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星獣戦隊ギンガマン』感想・第49話

◆第四十九章「奇跡の山」◆ (監督:長石多可男 脚本:小林靖子
 樽爺を貫く海賊の刃!
 倒れた樽爺の顔を思い切り踏みつけて澱みに澱んだストレスの一部を解消するシェリンダだったが、駆けつけた黒騎士がコーチを抱えて逃走。
 「なあバットバス、船のねぇ宇宙海賊ってのを聞いた事があるか?」
 一方、黒騎士を始末し損ねた事を報告に戻ったバットバスに、いよいよ船長恒例の、お小言始まる。
 「そーんな間抜けなもんがあるかよ~」
 バットバス、実力もさる事ながら、この性格だから船長とずっと付き合ってこれたのだろうな……と、最終回手前で明らかになる真実(笑)
 「その間抜けが今の俺たちよ!」
 イヤミの通じないバットバスの斧を掴み、とうとう怒声を挙げる船長。
 「バットバス、俺ぁ結構痺れ切らしてるんだぜ」
 「わ……わかりやしたよぉ。地球魔獣はこの俺がなんとかしますって。この俺が本気出しゃ一発ですよぉ。へへへへへ」
 斧を突きつけられたバットバスは船長の本気を感じると追従モードに切り替わり、ボスキャラ級の声ながら、筋肉過剰の暴れん坊からへっぴり腰の三下まで、一つのキャラの中に違和感なく収めてみせるのはベテラン渡部猛さんの味を感じます。
 「ボック、モークをいつか、ギンガの森へ連れて行こうね」
 乗馬倶楽部ではモークの種をペンダントに収めて第2話の状態に戻したサヤがボックに優しく微笑みかけ、サヤは最初からこの方向性で良かったのは?! という、今更ながらの気付き(笑)
 ……まあ、今作のコンセプトとして「3000年アースを鍛え続けてきた宿命の戦士」らしさを押し出すというのが優先事項であって、それとの取捨選択ではあったのでしょうが、戦士以外の一面をボックとの絡みで見せる、というのを僅かずつでも積み重ねていければ、第46話の出来映えや、サヤの印象もかなり変わったのではと惜しまれます。
 前回のビズネラの奸計がヒントになったのか、地球魔獣を誘き寄せる方法を探すギンガマンは、ギンガブレスが眠っていたオタケビ山が3000年前、決戦の地としてダイタニクスを誘き寄せた場所であると星獣たちに教えられ、その仕掛けを作動させるべく山へと向かう……全ての始まりの地が、決戦の地として収束していく、というのは「伝説」をベースとした今作らしい構成。
 その頃、致命傷を負った樽爺コーチはヒュウガに手当を受けながら、今まで隠してきたゼイハブの秘密を明かしていた。
 3000年前――星獣によって瀕死の重傷を負ったゼイハブは、ゼイハブの母星を原材料とする、宇宙で最も邪悪な星の命を右胸に埋め込む事で一命を取り留める。その緊急手術を執刀したのが、魔道医学にも精通していたスーパードクター樽爺であり、その結果としてゼイハブは、星の命から無限のエネルギーを得ているのであった。
 「それを砕けるのがナイトアックスというわけか」
 「そうじゃ。これを砕けるようになれば、ゼイハブの星の命も、砕ける筈じゃぁ……!」
 樽爺の取り出す漆黒の鉱石を、どこか哀しげな瞳で見つめるヒュウガ。
 「……それはおまえの――星の命なんじゃないのか?」
 「?!」
 「……復讐の為に何もかも捨てるのやめろ。砕くのはゼイハブの星の命だけで十分だ」
 今作を貫く「復讐」というテーマが再浮上し、黒騎士の魂を受け継ぐ者でもあるヒュウガの言い回しが大変格好良いと同時に、誰にでも故郷を大切に想う気持ちはある筈だ、という、ギンガの森、そして星を護ろうとするギンガマンの、根幹的な“戦う理由”が示されるのが劇的。
 一方で、「滅ぼされた」のか「滅ぼした」のかはわかりませんが(構造的には恐らく後者か)、ゼイハブの母星が既に星の命と化している事から、ゼイハブそしてバルバンが、故郷を持たないか捨てた存在である事が暗示されており――星の命を持つ樽爺や、海賊に鞍替えした魔人などから、海賊メンバーは概ね似たような境遇が想像されます――、例えば大事な船もより良い新車に乗り換える機会と見るやあっさりと捨てみせるように、バルバンの本質とはまさにギンガマンのネガである護るものを持たない存在といえます。
