『仮面ライダーエグゼイド』感想・最終話
◆第45話「終わりなきGAME」◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:高橋悠也)
「バグは……削除する」
換気扇にこびりついた世界の油汚れ・檀正宗がクロノスに変身し、変身能力を失った永夢以外の4人のライダーと激突。
「私が居る限り、このゲームは続く。『仮面ライダークロニクル』に、終わりの時など、なぁい」
「……ゲームは私の全てだ! おまえのようにクズに、これ以上利用されてたまるか!」
Zゲンムゼロがヒーローみたいな事を言っていますが、概ねクロノスと同じカテゴリに所属しています。
「犠牲になった人たちの無念を晴らすまでは、終われないんだよ!」
「これ以上絶対に何も失わない……その為にもてめぇをぶっ潰す!」
「人の命がかかっている限り戦い続ける! それがドクターだ!」
ラストバトルという事でそれぞれ台詞も割り当てられるものの、クロノスの圧倒的暴力の前に、総員変身解除。絶叫した永夢は生身のまま殴りかかるも一蹴され、ガシャットが虚しく地面を滑る。
「ドレミファビートも、パーフェクトノックアウトも無意味に散った。商品価値の無い、命だったぁ」
「おまえが……ポッピーとパラドの…………命を語るな」
「君たちの命も、もはや商品価値はない。――私こそが、命の管理者。君たちはもう、絶版だぁ」
命を商品と言い放つ正宗の姿勢は、見せ方によってはもうちょっと跳ねたと思うのですが、「商品価値」「商品価値」を連呼する割には、正宗の行動で商品価値が上がった試しが無いので、ディレクションが節穴すぎたのが辛かったところ。
ライダーの行動を利用しながら、「これが君たちの価値だ!」とプレイヤー増大に繋げる施策の一つでも成功させていれば、おお成る程感が多少は出たかもしれませんが……飛彩を裏切らせたところまではまだ面白かったのに、その次の手が、なんの縛りもなくレーザーを復活させて、あっさりと裏切られるだったのは、振り返れば致命傷でありました。
クロノスの《ポーズ》が発動され、ジャッジメントの寸前――止まった時間の中に入り込んだ永夢の瞳が紅く輝くと、至近距離からクロノスのドライバーに渾身の生身パンチを叩き込み、派手に吹き飛ぶM缶。
「……なに?!」
「クロノス……おまえを攻略する」
永夢、貴利矢、飛彩、大我……立ち上がった4人のドクターは一斉に変身し、エグゼイドがレーザーバイクにまたがったOPの構図が取りこまれると(バイクにまがたる時のジャンプが凄い)、流れ出す主題歌。
「ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ!!」
生身パンチの際に流し込まれたパラドウィルスによって弱体化したクロノスに次々と初期フォームで殴りかかると、クロゼイドの時間差コンティニューキックからバイクで轢き回し、最後まで景気よく武器を投げ捨てる前振りから、放たれた二つのライダーキックがぶつかりあった末に、エグゼイド会心の一発がクロノスを上回り、ゲームクリア。
正宗はひくひくと地面に転がると、消滅したプレイヤーの復活が不可能になった事を悪し様に突きつける最後の嫌がらせを敢行した後、法の裁きを拒否して自らに『仮面ライダークロニクル』を突き刺す事で、消滅するのであった――。
敗者復活戦を繰り返した末に実質的な自爆エンドとなった正宗ですが、個人的には既に書いたように、運命は私に味方したぁ! → げぼはぁっ!? を短期間に繰り返しすぎて、最終決戦よりだいぶ前に賞味期限が尽き果ててしまった感。
生クリームを添えて、フルーツポンチにして、パフェに乗せて……と手を変え品を変え、賞味期限切れを誤魔化す工夫はされてきましたが、やはり一度腐ってしまった桃缶の中身は、鮮度の取り戻しようが無かったように思えます。
