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選ばなければ生き残れない

20年ぶりの『龍騎』メモ・第17話

(※サブタイトルは本編中に存在しない為、筆者が勝手につけています。あしからずご了承下さい)
◆第17話「選択」◆ (監督:長石多可男 脚本:小林靖子

  • 仮面ライダーサイの喉元に槍を突きつけるも、寸前で穂先を止めてしまったナイトは反撃を受け、咄嗟に飛び込んだ龍騎と共にダメージを受けて勝負は水入り。
  • 『エグゼイド』の感想で、「中身人間とわかっている“悪”への対応」問題について触れましたが、今作では「その葛藤」そのものを蓮のドラマ性とする事で、殺しきれない敵が延々と引き延ばしを繰り返すストレスを回避。勿論これは、《平成ライダー》初期作品だから行えている部分はあり、近作でここまでやってくれとまでは思いませんが、やはり一度は立ち止まって、主人公がどう考えているのか? を描いた方が良い要素ではないかな、と。
  • 「あんたライダー倒せないのになんでライダーやってんの? 笑わせないでよ」……蓮を見下ろし嘲弄する芝浦の肌に、汗が浮いているのが、絶妙な演出(汗に“見える”だけで、特に意図の無い肌荒れとかかもですが)。
  • 「人の命奪えないのがそんなにおかしい事かよ?!」「……あのさぁ、なんか勘違いしてない? 俺たちライダーなわけでしょ。お互い潰し合うのがルールなの」……人の命に関する、価値観の違いを提示。
  • 「おまえにトラブルが見える。気をつけろ」……去って行く芝浦に占いで嫌がらせする手塚(笑)
  • 「あいつの中に戦いをやめるという選択肢が無い。だが、戦いに徹することもできない。このまま戦い続ければ、奴を待ってるのは破滅。戦いを止める事は、奴にってやっぱり破滅だ。つまり、どっちも裏ということだ」……蓮の事情を垣間見た手塚は破滅を予告した事で真司と険悪になり、真司と歩調を合わせていけるかと思われた手塚との間にズレが生じるのがスパイスになりつつ、真司を相手に感情を表に出した手塚に人間味が出てキャラクターとしてぐっと面白くなっていく手並みはお見事。
  • それはそれとして、お泊まりしていく手塚。真司と一緒に蓮を運んできたので、放置したバイクをレッカー移動されてしまったのか手塚。割と謎な流れだぞ手塚。
  • シーンとしては、男3人で段差川の字(ベッド・床・ベッド)で横になりつつ、思うところがありすぎて誰一人として眠れていない、というシーンなのですが、口げんかしていた割には客にベッドを提供して自分は床に寝ている真司がいい奴ポイントを稼ぐ……というより、その流れでベッド借りて寝るのが面白い事になっているぞ手塚。
  • 仮面武闘ゲームについて警察で取り調べを受ける芝浦は北岡に弁護を依頼し、北岡の得意先である会社社長の息子、とキャラクターを連鎖させながら、背景を補足。
  • 「お気楽にライダーになった奴にはわからないだろうな?」「なんでお気楽ってわかるわけ?!」「おまえからはなんにも感じられない。背負ってるものもない。せいぜい借金ぐらいか?」……『超光戦士シャンゼリオン』(1996)で印象的に用いられ、長石監督のお気に入りだったと思われるLOVEオブジェを背に、手塚、毒を吐き始める(笑)
  • 「俺は神崎士郎の作ったライダーの運命を変えて、奴の運命も変える」
  • 蓮が情念を貫き通せるかの瀬戸際に立たされる一方で、手塚が情念の一部を吐き出す事で互いの人物像も引き立ち、小林さんの筆も乗ってきた感。
  • ヤモリモンスターの気配を感じる真司・手塚・秋山だが、蓮がデッキを手にするも変身できないまま座り込む一方、思い切りと無謀さで運命を覆していく(かもしれない)男・城戸真司。
  • 「悪いけどさ……やっぱり俺、あんたの占いは信じない。……当然だけど、蓮の奴の運命もね」「それはおまえの自由だ」「…………信じたら、終わりじゃないか」……龍騎アップでの呟きも、大変格好良く決まりました。
  • 北岡は芝浦の元へ向かう前の一仕事として関東拘置所に向かい、そこで接見を待つのは鉄格子に自らの頭を叩きつけ続ける囚人――浅倉威(あさくら・たけし)。

 OREジャーナル組を思い切り良く出さずに全体の情報量を調節した上で、ライダー組の主要登場人物が一通り登場して人間関係と情報が連鎖していくのが気持ちよい一篇。
 こうなるとミラーモンスターがツマ扱いになってしまいそうなところですが、「作品としてヒーロー性を確保する為の要素――ミラーモンスター」を「主人公の行動原理――モンスター退治」と直接繋げる事によって「主人公の能動性」を確保しているのが、上手い設計で、これにより真司が、特に根拠なく良識論を振り回す受け身キャラに陥るのを回避しています。
 その上で、“もう一人の主人公”にあたる蓮の存在により「ライダーバトルを全否定しにくい構造」を構築し、現状どう考えても諸悪の根源めいている神崎士郎には、“これといって落ち度がなく見えるヒロイン”神崎優衣を配置しておくのも実に巧妙で、その優衣がライダー活動とは別に神崎士郎の謎を追う事により、優衣の能動性も確保。
 また、ライダーバトル重視派のライダーも、契約モンスターに餌を与える都合でミラーモンスターとは優先に戦わなくてはならない事情が与えられており、作品のルール設定と、それに基づいてキャラクターの行動をどう“拘束”するのかが、上手く設計されています。
 インパクト重視の立ち上がりを終え、基本的な世界観とミステリ要素、主要キャラクターが概ね出そろったところで、小林靖子の強みの一つである、作品世界のルールをどう見せていくのか・それに基づくキャラクターの行動原理の組み立て、の巧さが発揮されてきた感あり。
 今作の場合、コンセプトそのものにインパクトがある、という大きな武器はあるのですが、引き比べると近年の《ライダー》は、掴みのインパクトはパイロット版にまとめる! 毎回のように新装備を見せる! 第15話ぐらいで大きなイベントに駆け込む! ……と、要求されるハードル高いな、と改めて思うところであり、それに完全に対応した作劇が成熟しているのかというと、そうでもないのも厄介なところ。
 というかやはり、根本的に大きな無理があるのではないか……とは思ってしまいます。
 つまるところは“欲張りすぎ”で基本的に積載量オーバーしているものを、無理を承知で強引に詰め込んで破綻を招いているように見えるわけなのですが、例えば今作、今回の場合は“ライダー同士の群像劇”が成立しているので、“セオリーといえるゲストエピソード要素は外す”といった事はしているのに対して、近作はどうも「型」にこだわりすぎて泥沼にはまりこんでいるようにも見えてきます(まあ『龍騎』がゲストエピソードを上手く描けているかといえば、そこはマイナス部分ではあるのですが)。
 なにも00年代初頭を理想と見るわけではありませんし、商業要素の重視自体は当然として、今の時代の要求に合わせた、質と量のバランスが取れた構造がもう少し他に見いだせないものか、商業展開との折り合いの付け方を見直した新たな「型」の構築が根本から必要になってきているのではないか……とは考えてしまう部分です。
 (今回、ここまでの『龍騎』でもかなり出来が良い話だと思うのですが、それでも、荷物を減らす工夫をあれこれした上でのまとまり方なので、近作はやはり荷物が多すぎるのではないか……と思いついた話)