 だからこそバルバンは、他者のそれを、奪い、踏みにじり、貪り尽くせる。
 ここに「故郷」という要素を軸にして、船長の秘密から、バルバンとは何であるのか、まで綺麗に繋がりきったのはお見事。
 ちなみに牽強付会の蛇足になりますが、小林靖子がデビュー2年目に参加した『ブルースワット』(1994)に登場するのが、故郷から追放された宇宙犯罪者達が手を組んで生まれた悪の組織で、特に扇澤延男脚本では、その漂泊者としてのデラシネ的要素に焦点を当てたりしていたのが、今作に多少は影響あったりしたのかなかったのか。
 「黒騎士……」
 ゼイハブへの復讐だけを考えて生き延びてきた樽爺の心にも何かのゲージがぎゅいーーーんと芽生え、ここで「ヒュウガ……」と呼びかけていたらサヤは樽爺にまで周回遅れで千切られるところでしたが、あくまでそこの一線は越えずに樽爺を「悪」の側に置き続けるのが、今作の作風であり、デリケートなところ。
 船長に尻を叩かれたバットバスは、力技で地球魔獣をいぶり出そうと闇雲に地下へ攻撃を仕掛け、青山父からそれを教えられた(父の出番を確保しつつモーク不在の穴埋めをさせていて実に巧妙)ギンガマンは、二手に分かれる事に。
 「心配で、来ちゃいました」
 「鈴子先生……戦いが終わったら、ギンガの森、案内します」
 「……はい」
 駆けつけた鈴子先生はゴウキに笑顔で応え、さすが女神属性。
 「伝説の力、信じてますよ」
 青山父からのエールも背に、リョウマは山へ、ハヤテ達4人は街へとそれぞれ走り、もともとヒーローというのは割と「走る」存在ではありますが、今作随所で長めの尺を採って戦士達が激情を内に秘めながら「走る」姿を描いているのはこだわりを感じる所で、最後まで印象深い疾駆のシーンとなりました。
 ……まあ、一番印象深いのは、第11話で鈴子先生への恋破れたと思い込んで涙をこらえて走るゴウキなのですけど(笑) ……というかあれが、今作における印象的な「走る」の画期か?
 (余談ですが、私個人が、「走る」姿を巧く取り込んで描く事が如何に面白さと気持ちよさに繋がるのかに気付くきっかけとなった作品が、アニメ『爆走兄弟レッツ&ゴー』(監督:アミノテツロー)。それから、『∀ガンダム』において主役機∀ガンダムを“スムーズに走るMS”として描写した富野監督の卓越を思う次第です)
 ……あと余談に逸れている内に思いつきましたが、今作と企画的に繋がりが深いらしい『百獣戦隊ガオレンジャー』のレッドが「獅子・走(かける)」なのは、果たして単なる偶然なのか。
 闇を切り裂く虹になるべく走るハヤテ達がバットバス部隊と戦端を開いた頃、樽師弟の隠れ潜む小屋にはシェリンダが迫っていた。
 「逃げろ……黒騎士、おまえにはどうしても……ゼイハブを倒してもらわねば!」
 ゼイハブの倒し方を伝えられたヒュウガは、しかしそれでもコーチを見捨てようとはせず、ゴウタウラス入りの魔法の樽を返されてもなお、一緒に逃げる事にこだわる。
 「行くんじゃ。アースを捨てた事を、無駄にするな!」
 「ブクラテス!」
 そんなヒュウガを思い切らせる為、虫の息のコーチが取り出したのは、既に火が点いた爆弾。樽爺は小屋に踏み込んできたヤートットを巻き込んで壮絶に自爆し、番組史上最高レベルの気がする爆発で木っ葉微塵に吹き飛んだ小屋の残骸の中に、シェリンダは原形を残さずバラバラになった樽の破片と眼鏡を発見する……。
 「ブクラテス……死んだか」
 ……さすがに死んだとは思いますが、死に方としてはこれ完全に、「ふっふっふ、あの程度で儂が死んだとでも思ったのか?」と言って高い所から現れたり、過去を捨てて仮面の人になって再登場するパターンなのが、不安を誘います(笑)
 それでなくても樽爺には前例があるし、自分の死を偽装して官憲と敵の目を逃れ、裏の世界からテロリストを支援する主要登場人物が出てくる作品が、実は小林靖子さんの脚本デビュー作なわけですが、合言葉はフォー・ジャスティス!
