の放つ強力な電磁攪乱により無線による連携が取れない事から、一時帰投。綿密な打ち合わせの元、ライトニング・ファルコン・クロウの3チームを一挙に投入し、レーザー通信によって互いの連携を取るオペレーションが発令される。
冒頭から強調されていたにも関わらず、クロウ初の実戦投入に何の前振りもない事に首をひねったのですが……チーム・クロウ関係のドラマは、オチまで見て呆然とする事に。
「稲城リーダー。自分のチームだけがチームではない」
「わかってます」
出撃直前に堤がクロウ01を呼び止め、無表情で淡々と任務をこなす一方、背後で我夢が姿を消していてもまるで気付かないなど微妙に無能疑惑のあるチーフの、秘めた細かい気遣いとか明かされたりするのだろうか、とこの時は思っていたのですが……チーム・クロウ関係のドラマは、オチまで見て呆然とする事に。
「この波形が通信だとしたら、何かを伝えようとしているのか?」
9機のファイターが勇躍出撃していき、物体の放つ妨害電波を解析しようと考え込んでいた我夢は、おもむろにその場で倒立(笑)
後の東映作品『特捜戦隊デカレンジャー』(2004)は随所に《ウルトラ》シリーズへの意識を感じる要素がありましたが、センちゃんのシンキングタイムは、これが元ネタだったのでしょーか。
……つまりわかってきたよ藤宮! 筋肉は、脳を活性化させるんだな!!
量子加速体験を始めて3ヶ月、貧弱だった僕も、今では支え無しでその場で倒立できるようになりました!
ジョジーの一言から「音楽」という閃きを得た我夢は、音に符号化する事で人類にも理解可能な形で電波を解読し、巨大物体の正体が、内部にコッヴの卵を詰め込んだ、巨大なコッヴ工場である事が判明する。
このままでは、地球環境向けに改良を施された大量のコッヴが地球で誕生してしまう……次々と攻撃を仕掛けるも、強力な妨害によりレーザー通信さえ封じられてしまうファイターチームだったが、チームクロウがロックのリズムに合わせたコンビネーション攻撃でこの状況を打破。
ところが墜落していくコッヴ工場が、アメリカ西海岸シアトル直撃コースの軌道に入り、解析したデータを手に我夢はEX機で出撃。チーム・クロウの言葉から、クロウ03の愛聴するロックンロールのメロディをデータ化してコッヴ工場に送り込む事で工場を内部から大爆発させ……問答無用で破壊プログラム扱いされるロックンロール、とは(笑)
攻撃の初動時、
「あたし達でケリをつける。他のチームより深く入る」
など露骨に勇み足かと思いきや、機転を利かせたチーム・クロウがここまで圧倒的な活躍で実力を見せ、幾つか散りばめられていた不安要素みたいなものは何だったのか、と困惑するのですが……チーム・クロウ関係のドラマは、オチまで見て呆然とする事に。
機能を失ったコッヴ工場にライトニングとファルコンが攻撃を仕掛けた事で落下地点が変わり、工場はアラスカの無人地帯に墜落して大爆発。だが既に製造済みの卵が残存しており、その内の一つから新型のコッヴが誕生。
我夢はオートパイロットでアリバイを作ってガイアに変身すると、華麗なステップで光線技をかわし、前転から中段へのディラック方程式キック! そして、2つ以上のフェルミ粒子は同一の量子状態を占めることはできないショルダーアタック! 組み付かれて押し込まれると蹴り技で振り払って掌底を浴びせ、かなり人型に近い怪獣という事もあってか、力の入った格闘戦。
顔面への連続パンチからヘッドロックで怪獣を叩き伏せたガイアは、僅かに逡巡めいたものを見せながらも卵から孵化したばかりの幼生体を焼き払おうと構えを取るが、立ち直った怪獣に背後から組み付かれたところに、正面から幼生体のビーム攻撃を受け、蜂の巣にされて崩れ落ちてしまう。
これは1クール目の締めを控えて訪れた地球最大の危機に、久々に藤宮が登場する前後編か?! と思ったその時、怪獣に突き刺さってガイアを救うファイターチームの援護射撃。
幼生体も次々とファイターチームが焼き払い、立ち直ったガイアは反撃のブラケット記法ハイキックから尻尾スイングを決めて怪獣を工場の残骸へ投げ飛ばすと、スペシウム的な光線で全てを焼き尽くし、地球破滅の危機は辛くも回避されるのであった。
