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魔法使いが守るもの

 だいぶ難産になりまして、とにかくひとまず第45話。

仮面ライダーウィザード』感想・第45話

◆第45話「笑顔は胸に」◆ (監督:石田秀範 脚本:香村純子)
 晴人は仁藤に前回の途中離脱の事情を説明し、
 「おまえそういうこと早く言えよ。皆まで言わなくてもわかってんだろ」
 で済ませる仁藤はどんどん懐が広くなっていきますが、仁藤にとっても譲の一件で白い魔法使いには用がある事が巧く機能して、この因縁は構築しておいてホント良かったなと。
 親子関係にちょっと問題の見える玩具マニアの酒井が、貴重な飛行機を手放すつもりはないと宣言する一方、輪島からコヨミの異変を伝えられた晴人は、面影堂に緊急帰宅。
 魔力を補充するがコヨミの苦悶と体に生まれた亀裂は治まる気配を見せないまま一夜が明けると、セイレーンの女に接触を受けた酒井息子がその囁きに従って飛行機を持ち出してしまう。
 「行って晴人」
 「コヨミ……でも」
 「熊谷さんの、希望を、守ってあげて……」
 水晶玉で事態を知ったコヨミの正ヒロインムーヴに促された晴人は飛行機の元へと走り、最終盤での改めてのスポットに応じて、コヨミ周りの描写を掘り返して補強。
 メデューサに足止めを受けたビーストはファルコンストライクも打ち破られるが、そこに私服真由が登場すると、くるっと回って劇中2回目の変身を披露し、OPクレジットによると、呼称は「仮面ライダーメイジ」との事。
 一方、セイレーンが飛行機を破壊寸前、駆けつけた晴人はその動きをバインドで封じるが、視界にわざとらしく現れた使い魔ケルベロスが目に入り……前回ラストのウィザードの行動はちょっと納得しにくかったのですが(今回冒頭で、仁藤への説明も兼ねて、譲の一件も上乗せして補強してきましたが)、コヨミに付きっきりだった直後なので、今回の迷いには納得。
 前回はエピソードの組み立てとしてコヨミの亀裂を晴人に見せる隙間が無かったのでやや展開が苦しくなった印象ですが、本来は出来るならば、大きな物語の流れの中で充分な説得力が生じる想定で、そこから更に亀裂の目撃で加速をかける狙いであったのかなと。
 (笛木なら……コヨミを助けられる方法を知ってるんじゃ……? もし、ここで先生が絶望を乗り越えれば……でも、乗り越えられなかったら……いや……その時はアンダーワールドに入れば……)
 他者の喪失を恐れるあまり悪魔の皮算用を始めた晴人は、コヨミの命には打つ手が見つからないが、熊谷の命は自分でどうにかできる、と二つの命を天秤にかけてしまい、この時、確かにウィザードはアンダーワールドに入ってファントム幼生は倒せるかもしれないが、「壊れてしまった飛行機(に伴う想い)は決して元に戻せない」点が完全に抜け落ちているのが、道を踏み外しかけている晴人の思考を示すのに、極めて象徴的。
 今作における香村脚本では何度か「物品の喪失は人の絶望の本質ではない」事が描かれていますが、ならば他者の想いを意図的に蔑ろにし、人の心に傷をつけてよいのかといえば、そんな筈はなく、それは晴人にとってもはや後戻りの出来ない悪魔の道である事が逆説的に「物」によって示されているのが、巧い使い方。
 そう、ウィザードが守ろうとしてきたのは果たして、“命”だけなのか?
 「……ごめん先生。耐えてくれ」
 「……晴人さん?」
 己が戦いの意味を見失い、喪失を甘んじて受け入れさせようとする晴人は意図的にバインドを緩め、職業不詳だったり太鼓持ちだったりはしたものの、ずっと晴人の側に居たからこそ、瞬平が晴人の行動のおかしさに真っ先に気付き、いちはやく動けたのは良かったところ。
 「出てこい! 笛木!」
 「駄目です!」
 晴人が白Pへと声を張り上げ、ファントムが飛行機を踏みつぶそうとした時、瞬平が飛行機へ飛びついて晴人の致命的転落を間一髪で防ぐと、ビーストも駆けつけて、セイレーンは撤収。
 「おかしいですよ。晴人さんも仁藤さんも……いくら白い魔法使いに会いたいからって、ゲートを餌みたいに。それどころか、わざと絶望させようとするなんて……それじゃ白い魔法使いと同じです! ……絶望する人の辛さは、晴人さんだって知ってますよね?」
 瞬平は正面から晴人に抗議し、普通に助けに入った仁藤に若干の流れ弾ですが、飛行機を全く気にする様子もなく白い魔法使いについて晴人に問いかけているので、演出でフォローした感じ。