 ……発作的な与太はさておき、終盤戦の思わぬキーパーソンになったブクラテス、厳しく特訓を指導しているだけだとヒュウガの登場シーンが面白くなくなってしまう都合もあってか、母星を失った背景を与えられてなんとなく距離が縮まったりもしつつ、「復讐者として決してわかりあえない」という一線はギリギリ守って、凄絶な自爆で退場。
 博士ポジションの便利キャラ→役立たずのコメディリリーフから、怨念を抱えた復讐者としてヒュウガに独自の役割を与え、波瀾万丈、色々と転がった面白いキャラクターでした。身勝手で剽軽な言動からどす黒い悪意まで、茶風林さんも持ち味を存分に活かして素晴らしかったです。
 いつか何かの劇場版(或いはVシネマ)で、伝説のヤング樽爺が登場する日を待っています!(え)
 一方、オタケビ山に辿り着いてほこらを調べる内に、落とし穴に落ちてしまったリョウマは、その奥で仕掛けを発見。それが発動すると風の通り道が開き、星獣たちの記憶通りに、吼える山。
 「これが! オタケビ山の、叫び!」
 強風に煽られて山腹から吹き飛ばされそうになるリョウマは無駄に死にそうになり、ハヤテ達が戦っている一方でリョウマが無傷というわけにはいかないバランスへの配慮や、この後のヒュウガとの再会を劇的にしたいという意図はあったのでしょうが、吹き飛ばされまいと必死に岩肌に捕まるリョウマのシーンは、この局面でそれで命の危機に陥らなくても、と少々くどくなってしまった印象。これが、山を吼えさせる為の試練の一環で死にかけるなら話はまた変わりますが、吼えさせたのはほぼ偶然の産物であり、順序が逆になっているので(この辺りは試練とするほど時間を取れない尺の問題もあったでしょうか)。
 響き渡る山の咆哮は3000年前同様に魔獣を呼び寄せ、ハヤテ達を退けたバットバスは山へと急ぐ。ハヤテ達はギンガファルコンの背に乗って山へと向かい、あわや転落死の危機をヒュウガに助けられたリョウマ達と合流。更なる地球汚染を防ぐ為に魔獣を焼き尽くすべく迎撃態勢を取るギンガマンだが、そこにバットバスが到着して6人は銀河転生&騎士転生。
 「決戦だ! 行くぞー!」
 「銀河炸裂!」
 地球魔獣を滅ぼすか、成長させるか――始まりと終わりの地・オタケビ山にて地球の命運を大きく左右する激突が始まり、華麗に構成員を蹴散らす緑の、顔面を明らかに狙って蹴り飛ばすドSなハイヒール。
 「シェリンダ!」
 「――決着を付けようか、ギンガグリーン」
 最終決戦の中で両者の因縁がしっかり拾われ、互いの剣を抜いて刃を交えたと思ったら、間合いが離れた途端にキバショットを繰り出すドSな風の戦士。
 だがシェリンダはそれを剣で弾き返すとサイコビームを放ち、逆にグリーンにダメージを与える。
 「ギンガグリーン、今日こそおまえを、跪かせる」
 「……それはどうかな」
 「なにぃ?」
 立ち上がった緑は構えを変えるとノーガードで挑発し、頭に血が上ったシェリンダの突撃を鮮やかにかわすと、ビーム攻撃をものともせず上空から疾風一陣で縦一閃。その一撃は致命傷を与えるが、よろめきながらも立ち上がったシェリンダは残った力で最後の一刀を振り下ろし、互いに名乗り合った戦士としてか、甘んじてそれを受ける緑。
 「私の……勝ちだ……」
 朦朧とする意識の中、弱々しい斬撃でギンガグリーンに僅かな傷を与えたシェリンダは、すれ違うように倒れ、大爆死。
 ラストを担当すると必然的に増えるというのはありますが、これで長石監督は、サンバッシュ、ブドー、ダイタニクス、モーク、ブクラテス、シェリンダ、そしてこの後バットバスに始末をつける事に。イリエスとビズネラは辻野監督だったので、意外やパイロット版の田崎監督が誰の退場にも関わらず……と思ったら黒騎士の最期が田崎監督でした。黒騎士の最期は非常に気合いが入っていましたが、構成の関係でなかなか敵幹部の最期を担当できない分もあったりしたのでしょうか。
 美しき悪女にしてプライドの高い女剣士であり、ハンドル握るとテンション上がるタイプだったシェリンダですが、その最期ひいてはバルバンの最終的な敗因はやはり、ダイタニクスを捨てた事にあるのだろうな、と。ギンガマンを侮り続けているバルバンからすれば、“この先”を考えた魔獣の乗り換えは必然性のあるものだったのですが、その傲慢、そしてシェリンダが「あたしのダイタニクス」にこだわる事なく、廃車に同意してしまったのが、大きな運命の分かれ道になったのかと思います。
 「てめぇら……許さん!」
 シェリンダの爆死を見て怒りに震えるバットバスはギンガマンを火球で吹き飛ばすが、そこに地球魔獣が到来。そしてあろう事か、急成長エキスを掲げたバットバスを頭から丸呑みにしてしまう!