そしてその賞味期限切れの悪役を前に、ヒーロー達が半端な暴力を行使しては、決定的なトドメを刺せないので逃亡からの逆襲を繰り返されるのもストレスが積み重なる展開となり、「暴力でトドメを刺せない相手との戦いを繰り返す事になる」のなら、それに対する作劇(キャラクターの対応や言動)にもう一工夫が欲しかったところです。
そここそが、作品として解像度を上げる必要があった点なのではないかな、と。
かくして、最終的な首謀者のゲームオーバーにより終演を迎えた『仮面ライダークロニクル』だが、世間には大きな傷跡が残り……しばらく後、九条貴利矢はゲーム病対策の新薬開発を担当する事になり、鏡飛彩の根回しも効いて、花家大我はゲーム病の専門医として特例的に認可を受ける。
そして日向恭太郎と共に記者会見に臨んだ宝生永夢は、消滅の被害者は医学的な死を迎えたわけではなく、あくまでも「ゲーム病の症状」の一経過としてデータ化しているだけであり、いつか必ずそれを治療してみせる、と宣言。
「医療は日々進歩しています。10年前までは治療が困難でも、今では治療法が確立している病は、数多く存在します。ゲーム病も同じです」
は、「医療」×「ゲーム」を描いてきた今作の到達点として、いい台詞でした。
「CRはこれからも、被害に現れた患者の方々と、長期的に向き合っていきます」
『クロニクル』消滅者たちは、たとえ現代医学では治療が困難でも、将来に可能性を持った「患者」である(ラストで、小姫も復活可能な状態に戻っている事を示唆)、と一つの戦いを終えたCRの今後の存在意義が作り出されると共に、医療の進歩と共に生み出される新たな「命」の定義に舞い戻り、ここで消滅被害者の名を順々に読み上げていく姿に、関係ゲストがそれぞれ1カットずつ登場する――永夢の言葉が伝わっている事を示す――のは、実写特撮だとあまり出来ない(やらない)贅沢をやった事により、患者-家族の関係性を強調できて良かったです。
……それはそれとして、あくまで謎の失踪扱いだったので、しれっと社会復帰は不可能ではなかった筈の九条貴利矢さんが、記者会見で名前を出された事により、お天道様の下を歩けない立場になりましたが!!
まあ貴利矢自身も、今の自分の境遇に対して思うところはある様子なので、おおっぴらに歩こうとは思って無さそうではありますが……その辺り、貴利矢は表は笑顔を浮かべながら、復活していない被害者全てを十字架として背負おうとするタイプなので、CRの面々におかれましては人の心を失う事なく、相互にフォローし合ってほしいものです。
「僕たちドクターは、決して忘れません。どんな事があっても、諦めません。いつか必ず…………みなさん全員の笑顔を――取り戻したいと思っています」
直接的な描写のあった『クロニクル』被害者については苦いならも未来に希望を残す形で着地し、そして、GAMEはつづく……。
最終回にして高校生だった事が判明したニコ(卒業はしているものとばかり)は、プロゲーマーとしての収入を注ぎ込んで幻夢コーポレーションの大株主となると、バーガー男・小星を社長に推し、なんか、いい人めいた描写されていますが、個人的にはこの人、テロリスト予備軍だと思っているので、会社の先行きには不安しかありません(まあ、衛生省とは引き続きズブズブの関係のようですが……)。
卒業後のニコは大我の元へ押しかけ、飛彩はシュークリームを切り開きながら後進を指導し、それぞれがそれぞれの場でドクターとしての戦いを続ける中、永夢がCRの扉を開くと、どこかから聞き慣れた声が……。
ファイナルコケ芸を見せた永夢先生が駆け込むと、筐体の中で仏頂面のポッピーが黎斗の操作でダンスをしており、あのワクチン化の際、体内に入り込んだポピ子ウィルスを、黎斗が自身の体内で培養していた事が明らかにされる。
……つまりこの後、日本全国津々浦々で、人々からポピ子さんが生えてくる可能性が?!