…………藤宮はどうやらまだ、大技で怪獣を切断して(決まった……!)と余韻にひたっている時に反撃をくらって「ふぉ?!」とリアクションしてしまった姿を全国のお茶の間に中継されたショックから立ち直れないでいるようです。
強く生きろ。
「これが……戦い」
初めての実戦を終え、帰投したクロウの3人は音楽に合わせて廊下で我夢とステップを踏み、オペレーションルームに整列。それらしい呟きで何か感じる所があったのかと思いきや……
「チーフ。見直していただけました?」
「……チーム・クロウには男性のチームでは出来ない女性らしい任務がある筈だ…………と考えていた。しかしそういう時代でもないようだな。どうも俺は古い人間らしい」
冒頭から、女性蔑視ではなく深い考えがあっての事なのだ、みたいなポーズを取っていたチーフが、別にろくな考えはなかった事を告白すると、評価して褒めるでも謝罪して頭を下げるでもなく立ち去ってしまい(悪意があるわけでもなんでもなく「古い人間」としてその必要性を全く感じていない模様)、目が点。
フィクションにおけるジェンダー観というのも時代時代でかなり移り変わるものなので、もしかしたら1998年当時はこれでもかなり意外性をともなった痛快な展開だったのかもしれませんが、2018年現在に見ると、何の捻りも無いままチーフの株価が垂直落下しただけという、逆方向に意外すぎて大変困惑するオチ。
手柄にこだわる前傾姿勢や経験不足など、不安要素として描かれていた部分がミスに繋がるのかと思えば全くそんな事はなく、むしろ実戦では全てプラスに働くので、チーム・クロウはただただ不条理に抑圧されていたばかりとなり、大人げなく挑発していた男性パイロット陣の好感度が連鎖的に暴落。特に、実力不足でも実戦対応の不安でもなく、単にチーフの頭が固かっただけで出撃できなかったのに、そうとは知らずに思いっきりイヤミを飛ばした梶尾の立場は。
そんな男性社会で雄々しく羽ばたく女性チーム、を描くならもっとチーム・クロウに焦点を合わせて感情移入させる作りにした方が良かったと思いますし、それをしないのは堤側の然るべき言い分が描かれるからなのかと思ったらそんな事はなく、ほとんどただ、堤を張り飛ばすだけの物語になっているのですが、女性チームを持ち上げる為に男性チームを下げる(その逆もしかり)、という作劇自体が大変下策であったな、と。
勿論、キャラクター個々の人格や信念はあるので、それによる嫌な部分や衝突はあって良いのですが、クロウへの対応を通してレギュラーキャラに決定的な憎まれ役を作りたくないという思惑が働いたのか、「俺は古い人間らしい」と言い訳しながらそそくさと立ち去る堤といい、他人事風な監督とコマンダーといい、失点を分散させようとした結果、男性陣の好感度が数珠つなぎに揃って下がるという、むしろより酷い事態を招いてしまいました。
これならいっそ、チーム・クロウへのカウンターを強い意志として描けば、プラスでもマイナスでもキャラクターの掘り下げに繋がったのですが(我夢と梶尾の間では、ある程度それが成立していた)、中途半端に傷口を浅くしようとした結果、コツコツと積み立ててきた梶尾リーダーの好感度貯金が溶けて消えてしまうという、とんだ流れ弾。
そしてファイターチーム間の問題に主人公が一切関わらないのは、パイロット版における複数視点の持ち込みのように、ある程度は群像劇的な狙いはあったのでしょうが、それ以上に、男性社会vs女性チームという構図に我夢を加えてしまう事で、好感度下落の誘爆を避ける意識が働いたのかと思われ、それにより「怪獣対策ミッション」と「人間ドラマ」が悪い意味で分裂してしまって、主人公は終始、前者にしか関わらない、というのは物足りない及び腰であったと思います。
地球に迫る巨大コッヴ工場と、次々と孵化するコッヴ幼生体、という二段構えのスペクタクルは面白かっただけに、チーフを含めたファイターチームのドラマと巧く連動しなかったのが残念でした。
次回――個人的に割と好きなチーム・ハーキュリーズ再登場のようで、楽しみ。