 前々回のビズネラ退場エピソードで、猛虎ビズネラ@急成長エキス漬けが地球魔獣に食べられたら因果応報として面白かったのに、と書きましたが、くしくも上司がそれをやる事になり、メカ星獣ロボの一件といい、『ギンガマン』は我ながら酷いネタがどんぴしゃりだ!
 単純な戦闘力でいえば最後までギンガマンを圧倒し続けたバットバス、ここに衝撃の退場。
 思わぬ猟奇シーンに動揺しつつも、アースを結集したギンガマンは、ハイパー炎のたてがみで地球魔獣を焼き尽くそうとし、浄化の炎に飲み込まれる魔獣……
 「やったのか?!」
 「……やったぞ! 地球魔獣を倒したぞ!」
 だが、一斉に立たせるフラグに応えて、魔獣は遂に巨大化してしまう!
 「地球魔獣が……!」
 穢れの象徴という事でか、格好いい系とは180度逆なデザインの地球魔獣は、おもむろに口を開いたと思ったら想像を遙かに超えて両の肩口までばっくり裂ける、というのがファーストアクションとして物凄いインパクト。
 「おお……山を、食べた!」
 オタケビ山の頂に立つ、赤い布の巻かれた木の柱が繰り返し映されていたのですが、妙に強調するなと思ったら、その落下が崩れ去る山の象徴として鮮やかに機能。
 「こいつ、本当に星ぐらい喰うぜ?!」
 「みんな、バルバンを倒すぞ! この星を護る為に!」
 ギンガイオーとブルタウラスが久しぶりに揃い踏み地球魔獣に挑もうとする一方、ゼイハブの元にはヤートットが次々と急報をもたらしていた。
 「で、で、伝令っス! 地球魔獣の成長に、成功したっス!」
 「おお!」
 「伝令っス! バットバス様が、魔獣に食われたっス!」
 「なに?! 食われた?」
 船長、ちょっぴり、反応に困る。
 ここは笑うところなのか悲しむところなのか詳細を聞く所なのか、考える間もなく立て続けの伝令はもう一つ。
 「伝令っスー! シェリンダ様も、ギンガマンにやられたっス!」
 「なにぃ! ぬぅぅぅぅ……シェリンダ……!」
 形見となったシェリンダの剣を受け取ったゼイハブは絞り出すようなうなり声をあげ、多くの配下を目的の為に切り捨て続けてきた船長にとっても、シェリンダだけは異例な存在であった事が窺えます。してみれば、操舵手という立場はあるにしても、船長がシェリンダに行動隊長としての役割と権限を与えていなかったのは、失敗した場合に責任を取らせなくてはいけなくなるからであったのか。
 この辺りにリーダーとしてのゼイハブのマネジメントを見る所ですが、ここで立て続けに伝令が現れ、良いニュース・悪いニュース・悪いニュース、を伝えていくところは、最後の最後ながら、組織としては死んでいないバルバンの姿を見せると同時に、船長の感情の起伏が劇的に演出されて、妙に好きなシーン。
 「野郎ども! 地球魔獣を手に入れるぜ! 出発だーい!!」
 寂寥を振り切ったゼイハブは号令をかけ、殺し、奪い、貪り尽くす新たな力を得る為に、自ら海賊城を飛翔させ……いよいよ次回最終回!
 ――そして今、伝説の刃が銀河を貫く。