ナレーション「――これが後に言う、P・DAYであった」
いやまあ、黎斗がなんらかの処置をしたので復活した、という事なのでありましょうが。
そしてそれは、もう一つの可能性を示す。
「宝生永夢ぅ! 何故パラドが消滅したのに、君がエグゼイドに変身できたのか! その答はただ一つ!」
「……まさかあの時」
「君が、再びパラドにぃ、感染した男だからぁぁぁーーーー」
著名シーンのセルフパロディが盛り込まれ、これはリアルタイムの熱量あっての場面だろうな……と黎斗がバグバイザーに吸い込まれた所で、永夢の体内からも、微少なウィルスからパラドが復活。
「あれ? ……なんで俺……」
「……夢じゃ、ない……」
「俺がおまえで、おまえが俺、でしょ?」
「――頼りにしてるよ、パラド」
二人はガッチリと手を取り合い、まあこういう、最終回あっけらかん路線は嫌いではないのですが…………ないのですが、いや、この後、君たち、治療の為にバグスター(ウィルス)切除するの??
完全体で無ければ自我も発生していないから良い、という解釈なのかもですが……最後に特大の爆弾を落とすところが実に『エグゼイド』で、緊急通報を受ける永夢先生の姿で、幕。
というわけで、長らくの宿題だった『エグゼイド』を再挑戦で完走しましたが、残念ながら今作も、「私が欲しい情報」と「劇中で提示される情報」が噛み合わない、一連の大森P作品との相性の悪さに直撃し……脚本はじめスタッフ違っても皆そうなるので、これはもう本当に、大森Pの作品の作り方(視点の置き所)と私の相性が悪いのだな、と(笑)
世界のパラダイムシフトが明確に意識されている(毎度この部分は非常に魅力的だと思うわけなのですが)割に、肝心の“その世界”の描写が不足する傾向が強い大森P《ライダー》、『エグゼイド』では、序盤から比較的その点への意識があって期待を持たせたのですが、結局『クロニクル』が進行する程におざなりになっていき、最終的には“見せない”に等しい選択になってしまったのは、とても残念。
第43話の感想に至ってやっと言語化できた「世界に対する『クロニクル』侵食度」は、後の『ゼロワン』における「ヒューマギアの社会浸透度」と同質なのですが、私が、最初にパラダイムシフトを描いてきたのだから、そこ(変貌する/した/していく世界)が物語全体のキーなんですよね、と思っているところと、スタッフの見ているところが多分違って、そこにボタンの掛け違いが発生して後半に行くほどノれなくなってしまうのだろうなぁと。
それにポピ子問題と、リフレイン作劇の末の3代目ボスキャラの物足りなさが大きな不満点となりますが、髪型インパクトに始まり分裂XXなど、奇天烈さの目立つデザインのヒーローや各種フォームを映像に落とし込んでいって、気がつくと受け入れられるように見せてきた点は、よく出来ていたと思います。
それぞれの変身ポーズは個性が出て格好良かったですし、顔型ボディからの打ち上げ無敵とか、好き(笑)
また、2クール目に入って無駄な険悪さがクリーニングに出されて人間関係が多少落ち着き、「医療」×「ゲーム」の要素がまとまってきてからは、ところどころ、テーマの見せ方に光るものがあり、そこは後半まで面白かった部分。
そのトータルのテーマ的にいえば、結局パラドとポッピーだけが特別扱いで、一般怪人バグスターについては曖昧な扱いのままだったのは物足りない点でしたが(そこが不足しているので、パラドやポッピーがバグスターを語ってもあまり説得力が出ないわけで)、後は黎斗を許せる(面白がれる)かどうかが割と評価に影響を与えそうに感じ、個人的には演出も含めて苦手なタイプでありました。
比較的贔屓のキャラは、鏡先生と花家先生。話の都合で感じ悪く出てきたけど、明らかに訳ありで実はいい人でしょ、な二人(笑)
初見の際に1クール目まで見てとにかく苦手だった永夢先生を、格好いいところもあるな、と受け入れられるようになったのが、完走して最大の収穫でありましょうか。ギャップで見せる系のキャラ(芝居)でしたが、悪い顔が結構似合うな……から、最終的に要所要所でドスの利いた声を出すようになっていくのは、面白かったです。
以上、コンティニューからの『エグゼイド』感想でした!