 ――「無理して一人で抱え込んでると、その内、自分の中の大事なものも、腐らせちまう」

 瞬平に己の踏み外した道を突きつけられた晴人の胸に、かつての熊谷先生の言葉が去来し……かの有名な「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」(ニーチェ)の前段への意識があるのかはわかりませんが、正義と悪の力が同根である改造人間テーゼとも繋がる形で、「戦い続ける者が、やがて戦う相手と同質化していく」というのは、他作品にも見える、宇都宮Pの持っているテーマかなとは思うところであり、メタ的な作家性という点では、ここで出てきた事に妙な納得感があったりします。
 そしてここでは、今作における「俗人」のポジションといえる瞬平の行動と言葉が、晴人を救い、踏みとどまらせ、正道に立ち返らせるのですが、ここまで上手く機能していたとは言い難いものの、やはり瞬平には『555』の啓太郎への意識があったのかなーと。
 この、“俗なるものが聖なるものを救う”物語をヒーローフィクションで描かせると、井上敏樹が圧倒的に上手すぎて、なかなか真似できないのですが。
 「…………馬鹿だ俺」
 曲がりくねって袋小路に入り、眼下の穴に飛び込むしかないと思い詰めていた晴人、深く反省。
 「ごめん先生。俺見失ってた。絶対腐らせちゃいけない、大事なことだったのに」
 かつて熊谷に伝えられた言葉を晴人が肌身で理解する事により前回・今回におけるウィザードの行動原理の歪みがただされると、
 「いいんだよ晴人。俺ぁ、嬉しいんだよ。おまえは初めて俺をアテにしてくれた。だから言ったろう? なんでも辛いことを、たった一人で抱えこんじまうおまえの、俺は希望になりてぇんだって」
 大体の状況を理解した熊谷が、「それはかつての教え子が、自分を頼ってくれたという事なのだ」と、晴人の見せた脆さを腕を広げて受け止めてみせるのが、教師として、人生の先輩として、“格好いい大人”を見せてくれて、大変良かったです。
 一方、ファントムに操られていたわけではなかったと告白した酒井息子は、父親に一緒に遊んで欲しい本音を吐き出し、それでもなお息子の言葉に向き合おうとしない酒井の姿を見た熊谷は、飛行機を取り上げて地面に叩きつけると、自ら粉々に踏みつける。
 「目を覚ませ! こんなものがあるからいけないんだ!」
 悲鳴をあげる酒井に対し、ぐっと自らの胸を抑える熊谷。
 「もう……俺の息子はいねぇんだ。……うん、だけどな……ちゃんとあいつの笑顔は……俺のここに残っている。今は翔や、みんなが、心の底から、笑えるようになってほしい。それが今の俺の希望だ」
 上では、取り返せないもの/取り返しのつかないもの、の象徴として飛行機(物)が用いられたと触れましたが、ではそれが人の想いを宿す全てかといえば、そうではない筈だというのが、酒井父子を救う為に熊谷が自らそれを断ち切る(そして胸に宿す)姿を持って示され、
 “誰かを救うために誰かを絶望に落とそうとした晴人”(恐らくは白い魔法使いの正体と目的の示唆)
 と
 “誰かを救うために自ら絶望を乗り越えた熊谷”(ウィザードの目指してきたヒーロー像)
 の対比がバッチリ決まり、小道具の飛行機を実に鮮やかに使い切り。
 「瞬平、先生たちを頼む」
 「はい」
 「仁藤、力を貸してくれ」
 「おう」
 「――先生の希望、今度こそ必ず守る」
 さっぱりした表情で仲間達に助力を求めて、一人で抱え込みがちな頑固者だった晴人が更なるアップグレードを果たし、正直、サッカー回における“魔法使い・操真晴人”の到達点のような描き方には不満があったので、ここで本当の意味で晴人が、周囲を頼る事を覚えて再起するのは、ホッとすると同時に良かったです。
 またそこで、今はもう、前に立って引っ張ってくれる“先生”ではなく、横に立って並ぶ“仲間”が居るのだと示し、早くに親を亡くした晴人の、もう一つの巣立ちが描かれるのが上手く、そんな教え子の成長を喜ぶ熊谷先生が、お呼びじゃなかったな、とおでこを叩くポーズで繋げたのが、鮮やか。
 コヨミちゃんを背骨に、瞬平と仁藤を組み込んで描くと、今度は凛子さんの存在が消えてしまうのは悩ましいところですが、凛子は木崎の見舞いに向かった際に真由から相談を受けるなど“独り立ち”を始める形で描かれており、個人的には、国安への異動は終盤まで引っ張る事で効果が上がったと思っている部分。
 ……まあ真由へのアドバイスが、「たとえ(白Pに)裏切られても、自分で決めた事ならいいじゃない」と、「取り返しの付かない事になっても自分の選択を受け入れろ」なのが前科もあるだけに物凄い不安を誘いますが。
 多分、凛子さんのことを仕事の出来る頼れそうな年上の同性だと思って悩み相談を持ちかけた真由は、自分で決めた復讐は最後まで貫かんかい!(意訳) と焚き付けられてメデューサに挑むも打ち倒せずに、
 「このままじゃ、あいつを倒せない……何か、決め手がないと!」
 と歯がみし、真由は真由で、白Pとの関係性と、復讐という私情へのこだわりゆえに、晴人や仁藤に助けを求めにくい状況に陥っているのが、辛い描き方。
 その晴人と仁藤は、力を合わせて使い魔の根性(5体合体)によりセイレーンの潜伏場所を突き止めると、色々スッキリしたので、最後は東映ヒーローらしく、真っ正面からカチコミです!
 「さあ、ショータイムだ」 「ランチタイムだ」
 グール軍団をビーストHが片付けると、ウィザードはインフィニティ。
 魔力の極み・圧倒的大胸筋の奏でるシンフォニーによりセイレーンの攻撃を真っ正面から跳ね返すと、早い・硬い・鋭い、のトリプル役満トマホークストライクで完勝を収めるのであった。
 その頃、四方八方に顔と手と口を出し、集めた情報を吟味していたサイコ探偵ソラは、とうとう全ての真相、かもしれないもの、に辿り着いていた。
 「ねえミサちゃん、僕の夢、話したことあったけ?」
 「なに?」
 「僕の夢はね……人間になる事なんだ」
 ソラは、賢者の石さえあれば人間になれる、と言い出すと株式会社ワイズマンの退職を宣言し……謎のキーアイテムだった賢者の石、人間になるのに使える、というのは割といきなりになりましたが、様々な謎が絡み合いながら、物語は終局へ向けて、つづく。